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第一話 木こりの少年
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その妙な生物との出会いは、流星の降る夜の事だった。
その日、メルト・クラインは森の中で木を切る事に夢中になっていて、気づくと森の中は薄暗くなっていた。
「はあ。もう少しでもって帰れたのに……」
もう少しで枝を落とし、丸裸になりそうな木を目の前に、メルトは舌打ちをする。
だが夜になり暗くなってしまえば道を迷うかもしれないし、この森には夜になると凶暴な魔物が現れると言う噂があった。
ギルドの冒険者が数人がかりでようやく倒せるような魔物に出会ってしまっては木こりでしかないメルトでは到底勝てないのだ。
「しかたない。今日は引き揚げるか……」
メルトはそう言うと、鉈を鞘に収めて荷物をまとめる。そして、柄の長い斧を片手に村の方へと足を向ける。
しばらく歩いていると、辺りが開けた場所に出る。メルトが以前木を切り倒したため、視界が開けているのだ。
メルトは休憩の為に以前切った木の切り株に腰を掛けると、水の入った革袋を取り出して水を飲むみながら、暗くなった夜空を見上げる。
普段であれば静かに輝く星々が今日は数々の流れ星となり、空を切り裂いていた。
「うわぁ……。今日は星詠の日だったんだ」
流れる星を見ながら、メルトはその美しい景色に釘付けになる。
星詠の日……。
この国に伝わる伝承で、流星の降る夜は世界に変革が起こると伝わっているのだ。
その変革が吉兆であれ、凶兆であるかは分からない。が、世界に何かが起こると言われているのだ。
そんな星詠の日と呼ばれる流星の中、メルトは一つの流星が目に留まる。
その流れ星は赤い光を帯を纏い、目の前を近づいている様に見える。
「な、なんだ!?」
その光を纏った流星が近づいてくる事に少し焦りを感じたメルトは慌てて立ち上がる。
が、メルトが立ち上がった瞬間、メルトの頭上をその流れ星は通り過ぎていった。
「な、なぁ、はぁ……。びっくりした……」
突然の出来事に、メルトの心拍数は跳ね上がった。
まさか流れ星が自分の頭上に流れるなんて思いもしなかったのだ。
「はぁ……。不気味だ……。帰ろう……」
起こり得ない事に遭遇し気味の悪くなったメルトは歩き出すと再び樹海に入ると、鬱蒼と茂る木々の隙間を抜ける。
すると、進行方向から急にバサバサと鳥達が飛び出していく音が聞こえ、その後にはギャッギャッ!!という声が辺り響き渡る。
「……なっ、なんだ!?」
その聞き慣れない声にメルトは足を止める。
獣の声とも鳥の声とも違う聞き慣れない声に固唾を飲む。が、村へと帰るためには声のする方向へと進まなければならないのだ。
メルトは不気味な声のする方へと忍び足で進む。
徐々に不気味な声が近づく中、生い茂る草木の向こうに何かの気配を感じたメルトは息を潜めて草木の影からその不気味な声の主の正体を探る。
草木が影となりよく見えないが、どうやらその声の主は小ぶりな二足歩行の生き物……、ゴブリンと呼ばれる魔物だった。
「うわ……。ゴブリンとか、ついてないな。ゴブリンが一匹いればその森には100匹のゴブリンがいるって言うし……」
ゴブリンと出くわしたことに軽く目眩を覚えたメルトだったが、ふとある事に気づく。
ゴブリンは鼻が利く。
人であろうと、小動物であろうと見つけ次第食らいついてくる習性を持つゴブリンが3体は確認されるのに、一向にこちらに気づいた素振りを見せない。
その姿に違和感を覚えたメルトは視線をゴブリン達の視線の先へと向けると、そこには何か小さな丸い物体が存在していた。
「……なんだ、あれは?」
暗闇で何かはっきりとしない輪郭なのに、その中心に光る赤い何かにメルトは目を奪われる。
なぜか吸い寄せられるかのように足が一歩前に出そうになっていることに気がつくと、メルトは顔を振り、正気を取り戻す。
