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第三章 咆哮の誇り ※序盤、シリアス、途中、切ない系、終盤、怒涛のカタルシス
第38話 戦士の一歩、沈黙、そして、目覚め
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魔獣は地に伏したまま、荒い息を吐き続けていた。
だが、その巨体がわずかに震え、やがて地面を踏みしめるようにして、再びその姿を持ち上げた。
「……立ちやがった!」
ルノアが険しい声を上げ、手の中で小さく雷を弾けさせる。
魔獣の瞳がぎらりと赤く光り、次の標的を探すように辺りを見回す。
その視線が、ルノアとエメルダを射抜いた。
「……では、いっちょ畳みかけますか」
ルノアが薄く笑みを浮かべ、腰を低く落とす。
その言葉に応じ、エメルダが力強く頷いた。
「おぅ、乗った!」
二人は息を合わせ、地を蹴って魔獣へと駆けだすと同時に、スライムとゴブリンへ変身した。
魔獣も二人を敵とみなし、腹の底から咆哮を響かせた。
「来いっ!」
魔獣の巨体がうなりを上げ、牙を剥いて襲いかかる。
だが、ルノアとエメルダは、左右に分かれて翻るように避ける。
「エメルダ、そっち!」
「わかってるっ!」
魔獣がルノアに迫れば、エメルダが後方から土塊を叩きつけ、
エメルダに向かえば、ルノアがその隙を突いて雷矢を放つ。
互いの攻撃が交錯し、魔獣の動きが徐々に鈍り始める。
(……脇腹、だな)
ルノアが目を細め、魔獣の動きを見つめた。
攻撃を受けるたび、魔獣は無意識に脇腹を庇うような仕草をしている。
そこが、急所。
「エメルダ、十秒稼いで!」
「了解だっ!」
エメルダが雄叫びを上げ、真正面から魔獣に突っ込む。
その隙にルノアは、全意識を集中させ、両手を頭の上でつかむように振り上げ、
「ダブル”雷矢”!」
とつぶやくと同時に両手を振り下ろし魔獣を指し示す。
そして、二つの雷矢が放たれ、一直線に魔獣の脇腹へと突き刺さる。
絶叫が夜の森に響き渡り、魔獣はその場で崩れ落ちた。
「や、やった……!?」
「……倒した、のか?」
ルノアとエメルダが立ち尽くし、肩で荒く息をする。
次の瞬間、二人の視線が交わり、弾けるように笑顔が広がった。
「よっしゃああああっ!」
「俺たち、やったじゃねぇか!!」
二人は互いの拳を軽くぶつけ合い、笑顔を弾けさせる。息を切らしながらも、その瞳には確かな達成感が宿っていた。
それは、二人が戦士として新たな一歩を踏み出した証だった。
その時、すぐそばで呻くような声が響いた。
「……ぐっ……」
振り向けば、ルダルが地に伏せ、片手を支えに呼吸を荒くしている。顔色は悪く、痛みに顔を歪め、今にも意識を失いそうだった。
「ルダル様!」
スライム人間形態に変身しているミィナが、ルダルに駆け寄って手をかざし、ルダルの胸元に優しい光を流し込む。
「”軽癒”」
淡い癒しの光がルダルの傷を包み込み、裂けた皮膚が再び閉じ、血が止まり、荒れた呼吸がゆっくりと穏やかになる。
「っ……これは……!」
ルダルが薄く目を開け、驚きと共に声を漏らす。
その瞳に映るのは、ミィナの穏やかな笑顔と、周囲で安堵の息をつく仲間たち。
「お前たち……本当に……大した連中だ……」
息を整えながらも、ルダルは苦笑し、そして深く礼を述べた。
「ありがとう……。助かった」
ルノアとエメルダは、ミィナの働きぶりにも感嘆の声を漏らし、互いに小さくガッツポーズを交わす。
だが、ルダルは少し顔を引き締め、アマトの方を向いて問うた。
「……だが、なぜ、お前たちが今ここにいる?」
アマトは静かに答えた。
「詳しい話は後だ。今は、村へ向かった方がいいだろう。
もし、この辺りに他の魔獣が潜んでいれば――
残っているかもしれない村人たちが、危険に晒されているかもしれない」
