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第二章 粗野な者たち ※ギャグ多めです
第18話 激突!スライム族 VS ゴブリン族!!……のはずが、なぜか恋愛バトル!?
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ポタ村の入り口、その境界線を踏み越えるようにして、粗野な一団が姿を現した。
その先頭に進み出たのは、一人の女だった。
肩に担がれた棍棒は、大木を削り出したように無骨で、ごつごつとした質感が筋骨隆々の腕と見事に調和している。
口元を吊り上げ、地を踏みしめるその足取りには、揺るぎない自信と圧がにじんでいた。
「俺は、モルド村のエメルダだッ!」
突き抜けるような声が、空気を震わせる。
「この村に、強そうな奴がいるって聞いて来た! 出てこい! ――決闘だ!」
その声が辺りに反響した刹那――
「け、決闘ぉ!?」
ひょろ長い体を震わせたビーノが、思わず声を上げた。
「……姉御だし、しかたねぇって」
小太りのゴッチは、肩をすくめながら呟く。
「いやいやいや、状況もわからず突っ込むなんて……おかしいでしょっ!?」
ビーノは本気のツッコミを入れるが、エメルダの耳には届いていない。
彼女は一歩、また一歩と進みながら、再び叫んだ。
「聞けぇ! もし、俺に勝ったら――」
棍棒を天へ高く掲げ、空気を切り裂くように振り下ろすジェスチャー。
「この村からの魔素の回収、今後いっさいやめてやる!」
その言葉に、背後のゴブリンたちが一斉にどよめいた。
「えええっ!?」
「まじっ!?」
困惑と動揺の空気が爆発する。
だが、エメルダはまるで意に介さず、にやりと唇を吊り上げる。
そのまなざしは、戦場の匂いを嗅ぎつけた猛獣のように、村の沈黙を鋭く切り裂いていた。
――この村に、戦う価値のある奴がいる。
その確信めいた直感に突き動かされるように、エメルダの眼差しが妖しく光った。
そのとき、村の奥から、ゆったりと歩み寄ってくる人影があった。
淡い笑みを浮かべた老人――ゼルミスである。
「これはこれは……エメルダ殿。いやぁ、またずいぶん賑やかにお越しで」
のんびりとした口調には、どこか底知れぬ自信がにじんでいた。
エメルダは口元を歪め、棍棒の柄をぐいと担ぎ直す。
「ふん、肝が据わったジジイは嫌いじゃねぇ。だが……俺は、年寄りと手合わせする趣味はねぇんだよ」
鋭い睨みを利かせながら、棍棒の先を地面に突き立てる。
そこに、小さな衝撃が走り、乾いた砂がほのかに舞った。
「誰か、腕に覚えのあるやつ、出てこい!」
その言葉に呼応するように、村の建物から若者たちが姿を現し、粗野な一団の前へと並んだ。
「ほぅ、どいつもいい面構えだ。」
エメルダが再び唇を吊り上げる。
ゴブリンたちも無言のまま棍棒を構え、じりじりと間合いを詰め始める。
一触即発。
空気はまるで、導火線に火がつく寸前のように、ぴんと張りつめていた。
そのとき、スライム族の列の背後から、ボーイッシュな女がすっと前に出た。
「相手をしてやっても、いいけど――怪我をするのは、そっちだぜ」
研ぎ澄まされた刃のような声――ルノアである。
エメルダがにやりと笑った。
「へぇ……お前か。おもしれぇ。気に入ったぜ」
視線がぶつかり合い、言葉より先に火花が散った。
両陣営の足が、じりじりと地を踏み鳴らす音だけが、やけに耳につく。
ゼルミスはその様子を目を細めて眺め、肩を軽くすくめた。
「やれやれ……若いのう。まっ、ほどほどにな」
そう言い残すと、家の方へと戻っていった。
残されたのは、張り詰めた静寂と、鋭く交錯する視線――
ルノアとエメルダは、互いに一歩ずつ、ゆっくりと距離を詰める。
風が、ぴたりと止まった。
そして――
空が閃き、雷鳴が空気を引き裂いた。
その刹那、ルノアとエメルダ、そして背後のスライム族とゴブリン族たちは、それぞれ魔族形態へと変身し――
戦いが、始まった。
―――
静かな部屋の中。ミィナはふと目を開けた。
どこか遠くで、鈍い衝撃音。
地面がかすかに震え、風に乗って怒声が届いてくる。
ミィナは上体を起こし、窓の方をみた。
「……決闘!?」
村の入り口に、見慣れぬ武装の一団と戦う村人たち。
そして――棍棒を振り上げる女の姿とそれに応戦するルノア。
目を丸くしたミィナは、そのまま部屋を飛び出した。
「アマト様っ……!」
どこか切迫した声が、空っぽの家の中に反響する。
リビング、奥の部屋、アマトの寝室――どこにもいない。
(アマト様……どこ……!?)
