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ガス灯で煌めく危険な炎
#7
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クリューヴの夜は日中と比べて気温が低く、窓から入る風も心地よく感じます。
郊外の高級住宅の並ぶ辺りは人も少なく、静かにお酒を楽しむのにはとても適した環境と言えます。
今夜は昼間の訓練で疲れて寝てしまったジョーティを除き、師匠と侍従二人で今後の調査の話を肴にお酒を飲みかわしております。
今日は皆仕事は休みで、師匠とこうしてお酒を飲むのは私邸に来てから初めての事です。
初日に私が飲んだ高級酒はもちろん、ヴァローナの名産になっているワインやチーズが並んでいます。
暗めの照明と静かにピアノ曲が流れる私邸の居間は、貸切の高級クラブの一室を思わせます。
一通り今までの調査の内容を伝えたところで今に至ります。
「あぁ、ゲラーシーは違うねぇ。ギャンブルの駆け引きが好きなだけだし、ランに火付けるくらいならワイン漬けにして買い取るんじゃないかねぇ」
「おバカさんだなキーノスは。あのオッサンはお前が気になってるって言っただろ? なぜ僕に構うと思った?」
「私のような怪しい人物に関わろうとしてくる方でしたので候補に入れてましたが、あまりにもおかしな点がなかったため確証を得るのに時間がかかりました」
お二人から厳しい言葉をいただきましたが、そもそも確実に違う方なら先に言っておいてくれても良かったのではと思ってしまいます。
師匠はジンの入ったグラスを傾けながら、中の氷が揺れるのを眺めています。
「なんだってゲラーシーはキー坊が気になったかねぇ、ヴァローナで仮面つけてればまぁまぁ目につかないでしょ君は」
「どうせ初日から完璧なゲームコントロールやったんだろう? それ見て興味持たれたんじゃないか?」
「あぁ~やりそうだねぇ。どうせ私の仲介だって気付いてるだろうし、それで素性を明かしてやろうとしてたなら納得だねぇ」
お二人の推測通りかと思います。
ゲラーシー様に関して議論しても進まないと思いますので、本命の容疑者の話をした方が良さそうです。
「とりあえず容疑者はガラノフ様に絞って探ろうと思います」
「理由は?」
「基本はゲラーシー様と同様で、初日から私に話しかけてきた点と、言葉の端々に探りを入れてくるのが大きいです。特にルスランと入れ代わりになった点を気になさってる辺り、他の容疑者より可能性は高いと考えております」
ガラノフ様はゲラーシー様が私のテーブルにつく前まで私に話しかけながらゲームで粘っていた方です。
質問の内容もルスランに関することや私がカジノで働くようになった経緯などが多く、初めから容疑者の候補として最有力で考えていました。
「確かガラノフって女性向けのクラブのボーイだよねぇ。ランがいた店でもないし、なんで彼がランを気にするのかねぇ」
「あいつボーイだけどモテる事が自慢だったみたいだから、僕がモテるのが気に入らなかったんじゃないか?」
「それで君に火傷の一つでも負わせようとしたのかねぇ」
「ただのボーイが僕に? 無理に決まってる」
「君は火傷した時の詳細を言わないよねぇ、そこ話してくれたら私もキー坊も楽なんだけど」
そうです、そもそも二ヶ月もかかってしまっている最大の要因はルスランです。
彼が火傷を負った時の話を詳細に話してくれればもっと楽になりそうなものの「カジノが終わってからの記憶がなくて、気がついたら大火傷で寝てた」としか答えません。
「ま、仕方ないよね。分からないものは分からないんだから」
「術の痕跡も見当たらないしねぇ、薬でも飲まされたのかねぇ」
「……あー、カクテルは飲んだな」
「仕事中だよねぇ、誰かの奢り?」
「確か、ガラノフから甘ったるいの渡された」
師匠が呆気に取られて口を開けております。
私のも同じ気持ちです。
「そういうの先に言えないかねぇ、仮にも私の侍従なのにそこを言わないのはどうかと思うよ? キー坊借りるのも楽じゃないのが分からないかねぇ」
「このままいさせたら良いだろ」
「まさか、そんな事のために言わなかったんじゃないだろうねぇ?」
「半分以上はそれが理由だな」
被害者が調査の妨害をしてどうするつもりなのでしょうか、しかもそんな下らない理由で。
……とはいえ、新しく出た情報に関して聞いた方が良さそうです。
「カクテルの名前は分かりますか?」
「分からん」
