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第四章 森の精霊
第60話 禁忌の装置と精霊発見装置
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バルナックの家の扉の前、佇んでいるジルクがいた。
ジルクの手のひらには、魔獣との戦いで不発となった高起魔力装置があった。
その装置は、一部が分解されて中の構造が見えており、そこにはエメラルド色に輝く一枚の虫の羽のようなものが付着していた。
そして、その装置をそのまま強く握りしめると、ジルクは意を決したように声を発した。
「バルナックさん、ちょっといいですか?」
しばらくの沈黙の後、扉の向こうから
「小僧か。入ってこい」
とバルナックの返答があった。
ジルクは、扉を開けて部屋の中を見渡すと、片隅の小部屋でいつものように魔機をいじっているバルナックの姿を認め、まっすぐそちらの方へ歩いて行った。
そして、バルナックの前に来るとジルクが切り出した。
「バルナックさん、あの魔機に取り付けてあった起魔力装置ですが、途中で起動しなくなったんです」
バルナックが、それを聞いて手を止める。
「その後、不思議に思って中を開いたんですが、魔素の原料が入っていそうなところには、虫の羽が少し残っているだけでした……」
バルナックは、ジルクが何かを言うのを戸惑った様子を見ると、手に持っていた魔機を机の上に置いて、ジルクの方を向いて静かに言った。
「そうじゃ。その起魔力装置の魔素の源は虫だ」
それを聞いたジルクは、やはりそうだったか、という表情をした。
「グラントの奴が、この装置を嫌う要因だ」
バルナックは再び机に向かい、
「失望したか。確かに、倫理的に問題があることぐらいはわしにもわかっている。だが、わしは自分をとがめておらん」
と言って、その上に置いてある魔機を手に取り作業を再開した。
ジルクは、握りしめていた手をほどき、装置をしばらく見つめてから、独り言のように言った。
「虫以外はなかったんですか?草木とか……」
バルナックが遮るように言った。
「もちろん考えたわ! 草木も小さな魔石も試した。しかしだ、小僧。虫の魔素は桁が違う! ……10年前、あの輝きを見たとき、わしはもう戻れんかった」
ジルクは何も返せなかった。
その様子を横目で見たバルナックは、
「それに……お前だって、虫の一匹や二匹は殺しているだろう。それを魔素の源として利用して何が悪い」
とほくそ笑んだ。
それに対して、ジルクは睨み返して言った。
「もちろん、僕だって虫を払ったり、時には殺すこともあります。でも、それは自然の中でのことです。けど……魔素の源と見なした瞬間、僕たちは止まらなくなる。やがて虫を狩りつくし、自然そのものを壊すことになる」
バルナックが嘲笑して、
「詭弁だな。それこそ、人間どもはそれを繰り返してきた。それをわしら魔物がやってもかまわんだろう。それに、わしは、倫理を度外視しても、価値のある発明をしたと今でも思っている」
と言った。
それに対して、ジルクが答える。
「……確かに、この発明は倫理を犠牲にしてでも成立するほどの価値を持っているのかもしれません」
バルナックが少し驚いてジルクを見返した。
「しかし、僕は、倫理をも考慮してこの装置を改良したい、いや、改良して見せます」
ジルクの目には、確固たる決意がにじんでいた。
「失礼します」
そう言って、ジルクが家を出て行った。
ひとり取り残された静かな部屋で、バルナックは少しばつの悪そうな顔を見せていた――
と、そこへ、再び来客が来た。
「入るぞ。バルナック」
と言って、ルーインが扉を開けて家の中へ入って来た。
「なんじゃ。今日も客が多いな……」
とため息交じりに呟いた。
「ジルクが勢いよく出て行ったがなにかあったか?」
ルーインが何気なく聞いてきたが、
「なんでもない。それより何の用だ!」
とイラつきながらバルナックが要件を問いただした。
「おぉ、そうだった。あの魔機じゃ魔獣に歯が立たん。もっと強力にできないか?」