息を弾ませながら玄関へ向かい、戸を勢いよく開けた――
すると、庭先の土の上、両手をポケットに突っ込み、村の入り口の方角を見ている後ろ姿があった。
「アマト様っ!」
ミィナが駆け寄ると、アマトはちらりと肩越しに振り返る。
「なんか、始まってるな……」
まるで夕焼けを見ているかのような、緊張感のない声だった。
「決闘ですよっ! 止めないとっ!」
必死に訴えるミィナ。
そこへ――
「いやぁいやぁ……、わしもあと五十歳若ければのぉ」
と言いながら、ゼルミスが帰って来た。
「おじいちゃんっ!」
ミィナは振り返って声を上げる。
「そんな悠長なこと言ってないで、やめさせないと!」
だが、ゼルミスは涼しい顔のまま、ふわりと手を振った。
「いやいや、若い者がぶつかるのは自然の摂理じゃ。なーに、死にはせん。怪我の一つや二つぐらいであろう」
「そんな……!」
ミィナは言葉を失い、視線を戦いの方角へ向けた。
地面に足音が鳴り、掛け声が飛び交っている。
アマトは、気だるそうに肩をすくめると、片手で頭をかいた。
「……ゼルミスもこう言ってるし、問題ないんじゃないのか?」
だが、ミィナは、ぐっと拳を握りしめ、胸の奥に湧いた焦燥を押し込めるように深く息を吸った。
「……でも、わたし、止めてくる……!」
と言って、村の門の方へと駆け出していった。
「……やれやれ」
アマトは小さく溜め息をつき、のそのそとポケットに手を戻す。
そして、ゆっくりとその後を追うように歩き出した。
ゼルミスは、顎を撫でながら、わずかに目尻を緩めた。
その視線の先――ミィナの後を、のんびりと追っていくアマトの背中に、
老いた双眸が静かな期待と満足の色を浮かべていた。
―――
戦いは拮抗していた。
スライム族もゴブリン族も、互いに譲らず一進一退。
戦局は、どちらに傾くかまったく読めない。
「ちくしょうっ!こいつら、強いなっ!」
「ぬうっ……さっきから互角じゃねえか……!」
そんな緊張の中――
「みんなーっ! やめてぇーーっ!!」
甲高く、張り詰めた空気を突き破るように、その声が戦場を貫いた。
一斉に動きが止まる。
視線が、揃ってその声の主へと向けられる。
その先にいたのは――
風に長い髪をなびかせ、息を切らしながら駆けてくるミィナ。
艶のある黒髪が陽を受けてきらめき、整った顔立ちが光の中に浮かび上がる。
すらりと伸びた四肢、豊かな胸元、そして服の隙間からのぞく曲線は、視線を逸らすことさえ許してくれない。
――まさに天使。否、もはや誘惑の女神。
「か、かわいいっ!!」
ゴブリン族たちは武器を取り落とし、全員が硬直した。
そして、次の瞬間――
(((ド、ドストライクーーーーッ!!!)))
目が、いっせいにハート型に染まった。
(なんだ、魔素が……あふれて……止まらねぇっ!)
