今のは勇者スキルではない、村人スキルだ ~複合スキルが最強すぎるが、真の勇者スキルはもっと強いに違いない(思いこみ)~

ねぎさんしょ

文字の大きさ
41 / 59

第41話

しおりを挟む


 俺たちが陣取っていたベンチの後ろに、清水の流れる立派な大岩がある。
 見上げるほどの岩のてっぺんに水の妖精の棲処を作り、中庭の涼と景観をまかなっているらしい。なんとも風柳なことだ。

 その大岩を挟んで、反対側。
 同じく設置されたベンチに、男が1人座っていた。
 背もたれに体重をあずけ、目の前に立つ少女を見上げて……
 いや。にらみつけている。

「あれ? シーキーちゃん……?」

 俺と同じく、岩陰から覗きこんだパルルが呟いた。
 うむ。ベンチの前に立っているのは、F組のシーキーで間違いない。
 手に持っているのは……水筒と、網入りの骨付き肉? ずいぶん豪勢な弁当だな。
 そのわりに、シーキーは弱りきった表情で、おろおろしている様子だが。

「さっさとしないか! 腹が減ったぞ!」
「は、はいっ……!」

 ベンチに座った男の怒声に、シーキーが身をすくませる。
 しばらく、あたふたともたついたあと、水筒のほうをとりあえず地面に置いて……
 眉間にしわを寄せ、なにごとか唱えた。

 彼女の持つ肉の真下に、スキルの火炎が渦を巻く。
 昼食の肉をあぶろうとしているのか。
 俺たちのほうまで、脂の焼けるいい香りが漂って……
 きたのは一瞬だけで。

「むん? 火が強すぎでありますよ……?」

 サンドイッチの残りを食べながら言うセシエの言葉通り。
 シーキーの持つ肉は、たちまち真っ黒く焦げていった。
 火の勢いが、強いというより安定していない。

 懸命にコントロールしようとしているようだが、そもそも短時間で行うのに向かない作業だ。
 見たところ、かなり上等の肉……扱いも難しい。
 やがて、今にも泣き出しそうな顔で、シーキーがスキルを消した。

「あ……あ、の……」
「よこせ」
「あっ……!」

 シーキーの手から肉をとり、男がそれにかぶりつく。
 じゃり、という音が俺にまで聞こえてきた。

「……ふん。外側はほぼ炭だな。それでいて、中まで火は通っていない。逆に大したものだ」
「ご、ごめんなさい……!」
「申しわけありません、だ!」
「も、も、申しわけありません! ご主人様……!」

 むむむう、とパルルが不愉快げにうなった。

「なんですかアイツはあ。うちのかわいいシーキーちゃんを泣かして……!」
「いつからおまえのになったんだ」
「F組のって意味ですう!」
「パルルは特A組だろう」
「お師匠さまあ~。んもう~お師匠さま、お師匠さまあ~」

 どうした急に。主張したいことがわからん。

「スープ!」
「は、はいっ」

 男の差し出したコップに、シーキーが水筒の中身をそそぐ。
 ここから見ても、だいぶやばいタイプの湯気がたちのぼっていたが……
 男はそれを、ぐいとあおった。

「ッ……! ぐ、ふっ……!」
「あ、ああっ……!」
「く、ひの……口の中を、やけどした! 回復スキルで治せ」
「は、はい、すぐっ……! え、えっと、えっと……!」
「早くしろ! 痛みがまったくおさまらんぞ!」
「す、すぐにっ……!」

 もうぉーッ! という吠え声がとなりから聞こえたと思ったら、すでにパルルが飛び出していた。

「ガマンならねえですう!! やいやいやいやーい!!」
「む!? なんだ貴様は?」
「黙って見てりゃあ、えらそーにえらそーに! シーキーちゃんをあごで使って、何のつもりですかあ!?」
「だから貴様はなんだと聞いている!」
「シーキーちゃんの同級生ですう!」

 あくまでF仲間で通す気か。
 まあ……しかたないな。

「セシエは待っていてくれ。立場上、厄介かもしれない」
「自分は学生ではないでありますからね。昼ごはんここを片付けておくであります」

 がるるる、とうなっているパルルのとなりに立ち、俺は目線を下げた。

「すまないな。盗み聞きするつもりはなかったんだが」
「むん……? おお、貴様は!」
「覚えていてくれたか」
「無論だ! レジードだったな、入学式以来か!」

 はっはっはっ、とその男、ファズマは快活に笑った。
 口の中をケガしているとは思えないほど自然な振る舞いだ。
 実際には、俺はパルルとA組の授業を覗いていたので、入学式以来ではないのだが。

「聞いているぞ! 貴様、クラス分け試験でF組だったそうだな」
「知っていたか。その通りだ」
「うむ。気にすることはない、才能とはそういう、無責任なものだ。腐らず、できることをできる限りやるのが肝心だからな。修行は?」
「そっちも、とんとご無沙汰だな」
「そうか! おれもだ! 都会にはいい滝がないよなあ!」

 またしても、いい笑顔で笑ってくれるが……
 ファズマの正面には、目に涙を浮かべたシーキーが、ずっと立ち尽くしている。
 いったい、どういう状況なんだ……?

