異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第95話 放たれた無情な一撃

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「魔獣だ!魔獣が現れたぞ!」

悲鳴に近い叫びが広場に響いた。

その叫びを聞いて、住民たちはみるみるうちに広場へ集まっていった。

「またか!どうして立て続けに出てくるんだ!」
「結界……大丈夫かしら」

彼らが不安を口にする。

一方、広場から森への入り口側付近ーー

「ふっはっはっはっ……オルギーのやつ、また魔獣を召喚したな!」

負傷した腹を押さえながらも、セイラスタンが高笑いをした。

「オルギー……じゃと」

思いもよらぬ名前を聞いて、グラントが驚きのあまり声を漏らした。

「オルギーって誰?」
「ここにいるやつか?」

ルノアとエメルダが、広場に集まる住人の方を振り返って言った。

「七つの大罪の一人だ。先の大戦で私たちが戦った相手……やはり、魔獣召喚はあいつらの仕業だったか」

ルダルが魔獣を睨みつけながら吐き捨てるように言った。

「なんか……今までの奴らと雰囲気が違う気がするんだけど」

ルノアが何気なく言った。

「確かに違和感があるな」

ルダルも魔獣を見ながら声を発した。

その視線の先には、静かに立ち止まって住民たちのいる結界内の様子を伺っている巨大な魔獣がいた。

一方、セイラスタンが剣を地面に突き刺し、右手を胸ポケットに持っていくと、そこから注射器のようなものを取り出した。

「ふっ。リーファよ。お前は確かに強くなった。だが、このマナインジェクターと精霊の力の前では歯が立つまい」

と言うと、その注射器を心臓へ勢いよく刺した。

「うおぉぉーーーーっ!」

唸り声を上げるセイラスタンの身体が瞬く間に膨れ上がり、同時に腹の傷が音もなく塞がれていった。

そして次の瞬間には、先ほどまでとは比較にならないほどの筋肉隆々なセイラスタンが立ち上がっていた。

「素晴らしいぞ。マナインジェクター!」

空になったマナインジェクターを投げ捨て、歓喜の声を上げるセイラスタンが魔獣を指差す。

「あそこの魔獣にも負ける気がせん!」

そう言うと、今度は左手に持つルクピーを魔獣の方へ掲げた。

「もうこの森に用はない。いっそのこと、あの魔獣に一掃してもらうか」

不敵な笑みを浮かべると、セイラスタンが叫んだ。

「精霊よ!私の命に従え……結界を解くのだ!」

すると、胸のペンダントが輝き始め、その光が宙へ浮かび上がり、ルクピーに向かってゆっくりと動き始めた。

「ルクッ!?」

ルクピーは、その光を見ると目を丸くして、抗うようにジタバタする。

しかし、その光は徐々に近づき、ルクピーの中へ消えていった。

一瞬の静寂の後――

ルクピーの両目が異様な白光を帯び、そこから強い閃光が上空へ向けて放たれた。

その光は、空中の一点に到達すると、

バーーーン!

と音を立てて、四方へ拡散していった。

その軌道は、まるで見えない幕が張られているかのように、面に沿っていた。

そして、飛散した光が消えると、あたり一帯に、陰鬱な空気が立ちこめた。

「結界が……消えおった!?」

グラントが空を見上げて呟く。

「はっはっはっ。これであの魔獣を遮るものがなくなったぞ。どうする?リーファ」

セイラスタンが笑みを浮かべ、リーファを威圧する。

「……」

リーファが無言のままセイラスタンを睨み返す。

その時、

「リーファ。お前は目の前の男に集中しろ。魔獣は俺たちが倒す」

と声を発したのはアマトであった。

その声を聴いたリーファが、一度、深く呼吸をすると、

「えぇ、任せたわ!」

と言って、笑みを浮かべた。

その様子を見て、ルダル、ルノア、エメルダも頷き合い、四人は魔獣の方へ駆け出していった。

「ふっ。お前たち如きに、あの魔獣を止めることができるはずがないだろう。あれは私が今まで見たなかで最も強く、気高き魔獣だ。せいぜい苦しまないうちに死ぬことだ」

セイラスタンは、静かに言い終えると、リーファに剣を向けた。

その威圧は、先ほどまでとは比較にならないほどで、普通の者であれば立っていることすらできないだろう。

「あんたこそ、アイツらの何を知っているの?アイツら……」

一度、言葉をくぎるリーファが続けた。

「いいえ、私の仲間を甘く見ないでほしいわね」

リーファの言葉には、確固たる自信に満ちたものがあった。

セイラスタンが、リーファの言葉に一瞬だけ真顔になり、

「あの異種族達を仲間というのか?まぁいい。だが……」

と言うと、ふっと姿がその場から消えた。

次の瞬間ーー

ガキーンッ!