ゴブリンたちの頬が染まり、鼻息が荒くなり、魔素の流れが音を立てて加速する。
全身から力が溢れ出す感覚。
それは戦闘本能でもあり、恋の爆発でもあった。
「恋って、こんなに甘くて、切ないのか……」
「好きだぁぁあ!!」
「うおぉぉぉぉっ――!」
各々が勝手な妄想と覚醒を始め、ゴブリン達の戦闘力が、謎のベクトルで一斉に上昇。
その中心には、きょとんとした顔で立ち尽くすミィナ。
「あ、争いはダメですっ……?」
彼女の声は、やけに澄んでいた。
そしてスライム族たちはというと――
(いや、なに、この流れ――?)
戦いの行方は、もはや”カオス”である。
―――
空中で、火花を散らすような激突が続いていた。
ルノアとエメルダ――
ふたりの拳と棍棒が、目にも止まらぬ速さで交錯する。
跳躍、回避、打撃、反撃。
その一連の動作は、まるで舞を踊るかのような緻密さと迫力に満ちていた。
立て続けに姿を変えるルノアは、獣のような鋭さを帯びたかと思えば、次の瞬間にはスマートな人型に戻り、翻るように距離を取る。
身体は柔らかく、動きは軽やか。
だが、その変幻自在さには“鋭さ”と“狡猾さ”が同居していた。
一方、対するエメルダは、圧倒的な質量と筋力で応える。
棍棒の一撃は、空気を震わせる。
だがその動きは、ただの力任せではない。
重い打撃の合間に見せる踏み込み、膝の沈み、回転――すべてが鋭く、洗練されていた。
「お前、中々やるな……!」
エメルダが息を弾ませ、唇を吊り上げて言う。
「あんたもね……!」
ルノアもまた、汗を光らせながら、鋭い目を返す。
一進一退――互角。
だが、その瞬間だった。
「……え?」
ルノアの瞳が、ふいに揺れる。
視線の先。村の入口に――
のそのそと、両手をポケットに突っ込み、こちらへ歩いてくる一人の男がいた。
アマトである。
陽の光に髪を揺らし、戦場など関係ないとでも言わんばかりの無関心な顔。
「アマト様が……?」
その名をつぶやいたルノアの頬が、わずかに紅潮した。
その様子を見たエメルダが、ふと動きを止める。
「……なんだ、気が抜けた顔しやがって……どこを見て――」
言いかけたエメルダの視線もまた、自然とアマトへと移る。
次の瞬間――
バチィィン!!
空気が弾けた。
(ド、ドストライクーーーーッ!!!)
エメルダの瞳が、ハート型に染まった。
(あの無気力そうな目……! でもたぶん優しい!
あのポケット、きっと飴玉が入ってるタイプだっ……!
あの無言の背中を守りたい! いや、守られたいッ!)
頬は赤く染まり、口元はゆるみ、視界のすべてがアマトに収束する。
「……決めた。あいつは俺のもんにするっ!」
エメルダはにやりと笑い、身を低くして跳躍の構えを取った。
「うおおぉぉぉぉぉっっ!」
エメルダの巨体が、まるで弾丸のようにアマトに向かって飛ぼうとした――その時。
(させるかっ!)