「おうおうおう! お師匠さまになれなれしくしてんじゃねーですよオラア!」
「む、そうだった。いったい何なんだ、この狂犬は?」
「エルフに向かって狂犬とは!? 我が名はパルルですう! レジードお師匠さまの1番弟子ですよ!」
「なんと、弟子がいたのか。はっはっはっ、活きが良すぎるが、なるほど使えそうだ! うちの……」

 瞬間、ファズマの眼光が鋭さを増し、シーキーに向けられる。

「使えないコレにも、見習ってほしいものだ。口の悪さ以外な」
「え。じゃあ……?」
「弟子ではないぞ。ただの傍仕そばづかえだ。使ってほしいというから使ってやっているが、見てたならわかるだろう」
「シーキーちゃん……?」

 うう、と小さくうめいて、シーキーが顔を伏せた。
 そのまま数秒。
 俺がなにか言うべきか、と思ったのだが、

「言い訳をせんかッ!!」

 さらなるファズマの怒声が、シーキーを再び縮こまらせた。

「貴様の無様な所業を言い訳しろ! でなければ彼らにはわからんだろう!」
「は……い……!」
「思い出したか!? 普段から言っているな、言い訳するな・・・と! 情けないからだ! だが情けない姿のほうがまだマシという場合もある! そのときは覚悟して言い訳しろ!」
「はい……!」
「覚えたか!?」
「はい!」
「よし」

 再び焦げた肉にかじりつくファズマに、さすがのパルルもうろたえたようだった。
 ふむ……

「ファズマ。シーキーは、俺の同級生でもあるが……?」
「そうだったな。迷惑をかけるだろう、いやすでにかけているか? すまんな」
「いいや、とんでもないことだ。……シーキー、水は? 汲んできてやったらどうだ?」

 はい! と俺にまでファズマに対するように答えて、シーキーは慌ただしく走っていった。
 熱々のスープにはやはり苦戦しつつ、ファズマが小さく鼻を鳴らす。

「これからしばしばこういう場面を見るかもしれんが、気にしないでくれ。アレの成長は、火山ナメクジファイアスラッグが這うよりも遅い」
「厳しくしているようだな?」
「バカを言え。真の勇者の修行に比べれば、さっきのことも、この学校の授業も、どうということはない。そうだろう?」
「ふむ……?」
「おい、その狂犬エルフ、貴様の弟子ということはジョブは村人か? 寡聞にして知らんのだが、村人に弟子とかあるものなのか?」
「ないんじゃないか?」
「そうなのか。ん? どゆこと?」

 ひどいですお師匠さま!? とパルルに嘆かれるが、今のやりとり以外に説明のしようもないだろう。
 思いのほかマヌケな顔できょとんとしているファズマが、妙におもしろいが。

「とにかく! あんなのはひどいですう!!」

 改めて、パルルがファズマの前で両腕を組む。
 よほどシーキーがかわいそうらしいが……さて。

「何を修行させてたのか知りませんけど! もっとやさしくしてあげなきゃダメですう!」
「ほう。貴様の師はやさしいのか?」
「そりゃもう!」
「たとえば?」
「たとえば! ……えー……たとえば。大主魔猪《グレート・ボア》……を相手に、1人で戦わされたり」
「ほう」
「大主魔猪《グレート・ボア》……の群れ、を相手に、1人で戦わされたり」
「うむ」
「吸血コウモリしかいない洞窟の奥に1週間放置されたり」
「はは」
「笑いおった!? ぉぬれえええええ笑うとはなんですかあ! こちとら必死だったんですからね!」
「結構。修行とはそういうものだ」
「うっ、し、しまった……!?」

 ずいぶん懐かしい話をしているな、パルルも。
 まあ、やさしくはなかったかもしれないが……そこまでか?
 今の俺たちの血となり肉となっているなら、それでいいじゃあないか。


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

明日より投稿時間とペースが変わります(詳しくは活動報告にて)

次は11/2、7時の更新です。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

不遇スキルの錬金術師、辺境を開拓する 貴族の三男に転生したので、追い出されないように領地経営してみた

つちねこ
ファンタジー
【4巻まで発売中】 貴族の三男であるクロウ・エルドラドにとって、スキルはとても重要なものである。優秀な家系であるエルドラド家において、四大属性スキルを得ることは必須事項であった。 しかしながら、手に入れたのは不遇スキルと名高い錬金術スキルだった。 残念スキルを授かったクロウは、貴族としての生き方は難しいと判断され、辺境の地を開拓するように命じられてしまう。 ところがクロウの授かったスキルは、領地開拓に向いているようで、あっという間に村から都市へと変革してしまう。 これは辺境の地を過剰防衛ともいえる城郭都市に作り変え、数多の特産物を作り、領地経営の父としてその名を歴史轟かすことになるクロウ・エルドラドの物語である。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...