異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第一章 光の雪

第11話 採取、温泉!?そして、フィリアの森の伝説

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昨夜、アマトが発した”光の雪”によって、フィリアの森は目覚ましい変化を遂げていた。

昨日まで枯れ木とくすんだ草が広がっていたこの森に、今では色とりどりの果実や木の実がたわわに実っている。

「見て、ミィナ姉ちゃん! こんなに採れたぞ!」

スライム族の幼い男の子、ネトが両手いっぱいに果実を抱えて駆け寄ってくる。

その顔には喜びが満ちあふれていた。

「お兄ちゃん、こっそり食べてるでしょ。もう!」

しっかり者の妹ネネが、すぐさま兄の盗み食いを見抜き、手にした籠を構えながら責めるように詰め寄った。

「う、うるせいやい。ひ、ひとつくらいいいだろう……」

そう言いつつネトの頬には、いくつもの果物の食べかすがついており、否定の余地はなかった。

「ネトちゃん、食べ過ぎておなかを壊さないでね」

ミィナが優しく微笑みながら声をかけた。小さな弟妹を見るようなそのまなざしには、深い慈しみが宿っている。

昨日まで、魔素不足でやせ衰えていた二人の兄妹は、

いまはすっかり元気になり、遊び半分で食物の採取をしていた。

光の雪が、彼らの小さな体に活力を取り戻させたのだ。

「……しかし、よく実ってるな」

ルノアが、手を腰に当てながら枝の高みを見上げた。

彼女はミィナの親友であり、ミィナより少し背が高く、長い緑の髪を後ろで束ねた、ボーイッシュな雰囲気なまとう少女である。

「アマト様の”光の雪”のおかげだわ」

ミィナが木の実を手に取り、しみじみとつぶやく。

その声には、どこか祈りのような響きがあった。

「にしても、そろそろ持ち運ぶの限界じゃねぇか」

とルノアが、やれやれといった感じで話す。

「そうね、ではそろそろ帰りましょう」

とミィナが、子供たちが聞こえるように言った。

「え~、もう帰っちゃうの~?」

ネトが名残惜しそうに食材の山を見つめながら、口をとがらせた。

「採った分で十分でしょ。これ以上は持てないでしょ」

ネネがピシャリと言うと、ネトはシュンと肩を落とした。だが、その直後。

「オレ、ちょっと向こう、見てくる!」

そう言って、ネトが突然スライム化し、ピョンピョンと飛び跳ねながら森の奥へと駆けて行った。

「お兄ちゃんっ!!」

ネネが慌てて呼び止めようとするも間に合わない。

「仕方ないわね」

とミィナが微笑みながら言う。

「スライムになれるのがうれしくてしょうがねぇんだろ、あいつ」

ルノアが苦笑しながら言った。

「じゃぁ、果実と木の実はここへ置いて、私たちもいってみましょうか」

「オレもそっちのが面白そうだ。行こうぜ」

とルノアが言うと、

「いいの?!」

ネネはうれしそうにスライム化し、兄の後を追って森の奥へと跳ねていった。

しばらく森の中を進むと――

「わわっ……な、なにこれ……!?」

先に駆けていったネトが、草陰から身を乗り出すようにして叫んだ。

ミィナたちが追いついたとき、そこには思いがけない光景が広がっていた。

木々の間からひらけた小さな空間に、ぽっかりと湯気の立ちのぼる池が存在していた。

水面は静かで、やわらかな蒸気がふんわりと立ち上っている。

「お湯の池?」

ネネがつぶやく。

「……温泉、戻ってきたのね」

ミィナが感慨深げに声を漏らす。

「まじか。採取で汗もかいたし、ちょうどいいじゃねぇか」

ルノアがニッと笑う。

「そうね。みんなで、入りましょうか」

ミィナが微笑んだその瞬間、

なんだか面白うそうと思った子供たちの目がキラキラと輝いた。



―――



ぱしゃっ……と、小さな水音が湯面に弾ける。

ネトがスライムのまま湯に飛び込んで、ぷるぷると泳ぎ回る。