眼前に立ちはだかったのは、ルノアだった。
腕を広げて防ぐように、エメルダの行く手を上空で阻む。
「邪魔するな、スライム女ァ!」
「そうはいかないっ!」
そして次の瞬間――
「アマト様は――オレのものだぁ――っ!」
――言った言葉に自分で驚くルノア。
「ほぉ、お前、名前は何という」
「――ルノアだ――」
「わかった。まずはおまえを倒す」
と言って、エメルダの体が輝いたかと思うと、そこにはホブゴブリンの姿が――
「なるほど、まだ奥の手があったのか。でも、それはこちらも同じ――」
と言って、ルノアはスーパースライムの姿に変身する。
にらみ合う二人の恋敵同士《ライバル》――。
そして戦場は、恋愛バトルの様相を醸し出していく――。
一方、アマトは、ポケットに手を突っ込んだまま、その下を通り過ぎて行った――。
その先頭に進み出たのは、一人の女だった。
肩に担がれた棍棒は、大木を削り出したように無骨で、ごつごつとした質感が筋骨隆々の腕と見事に調和している。
口元を吊り上げ、地を踏みしめるその足取りには、揺るぎない自信と圧がにじんでいた。
「俺は、モルド村のエメルダだッ!」
突き抜けるような声が、空気を震わせる。
「この村に、強そうな奴がいるって聞いて来た! 出てこい! ――決闘だ!」
その声が辺りに反響した刹那――
「け、決闘ぉ!?」
ひょろ長い体を震わせたビーノが、思わず声を上げた。
「……姉御だし、しかたねぇって」
小太りのゴッチは、肩をすくめながら呟く。
「いやいやいや、状況もわからず突っ込むなんて……おかしいでしょっ!?」
ビーノは本気のツッコミを入れるが、エメルダの耳には届いていない。
彼女は一歩、また一歩と進みながら、再び叫んだ。
「聞けぇ! もし、俺に勝ったら――」
棍棒を天へ高く掲げ、空気を切り裂くように振り下ろすジェスチャー。
「この村からの魔素の回収、今後いっさいやめてやる!」
その言葉に、背後のゴブリンたちが一斉にどよめいた。
「えええっ!?」
「まじっ!?」
困惑と動揺の空気が爆発する。
だが、エメルダはまるで意に介さず、にやりと唇を吊り上げる。
そのまなざしは、戦場の匂いを嗅ぎつけた猛獣のように、村の沈黙を鋭く切り裂いていた。
――この村に、戦う価値のある奴がいる。
その確信めいた直感に突き動かされるように、エメルダの眼差しが妖しく光った。
そのとき、村の奥から、ゆったりと歩み寄ってくる人影があった。
淡い笑みを浮かべた老人――ゼルミスである。
「これはこれは……エメルダ殿。いやぁ、またずいぶん賑やかにお越しで」
のんびりとした口調には、どこか底知れぬ自信がにじんでいた。
エメルダは口元を歪め、棍棒の柄をぐいと担ぎ直す。
「ふん、肝が据わったジジイは嫌いじゃねぇ。だが……俺は、年寄りと手合わせする趣味はねぇんだよ」
鋭い睨みを利かせながら、棍棒の先を地面に突き立てる。
そこに、小さな衝撃が走り、乾いた砂がほのかに舞った。
「誰か、腕に覚えのあるやつ、出てこい!」
その言葉に呼応するように、村の建物から若者たちが姿を現し、粗野な一団の前へと並んだ。
「ほぅ、どいつもいい面構えだ。」
エメルダが再び唇を吊り上げる。
ゴブリンたちも無言のまま棍棒を構え、じりじりと間合いを詰め始める。
一触即発。
空気はまるで、導火線に火がつく寸前のように、ぴんと張りつめていた。
そのとき、スライム族の列の背後から、ボーイッシュな女がすっと前に出た。
「相手をしてやっても、いいけど――怪我をするのは、そっちだぜ」
研ぎ澄まされた刃のような声――ルノアである。
エメルダがにやりと笑った。
「へぇ……お前か。おもしれぇ。気に入ったぜ」
視線がぶつかり合い、言葉より先に火花が散った。
両陣営の足が、じりじりと地を踏み鳴らす音だけが、やけに耳につく。
ゼルミスはその様子を目を細めて眺め、肩を軽くすくめた。
「やれやれ……若いのう。まっ、ほどほどにな」
そう言い残すと、家の方へと戻っていった。
残されたのは、張り詰めた静寂と、鋭く交錯する視線――
ルノアとエメルダは、互いに一歩ずつ、ゆっくりと距離を詰める。
風が、ぴたりと止まった。
そして――
空が閃き、雷鳴が空気を引き裂いた。
その刹那、ルノアとエメルダ、そして背後のスライム族とゴブリン族たちは、それぞれ魔族形態へと変身し――
戦いが、始まった。
―――
静かな部屋の中。ミィナはふと目を開けた。
どこか遠くで、鈍い衝撃音。
地面がかすかに震え、風に乗って怒声が届いてくる。
ミィナは上体を起こし、窓の方をみた。
「……決闘!?」
村の入り口に、見慣れぬ武装の一団と戦う村人たち。
そして――棍棒を振り上げる女の姿とそれに応戦するルノア。
目を丸くしたミィナは、そのまま部屋を飛び出した。
「アマト様っ……!」
どこか切迫した声が、空っぽの家の中に反響する。
リビング、奥の部屋、アマトの寝室――どこにもいない。
(アマト様……どこ……!?)