「……ゴブリン達があれに引きつけられている間に離れないと」
そう呟くと、メルトはゴブリン達に見つからないようにその場を離れようと後退る。
すると、それと同時にゴブリン達が丸い物体に襲いかかった。
人と動物と魔物の入り混じるこの世界、弱きものは強き者に淘汰されるのは自然の摂理だ。
あの物体もただ、弱かっただけの存在だった……。
ただ、それだけなのだ。
が、メルトはその光景に逃げようとしていた足が止まる。
その間にも丸い物体はゴブリン達に足蹴にされ、その命を消そうとしている。
……助けて。
声にならない声のような、音にならない音のような何かが脳裏に浮かぶ。
だが、その声は確かに助けてと言っているように思えて、メルトは困惑する。
「はは。助けてって……。得体のしれないものに助けてって言われても……」
声を発した物体が何かは分からない。
だが、確かに聞こえたその声にメルトは戸惑い、迷う。
たとえ丸い物体が助けたとして、その物体が襲ってこないとも限らない。
本来であれば逃げなければいけないはずなのに、メルトは手に持っていた斧を握りしめていた。
「……ええぃ!!なんちゃなれ!!」
逃げようとする自分の意志と助けようとする身体の相反する反応に考えを放棄したメルトは右手に握りしめていた斧を身体の前に掲げると隠れていた草むらから飛び出す。その勢いのままゴブリンの一匹に駆け寄り斧を振り下ろす。
ザクッという音とともに、一匹のゴブリンはなぎ倒され、ギャッ!!という声とともにゴブリンは果てる。
その音に気がついた2匹のゴブリンはメルトの存在に気がつき、攻撃のターゲットを丸い物体からメルトへと移す。
ゴブリン。
人より身体的能力では勝るが、思考力が皆無で人の知能の前に弱い魔物と言われている。が、それは大人が相対した場合だ。
だがメルトは齢14の少年であり、斧や鉈を持っているとは言え2体同時に相手が出来るほど強くない。
ジリジリと間合いを詰めてくるゴブリンにメルトは冷や汗を流す。
だが、焦るメルトをあざ笑うようにゴブリンの一匹が飛びかかってくる。その攻撃をメルトはかろうじて斧の柄で抑える。
「キャキャキャ!!」
攻撃を抑えられたはずのゴブリンはメルトの顔を見て楽しげに奇怪な笑みを浮かべる。
すると、もう一匹のゴブリンがメルトに向かって飛びかかってきた。
「まさか!!」
ゴブリンの行動にメルトは慌てふためく。
今まで知能の劣るゴブリンが時間差で攻撃してくるとは思ってもいなかったのだ。
メルトは斧の柄にしがみつくゴブリンを振りほどくともう一匹のゴブリンの攻撃をかろうじて躱す。
……油断。
いや、戦闘経験皆無なメルトには目の前にいるゴブリンの一匹ですら手に負えないのだ。
「んなくそー!!」
認めにくい現実にメルトは自棄糞になり、ゴブリンに向けて斧を振り回す。
が、そんな当てずっぽうの攻撃をゴブリンは容易く躱すともう一体
がメルトの背を爪で引っ掻く。
「いぎゃ!!」
致命傷とは行かないものの浅くはない爪の攻撃にメルトはゴブリンのような悲鳴をあげる。
その様子を見たゴブリンは爪にしたたる血を舌で舐めると、まるで勝ったかのようにギャギャギャと笑みを浮かべる。
「い、痛ぇ……。母さん……」
背中に走る痛み耐え、這いつくばってゴブリンから少しでも距離をとる。その最中、メルトはこれから訪れるであろう死に恐怖を覚えていた。
人間というのは情けない事に、理不尽な暴力や迫る自らの死に対して思い浮かべる事は自らを産み育てた母の顔だった。
人は英雄を夢に見て、憧れる。
だが、そんなものは物語に出てくる色を付けられた人物でしかない、絵空事だ。
今にもゴブリンに引き裂かれそうになっている事こそが現実なのだ。
しかも助けようとしているものはお姫様でもなければ人ですらない。得体のしれない丸い物体なのだ。
「畜性……。なんで俺はこんな物の為に死ななきゃなんないんだ……」
メルトはそう悲観していると、目の前に丸い物体が音もなく近づいてくる。