金属のぶつかり合う音が鳴り響く。

突如、目の前に現れたセイラスタンの剣を、リーファが咄嗟に弓で受け止めた音だった。

だが、その衝撃でリーファが後方へ跳ね飛ばされ、岩に打ち付けられる。

衝突地点に立つ、セイラスタンが言葉を続けた。

「今は、お前一人だ。そんな余裕などないだろう」

吹き飛ばされ片膝を突いているリーファが笑みを溢して呟く。

「ドーピング剤って……まったく厄介なものを使ってくれたわね」

そう言って、リーファが立ち上がり、再び弓を構えた。

セイラスタンが不敵な笑みを浮かべると地を蹴った。

一瞬でリーファの目の前へ姿を現すセイラスタンが剣を彼女目掛けて振り下ろす。

それを紙一重でかわすと至近距離で弓を射るリーファ。

その矢を剣で叩き落すセイラスタン。

こうした攻防が目にもとまらぬ速さで続いた。

「リーファ……」

その様子を見つめるグラント。

リーファとセイラスタンは、戦いながら徐々に森の方へ移動していく。

「グラントさん!追いかけて。私は、もう少しこの方の治療に時間がかかります」

ルーインの治療にあたっていたミィナがグラントに声をかけた。

「あっ、あぁ、そうじゃな」

ハッと我に返るグラントがミィナに顔を向けて頷くと、二人が消えていった森の方へ走り出した。

――戦いは森の中。

向かい合う二人。

マナインジェクターのドーピング効果とグラントの人工魔石からの魔素供給により、セイラスタンはいまだ呼吸が乱れていない。

一方、ただのエルフ姿のリーファは徐々に、攻撃のキレが落ちてくると同時に肩で息をし始めていた。

そんな中、セイラスタンに身体を掴まれているルクピーが必死にもがいていた。

「どうした。リーファよ。息が上がってきているぞ」

リーファを見据えるセイラスタンの眼が笑っていた。

無言で見つめ返すリーファが、ゆっくりと弓を構えた。

「……その目。もう魔素は残っていないな」

セイラスタンが、確信めいた声で言う。

図星であった。

リーファは先ほどのスキルで、魔素のほとんどを使い切っていた。

「魔素がなくても、あなたには勝ってみせる」

そう言って放たれた矢は、真っすぐにセイラスタンへと飛ぶ。

――だが。

バシーーンッ。

剣に弾かれ、矢は虚しく宙を舞った。

「……興が削がれるな」

セイラスタンは剣先をリーファに向ける。

「魔素のないお前をいたぶる趣味はない」

そして、左手でつかんでいるルクピーを持ち上げ顔を向けると、

「精霊よ!私の剣に力を注ぐのだ!」

その声と共に、胸のペンダントが再び輝く。

ルクピーは必死にジタバタして抵抗するも、ペンダントの光がルクピーの身体に絡みつき、引き裂くように、剣へと引き延ばされ、ルクピーと剣が、無理やり光で縫い合わされた。

「ハッハッハッ!すばらしいぞ!」

光で強化された剣を見て満足するセイラスタンが言い放つ。

「ミオルネも、草葉の陰で泣いているだろうよ。自分の相棒が、娘のお前を殺す刃になったのだからな」

リーファは弓矢を前へ掲げ、ただセイラスタンを睨み返した。

セイラスタンは、光で縫い合わされた剣をゆっくりと構えた。

剣身を覆う光が、不自然なほどに脈動している。

「さて……終幕だ」

低く呟くと、次の瞬間――

「”穿断”」

剣を振るうことなく、セイラスタンがスキル名を口にした。

刹那、剣から放たれた光が、刃の形を保ったまま空間を切り裂き、一直線にリーファへと襲いかかる。

飛び道具――いや、剣そのものが放たれたかのような一撃だった。

「ルククゥゥゥーーー!」

ルクピーの櫃な叫びが響き渡った。

しかし、リーファは迷わなかった。

両足を踏みしめ、弓を正面に構え――

ガァァァァンッ!!

凄まじい衝撃音が森に響き渡る。

「リーファァァーーー!」

そこへちょうど駆け付けてきたグラントの叫び声が無情に響いたのだった――。
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