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凍る道化の恋物語
#5
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華やかな季節の始まりを見せるこの時期は、日中は上着などを羽織らずとも快適に過ごせます。
私は夕刻から明け方を外で過ごすことが多いため、まだまだジャケットを愛用することが多いです。
ただ、暖かい日光が降り注ぐ朝の庁舎の中庭では、少しだけジャケットを着ているのは不似合いかもしれません。
そもそも、私はなぜここにいるのか……。
ここにいる理由もそうですが、私は常々思う事があります。
オランディが王国と呼ばれてるだけの、共和制の商業国なのは分かっています。
なので勅令と言っても、従う必要がないのは知っています。
ただ、疑問なのです。
一国民が庁舎からの召喚状を無視はできないと思わないのでしょうか。
呼び出した人はそういう立場だといつになったら理解するのでしょうか。
気軽に鳩と共に寄越す事が出来るのでしょうが……明け方パラッツォの窓の外で待ちぼうけになっている鳩を哀れに思わないのかと……
この紙はメモ用紙でも出前の注文票でもないのが分からないのかと……
私がいつ眠っているのかなど……
「おはようございます。朝早くからありがとう」
少し寝そうになっていたタイミングで声を掛けられました。
陽光と花が咲き乱れた風景に、白いシルエットが影を落とします。
「じゃあ、案内するよ」
ベンチで頬杖をついていた私の手を取り、ビャンコ様がどこかへ案内します。
「頼まれていた物なら今お渡しできます」
立ち止まらずに制止の声をかけます。
分かってはいましたが無視され、連れられるままにどこかの会議室へ来ました。
「やーごめんごめん、もしかして仕事帰りでそのまま来た?」
「分かってるならさっさと帰らせてください」
「珍しく眠そうだね。ホラ、飴食べる?」
「……どうぞ頼まれていたものです」
「あざーす! 助かるわーホント!」
頼まれていた物をお渡しし、さっさと帰ろうかと思います。
「緊急と書かれていたので急ぎましたが、もう良いですか?」
「んー……お昼まで居られない?」
「お断りします」
踵を返しその場を去ろうとする私の腕を掴んできます。
二年前を思い出しますね、彼女より力は弱いですが。
「知ってるでしょ、ホント無理なんだって! 今日は逃げられないの!」
「あと五ヶ月あるんですよ? どうするんですか」
「キーちゃんなら騎士できるし術も使えるでしょ? そんな人探してもいないの分かるでしょ!」
「私はバリスタです、騎士ではありません」
「イザッコにも許可取ったから! 一回で良いの!」
「……私の意思はどうなのですか?」
「おねがい、何でも一個だけ言う事聞くから!!」
ーーはぁ……
長く深いため息が出ます。眠さのせいか色々保てそうもないです。
「何度言えば分かる、断ると言っている」
ビャンコ様には悪いのですが、私がメモで見た内容はあくまで物の受け渡しです。
騎士の代わりと書いてあったら睡眠時間を削ってまでここに来ていません。
確信犯でしょうね、書いてなかったのは。
「正体は隠すし、オレの権限でもなんでも使って今できる事ならなんでもするし、終わった後でなんでも一個だけ言う事聞くから! 怒るのは分かるけど本当にお願い!」
私の苛立ちは収まりませんが、ビャンコ様がここまで必死なのは珍しいですね。
ここまでの無理強いを願うのは初めて見ます。
眠さに耐えられる範囲でなら、話を聞いて差し上げても良いかもしれません。
「……内容次第ではすぐに帰る」
「! ありがとう! 話す、話すよ!」
とりあえずビャンコ様向けに作ったキツいミントの飴を食べ、眠気覚ましの術を自分にかけながら聞くとしましょう。
とにかく眠いです。
