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第17話 澪とルイ
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『はーい。みなさん、こんばんかな?湊音奏です!!そして!!』
『こんみすみ!!個人勢の水見澄です!!そして!!』
『皆の者、妾である!!』
スマホの画面の向こうで、同じ別荘で配信を行っている三人が楽しそうな声で自己紹介をする。
その様子を俺はリビングで作業の片手間に視聴していた。だが、三人はここで配信をしていない。
いつもの音声とは違い、どこか反響する声がスマホから聞こえてくるのだ。
……そう、今日の配信場所はお風呂なのである。
裸での付き合いがコンセプトを思いついた姉が真響さんと嫌がるルイを連れて入浴中に配信をすると言う、男性リスナー垂涎の企画なのだ。
なんせ美少女達(姉は除く)がお風呂場で、しかも裸でキャッキャする姿はイラストであったとしても紳士諸君の妄想を掻き立てるものだ。
しかも俺は中の人を知っているのだ。
うら若き乙女達(姉は除く)が同じ建物でお風呂に入っているのを想像すると、健全な男子高校生にとって赤面ものだ。
そんな気恥ずかしさを感じていると、2階からパジャマを着た澪さんが降りてくる。
「あ、澪さん。お風呂、先に入ってたんですね」
「そうよ?Vtuberじゃない私が配信に参加する訳ないじゃない」
それもその通りだ。
澪さんはファイブハーフのスタッフであっても、タレントではない。
「それより、あなたは行かなくていいの?フォニアです~って行けば混ざる事ができるんじゃない?」
「や、やめてくださいよ!!それでなくてもルイにのぞいたら殺すって言われてるのに、入れる訳がないじゃないですか!!」
「……それもそうね」
トンデモ発言をしてきた澪さんに驚いていると、澪さんは冷蔵庫から自分のお茶を取り出して俺の座っている席の反対に座る。
「そういえば、和馬は?」
「えっ?カズさんなら部屋で何が作業をしてますよ?呼んできましょうか?」
6人で使用している別荘の部屋割りは俺と和馬さん、姉と澪さん、そして真響さんとルイなのだ。
だから女性一人が男性の部屋には行きづらいのであろう。
そう思い、俺が椅子から立ちあがろうとすると、澪さんは「ううん、いいわ」と首を横に振る。
「……ねぇ、一彩ちゃん。新曲、聞かせてもらった」
「え、そうなんですか!?ど、どうでしたか?」
澪さんの言葉に俺は身を乗り出して尋ねると、彼女は少し言葉に詰まる。
「……よかったわ。とても」
「そうですか……。よかった」
澪さんの言葉に俺は安堵する。
どれだけ自分で自信のある楽曲でも身近な人物を納得させられなければ売れる訳がないのだ。
「さすがはカズさんですよ。俺一人の力ではここまでのものは作れませんでしたよ」
そう言って俺が笑っていると、澪さんは小さな声でそうねと呟き、黙り込む。
その異様な雰囲気に、俺はどことなく居心地が悪くなってしまう。
リビングに澪さんと二人、スマホから流れてくる3人の楽しそうな笑い声だけが聞こえてくる。
「……ねえ、あなたにとって和馬はどんな人?」
「えっ?そうですね……。俺にとっては兄貴みたいた存在ですよ。あんな人がよくお姉と付き合っていたもんだって、今でも思いますもん」
そう言って俺が苦笑を浮かべると、澪さんは短く、そう……と言って再び黙り込む。
その沈黙に居た堪れなくなった俺は頭を掻きながら、冗談っぽい口調で話を続ける。
「いやぁ、別れて正解でしたよ。お姉ってほら、ズボラでしょ?そんなのがもしカズさんと結婚してたら、大変だったと思いますよ。あんなできた人は澪さんみたいなしっかり者が支えてあげた方が幸せになれると思いますよ」
俺はそう言うと、わざとらしく腕を組み、大きく頷く。
「……それ、ほんとに思ってる?」
「えっ?あ、はい……」
澪さんの真剣な口調に俺は圧され、短い言葉で頷く。
すると、彼女は遠くを見るような視線をすると、まるで昔話をしているかのような口ぶりで話し出す。
「………昔ね、一人の女の子がある男性に恋をしました。その人はなんでも出来て、カッコよくて、その女の子の憧れでした」
「そ、それって……」
俺がそう言いかけると、彼女はゆっくりと横に首を振り、話を続ける。
