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悩める局長の受難
#5
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局長の受難日から約一ヶ月。
新聞の小さな記事が載りました。
『異世界からの訪問者ユメノ、冒険者デビュー!』
冒険者……
確かにそういった職業はこの国には存在します。
王都の外に広がる土地はまだ王都内と同様に安全とは言えず、害獣や野獣が現れる事があります。
その獣を駆除し報酬を得たり、解体して商会で買い取ってもらったりします。
ただ、冒険者は王国の国境に近い辺境と呼ばれる地域で働く事が一般的で、かなり危険です。
獣に関する知識も相当必要になりますし、何より獣と対峙してそれに勝る何かしら戦う力、武力が必要とされます。
もしかして、ついに彼女は異世界人としての異能が発現したのでしょうか?
この真意に関して、先月のカズロ様の作戦が関わっていそうですね。
この記事を見て、本日はきっと四名のお客様が来店されるのが予想できます。
ミケーノ様のためにタツタアゲを、カズロ様のためにサシミを……皆様に合いそうなメニューの材料を揃えておくことにしましょう。
さっそく市場に出かけようと準備をしていたところで、来客を知らせるベルがなりました。
ドアを開けると、そこには私が暮らすパラッツォの大家さんがいらっしゃいました。
「キーノスさん、これから出かけるのかい?」
「えぇ、お店のメニューの材料を買いに」
すると大家さんは声を潜めて告げました。
「……いつもの彼女が入口付近でウロウロしてるよ」
「……はぁ、困った方ですね……本当」
実は、私に付きまとってくる女性がいるのです。
引き離しても引き離しても着いてきて、そしていつの間にかここに住んでいるのが知られてしまったのです。
どうもつきまとい先は他にもあるようですし、平日は働いていらっしゃったので油断しておりました。
「今朝の新聞にあったけど、冒険者になったならさっさと王都出ないと大変じゃないのかねぇ」
「全くです」
王都から一番近い辺境でも馬車で丸一日はかかります。
「彼女は入口の方にいるのですね?」
「あぁ、入口の前に座り込んでるよ」
「了解いたしました、申し訳ないのですが……」
「構わないよ、あんたには世話になってるからね! 適当に引き留めておくよ!」
「……ありがとうございます。30分後に出ますので、お願いいたします」
以前にも同じことがあり、最近では大家さんが気づいた時に時間稼ぎの協力の申し出をしてくださいます。
「分かったよ。しかし、そんだけ綺麗な顔してると苦労が多いねぇ……」
「そんな、勿体ないお言葉です」
「ははは、しかも謙虚ときたもんだ! 引き留めは任せときな!」
豪快に笑って、大家さんは階段を降りていきました。
私は支度を整え、入口とは反対側の窓に座り靴を履きます。
幸い、通行人の姿はないようですね。そのまま、足から飛び降りました。
左手を地面に向け、体内の魔力を操り空気の壁を作ります。
地面に着く直前に落下速度を低下させ、安全に着地することができました。
流石にパラッツォの五階からクッション無しで降りるのは危険です。
オランディには術も扱える人間は少ないので、人前での使用は極力裂けるのが術士のマナーです。
軽く乱れた髪を梳きつつ、今日の肴に集まる紳士たちの為に買い物へ出かけました。
日陰の涼しい道を歩き、たまに当たる日光に夏の残滓を垣間見ます。
こういう街中で季節を感じるは、何とも胸が弾みますね。
日が沈みましたので、バー「モウカハナ」の開店です。
ドアの入口の看板を裏返し、「APERTO」に変えます。
テーブルや食器はもちろん、今日はメニューの下ごしらえも豪華です。
お客様を待つ間、新聞に目を落とします。例の冒険者デビューの記事です。
国の中枢を離れ、次は冒険者に華麗に転身!
元騎士団に所属していた剣技と、聖獣に愛されていた彼女が、国家を救うために冒険者を目指す事に。
いったいどこの地区で働くのか?まだまだ目が離せない!