ルダルは一瞬考え、そして重々しく頷いた。
「確かに、そうだな……。だが、少しだけ時間をくれ」
そう言うと、ルダルはグレオニウスの亡骸へと向かった。
倒れた肉体の傍らに膝をつき、その腕に巻かれた「六輪の誓印」をそっと外す。
「すまない……今はお前の体を村へ連れ帰ることはできない。
だが必ず……またここへ来て、お前を連れ帰ってやる。
今はこれだけで許してくれ」
言葉を絞り出しながら、その誓印を自分の腕へ巻き直すルダル。
その姿には、深い悲しみと、確かな誓いの光が宿っていた。
アマトは、少し離れ場所から静かにその様子を見守り、
ルノア、エメルダ、ミィナも、それぞれの想いを胸に、静かに立ち尽くしていた――
ルダルが再び立ち上がり、アマトへ向き直る。
「……できれば、お前たちもガルテラ村まで来てほしい。手伝ってくれると助かる」
アマトは短く頷いた。
「わかった」
そして、一行はガルテラ村を目指して走り出す――
***
ガルテラの地に足を踏み入れた途端、鼻腔を突く腐臭がルダルたちの胸を圧迫した。
建物は無惨に崩れ落ち、木々は根元からへし折れ、岩の破片がそこかしこに散乱している。
(……これが、ガルテラの今……)
ルダルが膝をつき、地面に手をついて震える声を漏らした。
そのとき――。
「ルダル兄《にぃ》……?」
震えるような幼い声が、崩れた家々の間から響いた。
ルダルが顔を上げると、瓦礫の陰から痩せた体の少年が駆け寄ってくる。
その顔には泥と涙の跡が残り、両手には、どこかで拾ってきたのであろう木の実を大切そうに抱えている。しかし、瞳には確かに生の光が宿っていた。
「シン……!お前、無事だったのか!」
ルダルが駆け寄り、少年の体をぎゅっと抱きしめる。
シンもまた、ルダルの胸に顔を埋め、必死に涙をこらえながら腕を回した。
「兄《にぃ》……ねぇが……セシア姉《ねぇ》が、まだ起きないんだ……」
その言葉に、ルダルの表情が強張る。
「セシアが……いるのか?」
シンは小さく頷き、腕を拭うと、振り返って走り出す。
「こっちだよ!」
ルダルは迷わずその後を追い、アマト、ミィナ、ルノア、エメルダも続いた。
胸の奥で波打つ鼓動を必死に抑えながら、ルダルは祈るように呟いた。
(セシアっ……!)
シンがたどり着いたのは、森の奥の小さな洞窟だった。
薄暗い空間の中、十数人の村人たちが肩を寄せ合い、弱々しい光を囲むようにして座り込んでいる。
「ルダルさんだ!」
「帰ってきたんだ!」
誰かが声を上げ、その場の空気がふっと明るさを帯びた。
「……みんな……」
ルダルは安堵と同時に込み上げる感情に喉を震わせた。
そして、村人に囲まれるように、
横たわる一人の女性の姿が目に入る。
「セシア!?」
ルダルは駆け寄り、震える手でその肩に触れた。
冷たくはない。
だが、その表情には苦しげな影が残り、微かな呼吸が胸を上下させていた。
「まだ、生きていてくれたんだな……」
声が震え、肩が揺れる。
その場にいた一人の村人が、涙ぐみながら語り出した。
「グレオニウスさんが……セシアさんを抱えて、ここへ連れてきてくれたんです。その後、グレオニウスさんは、単身で魔獣の方へ向かって行かれて……私たちは、ただ見送るしかなくて……申し訳ありません……」
ルダルはゆっくりとその村人を見つめ、穏やかな声で言った。
「……いや、謝ることはない。お前たちは、セシアの命を繋いでくれていたんだろ。それだけで、十分だ」
村人たちが涙をこらえ、互いにうつむく。
別の村人が続けた。
「それと……子供たちが、森に魔素を含む食料を探しに行ってくれていたんです。魔獣がいるかもしれない場所なのに。子供なら魔素が少ないから魔獣に気づかれづらいだろうって……。そのおかげで、セシアさんはなんとか生きていられたんです」
「なんだと……?」
