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3章:脚光
3-2:兄妹のように
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王国騎士団による灰色の市場への突入は、ローレリア王国中のニュースとなった。
屯していた悪党共を根こそぎ捕らえ、王国騎士団はまたもお手柄。賞賛の嵐。
そんな明るいニュースに纏め上げくれたようだった。
「よし、完全復活……!」
3日前の号外をサイドテーブルに置き、アズールはベッドの上で伸びをする。
報道された中に、アズールの情報は一切記載されていなかった。
ベルモンと、その裏で糸を引く存在に関しても、騎士団が水面下で調査を進める関係で緘口令が布かれているようだった。
「しつこい毒でしたね」
「参ったよ本当に。これでも早めに抜けたって言うんだから酷い薬だ」
完全に体を動かせるようになるまで丸3日を要してしまった。
クリステの方も今日から仕事に戻れるらしく、既にアズールへの新聞や着替えを準備して部屋の掃除を始めている。
盛られた毒に関しては、早々に暗殺ギルドが尋問に利用する物であり、アズールの予想は大方当たっていた。
かつてセレスが潰した暗殺ギルドにも関連があり、残党が新たなギルドを立ち上げた可能性もあるとの事で、慎重に捜査が進んでいる。
(毒抜き、とても恥ずかしかった……)
流石暗殺者御用達と言うべきか、この毒に解毒剤は存在せず、自然に排出されるのを待つしかない。
最低でも1週間かかる見込みだったが、セレスが忙しい仕事の合間を縫ってアズールの世話を焼いたため、予定より完治が早まったのだ。
動かないアズールの身体を丁寧に洗い清め、綺麗に整える過程で、布や硬い掌が優しく肌を撫でる。
――その感覚が非情に悩ましい。
厄介なことに、身体は弛緩して動かせないのだが、感覚はそのまま残っている。
故に、快楽も拾い上げてしまう。
アズールが「嫌だ」「そんな触れ方するな」など伝えても、達するまで手は止まらなかった。
(野外で無茶苦茶に抱かれるよりも恥ずかしかった)
あの時のセレスは、嗜虐心を押し殺したような笑顔を浮かべており、わかってやっているようだった。
(下の世話までやられてたら立ち直れなかったな……)
全力で拒否してようやく聞き入れてくれたセレスを思い出して、彼の想いの重さと大きさを改めて実感した。
叱られたら子犬のようにしおらしくするのは卑怯だろうとも思った。
思い返せば恥の記憶がどんどん湧き出て来るため、アズールはクリステへ話題を移す。
「君も、傷が残らなくて良かった」
「勲章として取っておいても良かったのですが」
「良くないが?」
セレスや王国騎士団が身近だからか、クリステからはたまに武骨な発言が飛び出してくる。
今回彼女を傷つけたのは自分だからと、これ以上は何とも言い難い。
歯痒さを感じつつアズールが着替え終えたところで、控えめなノックが2回。
「……失礼いたします。レインです。開けてもよろしいでしょうか?」
「構わないよ」
やって来たのは、使用人のレインだ。
青みがかった灰の髪に、刃のような鋭い目の青年。
凛とした佇まいは全く隙を感じさせず、一目で武芸に秀でていると感じさせる。
フィンレイ家の使用人が本業らしいが、時折王国騎士団の騎士としても出動しているとアズールは認識していた。
「セレス様がお呼びです」
「ありがとう。すぐ行くと伝えてくれ」
「承知致しました」
事務的に報告を終えると、それ以上の会話を拒むように、レインは足早に去って行く。
「……私、彼に何かしたかな?」
淡々とした態度だったが、嫌悪感や怒りを無理やり抑え込んでいるかのような、ピリッとした空気をアズールを感じた。
恐らくは嫌われている。
ここの使用人たちはセレスに影響されてか、殆どがアズールに対し好意的なため、逆に新鮮だ。
「多分わたくしのせいなので、アズール様は気にしないで大丈夫です。失礼無いよう言っておきます」
「ははぁ……クリステ君も隅に置けないなぁ。聞かせてくれよ」
「何も面白い話はございません」
クリステが苦虫を潰したかのような顔をして手を上げ、思わずアズールはにやついてしまった。
アズールは人の恋愛話が大好きだ。
これまでも商売で関わる数々の大物たちの惚れた腫れたを眺めては、酒の肴にして来た。
特に自分の知り合いや、可愛がっている者の恋愛話は、とても心が躍る。
「彼の考える事はちょっと良くわからないです。何故わたくしなのでしょう」
