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第二話 継母イザーネの野心
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「これでこの伯爵家も正真正銘、私たちのものとなりますわね、ブロイド様」
「ふむ、だが分からないことがあるんだ」
「あら、なんですの?」
「イザーネ夫人、本来ドラゴンに捧げる領主の娘は、若い罪人の女を養女にしてから花嫁に仕立てると聞いている。なのに何故アリシアを花嫁に?」
本当にこのブロイドという男は愚鈍なのだなとイザーネは思った。しかしだからこそ扱いやすくていいのだ。
アリシアをドラゴンの花嫁として差し出す日を明日にと控え、ロマーダ伯爵邸ではイザーネとブロイドが居間で寛ぎながら、えげつない話をしている。
「だって正統継承者のアリシアが生きていたら、私の娘がブロイド様を伯爵家当主としてお迎え出来ないじゃありませんか」
「そうか、まあ僕は当主になれれば妻はどちらでも構わんがね。三男の冷飯食いで終わるのだけはごめんだよ」
「まあ、つれない言い様ですこと。娘のメリーザを可愛がってはくれませんの?」
「もちろん妻となればメリーザを可愛がるさ。見映えは美しいアリシアには劣るが、僕はあまりそういう事は気にならない」
イザーネの連れ子であるメリーザはアリシアより二歳年上の姉である。イザーネと同じ三白眼の持ち主で確かに美人とは言い難い。その性格もまたイザーネによく似ていた。
イザーネの本心は十二歳になる息子をロマーダ家の当主にしたかったのだが、年齢的にもまだ無理であったし、早く既成事実を作ってしまいたいという焦りもあった。
というのも、本来はイザーネとその子供たちにはロマーダ家の継承権がないからだ。血縁者のみにその権利は与えられている。
つまりイザーネのしようとしている事は、かなり強引な乗っ取り行為なのである。
「よろしいですかブロイド様。この継承の成功は、貴方のご実家のブロウペン侯爵家の政治力が頼りです。それ無しでは成し得ない事をお忘れなき様に」
「ふむ、まあ父も僕がロマーダ伯爵になれば喜ぶだろうし、そこは何とかしてくれるだろうさ」
イザーネはこの愚鈍な男に心の中で舌打ちをした。この計画の仲間としては扱いやすいが、心許ないのも事実。
しかしこのドラゴンが棲み付いたという千載一遇のチャンスを逃さないためには、もはや躊躇をしている暇はないのだ。イザーネの野心は強くその背中を押していた。
翌朝早くにアリシアは沐浴をすませると、純白の花嫁衣裳に身を包みドラゴンの花嫁となる準備を終えた。
どこからみても美しい花嫁である。長い金髪と大きなブルーの瞳が純白の中で輝いているようだ。
その花嫁は己の運命をようやく受け入れたという穏やかな顔をしている。
そして流れる雲を見上げると、とらえどころの無い眼差しでずっと眺めていた。
やがて朝の澄んだ空気を濁らすかのようにイザーネが現れると、アリシアは少しだけ名残惜しそうにしながら雲から目を離し、イザーネへと言葉を残す。
「ではお継母さま、ロマーダ家のことをよろしくお願い致します」
「アリシアが心配することなんて何もありはしないよ。メリーザが婿をとってこの家の女主人になるからね」
「お姉さまが?」
「そうさ、もう婚約も済ませたよ、誰だと思うね?」
アリシアはそういう政略的な話は苦手で全く予想もつかない。せっかくのお目出度い話なのに、気のきいた返事もできない自分にがっかりした。
「ごめんなさいお継母さま、私にはさっぱり……」
「あんたのよく知っている人さ」
「まあ、誰かしら?」
「ブロイド様だよ、あんたの元婚約者のね!」
そう言って下品に笑うイザーネの声は、アリシアに届くことはなかったろう。
ほんの数日前まで自分の婚約者だったブロイドが、いまは姉のメリーザの婚約者だという事実がアリシアを酷く混乱させ、また呆然とさせたからだ。
「ブロイドさまが?……なぜ」
アリシアの独り言のようなつぶやきに答えたのは、むろんイザーネである。
「ブロイド様はね、別にあんたじゃなくてもいいって事だよ」
