異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第三章 咆哮の誇り ※序盤、シリアス、途中、切ない系、終盤、怒涛のカタルシス

第36話 去り行く背中にかけられた“言葉”たち――

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――診療室の扉の外

診療室の扉が静かに開き、アマトがゆっくりと外へ出てきた。
ドアの横で待っていたミィナを見ると、アマトが少し微笑む。
ミィナも、それに頷いて答える。
そして、アマトはそのままこの場を去っていった。
その背中を、ミィナは小さく見上げ、何も言わずに見送った。

ふと、横で足音がする。
ゼルミスが、湯呑を片手に持ちながら、穏やかな表情でミィナの隣に立っていた。

「終わったようじゃな」

その言葉に、ミィナは小さく頷き、診療室の扉をそっと見つめた。
ゼルミスもまた、ゆっくりとした足取りで扉に近づき、軽く扉を叩くことなく、そっと開ける。

中に入ると、ルダルが窓際でじっと立っていた。
腕を組み、ややうつむき加減の背中が、どこかひとつの決意を帯びているように見えた。

ゼルミスはゆっくりと歩み寄り、ミィナも続いて室内へと足を踏み入れる。
扉が静かに閉じると、部屋の中にわずかな緊張が漂った。

ルダルは二人に気づき、ゆっくりと振り返った。
そして、その目に宿る光は、どこか吹っ切れたような、静かな光を湛えていた。

「ゼルミス、ミィナ。世話になった」

その言葉に、ミィナの目がわずかに丸くなる。
ゼルミスは、何も言わず、ただ静かに耳を傾けていた。

ルダルは、一拍の間を置き、続けた。

「私は、今夜、この村を発つ。ガルテラへ戻るつもりだ」

診療室の空気が、わずかに揺らいだような気がした。
ミィナは、少し驚いた様子を見せるものの、すべてを理解したかのように優しく微笑む。

「さきほど、アマトと話をしていて、決心がついた。
もう、恐らく手遅れだろう。だが……今戻らなければ、一生悔いすることになる」

ミィナは小さく息を呑み、ゼルミスは短く目を閉じて、ゆっくりと開いた。

「そうか……、決めたのか」

低く、しかしどこか優しい声で、ゼルミスは言った。

「ならば何も言うまい。己の道を貫け」

ミィナは一度瞳を伏せ、それから顔を上げ、微笑みを浮かべた。

「……私たちにお手伝いできることがあれば、言ってください」

その声は小さいながらも、真っ直ぐで、澄んでいた。

ルダルは短く息を吐き、わずかに笑みを滲ませた。
そして、力強く言った。

「ありがとう。だが、まずは自分の力で確かめたい。それが、私のけじめだ」

ゼルミスとミィナは、その言葉をしっかりと受け止めたように、ゆっくりと頷いた。

少し重たかった空気が、ルダルの決意にはじかれた、そんな気がした。。

そして、ルダルの背中はもう、迷いを振り払った者のそれに見えた――。


***


午後の草地には、淡い陽射しが柔らかく降り注いでいた。
風が穏やかに吹き抜け、草の葉がさわさわと揺れる音が耳に心地よく響く。

その中央で、アマトと三人の娘たち――ミィナ、ルノア、エメルダが訓練に励んでいた。

「……いくぞ」

アマトが短く告げ、掌に薄い光が宿る。
魔素の流れが場を満たし、空気が微かに震える。

ルノアとエメルダが視線を交わし、一瞬の間を置いて――
魔素の光が弾けるように二人の体を包み込み、それぞれ、瞬時に戦闘態勢のスライムとゴブリンの姿へと変わる。

ルノアの肌は淡く透き通り、魔素の粒子をまとって艶めき、
体の輪郭がどこか柔らかく、しなやかさを増したように見えた。
だが、その姿はあくまで人型のままで、瞳の奥に淡い緑の光を宿し、戦意を燃やしていた。

エメルダの体は一瞬で筋肉が引き締まり、目元に薄く紋様が浮かび上がる。
小さな牙が覗き、瞳に鋭い光が灯る――それだけで、彼女の気迫は十分だった。

空気が張り詰め、魔素の流れが場を満たす。
そして、二人はほぼ同時に地を蹴り、ぶつかり合った――!