クリステは、家が良いわけでも、見た目が良いわけもない。
家は田舎の森林地帯を管理する男爵家。資源はあるが、内弁慶で商売下手。
特異な瞳を持って生まれたクリステを気味悪がり、軟禁同然の暮らしを強要してきた。
公爵家へ奉公の要望を出した理由も、単純に金欲しさから。紹介するのが恥ずかしい程、様々な意味で貧しい家だ。
当然家に良い思い出などなく、正式に公爵家の使用人となってからは家名を名乗らず、ただのクリステとして振舞っている。
レインの感情は見えるが理由はピンと来ず「物珍しさからでしょうか?」などとクリステは首をかしげていた。
「いや、君は……」
クリステは、彼女自身が思っている以上に魅力的だ。
ふんわりとした雰囲気が愛らしく、会話が楽しい。加えて、とても思慮深い。
軽薄なようで、受けた恩はずっと覚えていて――。
(……何か、複雑だな)
クリステやセレス、女王たちが自分を大切にしろと言う気持ちがわかってしまった。
思わず居たたまれない気持ちになってくる。
「レインは良い目を持ってるね」
一先ず自分を棚上げして、レインを褒める事にした。
事情があったとはいえ、好いている相手を花瓶で殴りつけたアズールを警戒するのは当然だ。
クリステがそういう気質なら、人一倍自分が気を張らねばという感情にもなると、アズールは理解した。
「普通の目ですよ? むしろちょっと目が悪いくらいです」
「そういう事じゃないんだけど」
本当にわかっていない様子でクリステが呟くのを見て、アズールは思わず肩をすくめてしまう。
そのまま兄と妹のような雑談を続けながら、2人は呼びつけられた広間へと向かった。
「おはようございます。アズール殿」
「改めて呼びつけたという事は、何か大事な話かい?」
今日は休日らしい軽装のセレスがアズール達を迎えた。
口元に笑みを浮かべているものの、緊張感が漂っている。
「はい。此度判明した事実を鑑みて、速やかに決着をつけるべきだと、女王と協議し決定したので」
別室からレインが帳簿と書類の山をどっさり抱えてやって来る。
テーブルに置いた後はクリステに目配せして、彼女と共に部屋を出て行った。
部屋には、アズールとセレスの2人きり。
――病み上がりだというのに、容赦がないな。
剣や槍といった武器はないはずなのに、まるで決闘のような雰囲気だ。
今すぐ踵を返して逃げ出したい。みっともなく暴れて錯乱してしまいたいと思いながらも、セレスの威圧感が許してくれない。
「貴方の茶番を、崩す準備ができました」
屯していた悪党共を根こそぎ捕らえ、王国騎士団はまたもお手柄。賞賛の嵐。
そんな明るいニュースに纏め上げくれたようだった。
「よし、完全復活……!」
3日前の号外をサイドテーブルに置き、アズールはベッドの上で伸びをする。
報道された中に、アズールの情報は一切記載されていなかった。
ベルモンと、その裏で糸を引く存在に関しても、騎士団が水面下で調査を進める関係で緘口令が布かれているようだった。
「しつこい毒でしたね」
「参ったよ本当に。これでも早めに抜けたって言うんだから酷い薬だ」
完全に体を動かせるようになるまで丸3日を要してしまった。
クリステの方も今日から仕事に戻れるらしく、既にアズールへの新聞や着替えを準備して部屋の掃除を始めている。
盛られた毒に関しては、早々に暗殺ギルドが尋問に利用する物であり、アズールの予想は大方当たっていた。
かつてセレスが潰した暗殺ギルドにも関連があり、残党が新たなギルドを立ち上げた可能性もあるとの事で、慎重に捜査が進んでいる。
(毒抜き、とても恥ずかしかった……)
流石暗殺者御用達と言うべきか、この毒に解毒剤は存在せず、自然に排出されるのを待つしかない。
最低でも1週間かかる見込みだったが、セレスが忙しい仕事の合間を縫ってアズールの世話を焼いたため、予定より完治が早まったのだ。
動かないアズールの身体を丁寧に洗い清め、綺麗に整える過程で、布や硬い掌が優しく肌を撫でる。
――その感覚が非情に悩ましい。
厄介なことに、身体は弛緩して動かせないのだが、感覚はそのまま残っている。
故に、快楽も拾い上げてしまう。
アズールが「嫌だ」「そんな触れ方するな」など伝えても、達するまで手は止まらなかった。
(野外で無茶苦茶に抱かれるよりも恥ずかしかった)
あの時のセレスは、嗜虐心を押し殺したような笑顔を浮かべており、わかってやっているようだった。
(下の世話までやられてたら立ち直れなかったな……)
全力で拒否してようやく聞き入れてくれたセレスを思い出して、彼の想いの重さと大きさを改めて実感した。
