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第三章 咆哮の誇り ※序盤、シリアス、途中、切ない系、終盤、怒涛のカタルシス
第26話 かわるもの、ゆれるもの、たおれるもの
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――和平協定の調印から、二週間。
ポタ村とモルド村の間では、日を追うごとに、目に見える変化が起きていた。
かつて略奪と暴力の象徴だったゴブリン族が、いまや生活の一部として村に溶け込み始めていたのだ。
「こっちの畝まで掘ったら終わりだぞー!」
畑では、ゴブリンの若者が、スライム族の農夫と肩を並べて汗を流していた。
その手に握られているのは、攻撃のための棍棒ではなく、鉄のスコップ。
そして、そこには、農作業を手伝うミィナの姿もあった。
「……なあ、ビーノ。今日、お前、やけに仕事が早いな?」
ふと作業の合間に、ゴッチが声をかける。
その口元には、ニヤついた笑みが浮かんでいた。
「はっ? なんだよ、ふつーだし。自主性! 地域貢献! 村間交流ってやつだ!」
「ふーん? ミィナちゃんの前でかっこつけてるだけじゃねぇのか?」
「うるさいうるさい!!」
スコップを振るうビーノの顔は真っ赤だったが、その手つきは明らかに板についてきていた。
かつて奪うだけだったその手が、いまは土を耕し、収穫を目指して動いている。
近くでは、ゴブリン族とスライム族の子どもたちが雑草抜き競争をしていた。
笑い声を上げ、転がりながら、種族の違いなど気にも留めない様子で。
誰かが笑い、誰かが手を貸し、誰かが新しい“居場所”を築いていく。
――その光景が、今のポタ村にはあった。
そして、村にはもうひとつの変化が広がりはじめていた。
ゴブリン族の間に、共通した“兆候”が現れたのだ。
「そういえばさ……最近、体が軽くない?」
「……おれも。昔、剣にやられた肩の古傷、気づいたら……なくなってた」
きっかけは、フィリアの聖泉だった。
森の奥に湛えられたその泉――通称“フィリアの温泉”は、癒しの場として親しまれていたが、
その水には、この間、アマトによってもたらされた“光の雪”の魔素が、静かに蓄積されていたのだ。
沐浴を重ねるたびに、身体は軽くなり、心が澄んでいく。
筋力がついた者、五感が冴えた者、長年の痛みが消えた者――
そうした変化はやがて、村全体の雰囲気すら変えていった。
ポタ村は、明らかに、生まれ変わってきていたのだ。
そして、その中でも、とりわけ大きな変化を遂げた者がいた。
――エメルダである。
あの、どうしようもない”発作”を抱えたエメルダが、
なんと、アマトと面と向かって話せるようになったのだ。
そう、あのエメルダが失神せずに――。
村では「聖泉のご加護だ」と揶揄する者たちもいた。
だが、真実は少し――いや、まるで違う。
それは、人知れず続けられた、たゆまぬ努力の結晶であり、
むしろ、“新しい愛のカタチ”であるといっても、過言ではない。
……もっとも、この話については、
この物語とはまた、別の物語である。
***
一方で、密かに心を曇らせている者がいた。
――ミィナである。
水汲みの手を止めた彼女の視線の先には、丘の上で遠くを見つめるアマトの姿があった。
穏やかな表情で、どこか思索に沈むように、静かに風を受けている。
しかし、ミィナは、その姿に目を留めることなく、そっと視線を逸らす。
あの、フィリアの聖泉でのこと。
湯殿でルノアが何気なく放った、一言が胸の奥に刺さったままだった。
「アマト様から……アマト様の前世の記憶の話、聞いたんだぜ?」
たったそれだけの言葉。
でも、ミィナの心に、小さな波紋を残していった。
(……どうして、私には話してくれなかったのだろう)
同じ朝を迎え、同じ食卓を囲み、
誰よりも近くにいた“つもり”だった。
それなのに、自分の知らないアマトの姿を、誰かが知っている。
そのことが、思いのほか、胸に重くのしかかった。
気づかぬうちに、ミィナはアマトに対して、ほんのわずかに距離を取るようになっていた。
声をかけられても、返事が一拍遅れる。
並んで歩くとき、自然と半歩、足が遅れる。
笑顔を返そうとしても、胸の奥の棘が、そっと邪魔をする。
(……怒っているわけじゃない。傷ついたつもりもない)
それでも、どうしようもなく――
(寂しい……)
そんな言葉でしか表現できないミィナがいた。
***
丘の上で、アマトは黙然と地平線の彼方を見つめていた。