───────
昨晩、業務時間を過ぎた後での事。
庁舎内で伝達役をしている伝書鳩が自分の元へ飛んできた。
発信元は防衛局の局長のバルトロメオのようで「三十分後に会議をする」との事。
内容の詳細は無いが、今度行われる異文化交流を目的とした闘技会に関してだろう。
随分急な招集だとは思うが、急ぎ会議室へ向かった。
「急に申し訳ない! どーーしてもって言われちゃって!」
バルトロメオが両の手をテーブルにつき、頭をぶつけそうな勢いで下げてくる。
会議室には彼以外に騎士団長以下三名がいた。
「いえ、問題ありません。他は誰が参加予定ですか?」
当たり障りなく謝罪を躱すが、バルトロメオが頭を上げたあとも自分と目を合わせようとしない。
「い、いやぁこれで全員なんだよね」
「来月の闘技会の事かと思いましたが、他の方に説明は必要はないのですか?」
騎士団長のイザッコが少しわざとらしく咳払いをし、説明を始めた。
兵士でも騎士でもないケータが絶対に参加すると言って聞かない。
術士同士で対戦がしたいと言って聞かない。
参加出来ないなら氷柱を使ってでも乱入する、術士が無理ならサラマンダーを対戦相手に寄越せと。
術士の参加など前例がない上に、彼の氷柱の術はとても危険だ。
闘技会は騎士以外の観戦者も多く、そのまま本番でやるにはどの程度危険か予測がつかない。
開催日まで日もないため、急遽実験として明日模擬戦を行うことで一旦ケータからの合意を得た……との事。
「術士の対戦をやめれば良いのでは?」
「それだと兵士じゃないから参加できない、代わりにサラマンダーを出せってよ」
「どれだけ執着を……」
「ただ、交換条件で術士同士の対戦ができたらサラマンダーを諦める事、二度とお前に付きまとわないと」
「脅迫じみてますね」
「どれも駄目だって言うなら、お前と決闘できる場を設けろってよ」
「なるほど……では明日、私が適当に負ければ良いですか?」
「俺も同じ事考えてたらよ、あの留学生『真剣勝負以外認めない』とか言い出してな」
「それは……無理、です」
ビャンコは元々持つ声以外の術に関してはどれも普通の物より強くなりすぎる上に、何よりコントロールが得意ではない。
四方を火の海にしたり生き物を全て眠らせるといった広範囲のもの得意だが、一点のみ火をつけたり隊列の一人のみ眠らせるなどはできない。
そこまで器用な使い方が出来る術士などキーノスくらいなものだが。
また声は術士の魔力を対価に本来交流できない物に協力を頼めるが、魔力量が決まっておらず相手の気まぐれで決まる。
ビャンコの場合は元の魔力量が多いので問題にはならないが、こちらもコントロールとは無縁の代物だ。
なので聖獣との共闘を基本としているが、ケータは聖獣や魔獣に討伐対象として執着している。
「魔獣や聖獣に頼るのも、彼相手では悪手ですよね……」
「そうだな、術士として戦うという意味でも違うしな」
「代理の術士は?」
リモワで確認されている術が使える人物は三人、一人はもちろんビャンコである。
他の二人の内、一人は衣料品店の従業員で術を扱えるが術士とは言い難い。
もう一人は……
「絶対無理だろアイツは。お前より適任だとは思うが、騙して連れてきても絶対やらんぞ」
「……今から店に行って頼めば、チャンスは……」
「想像してみろ」
闘技会の模擬戦に術士として出てもらうように、モウカハナで頼む想像をしてみた。
イザッコなら出禁、バルトロメオなら躱す。ビャンコかカズロ、あるいは他の常連なら……。
「無理だ、絶対断る」
「だろ? だからなんとかお前が術でアイツを殺さないように手合わせを」
ここでビャンコが我慢の限界を超えた。
「無理無理、オレずっと言ってんじゃん、無理だって」
「だから模擬戦にしたんだよ、本番でやったらよりまずいから」
「そうだ闘技会止めよう、そんなんがあるからこんな事になんだよ」