息を弾ませながら玄関へ向かい、戸を勢いよく開けた――
すると、庭先の土の上、両手をポケットに突っ込み、村の入り口の方角を見ている後ろ姿があった。
「アマト様っ!」
ミィナが駆け寄ると、アマトはちらりと肩越しに振り返る。
「なんか、始まってるな……」
まるで夕焼けを見ているかのような、緊張感のない声だった。
「決闘ですよっ! 止めないとっ!」
必死に訴えるミィナ。
そこへ――
「いやぁいやぁ……、わしもあと五十歳若ければのぉ」
と言いながら、ゼルミスが帰って来た。
「おじいちゃんっ!」
ミィナは振り返って声を上げる。
「そんな悠長なこと言ってないで、やめさせないと!」
だが、ゼルミスは涼しい顔のまま、ふわりと手を振った。
「いやいや、若い者がぶつかるのは自然の摂理じゃ。なーに、死にはせん。怪我の一つや二つぐらいであろう」
「そんな……!」
ミィナは言葉を失い、視線を戦いの方角へ向けた。
地面に足音が鳴り、掛け声が飛び交っている。
アマトは、気だるそうに肩をすくめると、片手で頭をかいた。
「……ゼルミスもこう言ってるし、問題ないんじゃないのか?」
だが、ミィナは、ぐっと拳を握りしめ、胸の奥に湧いた焦燥を押し込めるように深く息を吸った。
「……でも、わたし、止めてくる……!」
と言って、村の門の方へと駆け出していった。
「……やれやれ」
アマトは小さく溜め息をつき、のそのそとポケットに手を戻す。
そして、ゆっくりとその後を追うように歩き出した。
ゼルミスは、顎を撫でながら、わずかに目尻を緩めた。
その視線の先――ミィナの後を、のんびりと追っていくアマトの背中に、
老いた双眸が静かな期待と満足の色を浮かべていた。
―――
戦いは拮抗していた。
スライム族もゴブリン族も、互いに譲らず一進一退。
戦局は、どちらに傾くかまったく読めない。
「ちくしょうっ!こいつら、強いなっ!」
「ぬうっ……さっきから互角じゃねえか……!」
そんな緊張の中――
「みんなーっ! やめてぇーーっ!!」
甲高く、張り詰めた空気を突き破るように、その声が戦場を貫いた。
一斉に動きが止まる。
視線が、揃ってその声の主へと向けられる。
その先にいたのは――
風に長い髪をなびかせ、息を切らしながら駆けてくるミィナ。
艶のある黒髪が陽を受けてきらめき、整った顔立ちが光の中に浮かび上がる。
すらりと伸びた四肢、豊かな胸元、そして服の隙間からのぞく曲線は、視線を逸らすことさえ許してくれない。
――まさに天使。否、もはや誘惑の女神。
「か、かわいいっ!!」
ゴブリン族たちは武器を取り落とし、全員が硬直した。
そして、次の瞬間――
(((ド、ドストライクーーーーッ!!!)))
目が、いっせいにハート型に染まった。
(なんだ、魔素が……あふれて……止まらねぇっ!)