風が髪をなびかせ、空は静かにその色を変えてゆく。
その内側――赤と黒が渦巻く精神世界で、アマトはゼルヴァスの声にじっと耳を傾けていた。
「……二度あることは三度ある」
ゼルヴァスの声が、鈍く重く、アマトの心の中へと響く。
「お前が倒した魔獣……あれが最後だとは思わんことだ。次はいつ、どこに現れるかもわからん。そしてそのとき、お前がそこにいるとは限らない」
アマトはそっと目を開け、視線を逸らすことなく、静かに答える。
「……つまり、俺がいなくても、魔族たちが自分の力で戦えるようにしておけということか」
「その通りだ。力を分け与え、奴らを真の戦士へと鍛え上げろ」
ゼルヴァスは一拍置いて、続けた。
「お前のスキル構成を整理する。アルティメイトが一つ、エクストラが一つ、スタンダードが四つ――ただし一つは重複。そしてノーマルスキルが複数。中でも、今もっとも意味を持つのは――見かけ上もっとも格下に思える“貸与”だ」
アマトの眉がわずかに動く。
「……“貸与”、か」
「ああ。“他者に一時的にスキルを貸し出す”能力だ。以前にも話したな。スタンダード以上のスキルは、お前が使うには危険が大きい。未知の副作用、魔素の暴走、周囲への影響――そのどれもが脅威だ。だが、信頼できる仲間にスキルを託せば、その力は安全かつ確実に活かせる」
ゼルヴァスの声がさらに低く、鋭くなる。
「だが、どのスキルを誰に貸すか――その選択は軽々しく行えるものではない。今のこの地に、エクストラ以上のスキルを扱いこなせる者はいない。だから、実用の範囲はスタンダードに留まる」
沈黙が短く流れ、ゼルヴァスは話を続ける。
「現在、お前が貸与できるスタンダードスキルは三つ。“雷矢”――攻撃系。そして“軽癒”と“恩恵”――支援系だ」
アマトは小さくうなずく。
「ならば、“雷矢”は誰に与えるべきだ?」
「候補は、ルノアとエメルダだ。“雷矢”は二つ持っている。両者に一つずつ渡す手もあるが、適性を考えればルノアに分がある」
ゼルヴァスの声音に、わずかな熱が宿る。
「ルノアは過去に“光矢”を使った。あれは“雷矢”の下位にあたるノーマルスキル。系統が同じであれば、“パラレル発動”――連携・強化も可能だ。一方、エメルダはすでに“土塊”というスタンダードスキルを持っている。攻撃役としては完成しており、“雷矢”の恩恵は少ない」
アマトの瞳に、わずかな迷いが差す。
「……だが、ルノアは“ウロボロスの痣”を抱えている。戦いに身を投じれば、それが発動し……最悪、戦いによって命を落とす可能性もある」
ゼルヴァスは重く頷いた。
「その懸念は理解している。だがもしその呪いが“戦い”に反応して顕れるのなら――逆に、力を備えておくことで、発動に抗える可能性もある。攻撃が最大の防御ということだ」
アマトは目を伏せ、長く息を吐いた。
「……今は、まだ決められない」
ゼルヴァスはそれ以上を求めず、話題を変える。
「では次に、“軽癒”と“恩恵”についてだ。どちらも支援スキルだが、即効性があるのは“軽癒”。魔素と体力を直接回復できる。特に、スライムやゴブリンのような低魔素種には効果的だ」
アマトが静かに問い返す。
「“恩恵”は?」
「万能だが、ゆえに効果が分散しやすい。通常はな。だが――お前が使ったときだけは異常だった。スタンダードの枠を超え、まるでアルティメイト級の奇跡を呼んだ。つまり、“恩恵”が強いのではない。“お前が使う恩恵”が異常なのだ」
アマトはしばらく考え、やがて静かに尋ねた。
「……であれば"軽癒"を誰に貸すかだな。お前なりの考えはあるか?」
ゼルヴァスは目を伏せるように呟く。
「……それが、まだ俺様にもわからん」
風が再び吹き抜け、空は薄暮に染まり始める。
アマトはその空を見上げ、ぽつりと呟いた。
「……まずは――ルノアに“雷矢”を与えるかどうか。それを決めるのが、先か……」
「そうだな」
とゼルヴァスが同意する。
「あと、まぁ、これはあると便利という代物で他者に貸与するというものではないが、ノーマルスキルの"幻扉"と言うのがある。これは、他者との廻廊をつなぐものだが、能力に限界があってな。数キロ程度の通話が可能になるものだ。まぁ、ティアマトとの精神回廊に概念としては似ているな。この他に・・・」
とゼルヴァスの説明が続いていった。
***
――そんなある日の夕暮れ時。
広場では子どもたちが歓声を上げながら鬼ごっこに興じ、大人たちは作業を終えた手で道具を片付けつつ、短い談笑を交わしていた。
穏やかで、どこにでもある村の日常。
――その静けさを、音が裂いた。
――ズザァッ!