「どの道お前と手合わせは避けられねぇぞ多分」
「その為に毎日逃げ回ってんでしょーが!」
「それは個人での話で済ませられるが、今回公の場で言ったからなんともならんぞ」
「だーかーら、オレには無理! いつも言ってんでしょ、オレ術士でも滅多にいないレベルで不器用なの! なんのためにいつもコソコソキーちゃんに頼んでると思ってんの?」
「これでも譲歩してんだぞ、お前ちったぁ無理しろよ」
「オレ留学生やっちゃうよ? 無理しても何ともならんの、紙に火をつけて燃やすなって言ってんのと同じなの。イザッコ出来んのそれ?」
「例えは分からんが、留学生の参加無しにしたら演習場に氷柱が降るぞ」
「あ、それなら止められるかも! 結界張るよ、これでどう?」
「氷柱止めたあとはどうすんだ? 軍事国家と事構える事になりかねないだろ」
「氷柱降らす方が悪いじゃん」
「そういう問題じゃねぇんだよ、ガキの癇癪だって分かっても国際問題になんだよ」
「留学生殺す方が問題じゃん!」
───────
「それで朝まで喧嘩して……ってキーちゃん聞いてる?」
途中から半分寝ていたようです。
内容はなんとなく伝わったので問題はありません。
「……それで?」
「え?」
「俺は何を?」
「術士枠で代打になって!」
「なら道具は?」
術の弱体化の効果がある指輪をあるだけ、それから魔力回復の飴と減退のハーブ。
メモに書かれていたのはこの三つです。
てっきり一部はケータ様に渡すものかと思ってましたが、話を聞く限り全てビャンコ様が使うように思えます。
「保険だよ、キーちゃんに負けて逆ギレしてオレに喧嘩売ると思わん?」
「あー、なるほど……」
なるほどなどと言いながら、よく頭に入ってきません。
「何時から?」
「昼ごはんの後!」
なら朝一じゃなくても良かったじゃないですか、帰ったあとメモを見て店まで戻ったりしたというのに……
「ちょっと、キーちゃん? 起きて!」
ビャンコ様の声が遠くに聞こえます。
春眠暁を覚えずとは……良い言葉ですよね。
限界のようです、五分程仮眠を取ってから考えた方が良さそうです。
国際問題とか……私に相談しないで欲しいものです。
私は夕刻から明け方を外で過ごすことが多いため、まだまだジャケットを愛用することが多いです。
ただ、暖かい日光が降り注ぐ朝の庁舎の中庭では、少しだけジャケットを着ているのは不似合いかもしれません。
そもそも、私はなぜここにいるのか……。
ここにいる理由もそうですが、私は常々思う事があります。
オランディが王国と呼ばれてるだけの、共和制の商業国なのは分かっています。
なので勅令と言っても、従う必要がないのは知っています。
ただ、疑問なのです。
一国民が庁舎からの召喚状を無視はできないと思わないのでしょうか。
呼び出した人はそういう立場だといつになったら理解するのでしょうか。
気軽に鳩と共に寄越す事が出来るのでしょうが……明け方パラッツォの窓の外で待ちぼうけになっている鳩を哀れに思わないのかと……
この紙はメモ用紙でも出前の注文票でもないのが分からないのかと……
私がいつ眠っているのかなど……
「おはようございます。朝早くからありがとう」
少し寝そうになっていたタイミングで声を掛けられました。
陽光と花が咲き乱れた風景に、白いシルエットが影を落とします。
「じゃあ、案内するよ」
ベンチで頬杖をついていた私の手を取り、ビャンコ様がどこかへ案内します。
「頼まれていた物なら今お渡しできます」
立ち止まらずに制止の声をかけます。
分かってはいましたが無視され、連れられるままにどこかの会議室へ来ました。
「やーごめんごめん、もしかして仕事帰りでそのまま来た?」
「分かってるならさっさと帰らせてください」
「珍しく眠そうだね。ホラ、飴食べる?」
「……どうぞ頼まれていたものです」
「あざーす! 助かるわーホント!」