どうも、かなりの拡大解釈がされているようです。
国の中枢を離れ……ですか。
これは先月お伺いしたカズロ様の作戦が実を結んだのでしょうか?
思案に耽っていたら、店内にお客様の来店を示すベルが響きます。
「よぉキーノス! 俺一番乗りか?」
「いらっしゃいませ、ミケーノ様。こちらのお席へどうぞ」
ミケーノ様はお勧めしたカウンター席に座り、私は冷やしたタオルをお渡しします。
秋に入ろうとしているこの時期はまだ夏の残暑が続き、暑い日が続いております。
「やー、今日の新聞見たか? ついに辞めたみたいだぞ」
「そのようですね。なんでも冒険者になるとか」
「冒険者ねぇ……あの体格じゃ術のひとつでも使えないと無理じゃねぇか?」
「ご尤もです。未だ異能や術を使用したと言った話は聞こえてきませんね」
「だよなぁ。まぁ術が扱えるようには思えねぇな、カズロの話を聞いてると」
「そうですね。そもそもオランディに術士は滅多に現れないそうですし、扱い方を教えてくれる人と会うのがまず難しいでしょう」
「だよなぁ…あ、ビアをグラスで! 冷えたので頼むぜ!」
「かしこまりました」
注文を承り、グラスを保冷庫から取り出します。
「そうだ、どうせ今日あいつら来るだろうし、タツタアゲ頼む!」
「かしこまりました、いつ頃お出ししますか?」
「そうだな、カズロが来そうな頃に出してくれ!」
「承知いたしました」
カズロ様は開店して少ししてからいらっしゃいます。
今日なら、早ければあと30分後辺りでしょうか。
「こちら、ビアでございます」
「うっす、ありがとな!」
ミケーノ様にビアをお出しし、裏に回って下ごしらえ済の料理を確認します。
そろそろ他の皆様もいらっしゃるかと思いますので、お皿の準備だけでも済ませておきましょうか。
新聞の小さな記事が載りました。
『異世界からの訪問者ユメノ、冒険者デビュー!』
冒険者……
確かにそういった職業はこの国には存在します。
王都の外に広がる土地はまだ王都内と同様に安全とは言えず、害獣や野獣が現れる事があります。
その獣を駆除し報酬を得たり、解体して商会で買い取ってもらったりします。
ただ、冒険者は王国の国境に近い辺境と呼ばれる地域で働く事が一般的で、かなり危険です。
獣に関する知識も相当必要になりますし、何より獣と対峙してそれに勝る何かしら戦う力、武力が必要とされます。
もしかして、ついに彼女は異世界人としての異能が発現したのでしょうか?
この真意に関して、先月のカズロ様の作戦が関わっていそうですね。
この記事を見て、本日はきっと四名のお客様が来店されるのが予想できます。
ミケーノ様のためにタツタアゲを、カズロ様のためにサシミを……皆様に合いそうなメニューの材料を揃えておくことにしましょう。
さっそく市場に出かけようと準備をしていたところで、来客を知らせるベルがなりました。
ドアを開けると、そこには私が暮らすパラッツォの大家さんがいらっしゃいました。
「キーノスさん、これから出かけるのかい?」
「えぇ、お店のメニューの材料を買いに」
すると大家さんは声を潜めて告げました。
「……いつもの彼女が入口付近でウロウロしてるよ」
「……はぁ、困った方ですね……本当」
実は、私に付きまとってくる女性がいるのです。
引き離しても引き離しても着いてきて、そしていつの間にかここに住んでいるのが知られてしまったのです。
どうもつきまとい先は他にもあるようですし、平日は働いていらっしゃったので油断しておりました。
「今朝の新聞にあったけど、冒険者になったならさっさと王都出ないと大変じゃないのかねぇ」
「全くです」
王都から一番近い辺境でも馬車で丸一日はかかります。
「彼女は入口の方にいるのですね?」
「あぁ、入口の前に座り込んでるよ」