土煙を巻き上げながら、北側の道先――村の外れから、何者かがふらつきながら歩いてくる。
そして、足がもつれ、そのまま倒れ込んだ。
最初に気づいたのは、見張り台にいた若者だった。
「誰か来るっ! ――おい、あれって……血まみれじゃないか!?」
倒れたのは青年に見える。
身体は泥と血にまみれ、破れた衣の隙間からは無数の傷が覗いている。
腕も脚も、細かい切り傷と打撲で覆われていた。
近くにいたスライム族の若者たちが、慌てて駆け寄る。
「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」
「……た、たすけ……て……くれ……」
助けを求める、弱々しくも必死な声。
その顔に目を向けた瞬間、一人が息を呑む。
鋭くのびた犬歯――
「……狼種、だ……!」
その言葉が漏れたとたん、広場の空気が凍りつく。
子どもたちの足が止まり、大人たちの手が固まる。
風が吹き、広場の埃が舞った。
その場に居合わせたすべての者が、息をのんで立ち尽くしていた。
ポタ村とモルド村の間では、日を追うごとに、目に見える変化が起きていた。
かつて略奪と暴力の象徴だったゴブリン族が、いまや生活の一部として村に溶け込み始めていたのだ。
「こっちの畝まで掘ったら終わりだぞー!」
畑では、ゴブリンの若者が、スライム族の農夫と肩を並べて汗を流していた。
その手に握られているのは、攻撃のための棍棒ではなく、鉄のスコップ。
そして、そこには、農作業を手伝うミィナの姿もあった。
「……なあ、ビーノ。今日、お前、やけに仕事が早いな?」
ふと作業の合間に、ゴッチが声をかける。
その口元には、ニヤついた笑みが浮かんでいた。
「はっ? なんだよ、ふつーだし。自主性! 地域貢献! 村間交流ってやつだ!」
「ふーん? ミィナちゃんの前でかっこつけてるだけじゃねぇのか?」
「うるさいうるさい!!」
スコップを振るうビーノの顔は真っ赤だったが、その手つきは明らかに板についてきていた。
かつて奪うだけだったその手が、いまは土を耕し、収穫を目指して動いている。
近くでは、ゴブリン族とスライム族の子どもたちが雑草抜き競争をしていた。
笑い声を上げ、転がりながら、種族の違いなど気にも留めない様子で。
誰かが笑い、誰かが手を貸し、誰かが新しい“居場所”を築いていく。
――その光景が、今のポタ村にはあった。
そして、村にはもうひとつの変化が広がりはじめていた。
ゴブリン族の間に、共通した“兆候”が現れたのだ。
「そういえばさ……最近、体が軽くない?」
「……おれも。昔、剣にやられた肩の古傷、気づいたら……なくなってた」
きっかけは、フィリアの聖泉だった。
森の奥に湛えられたその泉――通称“フィリアの温泉”は、癒しの場として親しまれていたが、
その水には、この間、アマトによってもたらされた“光の雪”の魔素が、静かに蓄積されていたのだ。
沐浴を重ねるたびに、身体は軽くなり、心が澄んでいく。
筋力がついた者、五感が冴えた者、長年の痛みが消えた者――
そうした変化はやがて、村全体の雰囲気すら変えていった。
ポタ村は、明らかに、生まれ変わってきていたのだ。
そして、その中でも、とりわけ大きな変化を遂げた者がいた。
――エメルダである。
あの、どうしようもない”発作”を抱えたエメルダが、
なんと、アマトと面と向かって話せるようになったのだ。
そう、あのエメルダが失神せずに――。
村では「聖泉のご加護だ」と揶揄する者たちもいた。
だが、真実は少し――いや、まるで違う。
それは、人知れず続けられた、たゆまぬ努力の結晶であり、
むしろ、“新しい愛のカタチ”であるといっても、過言ではない。