こいつもあの魔機絡みか、と内心うんざりした様子でバルナックが面倒くさそうに答えた。
「何度も言うように、あの魔機は高起魔力装置を開発した時の副産物だ。武器など真剣に作るつもりはない」
ルーインもやれやれという表情をして、
「バルナック、いいか?あの魔機はな。我々を外界から守ってくれ……」
と言い終えかけたとき、バルナックが遮った。
「そんなことより……精霊発見装置が完成したぞ」
その言葉に、ルーインがキョトンとした。しかし、次の瞬間――
「か、完成したのか!?」
と驚きを隠せずにいた。
「あぁ、時間がかかったがな」
と淡々とバルナックが答えた。
「し、信じられん!それは、すごいぞ!こうしてはおれん」
とルーインは自分の用事をそっちのけに家を出て行こうとすると、
「待て待て。まだ問題がある」
とバルナックが止めた。
「まず、この装置は精霊の結界の魔素をたどって精霊の場所を発見するようにできている。そのため、結界そのものにある程度の魔素量が必要だが、今の状態の結界では魔素が足りない」
そう説明したバルナックに対してルーインが答えた。
「二台目の魔素供給装置を起動すれば問題ないのではないか?」
「まぁ、確かにやってみる価値はある」
「では、さっそく起動しよう!」
と言って、再びルーインが出て行こうとしたが、またしてもバルナックが言った。
「慌てるな。仮に魔素が満たされたとしてももう一つ問題がある。そもそも精霊が本当にそこにいるかがわからん。今回は理論的に開発しただけであり、本当にその場所に精霊がいるかの確認ができていない」
「つまり、どういうことだ」
ルーインがいらだちながら言った。
「要するに、精霊発見装置が指示した場所に実際に誰かが行って、精霊がいるかを確認する必要がある。もっとも、その場にいれば捕まえてしまえばいいだけのことだが、捕まえることまでは考えている余裕がなかったからノープランだ」
すると、ルーインがほくそ笑みながら、
「問題ない。私に考えがある。それは心配するな」
と言い残し、今度こそ家を出て行った。
そして、再び、バルナックの家は静寂に包まれた――。
ジルクの手のひらには、魔獣との戦いで不発となった高起魔力装置があった。
その装置は、一部が分解されて中の構造が見えており、そこにはエメラルド色に輝く一枚の虫の羽のようなものが付着していた。
そして、その装置をそのまま強く握りしめると、ジルクは意を決したように声を発した。
「バルナックさん、ちょっといいですか?」
しばらくの沈黙の後、扉の向こうから
「小僧か。入ってこい」
とバルナックの返答があった。
ジルクは、扉を開けて部屋の中を見渡すと、片隅の小部屋でいつものように魔機をいじっているバルナックの姿を認め、まっすぐそちらの方へ歩いて行った。
そして、バルナックの前に来るとジルクが切り出した。
「バルナックさん、あの魔機に取り付けてあった起魔力装置ですが、途中で起動しなくなったんです」
バルナックが、それを聞いて手を止める。
「その後、不思議に思って中を開いたんですが、魔素の原料が入っていそうなところには、虫の羽が少し残っているだけでした……」
バルナックは、ジルクが何かを言うのを戸惑った様子を見ると、手に持っていた魔機を机の上に置いて、ジルクの方を向いて静かに言った。
「そうじゃ。その起魔力装置の魔素の源は虫だ」
それを聞いたジルクは、やはりそうだったか、という表情をした。
「グラントの奴が、この装置を嫌う要因だ」
バルナックは再び机に向かい、
「失望したか。確かに、倫理的に問題があることぐらいはわしにもわかっている。だが、わしは自分をとがめておらん」
と言って、その上に置いてある魔機を手に取り作業を再開した。
ジルクは、握りしめていた手をほどき、装置をしばらく見つめてから、独り言のように言った。
「虫以外はなかったんですか?草木とか……」
バルナックが遮るように言った。
「もちろん考えたわ! 草木も小さな魔石も試した。しかしだ、小僧。虫の魔素は桁が違う! ……10年前、あの輝きを見たとき、わしはもう戻れんかった」