そして顔の前に近づいたかと思うと、丸い物体の中心にある赤い色をした何かが赤色の光を放つ。
その瞬間、メルトは意識を失った。
「メルト……。メルト……」
脳裏では、母のような声が俺を呼ぶ。
「メルト……。貴方は力が欲しいですか?」
母のような声が優しく俺にそう告げる。
「……欲しい」
迫りくる死の淵から逃げられる力が今は何より、欲しかった。
俺がそう願うと、母のような声は一瞬声を失う。
が、その一瞬すら刹那に感じるほどの速さで母のような声が再び俺に語りかける。
「それが例え、人ならざるものであっても?」
「…………」
人ならざるもの、そう言われたメルトは母のような声と同じように黙り込む。
人ならざるもの……。
聖か邪か、それすらも分からない状況の中で答えに詰まったのだ。
だが、刻一刻と迫りくる死の恐怖にメルトの答えは一つだった。
「欲しい!!!」
そう告げた瞬間、目の前が赤い光に襲われる。
光に照らされた数秒後、その光が尽きたかと思うと、メルトは視界を取り戻す。
すると、そこには細切れになったゴブリンの肉片が宙を舞っていた。
「な、何が起こった…………」
ボトボトと音を立てながらゴブリンの肉片が地面に落ちる様子をメルトは目の当たりにし、困惑する。
さっきまでメルトを殺そうとしていたゴブリン2体が一瞬で細切れになっているのを見て困惑しても無理はない。
メルトは手に持っていた斧を見ると、そこにはびっしりとゴブリンの血がついていた。
「……俺が、やったのか?」
辺りにはゴブリンの肉塊と丸い物体と血の付いた斧を持つメルトしか居ない状況。
考えられるのはメルトがやったとしか考えにくい状況だった。
だが、そんな思考すらすぐに失われる。
メルトはゴブリンによる攻撃と得体の知れない疲労に力尽き、膝から崩れ落ちると意識を失う。
「……力は与えました。再び相まみえる時を楽しみにしていますよ。メルト」
薄れゆく意識の中、再び母のような声が脳裏に語りかけてくる。
その優しい声にメルトは子守唄のような安心感を抱き、眠りついた。
その日、メルト・クラインは森の中で木を切る事に夢中になっていて、気づくと森の中は薄暗くなっていた。
「はあ。もう少しでもって帰れたのに……」
もう少しで枝を落とし、丸裸になりそうな木を目の前に、メルトは舌打ちをする。
だが夜になり暗くなってしまえば道を迷うかもしれないし、この森には夜になると凶暴な魔物が現れると言う噂があった。
ギルドの冒険者が数人がかりでようやく倒せるような魔物に出会ってしまっては木こりでしかないメルトでは到底勝てないのだ。
「しかたない。今日は引き揚げるか……」
メルトはそう言うと、鉈を鞘に収めて荷物をまとめる。そして、柄の長い斧を片手に村の方へと足を向ける。
しばらく歩いていると、辺りが開けた場所に出る。メルトが以前木を切り倒したため、視界が開けているのだ。
メルトは休憩の為に以前切った木の切り株に腰を掛けると、水の入った革袋を取り出して水を飲むみながら、暗くなった夜空を見上げる。
普段であれば静かに輝く星々が今日は数々の流れ星となり、空を切り裂いていた。
「うわぁ……。今日は星詠の日だったんだ」
流れる星を見ながら、メルトはその美しい景色に釘付けになる。
星詠の日……。
この国に伝わる伝承で、流星の降る夜は世界に変革が起こると伝わっているのだ。
その変革が吉兆であれ、凶兆であるかは分からない。が、世界に何かが起こると言われているのだ。
そんな星詠の日と呼ばれる流星の中、メルトは一つの流星が目に留まる。
その流れ星は赤い光を帯を纏い、目の前を近づいている様に見える。
「な、なんだ!?」
その光を纏った流星が近づいてくる事に少し焦りを感じたメルトは慌てて立ち上がる。
が、メルトが立ち上がった瞬間、メルトの頭上をその流れ星は通り過ぎていった。
「な、なぁ、はぁ……。びっくりした……」
突然の出来事に、メルトの心拍数は跳ね上がった。