ゴブリンたちの頬が染まり、鼻息が荒くなり、魔素の流れが音を立てて加速する。
全身から力が溢れ出す感覚。
それは戦闘本能でもあり、恋の爆発でもあった。
「恋って、こんなに甘くて、切ないのか……」
「好きだぁぁあ!!」
「うおぉぉぉぉっ――!」
各々が勝手な妄想と覚醒を始め、ゴブリン達の戦闘力が、謎のベクトルで一斉に上昇。
その中心には、きょとんとした顔で立ち尽くすミィナ。
「あ、争いはダメですっ……?」
彼女の声は、やけに澄んでいた。
そしてスライム族たちはというと――
(いや、なに、この流れ――?)
戦いの行方は、もはや”カオス”である。
―――
空中で、火花を散らすような激突が続いていた。
ルノアとエメルダ――
ふたりの拳と棍棒が、目にも止まらぬ速さで交錯する。
跳躍、回避、打撃、反撃。
その一連の動作は、まるで舞を踊るかのような緻密さと迫力に満ちていた。
立て続けに姿を変えるルノアは、獣のような鋭さを帯びたかと思えば、次の瞬間にはスマートな人型に戻り、翻るように距離を取る。
身体は柔らかく、動きは軽やか。
だが、その変幻自在さには“鋭さ”と“狡猾さ”が同居していた。
一方、対するエメルダは、圧倒的な質量と筋力で応える。
棍棒の一撃は、空気を震わせる。
だがその動きは、ただの力任せではない。
重い打撃の合間に見せる踏み込み、膝の沈み、回転――すべてが鋭く、洗練されていた。
「お前、中々やるな……!」
エメルダが息を弾ませ、唇を吊り上げて言う。
「あんたもね……!」
ルノアもまた、汗を光らせながら、鋭い目を返す。
一進一退――互角。
だが、その瞬間だった。
「……え?」
ルノアの瞳が、ふいに揺れる。
視線の先。村の入口に――
のそのそと、両手をポケットに突っ込み、こちらへ歩いてくる一人の男がいた。
アマトである。
陽の光に髪を揺らし、戦場など関係ないとでも言わんばかりの無関心な顔。
「アマト様が……?」
その名をつぶやいたルノアの頬が、わずかに紅潮した。
その様子を見たエメルダが、ふと動きを止める。
「……なんだ、気が抜けた顔しやがって……どこを見て――」
言いかけたエメルダの視線もまた、自然とアマトへと移る。
次の瞬間――
バチィィン!!
空気が弾けた。
(ド、ドストライクーーーーッ!!!)
エメルダの瞳が、ハート型に染まった。
(あの無気力そうな目……! でもたぶん優しい!
あのポケット、きっと飴玉が入ってるタイプだっ……!
あの無言の背中を守りたい! いや、守られたいッ!)
頬は赤く染まり、口元はゆるみ、視界のすべてがアマトに収束する。
「……決めた。あいつは俺のもんにするっ!」
エメルダはにやりと笑い、身を低くして跳躍の構えを取った。
「うおおぉぉぉぉぉっっ!」
エメルダの巨体が、まるで弾丸のようにアマトに向かって飛ぼうとした――その時。
(させるかっ!)
眼前に立ちはだかったのは、ルノアだった。
腕を広げて防ぐように、エメルダの行く手を上空で阻む。
「邪魔するな、スライム女ァ!」
「そうはいかないっ!」
そして次の瞬間――
「アマト様は――オレのものだぁ――っ!」
――言った言葉に自分で驚くルノア。
「ほぉ、お前、名前は何という」
「――ルノアだ――」
「わかった。まずはおまえを倒す」
と言って、エメルダの体が輝いたかと思うと、そこにはホブゴブリンの姿が――
「なるほど、まだ奥の手があったのか。でも、それはこちらも同じ――」
と言って、ルノアはスーパースライムの姿に変身する。
にらみ合う二人の恋敵同士《ライバル》――。
そして戦場は、恋愛バトルの様相を醸し出していく――。
一方、アマトは、ポケットに手を突っ込んだまま、その下を通り過ぎて行った――。
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