王都のモウカハナは夜に咲く

咲村門

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雪景色に踊る港の暴風

#11

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 アタシの部屋の前に朝から騎士が来た。

「今日は陛下の前で話をしてもらう。改めて招集に来るので、準備して待つように」
はぁ? 何でよ? はぁ~い分かりましたぁ

 招集? てかアンタ敬語使いなさいよ。

同じ話ならアンタがしといてよ またいつものお話すれば良いんですか?

 なんなのあの騎士の態度、異世界人アタシに対して敬意がないわ!

 本当になんなの? イライラする!
 選ばれた人間よねアタシ。こんなに可愛くなったのに。
 麗しの君もカズロさんも白い局長様も王子様もなびかない。

 ここはアタシが魔法使えて幸せになるハッピーな世界よね? お金出してくれるオジサンも厳しいし、誰もアタシを称えない!

 王様からの呼び出しはかわいそうな私への謝罪に違いないわ。
 でも謝罪ならアンタ達が来なさいよ、何よ招集って!

​───────

「ユメノ・ブランカ。中へ」

 中からの偉そうな声に反応して騎士が扉を開ける。

 ファンタジーチックな玉座? みたいな雰囲気だけどなんか半端な広さね。
 でも、真ん中に長い赤いカーペット……その先に王様、隣に王子様!
 ここってもしかして教会!?
 謝罪じゃなくて王子様と結婚式!? 王子様、気が早くないかな? プロポーズもまだよ?

 左右に人がたくさん……お祝いしてくれるのかな?
 カズロさんと白い局長様もいる! でも……ごめんなさい、アタシは王子様と……

「ブランカ君、久しぶりだね」

 王子様がアタシに声をかけてくれた。
 緊張してるのかな、顔が強ばってる。アタシとの結婚でドキドキしてるのかな……

「はいっ! 王子様とまた会えて嬉しい……」

 感動で変な声が。

「何度も悪いとは思うけど、君が市場で何をしたかを説明してくれるかな?」
「はいっもちろんです!」

 まずは前座謝罪よね、やっぱ。

 アタシは切々と訴えた……市場でコーヒーが盗まれた事、犯人を捕まえて欲しいのに何もしてくれなかった事。
 犯人はあの店員で、市場に隠れていたかもしれない事。
 被害者なのに閉じ込められた理由が分からなかったけど、ここで王子様と結婚式をやる為だと気付いて嬉しかった事!

「……それで全部かい?」
「はいっ! アタシ、覚悟が出来てます!」

 王子様が王様を見て頷いた。
 ついに式が始まるのかしら!

「そうか、いくつか聞くが構わんね?」

 王様がアタシに? アンタに用はないのよ。

「何?」
「……君のコーヒーはこれだね?」

 横にいた騎士が持ってたお盆からビンを取ってみせる。
 アタシのコーヒー!

「それ! どうしてここに!」
「証拠品として提出されたんだ」
「証拠? アイツ捕まえたの?」

 王様はアタシを無視して、コーヒーの粉を少しだけ取り出してマッチで火をつけようとする!

「ちょっと! そんな事したら!」
「ん? これはコーヒーなんだろ? だったら火をつけても問題なかろう?」
「大問題よ! 何してんの!?」

 アタシの訴えを無視して火をつけた! 
 危ない!!
 アタシはそう思ってしゃがんで頭を抱えた!

 ……? 何も起きない?

「頭を上げろ」

 はァ? 偉そうに……。
 アタシは大人しく立ち上がる。王様を見ると、何ともない。あれ?

「なぜ、しゃがんで頭を守った?」
「……そういうコーヒーだからよ。知らないの?」
「では飲んでみてはくれないか? 私はコーヒーが苦手でね」
「いらないわ! そんな事より」
「では次の質問だ」

 は? まだやるの? もういいでしょアイツ捕まったんだし。

「君が言う犯人の彼だが」
「ここに呼んでよ、謝らせるから!」
「どうして彼が犯人だと思ったんだ?」
「は? だってアイツ、アタシが話しかけたらいきなり『それどこにあるの!?』って掴みかかってきたのよ? 狙ってたに決まってるわ!」
「どうして彼に話しかけた?」
「新聞に載ってた麗しの楽士様の居場所を知ってるからよ!」
「なぜ知ってると?」
「あの新聞のディーボ、アイツんとこの店長なのよね。店員なら知っててもおかしくないわ」
「……その楽士の話は聞けたのか?」
「それが、アイツ酷いのよ! 何聞いても『シリマセーン』『ワカリマセーン』であったま来て!」

 思い出したらイライラしてきたわ……

「本当は殴ってやりたかったわ! でも人が多いから我慢して、脅しつけてやったの!」
「ほぉ、それはどんな風に?」

 あら王様、こういう刺激的なお話が好き?
 でもアタシの魔法で全部変換されちゃうのよね~。
 さっきのも違う内容になってるんだろうなー、ホントウケる。
 本当の事教えてあげられないのは可哀想だけど、仕方ないよね!

「これ以上下らない事言うなら、アンタ市場ごと爆発させるよ! って!」

 ちょっとうろ覚えだけど、良い決めゼリフ!
 みんなにはなんて聞こえてるのかな?

「そしたらいきなり『爆弾はどこ!?』って聞いてきて。だから市場にば……コーヒーがあったのも知ってたはずよ!」

 この刺激的な話、楽しんでくれたかしら?
 変ね、額に手を当てて首を振ってる。
 面白くなかったかしら? 変換されたから?

