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<急襲、救出>

託す事

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ジムが疲れ果てて眠ったバーニーを、同じく眠ったティナをジェシーが、それぞれ抱えて馬に乗り家路に着く。

ジェシーも子供たちも、炊き出しの手伝いやらをしていたらしい。
三人とも怖い思いをしただろうに、気丈な事だ。

「ジム、ドウマさん、本当にお礼を言うわ。この子達を助けて貰って」
「礼なんかは要ら無えぜ……と、いうか……この子達が狙われたのは、オレの悪名のせいってヤツだ。謝らなくっちゃイケナイのはオレの方さ……済まなかった、ジェシー……」
そうジムは深く頭を下げる。

うむ、ジムの悪名とやらの一部は、ワシのせいでもある。
何しろ、女帝エンプレスった責任を、ジムになすり付けてしまったからな。
「ワシにも、礼は無用だ。ワシはワシなりの思惑があって動いておる事だ」
まあ、嘘では無い。
この町の油田は、ワシの物だからな。
「それに……」
「それに?」

「フッ、この子達を見ておると、孫の事を思い出してな……」
これも、嘘では無い。
顔も思い出せんが、無類の猫好きだった孫娘の事を……。

「えっ、お孫さんがいらっしゃいますの?」
「ハハハ、そいつは初耳だぜ♪」
「ジム、笑っては失礼よ。でも、ドウマさんのお孫さんなら、きっと可愛い仔猫ちゃんね♪」

「フッ、まあ、そうかも知れん」



それから数日、朝は牧場を手伝い、昼間はオーウェン達を手伝い町の復興に手を貸す。
無論、身一つ、魔法は使わん。
そして、夜は書き物に没頭する。

ワシが書いておるのは二つ。
一つは油田の事業計画書だ。
前世の知識を頼りに出来るだけ詳細に書き上げる。
これは、事業を任せる誰か、一応、ワシはトマスを想定しておるのだが、その者に手渡す為の物。

そして、もう一つは、この町の街づくりに付いての、私見と言うか論文の様な物だ。
この世界の構造や世界情勢に付いては、今のところワシはよく分かってはおらん。
だが、この町に油田が出来れば、自ずとこの町は変わって行く事だろう。

確か、隣のヌーグには駅が有ると言う。
恐らく、その線路はこの町にまで伸びて来るだろう。

そして来たるであろう、石油社会や自動車社会。
それに伴うインフラ整備の重要性。
そう言った事をまとめた論文だ。

まあ、まだガソリンを使った車の無いこの時代、自動車社会などと言うのは、チト早かったかも知れんが……。

「さて、託す事は一通り書けた筈だ」
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