「甘さ以外に、何か香りなどの特徴はありましたか?」
「覚えてない」
結局、イマイチ役にたちません。
しかし甘いカクテルなら、薬か毒を混ぜても味を誤魔化す事ができるでしょう。
「そうなると、何故私邸だったのかが気になります。カジノの近くでも燃やすことは可能だったはずですし」
「だからこそ私への攻撃の可能性を考えてるんだよねぇ、ランも敵は多いからねぇ」
「それに、カクテルに混ぜた毒を時間差で効果が出る物にしておけば、そもそも燃やす必要もありません」
「やっぱ私宛かねぇ、にしても半端だよねぇ。ジョーティが来るタイミングなのも意味がありそうだよねぇ」
「ガラノフ様が犯人なら、そこも明らかにする事が出来るかもしれません。二ヶ月であらゆる可能性は潰してきましたし、今もフィルマが見張ってくれています」
カジノの客でルスランと縁のある方全員の師匠との関係性を調べ、当時の行動を調べ……フィルマとリィの協力でなんとか三人まで絞り込めたのが先週の事です。
そこからまた時間がかかると思っていましたが、ビャンコ様の協力で候補の一人を簡単に外す事ができました。
「まぁ、しばらくはまた様子見かねぇ。とりあえず明日も休みだし飲もうか」
「キーノス、追加のツマミ作ってくれ。チーズだけだと飽きる」
「かしこまりました」
私も何か野菜を使った物が食べたいと考えておりました。
ちょうど良いので、カプレーゼとじゃがいものマリネを作りたいと思います。
───────
「やっぱりオランディの料理は良いねぇ、キー坊の店では出ないのが残念だけど……あ、泊まりに行けば出してくれるかねぇ?」
「宿泊先の宿で、これより良いものが食べられるかと思います」
師匠は空腹だったのか、カプレーゼを半分以上食べてしまい、残りを私が横から摘んでいるような状態になっています。
なくなったらまた作れば良いですし、余程お好きなのかもしれません。
「それでさ、ランの復帰の頃から気にはなってたんだけどねぇ……」
師匠はソファで眠っているルスランを横目で見て言います。
「君の血は催眠か何かの効果でもあるの? 人前で寝落ちするランなんて、初めて見るかもしれないねぇ」
料理を持って居間に戻ってから、ルスランからまたしても血を求められました。
今後背後から忍び寄らない条件で、ワイングラスに血を注いで渡しました。
「さぁ……何故私の血に固執するのかからよく分かりません」
それを飲みつつ、減ってからはワインを足して飲んでおりましたが、ある瞬間糸が切れたように眠ってしまいました。
「オーガの黒色種なんて、話でしか聞いた事ないからねぇ。ましてやそれの変異種なんて、食道楽のランからしたら出来るだけ味わっておきたいんだと思うよ」
「食道楽?」
「ランは何とでもキスしたがるんだけど、相手に証拠を残さないで血を味わう方法なんだってねぇ。少なくともランにとって血は一番美味しい蜜らしくて」
「生きるために必要なものではないのですか?」
「彼、吸血鬼と人間の良いとこをとったようなハーフでねぇ。血が美味しいと思うけど、無くても大丈夫とは言ってたねぇ」
確かに彼と暮らしていて、吸血鬼に見られる弱点らしいのは日中に運動能力が落ちるらしいというところくらいです。
なので、普通にしていれば夜型の生活をしている人間にしか見えないかもしれません。
「何かと強請られるだろうけど、まぁ減るもんじゃないし? 五分くらい我慢してあげても良いんじゃないかねぇ」
「師匠がお相手してあげれば良いかと思います」
「嫌だねぇ、男相手にそんなこと」
「なら私にも言わないで下さい」
師匠がジンを一口飲んでから、ルスランの様子を見て小さく首を傾げます。
「あのサ、あんまり考えたくない可能性なんだけどねぇ」
「何でしょうか」
「最初はジョーティの相手が嫌だったからで、君が来てからは君を留めるため……なんて事ないよねぇ?」
実は私も同じ可能性を頭の隅に置いております、ルスランの行動は色々と不自然です。
「否定はしませんが、ガラノフ様が怪しいのも事実かと思います」
「まぁそれもそうだねぇ」
これでガラノフ様も問題がなければ、師匠の侍従のイタズラとしてこの事件は解決でしょう。
私がオランディに帰るのも遠い話ではありません。
「ビャンコ様の協力はまだ頼めそうですし、機会があればまたお願いしたいと思います」
「あぁ助かるねぇ、鳩君暇なの?」
「帝国からの使節団の件でかなりお疲れでしたので、正式な休暇としてこちらに観光に来ているそうです」
休暇としてかなり長い期間をもらったと聞きましたので、来週でもかなり余裕があるそうです。