「ミス・ブランカ。自分で言ってる事の矛盾に気付いてるか?」
「え? あそっか、ちゃんと聞こえないんだよね。こういう時面倒くさいわねこの魔法」
「……君はメルクリオがコーヒーを盗んだ犯人と言った」
「そうよ! 捕まえてくれたんでしょ?」
「疑った理由は、コーヒーの場所を知っているからだと」
「えぇ、間違いないわ!」
「知ったのは君との会話から、だな?」
「そうよ、ば……コーヒーはどこ!? ってすごい勢いだったわ!」
「これがその『コーヒー』」
「そうよ!」
「さっきこれに火をつけようとしたら頭を抱えてしゃがんだな、なぜだ?」
「そ、それは……そういうコーヒーだからよ!」
「君は彼に爆破予告をしたんだよな?」
「え??」
「楽士の居所を教えなければ、市場ごと爆発させる、と。」

 え? なんでちゃんと伝わってるの?
 騎士団の尋問でも全く伝わらなかったのに。

「今度はちゃんと見ろ」

 王様はまた爆弾の粉に火を……!

「良いか、ちゃんと見ろ」

 さっきは王様無事だったし、ちょっとなら大丈夫……かな?
 王様が火をつけた!

 ……あれ? 青白く光っただけ? ていうかそれ、年末の花火の色……

「え! あの花火ってアタシの」
「同じものが使われている」
「じゃあアレアイツがやったの!?」

 ふぅーーっと長いため息を王様がつく。
 ちょっと失礼じゃない!?

「これは、君の、コーヒー」
「そっそう」
「メルクリオに、市場で、盗まれた」
「だから」
「このコーヒーは、ハナビと同じ色」
「そうね、だか」
「先程の爆発予告」

 王様がアタシを睨みつけた!

「爆破予告なんて! ちょっと脅かしただけよ!」
「だが現にコーヒー爆弾が見つかっている」
「そうだわ、その爆弾を勝手にアイツが花火にしたのよ! それはアタシのコーヒーじゃないわ!」

 なかなか良い回避じゃない?

「ところで、さっきコーヒーこれに火をつけようとしたら頭を抱えたな。君のコーヒーもあの量で頭を抱える程危険か?」
「そうよ! 火気厳禁よ!」
「どのくらいあったんだ?」
「一箱に十二本、それが四つね!」
「四十八本分のコーヒー爆発物を、君は波止場に置いといたのか?」
「爆発物だなんて! ただのコーヒーよ!」
「……本当に埒が明かんな、想像以上のバカっぷりだ」

 ハァ!? 王様だからって……もう無理! ありえなすぎる!!

「アンタさっきから何? 謝罪だと思ってきてみたらグダグダと、アタシはコーヒーを盗まれた被害者よ!? なんでアタシが悪いみたいになってんのよ!」
「お前が悪いからだ」
「ハァァ!? 何が悪いのよ! あの爆弾集めるの大変だったのよ!? それを盗んで使う方が酷いじゃない!」
「語るに落ちたな、テロ主犯で決定だ」
「テロとか! 変な言いがかりやめてよ!」
「さっき爆発予告してたな」
「そもそもなんで聞こえるのよ! そこがおかしいわ!」
「何がおかしい」
「うるっさいなこの老害が! 大人しくアタシに謝れ! モーロクジジイは今すぐ寿命で死ぬか謝るかしろ!!」

 一息に言い切った! どうせ誰にも……

 その時、周りにいた騎士が何人か来て、アタシを地面に組み伏せた!
 酷い、何すんのよ!

「傷害、器物破損、冤罪、不敬罪、脅迫、テロ未遂」

 横に並んでた人の一人が言った。
 誰よアンタ?

「確定で良いかと思います」
「そうだな、モウロクジジイで悪かったな」

 待って待って! なんで分かってんの!?
 アタシ混乱したまま、騎士に引きずられながら部屋をおいだされる!

 ねぇ、結婚式は!?

​───────

 庁舎の中庭で積雪を眺めながら、私は本を読んでいます。
 ここの中央には大きな日時計があり、周辺には職員の手によって四季折々の花が彩られます。

 日時計によると今は午後三時。
 そろそろモウカハナで使う野菜を買いに行きたいのですが、ビャンコ様からの鳩が来ません。
 お貸しした香炉を受け取るだけなのですが、一時間も遅れています。
 寒さは問題ありませんが、市場の野菜は待ってくれません。

「キーノスさん! お待たせ!」

 快活な声が聞こえ振り向くと、おとぎ話に登場しそうな王子様が、無邪気な笑顔で駆け寄って来ます。

「ビャンコさんからコレ渡す役強奪してきたんだ! 久しぶりにキーノスさんに会いたくて!」

 王太子殿下です、こんな雑用して良い方ではありません。
 私はあるべき態度で接するため、立ち上がり一礼しました。

「ご無沙汰しております、王太子殿下」
「硬いなぁ。ハイ、これ!」

 私は王太子殿下から香炉を受け取り一礼します。

「お手間を取らせ大変申し訳ございませんでした、感謝致します」
「いいえ! すんっごっく! 助かりました!」

 この後王太子殿下と少し会話をし、私は市場へ向かいました。
 聞いた話では、香炉の効果を証明した後で謁見が開始されたそうです。
 謁見でのユメノ様はいつもと違い、不敬罪も真っ青なやりとりが行われたようです。

 これでユメノ様がテロを起こすことは不可能でしょう、彼女の考え方が変わってくれるのが一番良いでしょうけど、難しそうですね。
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