魔王だが、弟子の勇者たちが追放されまくってるそうだな? ~かわりに魔王自ら勇者パーティに潜りこんだら、なんか勇者が詰んだ~

ねぎさんしょ

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第4章 魔法使い

第114話

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「……!? ……!!?」

「がんばれっ、びびるなっ、戦えゼルスンっ! アードランツの技などこけおどしだっ! きっと疲れてきているぞ!」

「……!! ……っッ……、……!? …………!」

「ほっ、ほれみろっ、やつの様子がおかしいっ! さっきの技はもう打ち止めなんだっ!」

「っ……すー……はー……」

「ゼルスンいけっ! チャンスだっ……ぜ、ゼルスン? 何をしている!? 何だそのポーズはっ、まるで、まるで大グモの巣に引っかかった荒鷲がっ、内心焦りつつ平静を装っているかのようなっ……!?」

 アードランツは、俺を見つめたまま――そっと、深呼吸したようだった。
 メガネを外し、姿勢を正して、ひとつ咳払いする。

「ポドンゴよ……」

「ひいっ!? あっ、しまったびっくりしてしまったっ、い、いきなりちゃんと名前で呼ぶなっ! いや最初から呼べっ!」

「一時的な、和平を……申し入れよう。海水浴中の部下どもを連れ、国に帰って王に伝えるがよい……」

「なにおうっ!? ……へっ? わ、和平っ? 和平と言ったかっ!?」

「こちらの領土に移住を希望する貴国の民を、しばらく受け入れないこととする。それを条件に、この場は退け……わかったな?」

「あっ……なっ……なっ、何を言っとるかっ!?」

「わかったのか?」

「おっ、お前から要求できることなどないっ! 私は国家反逆者であるお前を討伐するためにっ……」

 まばたきにも満たない刹那で間合いを詰められ、隊長が息を詰まらせた。
 両眼を吊り上げたアードランツが、細腕で隊長の胸ぐらを掴み上げている。
 さらには、今日いちばんの大声――いや、でもちっちゃいけど。

「殺すぞ……!!」

「あっ、はいっ、すみません。和平交渉、承りますでございます」

「出ていけ……!!」

「はいっ、失礼いたします」

 妙に背筋をピンと伸ばして、ぎっくしゃっくと隊長が広間を出ていく。
 俺とアリーシャのことは振り返りもしない……いや、今こそ振り返るべきときだろ、おい。
 いいけどもう……

 さて。

「…………」

「…………」

 俺は様子を見ている。
 アリーシャは空気を読んでいる。

 アードランツは動かない。
 なんなら、隊長の胸ぐらを掴んでいた姿勢のまま、彫像のごとく固まっている……
 いや。
 目は動いてるか、眼球は。

 こっちを見……ようとしてやめ。
 またこっちを見……ようとしてはやめ。
 なにやらこう、アードランツにしかわからない葛藤が渦巻いているようだが。

「…………」

 お。
 動いた。
 俺たちに背を向けて、玉座のほうへ戻っていく。

 とさ、と体を投げ出すように座って。
 アードランツはそのまま、暗い天井を仰ぎ――

「殺してください……」

「どした急に!?」

「失態……あまりな失態。この得も言われぬ羞恥心と罪悪感。たとうならばそう、足下そっかの真理に気づかぬまま世界の狭間を覗き見るがごとき愚鈍……」

「どゆこと!? あっでもなんか、知ってる! 俺の知ってるアードランツだ! おかえり!」

「もはやこれまで……いろいろな意味でこれまで。早すぎる……」

「何を言うんだアードランツ! 確かに今の俺は勇者志望の傭兵ゼルスンだが! ほら見てくれ武器はパチンコなんだ、道中アリーシャたんが作ってくれた」

「パチンコ……我の最期を飾るにふさわしくありますな。終わった……」

「いやいやいやまてまてごめんごめん! パチンコしないからっ、ええいこんなものっ…………壊せなーーーい! 捨てられないそんなことできない、アリーシャたんが一所懸命作ってくれたんだもんな! ごめんなしまっとこうな!」

 あの、と。
 控えめながらしっかり主張した声で、アリーシャが場を制した。

「落ち着かれてはいかがかと。どちら様も」

「う……うん。ついキョドってしまった。あの、パチンコ……」

「お預かりしておきます」

「ありがと」

 考えてみれば、魔王2人をひと声で抑えてのけるか。もはやカリスマだぜ、アリーシャたん……
 魔王2人。
 2人?

 そうだな。
 なにはともあれ、まずはそこか。

「こほん。久しいな、アードランツよ」

「……長々しく不義理をいたしておりました、魔王ゼルス様」

 ゆらりと玉座から離れたアードランツが、そのまま石床に片ひざをつく。
 かしこまったその姿を見ているだけでも、わかるぞ……

 強くなっている。
 魔法使いとしては、ずば抜けたほどに。
 だが。

「おまえさ……本当に魔王か? 魔王になったのか?」

「……ふ。さすがはゼルス様。切り込まれるときには、微塵の容赦も手心もない。ご息災の様子、このアードランツ、分不相応にも安堵いたしました」

「変わってねーなーおまえも。またマロネに蹴り入れられるぞ」

「我の長い話にお付き合いくださるのは、ゼルス様とラギアルドだけでした。まことにおなつかしく……」

「それで、どうした? てかその我っての何?」

「魔王ポイントでございます」

 いきなりカジュアルだなおい。

「何言ってんだおまえ……?」

「ゼルス様。そちらの少女は」

「ああ。おまえの後輩だ、今俺のところで修行してるアリーシャ。いろいろあって連れてきた」

「ただ者ではございませんな」

「わかるか? おまえほんとに強くなったな」

「滅相もございません……我など、ゼルス様の足もとにも及びませぬ。そう……おっしゃる通り……」

 ようやく立ち上がったアードランツが、斜めに構えて前髪をかきあげる。
 うんうん。
 やっぱり俺の知ってるアードランツだ。
 アリーシャたんがいつになく大皿みたいな目ぇしてガン見してるけど、なんだろ、惚れちった?

「我は、魔王ではございません……正確には、魔界の瘴気を受け入れ、闇の血族となったわけではありませぬ。ゼルス様には、ご一見で看破されておりましょうが……」

「看破できてたら聞かねーって。外からじゃわからんしそんなん」

「ほんの戯れに等しい業でございましたが、よもやゼルス様御自らご降臨なされるとは……恥じ入るばかりでございます。いうなれば我は夕闇、ヒトなりて魔を騙る刹那の道化師……」

「つまりなんで魔王名乗ってんの?」

「勇者どもにムカつきまして」

 うわあ。

「ヒトの闇は醜く重い……淀んで浅い……ねじれてキモい……クソだなと……マジでクソだなと……」

「どうどう。あー、あのー、アレか? 勇者パーティを追放された的な……そういう?」

「さすがはゼルス様。あまりのご明察に汗顔の至り。追放されたんじゃなくこっちから出て行ってやったのだ、などと後追い捨てゼリフを吐くことすらもはばかられる、魔王界の一番星……」

「おまえの言い回しは遠距離射撃すぎるんだよ。あとその一番星やめて。マロネに聞かれたら2ヶ月はからかわれる」

「瘴気の海の明星……昏き地の大統領……闇の血族の一等賞……」

「もうバカにしてんだろおまえ!?」

「めもめも」

「メモらないでいいからアリーシャたんちょっとどうしちゃったのキミまで!?」

 こ、このゼルスが翻弄されている!? なんだこの空間!
 魔王アードランツ、おそるべし……!


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は12/25、19時ごろの更新です。
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