頼まれていた物をお渡しし、さっさと帰ろうかと思います。
「緊急と書かれていたので急ぎましたが、もう良いですか?」
「んー……お昼まで居られない?」
「お断りします」
踵を返しその場を去ろうとする私の腕を掴んできます。
二年前を思い出しますね、彼女より力は弱いですが。
「知ってるでしょ、ホント無理なんだって! 今日は逃げられないの!」
「あと五ヶ月あるんですよ? どうするんですか」
「キーちゃんなら騎士できるし術も使えるでしょ? そんな人探してもいないの分かるでしょ!」
「私はバリスタです、騎士ではありません」
「イザッコにも許可取ったから! 一回で良いの!」
「……私の意思はどうなのですか?」
「おねがい、何でも一個だけ言う事聞くから!!」
ーーはぁ……
長く深いため息が出ます。眠さのせいか色々保てそうもないです。
「何度言えば分かる、断ると言っている」
ビャンコ様には悪いのですが、私がメモで見た内容はあくまで物の受け渡しです。
騎士の代わりと書いてあったら睡眠時間を削ってまでここに来ていません。
確信犯でしょうね、書いてなかったのは。
「正体は隠すし、オレの権限でもなんでも使って今できる事ならなんでもするし、終わった後でなんでも一個だけ言う事聞くから! 怒るのは分かるけど本当にお願い!」
私の苛立ちは収まりませんが、ビャンコ様がここまで必死なのは珍しいですね。
ここまでの無理強いを願うのは初めて見ます。
眠さに耐えられる範囲でなら、話を聞いて差し上げても良いかもしれません。
「……内容次第ではすぐに帰る」
「! ありがとう! 話す、話すよ!」
とりあえずビャンコ様向けに作ったキツいミントの飴を食べ、眠気覚ましの術を自分にかけながら聞くとしましょう。
とにかく眠いです。
───────
昨晩、業務時間を過ぎた後での事。
庁舎内で伝達役をしている伝書鳩が自分の元へ飛んできた。
発信元は防衛局の局長のバルトロメオのようで「三十分後に会議をする」との事。
内容の詳細は無いが、今度行われる異文化交流を目的とした闘技会に関してだろう。
随分急な招集だとは思うが、急ぎ会議室へ向かった。
「急に申し訳ない! どーーしてもって言われちゃって!」
バルトロメオが両の手をテーブルにつき、頭をぶつけそうな勢いで下げてくる。
会議室には彼以外に騎士団長以下三名がいた。
「いえ、問題ありません。他は誰が参加予定ですか?」
当たり障りなく謝罪を躱すが、バルトロメオが頭を上げたあとも自分と目を合わせようとしない。
「い、いやぁこれで全員なんだよね」
「来月の闘技会の事かと思いましたが、他の方に説明は必要はないのですか?」
騎士団長のイザッコが少しわざとらしく咳払いをし、説明を始めた。
兵士でも騎士でもないケータが絶対に参加すると言って聞かない。
術士同士で対戦がしたいと言って聞かない。
参加出来ないなら氷柱を使ってでも乱入する、術士が無理ならサラマンダーを対戦相手に寄越せと。
術士の参加など前例がない上に、彼の氷柱の術はとても危険だ。
闘技会は騎士以外の観戦者も多く、そのまま本番でやるにはどの程度危険か予測がつかない。
開催日まで日もないため、急遽実験として明日模擬戦を行うことで一旦ケータからの合意を得た……との事。
「術士の対戦をやめれば良いのでは?」
「それだと兵士じゃないから参加できない、代わりにサラマンダーを出せってよ」
「どれだけ執着を……」
「ただ、交換条件で術士同士の対戦ができたらサラマンダーを諦める事、二度とお前に付きまとわないと」
「脅迫じみてますね」
「どれも駄目だって言うなら、お前と決闘できる場を設けろってよ」
「なるほど……では明日、私が適当に負ければ良いですか?」
「俺も同じ事考えてたらよ、あの留学生『真剣勝負以外認めない』とか言い出してな」
「それは……無理、です」