「お兄ちゃん! 温泉で泳いじゃダメだめでしょっ!」

ネネが叫ぶが、彼はまるで聞いていない。体を半透明の球体に変え、温泉の中を自由に跳ねていた。

ミィナは岩肌に腰を下ろし、静かに湯へと身を沈める。

湯けむりが柔らかく立ちのぼり、彼女の白い肌をやさしく包んでいた。

首筋から胸元へかけて、うっすらと汗が混じった湯のしずくが伝い、その曲線をなぞるように落ちていく。

ミィナの胸元がわずかに湯面から浮かぶ。

湯気に揺らぎ、まるで夢の中のようにぼんやりとしか見えないその姿、

その仕草一つひとつに、柔らかい女の艶が滲んでいた。

「ふぅ……身体の芯から溶けていくみたい……」

ミィナが瞳を細めて、うっとりと空を仰ぐ。

湯気越しに見えるその横顔からは、色香がこぼれていた。

「こりゃ、すげぇな……」

ルノアも隣で湯に肩まで浸かり、髪を後ろでひとまとめにして首筋を露わにする。

ボーイッシュな顔立ちに反して、濡れた肌のラインは女らしく、無防備な鎖骨が目を引いた。

「温泉って、もっとぬるいもんかと思ってた。けど……気持ちよすぎて溶けちまいそうだぜ」

肩を湯に沈めながら、ルノアが気持ちよさそうに息を吐く。

「ぷはっ! ネネっ! この温泉、飲めるぞー!」

「飲まないのっ! 口つけないのっ! バカお兄ちゃん!」

「ぴゅるるるるっ!」と音を立ててスライムのネトが弾けた。

女たちの艶と、子供たちの騒がしさ。

フィリアの森に、生命の温もりが確かに戻ってきていた。



―――



温泉のぬくもりに満たされた身体を冷ますように、湯の縁に腰掛けたミィナ、ルノア、それと、ネネ。

傍らでは、ネトが、のぼせてまくってふにゃふにゃな感じで大の字に寝そべっている。

「……にしても、ここまで戻るなんてな」

ルノアがぽつりとつぶやく。

「ええ。ほんとうに、奇跡みたい……」

ミィナが空を見上げて答える。

「そういえばさ、ミィナお姉ちゃん」

ネネが足をぱちゃぱちゃさせながら声を上げる。

「“フィリアの森の伝説”って、どんなお話なの?」

その問いに、ミィナのまなざしが遠くを見つめるように細くなった。

「そうね……少しだけ、お話してあげるわ」



―――その昔、千年も昔のこと。

“フィリア”という名の魔女がいて、

彼女の魔素力が恐れられ、

神々の世界を離れ、

人間界にも馴染まず、

ただ静かに暮らせる場所を求めて旅を続けていた―――



「この地にたどり着いた彼女は、地中深くに一つの大きな魔石を埋めることにしたの。

それは、自分の魔素を封じ、争いを避け、森に静けさを与えるためだったとも……

あるいは、神にも魔にもなれぬ自身の祈りを、永遠に沈めるためだったとも言われているわ。

その魔石の加護によって、フィリアの森は長い間、実りと癒しに満ちた土地となったの。

……これが、“フィリアの森”の伝説よ」

ミィナの声が、湯気にまぎれて静かに溶けていく。

「……けど、森の魔素は少しずつ削られ、木々は枯れ、温泉も干上がっちまった。

それもこれも全部、大量な異世界人が来たせいだ!」

ルノアがやや吐き捨てるように言った。

「兄貴だって異世界人に……」

ルノアの目から、憎しみと悲しみの色がうかがえる。

「でも、アマト様は違うわ」

ミィナの声が、少しだけ強くなる。

「アマト様は、この森に魔素を戻してくれた。私たちに、生きる力をくれたの」

「アマト様大好きー!」とネネが両手をあげて叫び、

「アマト様最高!」と、ネトがのぼせて寝転がったままガッツポーズ。

「……まぁ、たしかに、前より森も元気になったがな」

ルノアが目を伏せ、ぽつりとつぶやいた。

ミィナはその横顔を見つめ、小さく微笑む。

だが、どこか寂しげな目をしていた。

「そろそろ、上がりましょうか」

ミィナがぽつりと告げた。
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