「けどね、その人にはずっと好きな人がいました。その人の好きな人はズボラで人の好意にも気付かないような女の子だけど、自分の好きな事には直向きに走る事ができるすごい子で、その子の親友でした……」
そう言うと、澪さんは視線を落とし、手に持っていたペットボトルを握りしめる。
「だけど、彼はその親友の直向きな姿が好きで、ずっとアプローチを続けて、親友は好きな人と付き合うことになりました。その事にその子は相当なショックを受けましたが、好きな人が親友を選んでくれた事に喜びも感じたんだ」
「…………」
「だって、その子は親友の好きな事をしている時のキラキラとした笑顔が大好きだったから、好きな人が同じものを見つけてくれた事が嬉しかったんだよ。だって、その子にはそんなキラキラとした何かってないんだもん。勝ち目がないよね」
澪さんはそう言うと、ハハっと力無く笑う。
その感覚に覚えのある俺は、急に澪さんが語るその子が他人事ではないような気がした。
その子が仮に澪さんだとしたら、俺も澪さんは似ているのだ。なんでも卒なくこなせるが、何かに長けていると言う実感がないのだ。
姉という太陽の元でサポートする事で居場所を作った澪さんと、姉の敷いたレールをなぞるだけの俺。
そんなコンプレックスが二人にはあるのだ。
「……でもね。ある事がきっかけで、親友は彼と別れる事になってね。その子は喜んだんだ。その抑えていた気持ちが抑えられなくなってね」
「それは……仕方ないですよ。それだけ魅力的な人なら……ね」
「そんなは彼女が次は自分がっていう気持ちでいたのよ。だけど、彼はずっと彼女の背中を押し続けているんだ。今も……」
今にも泣きそうな声で話す澪さんの言葉が胸に刺さる。
どれだけ求めていても、願っていても叶わない事は往々にしてあるのだ。それが少しのずれであっても、心は埋まる事がないのだ。
その言葉に俺が頭を悩ませていると、澪さんは俺の方を向き、慌て始める。
「あ、ごめん!!こんな話をするつもりじゃなかったんだ!!ただ、お茶を取りに来たら一彩ちゃんが頑張ってたから……」
「いえ……」
「……でもね、これだけは覚えておいて。あなたは自分の事を真彩の強いたレールの上を進むしか出来ないって言うけど、あなたほどの人間もそう言いないからね?」
「えっ?」
「だから、これからどんどんあなたの事を見てくれる人が増えてくると思うわ。そんな人が現れたら、ちゃんとその人に気づいてあげてね」
澪さんはそう言うと、部屋に戻ると言って足早に2階へと走っていった。
その後ろ姿を眺めながら、澪さんの言葉を思い返す。
「……俺を見てくれる人なんている訳がない」
そう独り言を呟くと、お風呂の方から、カラカラと言う音が聞こえてくる。
配信が終わったのかなと思ったが、配信はまだ続いていた。不思議に思った俺は風呂場の方を見ると、そこから出てきたのはルイだけだった。
「……げっ」
俺を見ると、ルイは嫌そうな表情を浮かべる。
残念ながら現実というのはこんなものなのだ。
そう思いながら、俺はルイに声をかける。
「お疲れさま。配信は終わったのか?」
「……まだよ。あの二人はまだ配信を続けてるわ」
「そうなのか?じゃあ、ルイはなんで出てきたんだ」
「長風呂はのぼせちゃうから苦手なのよ」
俺の問いにルイはそう答えると、短く揃った髪の毛を拭きながらこちらへと歩いてくる。
その風呂上がりの上気した肌と、半袖短パンから見えるスラリとした細い体が目に入ってきて、俺は咄嗟に目を逸らす。
最初にクラスで彼女とぶつかった時の印象とは違い、どことなく艶めかしい雰囲気に変わったルイに俺はタジタジなのだ。
「ねぇ、一彩。あなたの渡してくれた曲、聞いたわ」
「あ、ああ。どうだった?」
「すごくかっこよくて、素敵だったわ。私が歌うべきなのかって思うくらいには……」
「そうか?真響さんとルイのことをイメージして書いた曲だから、ルイに歌って欲しいんだけど……」
ルイの言葉にしょぼんとした俺だったが、その様子を見た彼女は慌てた様子を見せる。
「う、歌わないとは言ってないわよ!!」
「ほ、ほんとか!?」
ルイの言葉に逸らしていた顔を彼女の方に向ける。
そこにはテーブル一つ挟んで、無防備な姿のルイが座り、俺とは視線を合わさないように横を向いている。
「……けどね。真響の相手が私なんてやっぱり、力不足なんじゃないかって思えて仕方がないの。負けたくはないんだけど、やっぱり目指してる所が違うから」
不安げに話す彼女の横顔を見ていた俺はある事に気がつく。