ビャンコは元々持つ声以外の術に関してはどれも普通の物より強くなりすぎる上に、何よりコントロールが得意ではない。
四方を火の海にしたり生き物を全て眠らせるといった広範囲のもの得意だが、一点のみ火をつけたり隊列の一人のみ眠らせるなどはできない。
そこまで器用な使い方が出来る術士などキーノスくらいなものだが。
また声は術士の魔力を対価に本来交流できない物に協力を頼めるが、魔力量が決まっておらず相手の気まぐれで決まる。
ビャンコの場合は元の魔力量が多いので問題にはならないが、こちらもコントロールとは無縁の代物だ。
なので聖獣との共闘を基本としているが、ケータは聖獣や魔獣に討伐対象として執着している。
「魔獣や聖獣に頼るのも、彼相手では悪手ですよね……」
「そうだな、術士として戦うという意味でも違うしな」
「代理の術士は?」
リモワで確認されている術が使える人物は三人、一人はもちろんビャンコである。
他の二人の内、一人は衣料品店の従業員で術を扱えるが術士とは言い難い。
もう一人は……
「絶対無理だろアイツは。お前より適任だとは思うが、騙して連れてきても絶対やらんぞ」
「……今から店に行って頼めば、チャンスは……」
「想像してみろ」
闘技会の模擬戦に術士として出てもらうように、モウカハナで頼む想像をしてみた。
イザッコなら出禁、バルトロメオなら躱す。ビャンコかカズロ、あるいは他の常連なら……。
「無理だ、絶対断る」
「だろ? だからなんとかお前が術でアイツを殺さないように手合わせを」
ここでビャンコが我慢の限界を超えた。
「無理無理、オレずっと言ってんじゃん、無理だって」
「だから模擬戦にしたんだよ、本番でやったらよりまずいから」
「そうだ闘技会止めよう、そんなんがあるからこんな事になんだよ」
「どの道お前と手合わせは避けられねぇぞ多分」
「その為に毎日逃げ回ってんでしょーが!」
「それは個人での話で済ませられるが、今回公の場で言ったからなんともならんぞ」
「だーかーら、オレには無理! いつも言ってんでしょ、オレ術士でも滅多にいないレベルで不器用なの! なんのためにいつもコソコソキーちゃんに頼んでると思ってんの?」
「これでも譲歩してんだぞ、お前ちったぁ無理しろよ」
「オレ留学生やっちゃうよ? 無理しても何ともならんの、紙に火をつけて燃やすなって言ってんのと同じなの。イザッコ出来んのそれ?」
「例えは分からんが、留学生の参加無しにしたら演習場に氷柱が降るぞ」
「あ、それなら止められるかも! 結界張るよ、これでどう?」
「氷柱止めたあとはどうすんだ? 軍事国家と事構える事になりかねないだろ」
「氷柱降らす方が悪いじゃん」
「そういう問題じゃねぇんだよ、ガキの癇癪だって分かっても国際問題になんだよ」
「留学生殺す方が問題じゃん!」
───────
「それで朝まで喧嘩して……ってキーちゃん聞いてる?」
途中から半分寝ていたようです。
内容はなんとなく伝わったので問題はありません。
「……それで?」
「え?」
「俺は何を?」
「術士枠で代打になって!」
「なら道具は?」
術の弱体化の効果がある指輪をあるだけ、それから魔力回復の飴と減退のハーブ。
メモに書かれていたのはこの三つです。
てっきり一部はケータ様に渡すものかと思ってましたが、話を聞く限り全てビャンコ様が使うように思えます。
「保険だよ、キーちゃんに負けて逆ギレしてオレに喧嘩売ると思わん?」
「あー、なるほど……」
なるほどなどと言いながら、よく頭に入ってきません。
「何時から?」
「昼ごはんの後!」
なら朝一じゃなくても良かったじゃないですか、帰ったあとメモを見て店まで戻ったりしたというのに……
「ちょっと、キーちゃん? 起きて!」
ビャンコ様の声が遠くに聞こえます。
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