まさか流れ星が自分の頭上に流れるなんて思いもしなかったのだ。
「はぁ……。不気味だ……。帰ろう……」
起こり得ない事に遭遇し気味の悪くなったメルトは歩き出すと再び樹海に入ると、鬱蒼と茂る木々の隙間を抜ける。
すると、進行方向から急にバサバサと鳥達が飛び出していく音が聞こえ、その後にはギャッギャッ!!という声が辺り響き渡る。
「……なっ、なんだ!?」
その聞き慣れない声にメルトは足を止める。
獣の声とも鳥の声とも違う聞き慣れない声に固唾を飲む。が、村へと帰るためには声のする方向へと進まなければならないのだ。
メルトは不気味な声のする方へと忍び足で進む。
徐々に不気味な声が近づく中、生い茂る草木の向こうに何かの気配を感じたメルトは息を潜めて草木の影からその不気味な声の主の正体を探る。
草木が影となりよく見えないが、どうやらその声の主は小ぶりな二足歩行の生き物……、ゴブリンと呼ばれる魔物だった。
「うわ……。ゴブリンとか、ついてないな。ゴブリンが一匹いればその森には100匹のゴブリンがいるって言うし……」
ゴブリンと出くわしたことに軽く目眩を覚えたメルトだったが、ふとある事に気づく。
ゴブリンは鼻が利く。
人であろうと、小動物であろうと見つけ次第食らいついてくる習性を持つゴブリンが3体は確認されるのに、一向にこちらに気づいた素振りを見せない。
その姿に違和感を覚えたメルトは視線をゴブリン達の視線の先へと向けると、そこには何か小さな丸い物体が存在していた。
「……なんだ、あれは?」
暗闇で何かはっきりとしない輪郭なのに、その中心に光る赤い何かにメルトは目を奪われる。
なぜか吸い寄せられるかのように足が一歩前に出そうになっていることに気がつくと、メルトは顔を振り、正気を取り戻す。
「……ゴブリン達があれに引きつけられている間に離れないと」
そう呟くと、メルトはゴブリン達に見つからないようにその場を離れようと後退る。
すると、それと同時にゴブリン達が丸い物体に襲いかかった。
人と動物と魔物の入り混じるこの世界、弱きものは強き者に淘汰されるのは自然の摂理だ。
あの物体もただ、弱かっただけの存在だった……。
ただ、それだけなのだ。
が、メルトはその光景に逃げようとしていた足が止まる。
その間にも丸い物体はゴブリン達に足蹴にされ、その命を消そうとしている。
……助けて。
声にならない声のような、音にならない音のような何かが脳裏に浮かぶ。
だが、その声は確かに助けてと言っているように思えて、メルトは困惑する。
「はは。助けてって……。得体のしれないものに助けてって言われても……」
声を発した物体が何かは分からない。
だが、確かに聞こえたその声にメルトは戸惑い、迷う。
たとえ丸い物体が助けたとして、その物体が襲ってこないとも限らない。
本来であれば逃げなければいけないはずなのに、メルトは手に持っていた斧を握りしめていた。
「……ええぃ!!なんちゃなれ!!」
逃げようとする自分の意志と助けようとする身体の相反する反応に考えを放棄したメルトは右手に握りしめていた斧を身体の前に掲げると隠れていた草むらから飛び出す。その勢いのままゴブリンの一匹に駆け寄り斧を振り下ろす。
ザクッという音とともに、一匹のゴブリンはなぎ倒され、ギャッ!!という声とともにゴブリンは果てる。
その音に気がついた2匹のゴブリンはメルトの存在に気がつき、攻撃のターゲットを丸い物体からメルトへと移す。
ゴブリン。
人より身体的能力では勝るが、思考力が皆無で人の知能の前に弱い魔物と言われている。が、それは大人が相対した場合だ。
だがメルトは齢14の少年であり、斧や鉈を持っているとは言え2体同時に相手が出来るほど強くない。
ジリジリと間合いを詰めてくるゴブリンにメルトは冷や汗を流す。
だが、焦るメルトをあざ笑うようにゴブリンの一匹が飛びかかってくる。その攻撃をメルトはかろうじて斧の柄で抑える。
「キャキャキャ!!」
