魔王だが、弟子の勇者たちが追放されまくってるそうだな? ~かわりに魔王自ら勇者パーティに潜りこんだら、なんか勇者が詰んだ~

ねぎさんしょ

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第3章 前衛タンク

第93話

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「なるほどな」

 湿った落ち葉を踏みしめ、テミティは小さくうなずいた。
 山道。
 登り坂。
 テミティの視界からはそれしかわからないが、方向感覚には自信がある。
 こちらに歩いていけば、間違いはない。

「龍か。うむ。うむ。重畳」

「……あのさ~。テミっちさ~」

 後方。さらに斜め上。
 つまりテミティのあとについてきている背の高い・・・・誰かが、ため息まじりに言った。

 もっとも、彼女の背は高くなどない。
 いくらテミティが低身長でも。
 つまりは、浮いているのだろう。

「修業時代と比べてもさ~、ひどくなってんよあんたの意思疎通難度。なにがどう重畳なんよ。マジナイトメアモードだからさ~、も少しおしゃべりしない? ほら、ガールズトークガールズトーク。きゃっ、青春☆」

「うらやましい」

「…………。なにがやのん」

「浮けてよい。精霊は」

「ウケ……? ウケは、まあ、常々狙いすましてるけど?」

「…………」

「んあ~? この反応はちげーな? うけ……、ああ、なに、物理!? 浮いてるから!? 山道歩きづらいって言いたいわけね、なるほど~!」

「明察痛み入る」

「やかましいわ!! なんも明察してねーっつーの。龍だったらなにが重畳、なにが良かったっつーんよ?」

「話が早い、ということだ」

「その説明はレベル3とかだから、40ぐらいまで上げてオナシャス」

 くん、とテミティは鼻を利かせた。
 水のにおいが近づいてきている。
 目的地点は、もうまもなくだろう。

「魔王ゼルス領の諜報担当、マロネ……」

「つかさ、上から見てると、あんた完全に下生えに隠れちゃってるんだけど。ヤブと会話してる気分。マロネいつから樹木の精霊ドライアードになっちゃったのん?」

「ドライアード。あれはよい。愛らしい」

「マロネはもうじゅーぶん愛らしいからいいの。ったく、ゼルス様もど~して毎晩寝所に呼ばないのかねえ? 理解に苦しむわー」

「勢力範囲」

「おん? そりゃゼルス様のベッドはマロネの勢力範囲」

「ラグラドヴァリエの。いかに把握している?」

「…………。んまあ……最近、広がってるらしいねえ」

「リルギルの山からハロウの谷までは、すでに手中」

「そんなに? 広すぎでしょ。てゆーか東西に間延びしすぎじゃね?」

 突然、テミティの視界が開けた。
 森が途切れ、足もとが登り坂から下りに――
 というより、切り立ったガケになっている。

 ざざざざ、という激しくも耳に心地よい音。
 さして深くはない谷底で、急流がしぶきを上げているのだ。

「雷帝飛龍ラグラドヴァリエ……自身の強さも途方もないが、配下の数がすさまじい」

「ふん。群れりゃいいってもんじゃないって。ゼルス様の許可さえありゃ、あんなカトンボどもなんぞこーしてこーしてっ」

「中でも特に、じかの眷属たるワイヴァーンへの信が厚い」

「聞けよ!」

「マロネ。速く飛べるか・・・・・・?」

 谷を覗いたあと、テミティは斜め後ろを振りあおぐ。
 空中で腕を組んだマロネが、チッと舌打ちした。

「龍族の転移魔法陣、の話ね」

「再びのご明察」

「スピードね~まぁね~多少の自信はござぁますけどね~。ワイヴァーンほどにゃ無理だわよね~」

「転移魔法は扱えると聞いたが?」

「それとアレとは別モンでしょ」

「マロネよ」

「なに?」

「下着を着けないのだな。相変わらず」

「そりゃもうマロネさんはいつでも臨戦態勢って言わせんな! 覗くな! 話題を急旋回させんな!」

 マロネの言葉の通り。
 ラグラドヴァリエは、広大な領地のあちこちに、特殊な魔法陣を設置している。
 彼女と飛龍たちにだけ使える、本拠地への直通転移――
 だとうわさされているが、実際のところはわからない。

 なにしろ、うわさに留まる域であれば、透明な魔法陣の設置場所も個数も謎。
 なにより使用方法が不明。
 ラグラドヴァリエの部下が突然消えるのを見た、などの話がちらほらある程度で……つまりは。

「速度がカギ、と知っているだけ大したもの。伊達ではないな、魔王ゼルスの右腕」

「きゃっ、えへへほめられちった☆ なんてかコラ、なめんなよドワーフっ娘! こちとらあんたの20倍は生きてんだからね!? なんでも知ってるっつーの! ラグラドヴァリエも、マロネから見りゃガキよガキ!」

「やつらの転移は、空中魔法陣を使う。ある条件を満たしたときのみ現れ作動する、特殊魔法陣」

「だから聞けよ!? マロネの年齢マウントを聞けよお! ごめんやっぱいいや聞かなくて。なにババア自慢しちゃってんのマロネってば」

「わかるな? 位置も。マロネならば」

「……わかるもなにも。さっき、1個あったじゃん。真横のぼってきたよね」

 こく、と小さくうなずいて、テミティは谷に背を向けた。
 担いでいたハンマーを地面に置き、適当な木を見繕う。

「魔法陣の、発動条件は?」

「だからスピードっしょ。普段は迷彩で見えもしない空中魔法陣のある場所に、一定以上のスピード出して飛びこんだときだけ、転移が発動する。実現可能な速さで飛べるのは、ワイヴァーン以外だとペガサスかスカイフィッシュくらいだわね」

「今から行く」

「いってらっしゃい。……はい? どこに?」

「ラグラドヴァリエの本拠地。転移魔法陣を抜けて」

「……あ? え……? 聞き間違いかにゃ、なんて? 高級龍肉のステーキ、季節のソースを添えて?」

「ラグラドヴァリエの本拠地。転移魔法陣を抜けて」

 両目をぱちぱちさせるマロネの前で。
 テミティは、高く育った木を1本、引っこ抜いた。
 ゴボオ、と森の地面がめくれ上がる。少し根が深いのを選んでしまったか。

「隙がある。ここの魔法陣にだけ」

「隙……? いや、てゆーかあんた、何やってんの?」

「魔法陣の位置は?」

「だからこの山の下のほうの……なんか滝あって、その滝壺の前らへんじゃん」

「自由落下ならば、出せよう。ワイヴァーンと同等の速度が」

「ほげ!?」

「急流下りの助走つきだ」

 ハンマーを拾い上げ、空中のマロネを引っかける。
 ぽいっ、と木を谷底へ投げ込んで――
 テミティはそのあとを追い、迷いなく身を躍らせた。

「攻略する。龍の城」

「滝下るドワーフなんて聞いたことないけどおー!?」

「下るのではない。落ちる」

「てゆーか目論見通りにいったとして、敵いっぱいいたらどーすんの!?」

「どうにかする」

「あんたやっぱりゼルス様の弟子だわー!」


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は7/20、19時ごろの更新です。
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