……もっとも、この話については、
この物語とはまた、別の物語である。
***
一方で、密かに心を曇らせている者がいた。
――ミィナである。
水汲みの手を止めた彼女の視線の先には、丘の上で遠くを見つめるアマトの姿があった。
穏やかな表情で、どこか思索に沈むように、静かに風を受けている。
しかし、ミィナは、その姿に目を留めることなく、そっと視線を逸らす。
あの、フィリアの聖泉でのこと。
湯殿でルノアが何気なく放った、一言が胸の奥に刺さったままだった。
「アマト様から……アマト様の前世の記憶の話、聞いたんだぜ?」
たったそれだけの言葉。
でも、ミィナの心に、小さな波紋を残していった。
(……どうして、私には話してくれなかったのだろう)
同じ朝を迎え、同じ食卓を囲み、
誰よりも近くにいた“つもり”だった。
それなのに、自分の知らないアマトの姿を、誰かが知っている。
そのことが、思いのほか、胸に重くのしかかった。
気づかぬうちに、ミィナはアマトに対して、ほんのわずかに距離を取るようになっていた。
声をかけられても、返事が一拍遅れる。
並んで歩くとき、自然と半歩、足が遅れる。
笑顔を返そうとしても、胸の奥の棘が、そっと邪魔をする。
(……怒っているわけじゃない。傷ついたつもりもない)
それでも、どうしようもなく――
(寂しい……)
そんな言葉でしか表現できないミィナがいた。
***
丘の上で、アマトは黙然と地平線の彼方を見つめていた。
風が髪をなびかせ、空は静かにその色を変えてゆく。
その内側――赤と黒が渦巻く精神世界で、アマトはゼルヴァスの声にじっと耳を傾けていた。
「……二度あることは三度ある」
ゼルヴァスの声が、鈍く重く、アマトの心の中へと響く。
「お前が倒した魔獣……あれが最後だとは思わんことだ。次はいつ、どこに現れるかもわからん。そしてそのとき、お前がそこにいるとは限らない」
アマトはそっと目を開け、視線を逸らすことなく、静かに答える。
「……つまり、俺がいなくても、魔族たちが自分の力で戦えるようにしておけということか」
「その通りだ。力を分け与え、奴らを真の戦士へと鍛え上げろ」
ゼルヴァスは一拍置いて、続けた。
「お前のスキル構成を整理する。アルティメイトが一つ、エクストラが一つ、スタンダードが四つ――ただし一つは重複。そしてノーマルスキルが複数。中でも、今もっとも意味を持つのは――見かけ上もっとも格下に思える“貸与”だ」
アマトの眉がわずかに動く。
「……“貸与”、か」
「ああ。“他者に一時的にスキルを貸し出す”能力だ。以前にも話したな。スタンダード以上のスキルは、お前が使うには危険が大きい。未知の副作用、魔素の暴走、周囲への影響――そのどれもが脅威だ。だが、信頼できる仲間にスキルを託せば、その力は安全かつ確実に活かせる」
ゼルヴァスの声がさらに低く、鋭くなる。
「だが、どのスキルを誰に貸すか――その選択は軽々しく行えるものではない。今のこの地に、エクストラ以上のスキルを扱いこなせる者はいない。だから、実用の範囲はスタンダードに留まる」
沈黙が短く流れ、ゼルヴァスは話を続ける。
「現在、お前が貸与できるスタンダードスキルは三つ。“雷矢”――攻撃系。そして“軽癒”と“恩恵”――支援系だ」
アマトは小さくうなずく。
「ならば、“雷矢”は誰に与えるべきだ?」
「候補は、ルノアとエメルダだ。“雷矢”は二つ持っている。両者に一つずつ渡す手もあるが、適性を考えればルノアに分がある」
ゼルヴァスの声音に、わずかな熱が宿る。