師匠とビャンコ様はあまり仲が良くありませんし、ジョーティとも喧嘩をしております。
彼がこの私邸に訪れることはもうないと思いますので、このまま平穏に過ごせる事を祈ります。
郊外の高級住宅の並ぶ辺りは人も少なく、静かにお酒を楽しむのにはとても適した環境と言えます。
今夜は昼間の訓練で疲れて寝てしまったジョーティを除き、師匠と侍従二人で今後の調査の話を肴にお酒を飲みかわしております。
今日は皆仕事は休みで、師匠とこうしてお酒を飲むのは私邸に来てから初めての事です。
初日に私が飲んだ高級酒はもちろん、ヴァローナの名産になっているワインやチーズが並んでいます。
暗めの照明と静かにピアノ曲が流れる私邸の居間は、貸切の高級クラブの一室を思わせます。
一通り今までの調査の内容を伝えたところで今に至ります。
「あぁ、ゲラーシーは違うねぇ。ギャンブルの駆け引きが好きなだけだし、ランに火付けるくらいならワイン漬けにして買い取るんじゃないかねぇ」
「おバカさんだなキーノスは。あのオッサンはお前が気になってるって言っただろ? なぜ僕に構うと思った?」
「私のような怪しい人物に関わろうとしてくる方でしたので候補に入れてましたが、あまりにもおかしな点がなかったため確証を得るのに時間がかかりました」
お二人から厳しい言葉をいただきましたが、そもそも確実に違う方なら先に言っておいてくれても良かったのではと思ってしまいます。
師匠はジンの入ったグラスを傾けながら、中の氷が揺れるのを眺めています。
「なんだってゲラーシーはキー坊が気になったかねぇ、ヴァローナで仮面つけてればまぁまぁ目につかないでしょ君は」
「どうせ初日から完璧なゲームコントロールやったんだろう? それ見て興味持たれたんじゃないか?」
「あぁ~やりそうだねぇ。どうせ私の仲介だって気付いてるだろうし、それで素性を明かしてやろうとしてたなら納得だねぇ」
お二人の推測通りかと思います。
ゲラーシー様に関して議論しても進まないと思いますので、本命の容疑者の話をした方が良さそうです。
「とりあえず容疑者はガラノフ様に絞って探ろうと思います」
「理由は?」
「基本はゲラーシー様と同様で、初日から私に話しかけてきた点と、言葉の端々に探りを入れてくるのが大きいです。特にルスランと入れ代わりになった点を気になさってる辺り、他の容疑者より可能性は高いと考えております」
ガラノフ様はゲラーシー様が私のテーブルにつく前まで私に話しかけながらゲームで粘っていた方です。
質問の内容もルスランに関することや私がカジノで働くようになった経緯などが多く、初めから容疑者の候補として最有力で考えていました。
「確かガラノフって女性向けのクラブのボーイだよねぇ。ランがいた店でもないし、なんで彼がランを気にするのかねぇ」
「あいつボーイだけどモテる事が自慢だったみたいだから、僕がモテるのが気に入らなかったんじゃないか?」
「それで君に火傷の一つでも負わせようとしたのかねぇ」
「ただのボーイが僕に? 無理に決まってる」
「君は火傷した時の詳細を言わないよねぇ、そこ話してくれたら私もキー坊も楽なんだけど」
そうです、そもそも二ヶ月もかかってしまっている最大の要因はルスランです。
彼が火傷を負った時の話を詳細に話してくれればもっと楽になりそうなものの「カジノが終わってからの記憶がなくて、気がついたら大火傷で寝てた」としか答えません。
「ま、仕方ないよね。分からないものは分からないんだから」
「術の痕跡も見当たらないしねぇ、薬でも飲まされたのかねぇ」
「……あー、カクテルは飲んだな」
「仕事中だよねぇ、誰かの奢り?」
「確か、ガラノフから甘ったるいの渡された」
師匠が呆気に取られて口を開けております。
私のも同じ気持ちです。
「そういうの先に言えないかねぇ、仮にも私の侍従なのにそこを言わないのはどうかと思うよ? キー坊借りるのも楽じゃないのが分からないかねぇ」
「このままいさせたら良いだろ」
「まさか、そんな事のために言わなかったんじゃないだろうねぇ?」
「半分以上はそれが理由だな」
被害者が調査の妨害をしてどうするつもりなのでしょうか、しかもそんな下らない理由で。
……とはいえ、新しく出た情報に関して聞いた方が良さそうです。
「カクテルの名前は分かりますか?」
「分からん」
「甘さ以外に、何か香りなどの特徴はありましたか?」
「覚えてない」
結局、イマイチ役にたちません。
しかし甘いカクテルなら、薬か毒を混ぜても味を誤魔化す事ができるでしょう。
