異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第三章 咆哮の誇り ※序盤、シリアス、途中、切ない系、終盤、怒涛のカタルシス

第25話 アルデオリス侯爵の戦略

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荒涼とした山岳地帯。

かつては魔素に満ち、緑に覆われていた山々も、いまや命の気配すら絶たれ、静寂の中に朽ち果てていた。

枯れ木は骨のように突き立ち、ひび割れた岩肌が荒々しく露出していた。

乾いた風が砂塵を巻き上げ、どこまでも寂寥とした大地に、ただ静寂だけが支配していた。

その奥深く。

険しい岩壁の一角に、人型に穿たれた奇妙な穴がぽっかりと口を開けている。

中は冷気に包まれ、魔素の気配はほとんど感じられない。

――その沈黙を突き破ったのは、ひときわ元気な少女の怒鳴り声だった。

「ばっかやろーーっ! 動けないじゃないかーっ!!」

声の主は、アテリス。

ゼルヴァスへ決闘を申し込んだ結果、吹き飛ばされ、遥か遠くの岩山の奥底へと突っ込み、

そのまま大の字で岩にハマってしまったのだった。

「うぐぐぐっ……なんでこうなるんだーっ!? ちっとも力が入んないじゃないかっ!!」

身体は岩にすっぽりと埋まり、まるで地形の一部と化しているようであった。

さらに周囲の岩からは、じわじわと魔素が吸い取られ、体の芯から力が抜け落ちていく感覚に襲われていた。

「ゼルヴァスのやつ……強すぎだっ! ぐぬぬっ、マジで腹立つぅーーっ!」

怒りに震えながらも、アテリスの瞳にはまだ光が宿っている。

その声には、ふてぶてしさと無邪気さが同居していた。

「兄上にもらったこの身体だって、こんなもんじゃないはずなんだっ!」

そして、声を張り上げる。

「そうか――。うんっ、まだ慣れてないだけなのだっ! 修行が足りないだけっ! 

よしっ、やってやるぞぉぉぉっ――次は負けないからなぁぁぁっ!!」

ふくれっ面でそう叫ぶその声は、どこか楽しげですらあった。

だが、力がなければ、その想いすら届かない。

「――だれかぁ~~っ! われを助けろぉ――っ!!」

その叫びと願いもまた、冷たい岩の裂け目に吸い込まれ、風の音と共に、虚空へと消えていった。

――ここから抜け出すには、まだ時間がかかりそうである。



―――



ガルドリア王宮の謁見の間に、怒号が響き渡った。

小太りで、宝飾品をじゃらじゃらと身につけたアークリオス三世が、顔を真っ赤にして王座にどっぷりと腰を沈めている。

王冠は傾き、握りしめた手でひじ掛けをドンドンたたきながら、唾を飛ばす勢いで叫んだ。

「どういうことだ! わしは、我が国から遠く離れた地に魔獣を召喚せよと命じたはずだぞ! 

命令に背いた者は死刑だ、死刑だぞ!」

王の前に立つのは、白衣をまとった技術者の男。その顔はひきつり、汗が噴き出し、唇が小刻みに震えていた。

「も、申し訳ございません……」

震える声で絞り出すと、額の汗を慌てて袖で拭う。

「私も、最初のテスト召喚と同じ領域へ転送するよう指示を出そうとしたのです……が……」

声は尻すぼみに小さくなり、王の鋭い視線に射抜かれながら、ついに本当の理由を口にした。

「……アルデオリス侯爵が、転送直前にお越しになりまして……

前回の場所より、500キロほど北へ召喚せよと命じられたのです……それで、仕方なく……」

「なにぃっ、アルデオリスのやつか! また勝手な真似を……!」

アークリオス三世は椅子から立ち上がりかけ、片腕を振り上げる。

「アルデオリスを呼べっ! すぐにここへ連れてまいれ!」

技術者は頭を深々と下げ、そそくさと退室していく。謁見の間には、重苦しい沈黙が立ち込めた。

やがて、足音ひとつ響かせることなく、一人の男が現れる。

アルデオリス侯爵。

黒い外套をまとい、整った顔立ちは冷徹な静けさをたたえ、どこか物寂しげでもある。

しかし、その眼差しの奥には、鋼のような意思が宿っていた。

「陛下、お呼びと聞き、参上いたしました」

静かに膝をつき、深く頭を垂れる。

アークリオス三世は不機嫌に眉をひそめて言った。

「アルデオリス侯爵。そちは我が命を無視して魔獣を我が国寄りに召喚したそうではないか? 

