異界劇場 <身近に潜む恐怖、怪異、悪意があなたを異界へと誘うショートショート集>

春古年

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離島の医師

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大学病院の派閥争いに疲れていた私の元に、離島の診療所で働いてみないかと誘いの電話が有った。

『一度、島に見学に来て、それから判断してくれても構わないよ。旅費はこっちが出すから』
との言葉に甘えることにした。

渡し舟代わりの小さな漁船にゆられ、島の漁港に着くと、電話をかけて来た役場の職員と、今年で退職予定の年老いた医師が待っていてくれた。
「どうも、お世話に成ります」
そう軽く挨拶をすますと、診療所の方へ案内される。

その診療所は、古く小さな木造の建物だったが、中は清潔感があり、設備もそれなりに整っていた。
とその時、診療所の扉が開き、慌ただしく40代ぐらいの男性が入って来る。
「ふ、船橋の爺さんが……! と、とにかく、駐在が先生を呼んで来いって!」

私達は、碌に説明もされないまま、男の後をついて行く。
急患だろうか……?
一応、持ってきたカバンの中には簡単な医療道具は入っている。
応急処置ぐらいなら手伝えるはずだ。


案内された家に上がり居間に入ると、制服姿の白髪の駐在と、この家の住人らしき男女が呆然と立ち尽くしている。
そして、彼らの足元に年老いた男性が仰向けに倒れていた。

しかも、その眉間には五寸釘の様な物が深々と突き刺さっている。
「ま、まさか殺人……」
と、つい口からこぼれた私の言葉を打ち消す様に、島の医師が言う。
「自殺ですな」
「ええ、その様ですね」
一緒に突いて来た役場の職員も、そう納得する様に呟き。
駐在や被害者の家族と思しき人達も頷く。

「いや、そんなわけは……。ど、どういう事なんですか!?」
「ああ、先生は島の外の方ですから、さぞ驚かれた事でしょう。亡くなっている老人の右手を御覧ください」
そう島の医師に言われ覗き込むと、倒れている被害者の手には金槌が握られている。

「この島の風習というか、まあ因習というやつでしてね。この島では昔から、自ら命を絶つ時はこうやって自分の眉間に五寸釘を打ち込む習わしが有りましてな……」
そう平然と言う島の医師と、ただ頷く島民達に私は恐怖し、逃げる様にその場を立ちさった。

漁港に向かうと、幸いにも私を乗せて来た漁船が残って居る。
「い、今すぐ船を出して下さい!!」

自分の眉間に五寸釘を打てるか打て無いとかの話しじゃない。
殺害された老人には……左腕が無かったんだ……。

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現在こちらの動画は有りませんが、
是非、YouTubeにて"異界劇場"とご検索下さい。
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