「ルノアは過去に“光矢”を使った。あれは“雷矢”の下位にあたるノーマルスキル。系統が同じであれば、“パラレル発動”――連携・強化も可能だ。一方、エメルダはすでに“土塊”というスタンダードスキルを持っている。攻撃役としては完成しており、“雷矢”の恩恵は少ない」
アマトの瞳に、わずかな迷いが差す。
「……だが、ルノアは“ウロボロスの痣”を抱えている。戦いに身を投じれば、それが発動し……最悪、戦いによって命を落とす可能性もある」
ゼルヴァスは重く頷いた。
「その懸念は理解している。だがもしその呪いが“戦い”に反応して顕れるのなら――逆に、力を備えておくことで、発動に抗える可能性もある。攻撃が最大の防御ということだ」
アマトは目を伏せ、長く息を吐いた。
「……今は、まだ決められない」
ゼルヴァスはそれ以上を求めず、話題を変える。
「では次に、“軽癒”と“恩恵”についてだ。どちらも支援スキルだが、即効性があるのは“軽癒”。魔素と体力を直接回復できる。特に、スライムやゴブリンのような低魔素種には効果的だ」
アマトが静かに問い返す。
「“恩恵”は?」
「万能だが、ゆえに効果が分散しやすい。通常はな。だが――お前が使ったときだけは異常だった。スタンダードの枠を超え、まるでアルティメイト級の奇跡を呼んだ。つまり、“恩恵”が強いのではない。“お前が使う恩恵”が異常なのだ」
アマトはしばらく考え、やがて静かに尋ねた。
「……であれば"軽癒"を誰に貸すかだな。お前なりの考えはあるか?」
ゼルヴァスは目を伏せるように呟く。
「……それが、まだ俺様にもわからん」
風が再び吹き抜け、空は薄暮に染まり始める。
アマトはその空を見上げ、ぽつりと呟いた。
「……まずは――ルノアに“雷矢”を与えるかどうか。それを決めるのが、先か……」
「そうだな」
とゼルヴァスが同意する。
「あと、まぁ、これはあると便利という代物で他者に貸与するというものではないが、ノーマルスキルの"幻扉"と言うのがある。これは、他者との廻廊をつなぐものだが、能力に限界があってな。数キロ程度の通話が可能になるものだ。まぁ、ティアマトとの精神回廊に概念としては似ているな。この他に・・・」
とゼルヴァスの説明が続いていった。
***
――そんなある日の夕暮れ時。
広場では子どもたちが歓声を上げながら鬼ごっこに興じ、大人たちは作業を終えた手で道具を片付けつつ、短い談笑を交わしていた。
穏やかで、どこにでもある村の日常。
――その静けさを、音が裂いた。
――ズザァッ!
土煙を巻き上げながら、北側の道先――村の外れから、何者かがふらつきながら歩いてくる。
そして、足がもつれ、そのまま倒れ込んだ。
最初に気づいたのは、見張り台にいた若者だった。
「誰か来るっ! ――おい、あれって……血まみれじゃないか!?」
倒れたのは青年に見える。
身体は泥と血にまみれ、破れた衣の隙間からは無数の傷が覗いている。
腕も脚も、細かい切り傷と打撲で覆われていた。
近くにいたスライム族の若者たちが、慌てて駆け寄る。
「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」
「……た、たすけ……て……くれ……」
助けを求める、弱々しくも必死な声。
その顔に目を向けた瞬間、一人が息を呑む。
鋭くのびた犬歯――
「……狼種、だ……!」
その言葉が漏れたとたん、広場の空気が凍りつく。
子どもたちの足が止まり、大人たちの手が固まる。
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その場に居合わせたすべての者が、息をのんで立ち尽くしていた。
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