それはルイに持っていた違和感と変化だった。
以前の彼女であれば目の下にクマがあり、それを眼鏡で隠すだけだったのだが、最近ではメガネをかけている様子どころか、クマすらみることがないのだ。
それに……。
「なぁ、ルイ。お前、変わったよな……」
「えっ?」
「前だったら私は私、他人は他人!!そんな様子だったのに、最近はだいぶ真響さんを意識してないか?」
「そ、それは!!」
そう言いながら、ルイはこちらを向くと立ち上がり、こちらに身を乗り出す。
その際、彼女の低い身長と細い体により生じたガバガバなシャツの隙間からブラがチラッと目に飛び込んでくる。
その衝撃的な映像に俺が頬を赤らめていると、彼女は落ち着いたのか、椅子に再度腰かけて言葉を続ける。
「……それは、真響がVtuberだからよ。箱勢とか個人とか関係なく、同じVtuberなら負けたくないに決まってるじゃない」
「そんなもんか?俺は気にした事ないが?」
「あんたは別よ。やっぱり、近くに自分以上の実力を持つ存在が現れると意識はするものよ」
その言葉の意味はわかる気がする。
姉は別として、やはり真響さんが現れた事で俺も多少彼女を意識するようになった。
「……だけど、この前も言ったと思うけど、ルイには努力に裏付いた経験があるんだ。それはルイの強みだと思うんだ」
俺がそう言うと、ルイははぁ……と、大きなため息をつく。
「……分かってないわね。他にもあるのよ。私にも、負けたくない理由が」
「?なんだよ、その理由って?」
曖昧な答えしか出さないルイにやきもきした俺が尋ねると、「あー、もう!!」と声を上げる。
そして先ほどと同じように立ち上がったかと思うと、俺に近づいてきてその刹那、彼女の唇が俺のそれと重なる。
その瞬間、息が詰り、心臓が大きな音を立てる。
そして時が止まったかのような一瞬、俺の耳にはスマホから流れてくる真響さんの楽しげな笑い声だけが耳に入ってくる。
その声に気づいた時にはルイは俺から唇を離して、俺から距離を取る。
「……これで分かったでしょ?だから負けたくないのよ」
「………ああ」
突然の出来事に俺が呆然としていると、ルイは椅子から立ち上がる。そして澪さんのように2階に続く階段の方へと走って行ったか思うと、階段の手前で立ち止まり、こちらを振り向く。
「……真響が上がったら伝えといて。今日は澪さんと寝るって」
そう言い残すと、彼女は階段を小走りに駆け上がって行った。
『こんみすみ!!個人勢の水見澄です!!そして!!』
『皆の者、妾である!!』
スマホの画面の向こうで、同じ別荘で配信を行っている三人が楽しそうな声で自己紹介をする。
その様子を俺はリビングで作業の片手間に視聴していた。だが、三人はここで配信をしていない。
いつもの音声とは違い、どこか反響する声がスマホから聞こえてくるのだ。
……そう、今日の配信場所はお風呂なのである。
裸での付き合いがコンセプトを思いついた姉が真響さんと嫌がるルイを連れて入浴中に配信をすると言う、男性リスナー垂涎の企画なのだ。
なんせ美少女達(姉は除く)がお風呂場で、しかも裸でキャッキャする姿はイラストであったとしても紳士諸君の妄想を掻き立てるものだ。
しかも俺は中の人を知っているのだ。
うら若き乙女達(姉は除く)が同じ建物でお風呂に入っているのを想像すると、健全な男子高校生にとって赤面ものだ。
そんな気恥ずかしさを感じていると、2階からパジャマを着た澪さんが降りてくる。
「あ、澪さん。お風呂、先に入ってたんですね」
「そうよ?Vtuberじゃない私が配信に参加する訳ないじゃない」
それもその通りだ。
澪さんはファイブハーフのスタッフであっても、タレントではない。
「それより、あなたは行かなくていいの?フォニアです~って行けば混ざる事ができるんじゃない?」
「や、やめてくださいよ!!それでなくてもルイにのぞいたら殺すって言われてるのに、入れる訳がないじゃないですか!!」
「……それもそうね」
トンデモ発言をしてきた澪さんに驚いていると、澪さんは冷蔵庫から自分のお茶を取り出して俺の座っている席の反対に座る。
「そういえば、和馬は?」
「えっ?カズさんなら部屋で何が作業をしてますよ?呼んできましょうか?」
6人で使用している別荘の部屋割りは俺と和馬さん、姉と澪さん、そして真響さんとルイなのだ。
だから女性一人が男性の部屋には行きづらいのであろう。
そう思い、俺が椅子から立ちあがろうとすると、澪さんは「ううん、いいわ」と首を横に振る。
