ゲームキャスターさくら

てんつゆ

文字の大きさ
24 / 128

格闘ゲーム編1 すぐ楽にしてあげます

しおりを挟む
 飛行機の事故から数日後。
 いつも通りの日常に戻った私は相変わらずゲーム三昧の日々を過ごしていて、今日は格闘ゲームのオンライン対戦で世界中にいる猛者の人達との対戦を楽しんでいるのでした。

「ああっ!? 今ちゃんと対空を出したのに!!」
「桜~。そんな事言っても画面は嘘つかないよ~」
「いえ、今のは本当に出したはずなのにおかしいです。絶対このゲームの入力判定はすごく厳しめに調整されてます!」

 私は耳元から聞こえるゲームサポートAI「シャンティ」の茶々を受け流しながら、再びゲームパッドを握る手に力を込めました。
 対空技が出ず予定外のダメージを受けてしまった私は状況を立て直す為に少し後ろにステップをして相手と距離を取り、牽制の為の飛び道具を放つコマンドを入力しました。

「こうして――――こうっ!」

 が、私が出そうと思ってた牽制技とは違う技が出てしまい、その隙を付いた相手の突進技が私の使っているキャラに直撃してしまいました。

「ええっ!? やってない。そんな技出して無いです!! このゲームの入力判定ガバガバすぎます!!」
「……ねえ桜。さっきと真逆の事言ってない?」

 相手の突進技で画面端まで追いやられた私は為す術もなく、相手プレイヤーに画面端限定の高火力コンボを決められ撃沈してしまうのでした。

「こ、こんなはずでは…………」

 画面上では相手のキャラが拳を上に突き上げ勝利者は自分だと勝ち誇ったポーズをして、そのまま攻撃の命中率などが表示される対戦のリザルト画面へと移行して行きました。

 ――――けど、このゲームは2本先取。
 1本取られたからと言ってまだ私の負けではありません。
 ここから2本連続で私が勝てば2勝1敗で私の勝ち越しになるのです。

「……今のうちにコマンド入力の練習をしておきましょう」

 次はコマンドミスで負けないように、私は同じ相手にリベンジを申し込む項目が表示されるまで下、斜め下、横、決定ボタンと技コマンドの練習をする事にしました。

「下、斜め下、横、決定。下、斜め下、横、決定と――――」

 しかし、この練習が予想外の事態を引き起こす事に…………。

「下、斜め下、横、決定…………はわっ!?」

 いつのまにかリザルト画面が終わっていて、下入力をした時にカーソルが再戦の下にある対戦終了へと移動してしまい、そのまま勢いで決定ボタンを押してしまったのでした。

「えっ!? ちょ、ちがっ!?」
「あれ? 勝てないから1戦で逃げるの?」
「い、いえ。今のはコマンドの練習で間違えて…………」
「あ~、はいはい。そういう事にしとくから別に気にしなくてもいいよ~」

 シャンティは画面にやれやれと言った感じのマーカーを表示して今の感情を表しました。
 まったく、こういう所だけ妙に人間ぽいというか。
 それにシャンティの音声はこころなしか楽しそうな感じに聞こえます。

「というか、キーディスを見れば押し間違いだとすぐ解るはずなのですが……」
「さぁ? ボクっておんぼろAIだし、そんなシステムあったかなぁ~」

 ――むぅ。少し前にオンボロって言った事をまだ根に持っているみたいです。
 これ以上言ってもからかわれるだけなので、ここで小休止した方がいいかもしれません。
 私はオンライン対戦一時中断の項目を選んでからシャンティに話しかけました。

「――――ふぅ。少し休憩します。シャンティ、ゲームを終了してください」
「オッケー、桜。じゃあデータの保存しとくね~」
「あの、最後のは保存しないでおいてくれると助かるのですが……」
「ズルは許しませ~ん。それに戦績は対戦毎にゲーム会社のサーバーに保存されるからそんな事しても意味ないと思うけど?」
「うぐっ。そう言えばそうでした」

 どんなゲームでも正々堂々とルールを守って楽しく遊ぶのが真のeスポーツプレイヤーでした。
 勝ち負けをズルするのはいけない事です。

 ――――私はヘッドギアの耳元に付いているボタンを押して目元を覆っているバイザーを収納すると、目の前の景色がゲーム画面からいつも見慣れた自分の部屋に代わり現実へと戻ってきた事が実感出来ました。
 そのまま装着しているゲーミングウェアをパージすると、体から離れたパーツが自動で集まっていき、全てのパーツの合体が終わると球体状の形に変わり宙をふわふわと浮遊しはじめました。

 それから私は負けた悔しさで震える手を何とかおさえながら無言でゲームパッドをテーブルの上に置きました。
 ふぅ。もう少しでゲームパッドを壁に投げつける所でしたが、そんな事をしたらパッドが壊れてしまうかもしれないので危なかったです。
 どんなに悔しい事になっても物に当たるのは絶対にいけません。これはゲームをやる上での必須マナーです。

 しかし、さっきの相手は明らかに格下だったのに一体何がいけなかったのか。
 私は色々と敗因を考えますがこれといった答えにはいたりません。
 これはそう。考えられるとしたら…………。
 私は1つの結論にたどり着きました。

「…………ラグいです」
「ん? 何か言った? 桜?」

 浮遊している球体のスピーカーからさっきまで耳元で聞こえていた声が聞こえてきました。
 シャンティはゲームをする時はゲーミングスーツとなり私のプレイをサポートしてくれる
のですが、普段は球体状になり生活のサポートをしてくれる万能ユニットなのです。

「さっきの対戦は凄くラグかったです。きっと実力では無く通信回線的な要因で負けたに決まってます!」
「ええっ!? でもディレイは1だったよ? ちゃんと数字が出てるのに言い訳は見苦しいなぁ~」
「いえ、ラグというのは数字では無く体感的な物なので、やってる私がそう思ったらラグいんです!」
「…………まあ、桜がそう言うならボクは別にどっちでもいいんだけど」

 シャンティは得意げに空中でくるりと回転して、私の文句を話半分で聞き流すような素振りを見せました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...