ルダルが驚きの目を向けると、シンが唇を震わせながら言葉を吐き出した。
「……グレオニウスのおじさんに、託されたんだ。『セシア姉を頼む。獣族の、戦士の誇りを忘れるな』って……だから、オレ……オレ……!」
必死に泣くのをこらえるシンを、ルダルはそっと抱き寄せた。
「よく頑張った。お前は、本当によくやった……ありがとう、ありがとう……」
静かな空間に、嗚咽が重なり、やがて暖かな静けさが戻った。
その時。
「はいはい、感動の場面で悪いけど、ちょっくら通るよ」
ルノアが口元に笑みを浮かべ、セシアの周囲に集まっていた村人たちにそっと分け入る。
「どいたどいた。ここからが見ものだぞ」
エメルダも茶目っ気を帯びた笑顔で続き、村人たちは戸惑いながらも道を空ける。
ルダルが目を見開き、あっけにとられたように振り返った先には、
ゆっくりと歩み寄るミィナの姿があった。
ミィナはセシアの前で立ち止まると、優しく語りかけた。
「セシアさん、よく、頑張りましたね。これはアマト様からのご褒美です」
そう言って、スライム人型に変身し、そっと手をかざし――
「”軽癒”」
ふわりと優しい光がミィナの手から溢れ、セシアの体へと染み渡っていく。
暖かな輝きが、セシアの傷に触れるたび、血の滲んだ傷が閉じ、腫れた箇所が引き締まり、痩せた頬にほんの僅かな血色が戻っていく。
「まさか……この状態のセシアを……!」
ルダルが驚きに目を見開き、息を呑む。
癒しの光が全身を包み込み、やがてセシアのまぶたがわずかに震え、ゆっくりと開いた。
「セシア――っ!」
ルダルが叫び、セシアを抱きしめる。
その光景に、村人たちの中から自然と拍手が起こる。
涙を流しながら、それでも笑顔を見せる人々。
シンも大きな声で笑いながら涙をぬぐった。
ミィナは人型に戻って優しく微笑むと、そっとセシアの横を離れてアマトのもとへ戻っていった。
ルノアとエメルダはなぜか胸を張り、どや顔を見せ合う。
アマトは、その場面を静かに見守り、柔らかな笑みを浮かべていた。
だが、その巨体がわずかに震え、やがて地面を踏みしめるようにして、再びその姿を持ち上げた。
「……立ちやがった!」
ルノアが険しい声を上げ、手の中で小さく雷を弾けさせる。
魔獣の瞳がぎらりと赤く光り、次の標的を探すように辺りを見回す。
その視線が、ルノアとエメルダを射抜いた。
「……では、いっちょ畳みかけますか」
ルノアが薄く笑みを浮かべ、腰を低く落とす。
その言葉に応じ、エメルダが力強く頷いた。
「おぅ、乗った!」
二人は息を合わせ、地を蹴って魔獣へと駆けだすと同時に、スライムとゴブリンへ変身した。
魔獣も二人を敵とみなし、腹の底から咆哮を響かせた。
「来いっ!」
魔獣の巨体がうなりを上げ、牙を剥いて襲いかかる。
だが、ルノアとエメルダは、左右に分かれて翻るように避ける。
「エメルダ、そっち!」
「わかってるっ!」
魔獣がルノアに迫れば、エメルダが後方から土塊を叩きつけ、
エメルダに向かえば、ルノアがその隙を突いて雷矢を放つ。
互いの攻撃が交錯し、魔獣の動きが徐々に鈍り始める。
(……脇腹、だな)
ルノアが目を細め、魔獣の動きを見つめた。
攻撃を受けるたび、魔獣は無意識に脇腹を庇うような仕草をしている。
そこが、急所。
「エメルダ、十秒稼いで!」
「了解だっ!」
エメルダが雄叫びを上げ、真正面から魔獣に突っ込む。
その隙にルノアは、全意識を集中させ、両手を頭の上でつかむように振り上げ、
「ダブル”雷矢”!」
とつぶやくと同時に両手を振り下ろし魔獣を指し示す。
そして、二つの雷矢が放たれ、一直線に魔獣の脇腹へと突き刺さる。
絶叫が夜の森に響き渡り、魔獣はその場で崩れ落ちた。
「や、やった……!?」
「……倒した、のか?」
ルノアとエメルダが立ち尽くし、肩で荒く息をする。
次の瞬間、二人の視線が交わり、弾けるように笑顔が広がった。