「……ねぇ、一彩ちゃん。新曲、聞かせてもらった」
「え、そうなんですか!?ど、どうでしたか?」
澪さんの言葉に俺は身を乗り出して尋ねると、彼女は少し言葉に詰まる。
「……よかったわ。とても」
「そうですか……。よかった」
澪さんの言葉に俺は安堵する。
どれだけ自分で自信のある楽曲でも身近な人物を納得させられなければ売れる訳がないのだ。
「さすがはカズさんですよ。俺一人の力ではここまでのものは作れませんでしたよ」
そう言って俺が笑っていると、澪さんは小さな声でそうねと呟き、黙り込む。
その異様な雰囲気に、俺はどことなく居心地が悪くなってしまう。
リビングに澪さんと二人、スマホから流れてくる3人の楽しそうな笑い声だけが聞こえてくる。
「……ねえ、あなたにとって和馬はどんな人?」
「えっ?そうですね……。俺にとっては兄貴みたいた存在ですよ。あんな人がよくお姉と付き合っていたもんだって、今でも思いますもん」
そう言って俺が苦笑を浮かべると、澪さんは短く、そう……と言って再び黙り込む。
その沈黙に居た堪れなくなった俺は頭を掻きながら、冗談っぽい口調で話を続ける。
「いやぁ、別れて正解でしたよ。お姉ってほら、ズボラでしょ?そんなのがもしカズさんと結婚してたら、大変だったと思いますよ。あんなできた人は澪さんみたいなしっかり者が支えてあげた方が幸せになれると思いますよ」
俺はそう言うと、わざとらしく腕を組み、大きく頷く。
「……それ、ほんとに思ってる?」
「えっ?あ、はい……」
澪さんの真剣な口調に俺は圧され、短い言葉で頷く。
すると、彼女は遠くを見るような視線をすると、まるで昔話をしているかのような口ぶりで話し出す。
「………昔ね、一人の女の子がある男性に恋をしました。その人はなんでも出来て、カッコよくて、その女の子の憧れでした」
「そ、それって……」
俺がそう言いかけると、彼女はゆっくりと横に首を振り、話を続ける。
「けどね、その人にはずっと好きな人がいました。その人の好きな人はズボラで人の好意にも気付かないような女の子だけど、自分の好きな事には直向きに走る事ができるすごい子で、その子の親友でした……」
そう言うと、澪さんは視線を落とし、手に持っていたペットボトルを握りしめる。
「だけど、彼はその親友の直向きな姿が好きで、ずっとアプローチを続けて、親友は好きな人と付き合うことになりました。その事にその子は相当なショックを受けましたが、好きな人が親友を選んでくれた事に喜びも感じたんだ」
「…………」
「だって、その子は親友の好きな事をしている時のキラキラとした笑顔が大好きだったから、好きな人が同じものを見つけてくれた事が嬉しかったんだよ。だって、その子にはそんなキラキラとした何かってないんだもん。勝ち目がないよね」
澪さんはそう言うと、ハハっと力無く笑う。
その感覚に覚えのある俺は、急に澪さんが語るその子が他人事ではないような気がした。
その子が仮に澪さんだとしたら、俺も澪さんは似ているのだ。なんでも卒なくこなせるが、何かに長けていると言う実感がないのだ。
姉という太陽の元でサポートする事で居場所を作った澪さんと、姉の敷いたレールをなぞるだけの俺。
そんなコンプレックスが二人にはあるのだ。
「……でもね。ある事がきっかけで、親友は彼と別れる事になってね。その子は喜んだんだ。その抑えていた気持ちが抑えられなくなってね」
「それは……仕方ないですよ。それだけ魅力的な人なら……ね」
「そんなは彼女が次は自分がっていう気持ちでいたのよ。だけど、彼はずっと彼女の背中を押し続けているんだ。今も……」
今にも泣きそうな声で話す澪さんの言葉が胸に刺さる。
どれだけ求めていても、願っていても叶わない事は往々にしてあるのだ。それが少しのずれであっても、心は埋まる事がないのだ。
その言葉に俺が頭を悩ませていると、澪さんは俺の方を向き、慌て始める。
「あ、ごめん!!こんな話をするつもりじゃなかったんだ!!ただ、お茶を取りに来たら一彩ちゃんが頑張ってたから……」
「いえ……」
「……でもね、これだけは覚えておいて。あなたは自分の事を真彩の強いたレールの上を進むしか出来ないって言うけど、あなたほどの人間もそう言いないからね?」
「えっ?」
「だから、これからどんどんあなたの事を見てくれる人が増えてくると思うわ。そんな人が現れたら、ちゃんとその人に気づいてあげてね」