「来い、エメルダ!」
「上等だ、ルノア!」

ルノアの手から放たれた”雷矢”が、鋭い閃光を引きながら空を裂き、
エメルダの両手から放たれた”土塊”が、地を揺るがすように唸りを上げて突き進む。

「「これでどうだっ!!」」

二つの魔法が、互いの中心を正確に撃ち抜き、炸裂する衝撃が辺りに響き渡る。
爆風に煽られ、二人の体が草地に叩きつけられた。

「ぐっ……!」
「うぉっ……!」

埃が舞い上がる中、ミィナがアマトの隣から一歩前へ踏み出し――
その身体が淡い光に包まれると、わずかに輪郭が揺らぎ、
ルノアと同じスライムのはずなのに、どこか異なる気配を纏い、より神秘的な存在へと変わった。

ミィナの肌は、淡い光を宿しながら鮮やかな青に透き通り、
内側からほのかに発光するような輝きを帯びていた。
柔らかな光の粒子がふわりと彼女の周囲を漂い、
その輪郭には、見る者の目を引き寄せずにはいられないような、
しなやかで優美な曲線が浮かび上がっていた。

ミィナは、二人のそばに近寄ると、両手を二人へ向けてかざし、”軽癒”と唱える。
その光が二人を包んだかと思うと、体に走った痛みと傷が音もなく消えていく。

「大丈夫ですか?」

その声は、穏やかで、けれどしっかりと芯の通ったものだった。

ルノアが勢いよく起き上がり、拳を握りしめる。
エメルダも負けじと拳をぶつけ、二人の間に小さな火花が散った。

「俺たち、強くなったな!」
「ケガしてもミィナがすぐ治してくれるから、どんどん本気出せる!」

ミィナは少し息を弾ませながらも、微笑みを浮かべて頷いた。

「私も、お役に立てて嬉しいです」

その笑顔には、かつての不安や戸惑いはもうなかった。
仲間としての自信と、癒し手としての誇りが、確かにそこにあった。


その様子を、少し離れた場所でルダルが見守っていた。
腕を組み、目を細め、静かに呟く。

「魔素の供給か……こいつら、大したもんだ……」


――一方,アマトの精神空間


赤と黒がうごめく深淵の中、ゼルヴァスが大の字で引っかかりながらも、渋い声を響かせる。

「うむ。これなら、この間、村に現れた魔獣程度なら余裕で倒せるな」

ティアマトが両手を頬に当て、目をきらきらさせながら声を上げた。

「ミィナちゃん、なんかたくましくなったように見える~!」

ゼルヴァスがふん、と鼻を鳴らし、少し目を細めた。

「アマトも、だいぶ魔素のコントロールが安定してきたな。良いことだ。
だが、まだまだ合格ラインには程遠いと思え!」

その言葉に、アマトの表情がわずかに緩む。
無言のまま、だが心の奥に微かな安堵が灯っていた。


***


夕暮れが村を包み、柔らかな橙色の光が家々と草地を染めていた。
ポタ村の北の外れ、風が少し冷たくなる場所に、数人の人影が集まっていた。

ルダルが、肩に荷を背負い、村の出入り口に立っていた。
その前には、アマト、ミィナ、ルノア、エメルダ、そしてゼルミス。
さらに、数人の村人たちが名残惜しげに集まり、小さな別れの空気を作っていた。

「ゼルミス、みんな、世話になった」

ルダルが深く一礼する。
ゼルミスは湯呑を手に持ち、ゆっくりと頷いた。

「なぁに、わしにとっては良い語り仲間だったわい。寂しくなるのぉ」

エメルダが胸を張り、腕を組みながら口を開いた。

「いざとなったら俺たちを呼べ!すぐ駆けつけてやるからな!」

ルノアも、にやりと笑いながら拳を握った。

「俺たち、すっげぇ強くなったぜ。魔獣なんて、一発でぶっ飛ばせるくらいにさ!」

ミィナは、両手で胸の前に小さく握りこぶしを作り、優しく微笑んだ。

「もし、村の人たちが怪我をしていたら……呼んでください。私、すぐに参ります」

ルダルは順番に視線を巡らせ、言葉を胸に刻むように深く頷いた。
そして、少しだけアマトの方へ体を向ける。

「……もし、私がまだ生き残っていたら、今度は酒でも酌み交わそう」

アマトはその言葉に、わずかに口元を緩め、静かに応えた。

「ああ、そうだな」

その短い言葉が、かえって強い想いを含んでいるようだった。

ルダルは一度深く息を吸い込み、そして北の方角を見据えた。
背中を向け、ゆっくりと歩き始める。

その時、アマトが唐突に放つ。

「忘れるな。お前の後ろには俺がいつでもいる」

(ゼルヴァス様……!?)

ルダルが、振り向き、驚いたような顔でアマトを見るが、ふと我に返る。

「……不思議なものだ。今の言葉、昔、何度も聞いた覚えがある。……ありがとう、アマト。少しだけ、背中を押された気がする」

そして再び、背を向け、そのまま歩き出した。

アマトは、ふと、片手をルダルの背中に向けて伸ばし、低く何かを呟いた。

その言葉は風に溶け、誰の耳にも届かない。
だが、その場に吹き抜けた風は、どこか優しく、温かいものを運んでいったようだった。

ルダルの背が、村の外の夕闇に溶け込んでいく。

その歩みは、確かな決意に支えられたものだった――。
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