叱られたら子犬のようにしおらしくするのは卑怯だろうとも思った。
思い返せば恥の記憶がどんどん湧き出て来るため、アズールはクリステへ話題を移す。
「君も、傷が残らなくて良かった」
「勲章として取っておいても良かったのですが」
「良くないが?」
セレスや王国騎士団が身近だからか、クリステからはたまに武骨な発言が飛び出してくる。
今回彼女を傷つけたのは自分だからと、これ以上は何とも言い難い。
歯痒さを感じつつアズールが着替え終えたところで、控えめなノックが2回。
「……失礼いたします。レインです。開けてもよろしいでしょうか?」
「構わないよ」
やって来たのは、使用人のレインだ。
青みがかった灰の髪に、刃のような鋭い目の青年。
凛とした佇まいは全く隙を感じさせず、一目で武芸に秀でていると感じさせる。
フィンレイ家の使用人が本業らしいが、時折王国騎士団の騎士としても出動しているとアズールは認識していた。
「セレス様がお呼びです」
「ありがとう。すぐ行くと伝えてくれ」
「承知致しました」
事務的に報告を終えると、それ以上の会話を拒むように、レインは足早に去って行く。
「……私、彼に何かしたかな?」
淡々とした態度だったが、嫌悪感や怒りを無理やり抑え込んでいるかのような、ピリッとした空気をアズールを感じた。
恐らくは嫌われている。
ここの使用人たちはセレスに影響されてか、殆どがアズールに対し好意的なため、逆に新鮮だ。
「多分わたくしのせいなので、アズール様は気にしないで大丈夫です。失礼無いよう言っておきます」
「ははぁ……クリステ君も隅に置けないなぁ。聞かせてくれよ」
「何も面白い話はございません」
クリステが苦虫を潰したかのような顔をして手を上げ、思わずアズールはにやついてしまった。
アズールは人の恋愛話が大好きだ。
これまでも商売で関わる数々の大物たちの惚れた腫れたを眺めては、酒の肴にして来た。
特に自分の知り合いや、可愛がっている者の恋愛話は、とても心が躍る。
「彼の考える事はちょっと良くわからないです。何故わたくしなのでしょう」
クリステは、家が良いわけでも、見た目が良いわけもない。
家は田舎の森林地帯を管理する男爵家。資源はあるが、内弁慶で商売下手。
特異な瞳を持って生まれたクリステを気味悪がり、軟禁同然の暮らしを強要してきた。
公爵家へ奉公の要望を出した理由も、単純に金欲しさから。紹介するのが恥ずかしい程、様々な意味で貧しい家だ。
当然家に良い思い出などなく、正式に公爵家の使用人となってからは家名を名乗らず、ただのクリステとして振舞っている。
レインの感情は見えるが理由はピンと来ず「物珍しさからでしょうか?」などとクリステは首をかしげていた。
「いや、君は……」
クリステは、彼女自身が思っている以上に魅力的だ。
ふんわりとした雰囲気が愛らしく、会話が楽しい。加えて、とても思慮深い。
軽薄なようで、受けた恩はずっと覚えていて――。
(……何か、複雑だな)
クリステやセレス、女王たちが自分を大切にしろと言う気持ちがわかってしまった。
思わず居たたまれない気持ちになってくる。
「レインは良い目を持ってるね」
一先ず自分を棚上げして、レインを褒める事にした。
事情があったとはいえ、好いている相手を花瓶で殴りつけたアズールを警戒するのは当然だ。
クリステがそういう気質なら、人一倍自分が気を張らねばという感情にもなると、アズールは理解した。
「普通の目ですよ? むしろちょっと目が悪いくらいです」
「そういう事じゃないんだけど」
本当にわかっていない様子でクリステが呟くのを見て、アズールは思わず肩をすくめてしまう。
そのまま兄と妹のような雑談を続けながら、2人は呼びつけられた広間へと向かった。
「おはようございます。アズール殿」
「改めて呼びつけたという事は、何か大事な話かい?」
今日は休日らしい軽装のセレスがアズール達を迎えた。
口元に笑みを浮かべているものの、緊張感が漂っている。
「はい。此度判明した事実を鑑みて、速やかに決着をつけるべきだと、女王と協議し決定したので」
別室からレインが帳簿と書類の山をどっさり抱えてやって来る。
テーブルに置いた後はクリステに目配せして、彼女と共に部屋を出て行った。
部屋には、アズールとセレスの2人きり。
――病み上がりだというのに、容赦がないな。
剣や槍といった武器はないはずなのに、まるで決闘のような雰囲気だ。
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