「よっしゃああああっ!」
「俺たち、やったじゃねぇか!!」
二人は互いの拳を軽くぶつけ合い、笑顔を弾けさせる。息を切らしながらも、その瞳には確かな達成感が宿っていた。
それは、二人が戦士として新たな一歩を踏み出した証だった。
その時、すぐそばで呻くような声が響いた。
「……ぐっ……」
振り向けば、ルダルが地に伏せ、片手を支えに呼吸を荒くしている。顔色は悪く、痛みに顔を歪め、今にも意識を失いそうだった。
「ルダル様!」
スライム人間形態に変身しているミィナが、ルダルに駆け寄って手をかざし、ルダルの胸元に優しい光を流し込む。
「”軽癒”」
淡い癒しの光がルダルの傷を包み込み、裂けた皮膚が再び閉じ、血が止まり、荒れた呼吸がゆっくりと穏やかになる。
「っ……これは……!」
ルダルが薄く目を開け、驚きと共に声を漏らす。
その瞳に映るのは、ミィナの穏やかな笑顔と、周囲で安堵の息をつく仲間たち。
「お前たち……本当に……大した連中だ……」
息を整えながらも、ルダルは苦笑し、そして深く礼を述べた。
「ありがとう……。助かった」
ルノアとエメルダは、ミィナの働きぶりにも感嘆の声を漏らし、互いに小さくガッツポーズを交わす。
だが、ルダルは少し顔を引き締め、アマトの方を向いて問うた。
「……だが、なぜ、お前たちが今ここにいる?」
アマトは静かに答えた。
「詳しい話は後だ。今は、村へ向かった方がいいだろう。
もし、この辺りに他の魔獣が潜んでいれば――
残っているかもしれない村人たちが、危険に晒されているかもしれない」
ルダルは一瞬考え、そして重々しく頷いた。
「確かに、そうだな……。だが、少しだけ時間をくれ」
そう言うと、ルダルはグレオニウスの亡骸へと向かった。
倒れた肉体の傍らに膝をつき、その腕に巻かれた「六輪の誓印」をそっと外す。
「すまない……今はお前の体を村へ連れ帰ることはできない。
だが必ず……またここへ来て、お前を連れ帰ってやる。
今はこれだけで許してくれ」
言葉を絞り出しながら、その誓印を自分の腕へ巻き直すルダル。
その姿には、深い悲しみと、確かな誓いの光が宿っていた。
アマトは、少し離れ場所から静かにその様子を見守り、
ルノア、エメルダ、ミィナも、それぞれの想いを胸に、静かに立ち尽くしていた――
ルダルが再び立ち上がり、アマトへ向き直る。
「……できれば、お前たちもガルテラ村まで来てほしい。手伝ってくれると助かる」
アマトは短く頷いた。
「わかった」
そして、一行はガルテラ村を目指して走り出す――
***
ガルテラの地に足を踏み入れた途端、鼻腔を突く腐臭がルダルたちの胸を圧迫した。
建物は無惨に崩れ落ち、木々は根元からへし折れ、岩の破片がそこかしこに散乱している。
(……これが、ガルテラの今……)
ルダルが膝をつき、地面に手をついて震える声を漏らした。
そのとき――。
「ルダル兄《にぃ》……?」
震えるような幼い声が、崩れた家々の間から響いた。
ルダルが顔を上げると、瓦礫の陰から痩せた体の少年が駆け寄ってくる。
その顔には泥と涙の跡が残り、両手には、どこかで拾ってきたのであろう木の実を大切そうに抱えている。しかし、瞳には確かに生の光が宿っていた。
「シン……!お前、無事だったのか!」
ルダルが駆け寄り、少年の体をぎゅっと抱きしめる。
シンもまた、ルダルの胸に顔を埋め、必死に涙をこらえながら腕を回した。
「兄《にぃ》……ねぇが……セシア姉《ねぇ》が、まだ起きないんだ……」
その言葉に、ルダルの表情が強張る。
「セシアが……いるのか?」
シンは小さく頷き、腕を拭うと、振り返って走り出す。
「こっちだよ!」
ルダルは迷わずその後を追い、アマト、ミィナ、ルノア、エメルダも続いた。
胸の奥で波打つ鼓動を必死に抑えながら、ルダルは祈るように呟いた。
(セシアっ……!)