ジルクは何も返せなかった。
その様子を横目で見たバルナックは、
「それに……お前だって、虫の一匹や二匹は殺しているだろう。それを魔素の源として利用して何が悪い」
とほくそ笑んだ。
それに対して、ジルクは睨み返して言った。
「もちろん、僕だって虫を払ったり、時には殺すこともあります。でも、それは自然の中でのことです。けど……魔素の源と見なした瞬間、僕たちは止まらなくなる。やがて虫を狩りつくし、自然そのものを壊すことになる」
バルナックが嘲笑して、
「詭弁だな。それこそ、人間どもはそれを繰り返してきた。それをわしら魔物がやってもかまわんだろう。それに、わしは、倫理を度外視しても、価値のある発明をしたと今でも思っている」
と言った。
それに対して、ジルクが答える。
「……確かに、この発明は倫理を犠牲にしてでも成立するほどの価値を持っているのかもしれません」
バルナックが少し驚いてジルクを見返した。
「しかし、僕は、倫理をも考慮してこの装置を改良したい、いや、改良して見せます」
ジルクの目には、確固たる決意がにじんでいた。
「失礼します」
そう言って、ジルクが家を出て行った。
ひとり取り残された静かな部屋で、バルナックは少しばつの悪そうな顔を見せていた――
と、そこへ、再び来客が来た。
「入るぞ。バルナック」
と言って、ルーインが扉を開けて家の中へ入って来た。
「なんじゃ。今日も客が多いな……」
とため息交じりに呟いた。
「ジルクが勢いよく出て行ったがなにかあったか?」
ルーインが何気なく聞いてきたが、
「なんでもない。それより何の用だ!」
とイラつきながらバルナックが要件を問いただした。
「おぉ、そうだった。あの魔機じゃ魔獣に歯が立たん。もっと強力にできないか?」
こいつもあの魔機絡みか、と内心うんざりした様子でバルナックが面倒くさそうに答えた。
「何度も言うように、あの魔機は高起魔力装置を開発した時の副産物だ。武器など真剣に作るつもりはない」
ルーインもやれやれという表情をして、
「バルナック、いいか?あの魔機はな。我々を外界から守ってくれ……」
と言い終えかけたとき、バルナックが遮った。
「そんなことより……精霊発見装置が完成したぞ」
その言葉に、ルーインがキョトンとした。しかし、次の瞬間――
「か、完成したのか!?」
と驚きを隠せずにいた。
「あぁ、時間がかかったがな」
と淡々とバルナックが答えた。
「し、信じられん!それは、すごいぞ!こうしてはおれん」
とルーインは自分の用事をそっちのけに家を出て行こうとすると、
「待て待て。まだ問題がある」
とバルナックが止めた。
「まず、この装置は精霊の結界の魔素をたどって精霊の場所を発見するようにできている。そのため、結界そのものにある程度の魔素量が必要だが、今の状態の結界では魔素が足りない」
そう説明したバルナックに対してルーインが答えた。
「二台目の魔素供給装置を起動すれば問題ないのではないか?」
「まぁ、確かにやってみる価値はある」
「では、さっそく起動しよう!」
と言って、再びルーインが出て行こうとしたが、またしてもバルナックが言った。
「慌てるな。仮に魔素が満たされたとしてももう一つ問題がある。そもそも精霊が本当にそこにいるかがわからん。今回は理論的に開発しただけであり、本当にその場所に精霊がいるかの確認ができていない」
「つまり、どういうことだ」
ルーインがいらだちながら言った。
「要するに、精霊発見装置が指示した場所に実際に誰かが行って、精霊がいるかを確認する必要がある。もっとも、その場にいれば捕まえてしまえばいいだけのことだが、捕まえることまでは考えている余裕がなかったからノープランだ」
すると、ルーインがほくそ笑みながら、
「問題ない。私に考えがある。それは心配するな」
と言い残し、今度こそ家を出て行った。
そして、再び、バルナックの家は静寂に包まれた――。
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