なぜじゃ。話によっては、そちとて許さんぞ!」

王の怒気を孕んだ声にも、アルデオリスは顔色ひとつ変えず、落ち着いた声音で口を開く。

「陛下。ご命令に背いたこと、お詫び申し上げます。ですが、それには戦略的な理由がございます」

アークリオスの眉がわずかに動いた。
アルデオリスは続ける。

「魔族界の地勢についてでございます。

魔族の各種族は、我が国からの距離に応じて、その強さが分布しております。

最も遠方には、スライム族やゴブリン族などの、戦力としては取るに足らぬ者たち。

対して、我が国に近い領域には、より強力な種族、ドラゴン族や悪魔族が棲んでおります」

「ふむ……」

「前回と同様、遠方に魔獣を召喚しても、相手となるのは弱小種族。

テスト召喚の魔獣で十分に殲滅できるため、強力な魔獣を投入する意味は薄いのです」

「では、なぜ北側に?」

アークリオスが不機嫌そうに尋ねる。

「魔獣は、戦闘後もその場にとどまるとは限りません。

生き延びれば、そのまま北、つまり、我が国に近づく方向へと移動していくのです。

そうなれば、より強力な魔族との戦闘が発生します」

「そのとき魔獣が敗れたらどうする?」

「それでも構いません。目的は勝利ではなく、敵戦力の削減。

一体の魔獣が何十、何百の魔族を道連れにするなら、それは十分な戦果です」

アルデオリスはさらに続ける。

「そして、その損耗した地域に次なる魔獣を召喚すれば、畳みかけるように敵勢力を削ることが可能となります」

アークリオスは腕を組み、唸った。

「……なるほどのう」

「さらに、重要なのは魔素の消耗でございます。

いかに原石が豊富といえど、我が国の”資源”は無限ではありません。

今後、他国との戦争を視野に入れるならば、現時点での浪費は避けねばなりません。

“効率”こそ、我が国にとっては重要なのです」

王は「ううっ……」と呻き、口を閉ざした。

しばしの沈黙ののち、唇をとがらせて呟くように言った。

「……さすがはアルデオリス侯爵。そちの言う通りじゃ。

わしもちょうどそれを考えておったところだ。で、これからどうすればよい?」

明らかに後付けの体裁に、アルデオリスは何も言わず、ただ静かに応じた。

「今回召喚した魔獣は、テスト召喚のときの魔素とほぼ同量であります。

次なる段階では、より多くの魔素を用い、より強力な魔獣をターゲットエリアごとに数体、段階的に北方へ召喚すべきと存じます」

「し、しかし……もし奴らが、我が国へと流れ込んできたら……!」

アークリオスの声には、かすかな怯えが滲む。

「召喚地点のさらに北には、ドラゴン族と悪魔族という強大な魔族が控えております。

魔獣が仮にそこまで達しても、彼らが討ち果たす可能性は高いかと存じます」

「……それでも、そやつらが敗れたら?」

「その時は、我らにはプレオナ様とラグニア様という、最終の矛がございます。

この二柱が出れば、もはや魔獣ごときに我が国が屈することなどありえません」

アークリオスは押し黙った。

そして、やがて声を張り上げた。

「……確かに、そちの言う通りだ。さすがはアルデオリス侯爵よ! では、その通りに進めい!」

「御意にございます」

アルデオリスは深く頭を垂れ、一礼すると、そのままアークリオスに背をむけ、謁見の間を去っていった――。
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