攻撃を抑えられたはずのゴブリンはメルトの顔を見て楽しげに奇怪な笑みを浮かべる。
すると、もう一匹のゴブリンがメルトに向かって飛びかかってきた。
「まさか!!」
ゴブリンの行動にメルトは慌てふためく。
今まで知能の劣るゴブリンが時間差で攻撃してくるとは思ってもいなかったのだ。
メルトは斧の柄にしがみつくゴブリンを振りほどくともう一匹のゴブリンの攻撃をかろうじて躱す。
……油断。
いや、戦闘経験皆無なメルトには目の前にいるゴブリンの一匹ですら手に負えないのだ。
「んなくそー!!」
認めにくい現実にメルトは自棄糞になり、ゴブリンに向けて斧を振り回す。
が、そんな当てずっぽうの攻撃をゴブリンは容易く躱すともう一体
がメルトの背を爪で引っ掻く。
「いぎゃ!!」
致命傷とは行かないものの浅くはない爪の攻撃にメルトはゴブリンのような悲鳴をあげる。
その様子を見たゴブリンは爪にしたたる血を舌で舐めると、まるで勝ったかのようにギャギャギャと笑みを浮かべる。
「い、痛ぇ……。母さん……」
背中に走る痛み耐え、這いつくばってゴブリンから少しでも距離をとる。その最中、メルトはこれから訪れるであろう死に恐怖を覚えていた。
人間というのは情けない事に、理不尽な暴力や迫る自らの死に対して思い浮かべる事は自らを産み育てた母の顔だった。
人は英雄を夢に見て、憧れる。
だが、そんなものは物語に出てくる色を付けられた人物でしかない、絵空事だ。
今にもゴブリンに引き裂かれそうになっている事こそが現実なのだ。
しかも助けようとしているものはお姫様でもなければ人ですらない。得体のしれない丸い物体なのだ。
「畜性……。なんで俺はこんな物の為に死ななきゃなんないんだ……」
メルトはそう悲観していると、目の前に丸い物体が音もなく近づいてくる。
そして顔の前に近づいたかと思うと、丸い物体の中心にある赤い色をした何かが赤色の光を放つ。
その瞬間、メルトは意識を失った。
「メルト……。メルト……」
脳裏では、母のような声が俺を呼ぶ。
「メルト……。貴方は力が欲しいですか?」
母のような声が優しく俺にそう告げる。
「……欲しい」
迫りくる死の淵から逃げられる力が今は何より、欲しかった。
俺がそう願うと、母のような声は一瞬声を失う。
が、その一瞬すら刹那に感じるほどの速さで母のような声が再び俺に語りかける。
「それが例え、人ならざるものであっても?」
「…………」
人ならざるもの、そう言われたメルトは母のような声と同じように黙り込む。
人ならざるもの……。
聖か邪か、それすらも分からない状況の中で答えに詰まったのだ。
だが、刻一刻と迫りくる死の恐怖にメルトの答えは一つだった。
「欲しい!!!」
そう告げた瞬間、目の前が赤い光に襲われる。
光に照らされた数秒後、その光が尽きたかと思うと、メルトは視界を取り戻す。
すると、そこには細切れになったゴブリンの肉片が宙を舞っていた。
「な、何が起こった…………」
ボトボトと音を立てながらゴブリンの肉片が地面に落ちる様子をメルトは目の当たりにし、困惑する。
さっきまでメルトを殺そうとしていたゴブリン2体が一瞬で細切れになっているのを見て困惑しても無理はない。
メルトは手に持っていた斧を見ると、そこにはびっしりとゴブリンの血がついていた。
「……俺が、やったのか?」
辺りにはゴブリンの肉塊と丸い物体と血の付いた斧を持つメルトしか居ない状況。
考えられるのはメルトがやったとしか考えにくい状況だった。
だが、そんな思考すらすぐに失われる。
メルトはゴブリンによる攻撃と得体の知れない疲労に力尽き、膝から崩れ落ちると意識を失う。
「……力は与えました。再び相まみえる時を楽しみにしていますよ。メルト」
薄れゆく意識の中、再び母のような声が脳裏に語りかけてくる。
その優しい声にメルトは子守唄のような安心感を抱き、眠りついた。
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