シンがたどり着いたのは、森の奥の小さな洞窟だった。
薄暗い空間の中、十数人の村人たちが肩を寄せ合い、弱々しい光を囲むようにして座り込んでいる。
「ルダルさんだ!」
「帰ってきたんだ!」
誰かが声を上げ、その場の空気がふっと明るさを帯びた。
「……みんな……」
ルダルは安堵と同時に込み上げる感情に喉を震わせた。
そして、村人に囲まれるように、
横たわる一人の女性の姿が目に入る。
「セシア!?」
ルダルは駆け寄り、震える手でその肩に触れた。
冷たくはない。
だが、その表情には苦しげな影が残り、微かな呼吸が胸を上下させていた。
「まだ、生きていてくれたんだな……」
声が震え、肩が揺れる。
その場にいた一人の村人が、涙ぐみながら語り出した。
「グレオニウスさんが……セシアさんを抱えて、ここへ連れてきてくれたんです。その後、グレオニウスさんは、単身で魔獣の方へ向かって行かれて……私たちは、ただ見送るしかなくて……申し訳ありません……」
ルダルはゆっくりとその村人を見つめ、穏やかな声で言った。
「……いや、謝ることはない。お前たちは、セシアの命を繋いでくれていたんだろ。それだけで、十分だ」
村人たちが涙をこらえ、互いにうつむく。
別の村人が続けた。
「それと……子供たちが、森に魔素を含む食料を探しに行ってくれていたんです。魔獣がいるかもしれない場所なのに。子供なら魔素が少ないから魔獣に気づかれづらいだろうって……。そのおかげで、セシアさんはなんとか生きていられたんです」
「なんだと……?」
ルダルが驚きの目を向けると、シンが唇を震わせながら言葉を吐き出した。
「……グレオニウスのおじさんに、託されたんだ。『セシア姉を頼む。獣族の、戦士の誇りを忘れるな』って……だから、オレ……オレ……!」
必死に泣くのをこらえるシンを、ルダルはそっと抱き寄せた。
「よく頑張った。お前は、本当によくやった……ありがとう、ありがとう……」
静かな空間に、嗚咽が重なり、やがて暖かな静けさが戻った。
その時。
「はいはい、感動の場面で悪いけど、ちょっくら通るよ」
ルノアが口元に笑みを浮かべ、セシアの周囲に集まっていた村人たちにそっと分け入る。
「どいたどいた。ここからが見ものだぞ」
エメルダも茶目っ気を帯びた笑顔で続き、村人たちは戸惑いながらも道を空ける。
ルダルが目を見開き、あっけにとられたように振り返った先には、
ゆっくりと歩み寄るミィナの姿があった。
ミィナはセシアの前で立ち止まると、優しく語りかけた。
「セシアさん、よく、頑張りましたね。これはアマト様からのご褒美です」
そう言って、スライム人型に変身し、そっと手をかざし――
「”軽癒”」
ふわりと優しい光がミィナの手から溢れ、セシアの体へと染み渡っていく。
暖かな輝きが、セシアの傷に触れるたび、血の滲んだ傷が閉じ、腫れた箇所が引き締まり、痩せた頬にほんの僅かな血色が戻っていく。
「まさか……この状態のセシアを……!」
ルダルが驚きに目を見開き、息を呑む。
癒しの光が全身を包み込み、やがてセシアのまぶたがわずかに震え、ゆっくりと開いた。
「セシア――っ!」
ルダルが叫び、セシアを抱きしめる。
その光景に、村人たちの中から自然と拍手が起こる。
涙を流しながら、それでも笑顔を見せる人々。
シンも大きな声で笑いながら涙をぬぐった。
ミィナは人型に戻って優しく微笑むと、そっとセシアの横を離れてアマトのもとへ戻っていった。
ルノアとエメルダはなぜか胸を張り、どや顔を見せ合う。
アマトは、その場面を静かに見守り、柔らかな笑みを浮かべていた。
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