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第3章 前衛タンク
第83話
しおりを挟むッガガキキキキン!!
荒野に放たれる鋭い響きは、刃が両断される音。
目にも止まらぬアリーシャの剣線が、
対戦相手を買って出た騎士の長剣を、
よほどの腕をもつ鍛冶師でも修復できないほど、細切れにしてしまった音だ。
「み……見事ッ!」
イスから立ち上がったセオリナ姫が拍手する。
まわりを囲む兵士たちも、数秒遅れて何が起きたのか把握したらしく、感嘆と困惑をあらわにしている。
ふふふ。どうだ。
これがうちのアリーシャたんだぜ!
「な……なんて剣だ……!」
ほとんど柄だけになった剣を取り落とした騎士が、いや、と首を横に振る。
「武器だけのことじゃないな。尋常な腕じゃない……強い。アリーシャといったな、きみを見くびっていた! 非礼を詫びさせてほしい」
「ふふん。剣を斬り飛ばされても尻もちついたりしなかった、キミもなかなかじゃないか、マローン殿」
「ロームンだッ! せめてーの位置は間違えるな!」
「アリーシャの剣は速いだけじゃない。威力を乗せるときは乗せ、流すときは流せる。相手が甲殻モンスターであっても、急所に決まれば両断だ」
「ていうかなぜ、貴様がそんなにエラそうなんだ……!?」
弟子をほめられるとつい。
剣を納めるアリーシャの手を、駆け寄っていったセオリナ姫がぎゅっと握った。
「感服したぞ! 速すぎて剣線を見失うところだった! すばらしい技巧だ!」
「おそれいります」
「ぜひ我が隊に力を貸してくれ! 契約冒険者待遇で迎えたい、そなたが望むならばそのまま士官も!」
「ありがとうございます。よくよく考えたいと思います」
ふむ……
なかなか直情的な姫様だな。
今のところは、堂々とした貴族ぶりに思えるぞ?
ともあれ、これで正式に潜入成功だ。
やれやれ、どうなることかと…………
……?
やだ……
なんかみんな、俺のこと見てる。
魔王突然人気者な心地……?
「ボクに、質問あるなら……どうぞ? えっちなのはダメなんだからね!」
「いや。貴様もなんかやらんか」
「ん? どういう意味だ、ムーミン殿?」
「ロームンだっつってんだろ!! 今なんつった!? ムーミ、なんだあ!?」
「俺も自分で何を言ってるのかよくわからんが、なんかこう、やさしい目をしてるよね」
「ほんとに何言ってやがる!? アリーシャとやらの腕前はわかったが、貴様のほうはまだだろう! 姫様に認められたくば、力を示せ!」
「あ、そのことか、なんだ……」
「相手が必要なら、このオレが世話してやるが!?」
「いや、いいよいいよ。華奢でかわいい女の子にコテンパンにされたばかりのアーロン殿に無理をさせるわけには」
「腹立ちすぎて気を失いそうだッ……!」
俺は、テミティが追い出されたこの隊に来た。
つまりテミティと同じ、前衛として入りたい……
と、思ってたんだが。
なるほど、パーティでなく隊というのは、なかなか厄介だな。
テミティが抜けてできたはずの穴が、塞がっているのかどうかもよくわからない。
何が強くて何に弱いかも不明。
少人数の勇者パーティとは、だいぶ勝手が違うな……
ま。
だったらやっぱり、わかってる情報を使うしかないな。
「あれでいいか……」
街道からやや離れた荒野に転がっている岩に、俺は目をつけた。
高さは人の半分ほど。
容積でいえば4倍ほどか。
俺の伸ばした左手の動きに合わせ、ゴゴ、と岩が宙に浮いた。
再びイスに腰掛けたセオリナ姫が、ゆっくりとうなずく。
「念動力か。呪術師系統かな?」
「いや。前衛タンクであります」
「は?」
「そおい」
ぽ~ん、と。
小石かなにかのごとく、岩が中空に投げ上げられる。
それこそ小石程度の大きさに見えるほど、遠く青空に近づいてから――落下をはじめ、速度を増し、まっすぐ俺に向かってきた。
どよめく兵たち。
あわてる幹部騎士。
姫様あぶない、とかばう老魔法使いなどをよそに、
ドカンッ!!
轟音とともに俺に激突した岩が、粉々に砕け散った。
「なっ……な、なんということをっ……!?」
「手の込んだ自殺……!?」
ざわめきが収まるより早く、もうもうと立ちこめた土ぼこりが晴れ……
両手でしっかりポーズをとった俺が。
皆さまの前に再び登場、というわけだ。
「おおッ!! ……お、おおっ?」
ふ。セオリナ姫よ。
はかりかねているようだな?
この俺の――胸の前で両手を構えた、窮屈な姿勢の意味を。
わからせてやる。
そして受け入れるがよい。
どっかんどっかん沸きまくるのだ!
「自分のツメのほうが切れ味いいけど、そこはマナーとか人型の意地とかあるから、がんばってナイフで肉切ってるときのワーウルフ!!」
シン……
と、風の音すら聞こえない、完全な静寂が訪れた。
ふ……決まった……
久方ぶりの魔族モノマネ。
会心のデキだ。自分の才能がこわい。
この俺を仲間に加えないなど、ありえん話だろう?
なあセオリナ姫よ――
「うん? どういう意味だ? 今のは」
えっ。
「岩はすごかったが、最後のは? ワーウルフ? ワーウルフとは、あの獣人のワーウルフか?」
「え。あ。うん、はい。そうですけど……」
「ワーウルフが? ええと? すまない、もう1回やってみせてくれないか?」
「え……え、ぇ……」
「何が言いたいのかわからなくてな。今度はちゃんと理解するぞ!」
な……なんだ……
なんだこれ……
なんで、こんなに、恥ずかしいんだ、俺……?
「姫様……」
かたわらの魔法使いが、やたらに遠い目をして、そっと俺と姫の間に入った。
「彼を隊に加えましょう……」
「うん? ユグス爺? ああそうだな、念力と防御力はすばらしかった! だが最後の――」
「隊に加えましょう! それでよいではないですか。あとはお忘れくだされ……」
「え、しかし、なにやら勢いのある主張が……」
「あれは主張ではありませぬ! 仮に主張であったとしても、主張という名の黒いヒストリーなのです……」
ゼルスン、とさっきの騎士が、ぽんぽんと俺の肩をたたいた。
「いろいろ言いはしたが、仲良くやろうじゃないか。歓迎する」
「あ、ああ……」
「歓迎するが、今のはもう、やらないほうがいいと思うぞ」
…………。
なにか、こう……
すごく心がそわそわして、腑に落ちないのは、まあ置いとくとして……
『あ~~~~~っはっはっはっはっはっ! あ~っは、あははははザマァね~~~っ! あはっはえひっ、えひひ、えひひひひひひ! ひあ~っはっはっはっはっはっ!』
おそらく魔王城全体に響き渡っているレベルで笑い転げるマロネ。
おまえだけは……おまえだけはマジで、ほんと、マジで……
あ。涙出てきた。
**********
お読みくださり、ありがとうございます。
次は6/5、19時ごろの更新です。
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