「了解いたしました、申し訳ないのですが……」
「構わないよ、あんたには世話になってるからね! 適当に引き留めておくよ!」
「……ありがとうございます。30分後に出ますので、お願いいたします」
以前にも同じことがあり、最近では大家さんが気づいた時に時間稼ぎの協力の申し出をしてくださいます。
「分かったよ。しかし、そんだけ綺麗な顔してると苦労が多いねぇ……」
「そんな、勿体ないお言葉です」
「ははは、しかも謙虚ときたもんだ! 引き留めは任せときな!」
豪快に笑って、大家さんは階段を降りていきました。
私は支度を整え、入口とは反対側の窓に座り靴を履きます。
幸い、通行人の姿はないようですね。そのまま、足から飛び降りました。
左手を地面に向け、体内の魔力を操り空気の壁を作ります。
地面に着く直前に落下速度を低下させ、安全に着地することができました。
流石にパラッツォの五階からクッション無しで降りるのは危険です。
オランディには術も扱える人間は少ないので、人前での使用は極力裂けるのが術士のマナーです。
軽く乱れた髪を梳きつつ、今日の肴に集まる紳士たちの為に買い物へ出かけました。
日陰の涼しい道を歩き、たまに当たる日光に夏の残滓を垣間見ます。
こういう街中で季節を感じるは、何とも胸が弾みますね。
日が沈みましたので、バー「モウカハナ」の開店です。
ドアの入口の看板を裏返し、「APERTO」に変えます。
テーブルや食器はもちろん、今日はメニューの下ごしらえも豪華です。
お客様を待つ間、新聞に目を落とします。例の冒険者デビューの記事です。
国の中枢を離れ、次は冒険者に華麗に転身!
元騎士団に所属していた剣技と、聖獣に愛されていた彼女が、国家を救うために冒険者を目指す事に。
いったいどこの地区で働くのか?まだまだ目が離せない!
どうも、かなりの拡大解釈がされているようです。
国の中枢を離れ……ですか。
これは先月お伺いしたカズロ様の作戦が実を結んだのでしょうか?
思案に耽っていたら、店内にお客様の来店を示すベルが響きます。
「よぉキーノス! 俺一番乗りか?」
「いらっしゃいませ、ミケーノ様。こちらのお席へどうぞ」
ミケーノ様はお勧めしたカウンター席に座り、私は冷やしたタオルをお渡しします。
秋に入ろうとしているこの時期はまだ夏の残暑が続き、暑い日が続いております。
「やー、今日の新聞見たか? ついに辞めたみたいだぞ」
「そのようですね。なんでも冒険者になるとか」
「冒険者ねぇ……あの体格じゃ術のひとつでも使えないと無理じゃねぇか?」
「ご尤もです。未だ異能や術を使用したと言った話は聞こえてきませんね」
「だよなぁ。まぁ術が扱えるようには思えねぇな、カズロの話を聞いてると」
「そうですね。そもそもオランディに術士は滅多に現れないそうですし、扱い方を教えてくれる人と会うのがまず難しいでしょう」
「だよなぁ…あ、ビアをグラスで! 冷えたので頼むぜ!」
「かしこまりました」
注文を承り、グラスを保冷庫から取り出します。
「そうだ、どうせ今日あいつら来るだろうし、タツタアゲ頼む!」
「かしこまりました、いつ頃お出ししますか?」
「そうだな、カズロが来そうな頃に出してくれ!」
「承知いたしました」
カズロ様は開店して少ししてからいらっしゃいます。
今日なら、早ければあと30分後辺りでしょうか。
「こちら、ビアでございます」
「うっす、ありがとな!」
ミケーノ様にビアをお出しし、裏に回って下ごしらえ済の料理を確認します。
そろそろ他の皆様もいらっしゃるかと思いますので、お皿の準備だけでも済ませておきましょうか。
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