運命はとことん残酷なのね。
アリシアはせめて知らずに逝きたかったのにと、もう一度だけ流れる雲を見上げるのであった。
「ふむ、だが分からないことがあるんだ」
「あら、なんですの?」
「イザーネ夫人、本来ドラゴンに捧げる領主の娘は、若い罪人の女を養女にしてから花嫁に仕立てると聞いている。なのに何故アリシアを花嫁に?」
本当にこのブロイドという男は愚鈍なのだなとイザーネは思った。しかしだからこそ扱いやすくていいのだ。
アリシアをドラゴンの花嫁として差し出す日を明日にと控え、ロマーダ伯爵邸ではイザーネとブロイドが居間で寛ぎながら、えげつない話をしている。
「だって正統継承者のアリシアが生きていたら、私の娘がブロイド様を伯爵家当主としてお迎え出来ないじゃありませんか」
「そうか、まあ僕は当主になれれば妻はどちらでも構わんがね。三男の冷飯食いで終わるのだけはごめんだよ」
「まあ、つれない言い様ですこと。娘のメリーザを可愛がってはくれませんの?」
「もちろん妻となればメリーザを可愛がるさ。見映えは美しいアリシアには劣るが、僕はあまりそういう事は気にならない」
イザーネの連れ子であるメリーザはアリシアより二歳年上の姉である。イザーネと同じ三白眼の持ち主で確かに美人とは言い難い。その性格もまたイザーネによく似ていた。
イザーネの本心は十二歳になる息子をロマーダ家の当主にしたかったのだが、年齢的にもまだ無理であったし、早く既成事実を作ってしまいたいという焦りもあった。
というのも、本来はイザーネとその子供たちにはロマーダ家の継承権がないからだ。血縁者のみにその権利は与えられている。
つまりイザーネのしようとしている事は、かなり強引な乗っ取り行為なのである。
「よろしいですかブロイド様。この継承の成功は、貴方のご実家のブロウペン侯爵家の政治力が頼りです。それ無しでは成し得ない事をお忘れなき様に」
「ふむ、まあ父も僕がロマーダ伯爵になれば喜ぶだろうし、そこは何とかしてくれるだろうさ」
イザーネはこの愚鈍な男に心の中で舌打ちをした。この計画の仲間としては扱いやすいが、心許ないのも事実。
しかしこのドラゴンが棲み付いたという千載一遇のチャンスを逃さないためには、もはや躊躇をしている暇はないのだ。イザーネの野心は強くその背中を押していた。
翌朝早くにアリシアは沐浴をすませると、純白の花嫁衣裳に身を包みドラゴンの花嫁となる準備を終えた。
どこからみても美しい花嫁である。長い金髪と大きなブルーの瞳が純白の中で輝いているようだ。
その花嫁は己の運命をようやく受け入れたという穏やかな顔をしている。
そして流れる雲を見上げると、とらえどころの無い眼差しでずっと眺めていた。
やがて朝の澄んだ空気を濁らすかのようにイザーネが現れると、アリシアは少しだけ名残惜しそうにしながら雲から目を離し、イザーネへと言葉を残す。
「ではお継母さま、ロマーダ家のことをよろしくお願い致します」
「アリシアが心配することなんて何もありはしないよ。メリーザが婿をとってこの家の女主人になるからね」
「お姉さまが?」
「そうさ、もう婚約も済ませたよ、誰だと思うね?」
アリシアはそういう政略的な話は苦手で全く予想もつかない。せっかくのお目出度い話なのに、気のきいた返事もできない自分にがっかりした。
「ごめんなさいお継母さま、私にはさっぱり……」
「あんたのよく知っている人さ」
「まあ、誰かしら?」
「ブロイド様だよ、あんたの元婚約者のね!」
そう言って下品に笑うイザーネの声は、アリシアに届くことはなかったろう。
ほんの数日前まで自分の婚約者だったブロイドが、いまは姉のメリーザの婚約者だという事実がアリシアを酷く混乱させ、また呆然とさせたからだ。
「ブロイドさまが?……なぜ」
アリシアの独り言のようなつぶやきに答えたのは、むろんイザーネである。
「ブロイド様はね、別にあんたじゃなくてもいいって事だよ」
運命はとことん残酷なのね。
アリシアはせめて知らずに逝きたかったのにと、もう一度だけ流れる雲を見上げるのであった。
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