澪さんはそう言うと、部屋に戻ると言って足早に2階へと走っていった。
その後ろ姿を眺めながら、澪さんの言葉を思い返す。
「……俺を見てくれる人なんている訳がない」
そう独り言を呟くと、お風呂の方から、カラカラと言う音が聞こえてくる。
配信が終わったのかなと思ったが、配信はまだ続いていた。不思議に思った俺は風呂場の方を見ると、そこから出てきたのはルイだけだった。
「……げっ」
俺を見ると、ルイは嫌そうな表情を浮かべる。
残念ながら現実というのはこんなものなのだ。
そう思いながら、俺はルイに声をかける。
「お疲れさま。配信は終わったのか?」
「……まだよ。あの二人はまだ配信を続けてるわ」
「そうなのか?じゃあ、ルイはなんで出てきたんだ」
「長風呂はのぼせちゃうから苦手なのよ」
俺の問いにルイはそう答えると、短く揃った髪の毛を拭きながらこちらへと歩いてくる。
その風呂上がりの上気した肌と、半袖短パンから見えるスラリとした細い体が目に入ってきて、俺は咄嗟に目を逸らす。
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「あ、ああ。どうだった?」
「すごくかっこよくて、素敵だったわ。私が歌うべきなのかって思うくらいには……」
「そうか?真響さんとルイのことをイメージして書いた曲だから、ルイに歌って欲しいんだけど……」
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「う、歌わないとは言ってないわよ!!」
「ほ、ほんとか!?」
ルイの言葉に逸らしていた顔を彼女の方に向ける。
そこにはテーブル一つ挟んで、無防備な姿のルイが座り、俺とは視線を合わさないように横を向いている。
「……けどね。真響の相手が私なんてやっぱり、力不足なんじゃないかって思えて仕方がないの。負けたくはないんだけど、やっぱり目指してる所が違うから」
不安げに話す彼女の横顔を見ていた俺はある事に気がつく。
それはルイに持っていた違和感と変化だった。
以前の彼女であれば目の下にクマがあり、それを眼鏡で隠すだけだったのだが、最近ではメガネをかけている様子どころか、クマすらみることがないのだ。
それに……。
「なぁ、ルイ。お前、変わったよな……」
「えっ?」
「前だったら私は私、他人は他人!!そんな様子だったのに、最近はだいぶ真響さんを意識してないか?」
「そ、それは!!」
そう言いながら、ルイはこちらを向くと立ち上がり、こちらに身を乗り出す。
その際、彼女の低い身長と細い体により生じたガバガバなシャツの隙間からブラがチラッと目に飛び込んでくる。
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「……それは、真響がVtuberだからよ。箱勢とか個人とか関係なく、同じVtuberなら負けたくないに決まってるじゃない」
「そんなもんか?俺は気にした事ないが?」
「あんたは別よ。やっぱり、近くに自分以上の実力を持つ存在が現れると意識はするものよ」
その言葉の意味はわかる気がする。
姉は別として、やはり真響さんが現れた事で俺も多少彼女を意識するようになった。
「……だけど、この前も言ったと思うけど、ルイには努力に裏付いた経験があるんだ。それはルイの強みだと思うんだ」
俺がそう言うと、ルイははぁ……と、大きなため息をつく。
「……分かってないわね。他にもあるのよ。私にも、負けたくない理由が」
「?なんだよ、その理由って?」
曖昧な答えしか出さないルイにやきもきした俺が尋ねると、「あー、もう!!」と声を上げる。
そして先ほどと同じように立ち上がったかと思うと、俺に近づいてきてその刹那、彼女の唇が俺のそれと重なる。
その瞬間、息が詰り、心臓が大きな音を立てる。
そして時が止まったかのような一瞬、俺の耳にはスマホから流れてくる真響さんの楽しげな笑い声だけが耳に入ってくる。
その声に気づいた時にはルイは俺から唇を離して、俺から距離を取る。
「……これで分かったでしょ?だから負けたくないのよ」
「………ああ」
突然の出来事に俺が呆然としていると、ルイは椅子から立ち上がる。そして澪さんのように2階に続く階段の方へと走って行ったか思うと、階段の手前で立ち止まり、こちらを振り向く。
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