「そうなると、何故私邸だったのかが気になります。カジノの近くでも燃やすことは可能だったはずですし」
「だからこそ私への攻撃の可能性を考えてるんだよねぇ、ランも敵は多いからねぇ」
「それに、カクテルに混ぜた毒を時間差で効果が出る物にしておけば、そもそも燃やす必要もありません」
「やっぱ私宛かねぇ、にしても半端だよねぇ。ジョーティが来るタイミングなのも意味がありそうだよねぇ」
「ガラノフ様が犯人なら、そこも明らかにする事が出来るかもしれません。二ヶ月であらゆる可能性は潰してきましたし、今もフィルマが見張ってくれています」
カジノの客でルスランと縁のある方全員の師匠との関係性を調べ、当時の行動を調べ……フィルマとリィの協力でなんとか三人まで絞り込めたのが先週の事です。
そこからまた時間がかかると思っていましたが、ビャンコ様の協力で候補の一人を簡単に外す事ができました。
「まぁ、しばらくはまた様子見かねぇ。とりあえず明日も休みだし飲もうか」
「キーノス、追加のツマミ作ってくれ。チーズだけだと飽きる」
「かしこまりました」
私も何か野菜を使った物が食べたいと考えておりました。
ちょうど良いので、カプレーゼとじゃがいものマリネを作りたいと思います。
───────
「やっぱりオランディの料理は良いねぇ、キー坊の店では出ないのが残念だけど……あ、泊まりに行けば出してくれるかねぇ?」
「宿泊先の宿で、これより良いものが食べられるかと思います」
師匠は空腹だったのか、カプレーゼを半分以上食べてしまい、残りを私が横から摘んでいるような状態になっています。
なくなったらまた作れば良いですし、余程お好きなのかもしれません。
「それでさ、ランの復帰の頃から気にはなってたんだけどねぇ……」
師匠はソファで眠っているルスランを横目で見て言います。
「君の血は催眠か何かの効果でもあるの? 人前で寝落ちするランなんて、初めて見るかもしれないねぇ」
料理を持って居間に戻ってから、ルスランからまたしても血を求められました。
今後背後から忍び寄らない条件で、ワイングラスに血を注いで渡しました。
「さぁ……何故私の血に固執するのかからよく分かりません」
それを飲みつつ、減ってからはワインを足して飲んでおりましたが、ある瞬間糸が切れたように眠ってしまいました。
「オーガの黒色種なんて、話でしか聞いた事ないからねぇ。ましてやそれの変異種なんて、食道楽のランからしたら出来るだけ味わっておきたいんだと思うよ」
「食道楽?」
「ランは何とでもキスしたがるんだけど、相手に証拠を残さないで血を味わう方法なんだってねぇ。少なくともランにとって血は一番美味しい蜜らしくて」
「生きるために必要なものではないのですか?」
「彼、吸血鬼と人間の良いとこをとったようなハーフでねぇ。血が美味しいと思うけど、無くても大丈夫とは言ってたねぇ」
確かに彼と暮らしていて、吸血鬼に見られる弱点らしいのは日中に運動能力が落ちるらしいというところくらいです。
なので、普通にしていれば夜型の生活をしている人間にしか見えないかもしれません。
「何かと強請られるだろうけど、まぁ減るもんじゃないし? 五分くらい我慢してあげても良いんじゃないかねぇ」
「師匠がお相手してあげれば良いかと思います」
「嫌だねぇ、男相手にそんなこと」
「なら私にも言わないで下さい」
師匠がジンを一口飲んでから、ルスランの様子を見て小さく首を傾げます。
「あのサ、あんまり考えたくない可能性なんだけどねぇ」
「何でしょうか」
「最初はジョーティの相手が嫌だったからで、君が来てからは君を留めるため……なんて事ないよねぇ?」
実は私も同じ可能性を頭の隅に置いております、ルスランの行動は色々と不自然です。
「否定はしませんが、ガラノフ様が怪しいのも事実かと思います」
「まぁそれもそうだねぇ」
これでガラノフ様も問題がなければ、師匠の侍従のイタズラとしてこの事件は解決でしょう。
私がオランディに帰るのも遠い話ではありません。
「ビャンコ様の協力はまだ頼めそうですし、機会があればまたお願いしたいと思います」
「あぁ助かるねぇ、鳩君暇なの?」
「帝国からの使節団の件でかなりお疲れでしたので、正式な休暇としてこちらに観光に来ているそうです」
休暇としてかなり長い期間をもらったと聞きましたので、来週でもかなり余裕があるそうです。
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