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第四話 花嫁として
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ドラゴンが言ったようにアリシアはいまドラゴンの目の前に辿り着いていた。白銀色をした鱗に覆われ翼をたたんで横たわる大きな身体は、幼い頃に本で見た恐ろしいドラゴンの挿絵によく似ている。
なのに少しも恐くはなかった。
「はじめましてドラゴンさま」
「ああ、はじめましてアリシアさん。俺の名前はラフィンドルだ。ラフィと呼んでおくれ」
「わかりましたラフィンドルさま、あ、いえ、ラフィさま」
「うんうん、長い名前は呼びづらいからね。それで、アリシアは何の用でここへ来たのかな? 道に迷ったかい? それにしては花嫁衣裳というのは珍しいけれど」
ラフィンドルはいかにも物珍しそうにアリシアを見ている。好奇心が刺激されたというところだろう。元来ドラゴンというのは好奇心が強い生き物だと言うが。
「珍しいでしょうか? ラフィさまのところにやって来る人間の娘はみな、この様な花嫁衣裳なのかと思っておりました」
「ははは、君は面白いことを言うね。それじゃまるで俺が何人もの花嫁を持っているかのようじゃないか」
「違うのですか? 私はここへ『ドラゴンの花嫁』として参ったのですが……」
アリシアは念のために、和平を望む証として自分がここへ来た事を説明した。
説明していくうちにラフィンドルの顔が驚きへと変わるのを見たアリシアは、何か自分が過ちを犯してしまったせいなのかと心配になったようだ。
「な、なんと言う事だ……俺はドラゴンとして千二百年は生きている。確かにこの国に留まるのは初めてではあるが、今までそのような慣わしに御目にかかったことなどは一度もないぞ!?」
「そうなのですか?」
「だいたいドラゴンに人間の花嫁というのが馬鹿げている。異種族間の婚姻はたまにはあるが、ドラゴンと人間とでは話にならなかろう」
「あ、いえ……それは」
「ん? それは、なんだね?」
アリシアは自分は本当の花嫁ではなくてドラゴンの餌なのだと説明しようと思ったが、それを話すと何とも気まずい雰囲気になりそうで少し困惑する。
「はい、あの……つまり私はラフィさまへの捧げ物という意味で……」
「捧げ物?……あ、それはまさか……」
こくんと無言で頷いてみせたアリシアに、ラフィンドルは大きな目を更に大きくさせた。
「なるほどな。かつてこの国に棲み付いていたドラゴンたちは、かなり程度の低い野蛮なものたちであったようだね」
そして溜め息をつき、どことなく居づらそうにし始めたアリシアを気遣ってその声を和らげた。
「いいかいアリシア、ドラゴンにも色々な者がいるのだ。おそらくその低俗なドラゴンどものせいで、この国に悪しき慣わしが出来てしまったのだろう──だからね、君は俺の花嫁になる必要などないのだよ」
「ラフィさま?」
「確かに俺とて昔は人間たちと戦い、その命を奪ったこともある。それも決して少ない回数ではない。だが、あくまで戦う理由があってのことだ、ましてや人間を食べる為に殺すなど有り得んことだよ!」
「す、すみません……」
少々語気が荒くなってしまいアリシアを恐がらせてしまった事に気づいたラフィンドルは、慌てて謝罪した。
「いやアリシアが謝ることはない、俺こそ恐がらせてしまってすまなかった」
「いえ、そんな……あの、それより先ほど仰った、私が花嫁になる必要がないというのは……」
「うむ、俺は花嫁などなくとも端から和平を望んでいる。アリシアよ、帰ってそう皆に伝えてくれぬか?」
だが、アリシアはそれには応えずにただ黙って俯き続けた。
「どうした? なぜ黙っている?」
ラフィンドルがそう訊いてもアリシアは黙っていた。
その娘の心をはかりかねていたラフィンドルもまた、少し困り顔で黙っているしかなかった様であった。
なのに少しも恐くはなかった。
「はじめましてドラゴンさま」
「ああ、はじめましてアリシアさん。俺の名前はラフィンドルだ。ラフィと呼んでおくれ」
「わかりましたラフィンドルさま、あ、いえ、ラフィさま」
「うんうん、長い名前は呼びづらいからね。それで、アリシアは何の用でここへ来たのかな? 道に迷ったかい? それにしては花嫁衣裳というのは珍しいけれど」
ラフィンドルはいかにも物珍しそうにアリシアを見ている。好奇心が刺激されたというところだろう。元来ドラゴンというのは好奇心が強い生き物だと言うが。
「珍しいでしょうか? ラフィさまのところにやって来る人間の娘はみな、この様な花嫁衣裳なのかと思っておりました」
「ははは、君は面白いことを言うね。それじゃまるで俺が何人もの花嫁を持っているかのようじゃないか」
「違うのですか? 私はここへ『ドラゴンの花嫁』として参ったのですが……」
アリシアは念のために、和平を望む証として自分がここへ来た事を説明した。
説明していくうちにラフィンドルの顔が驚きへと変わるのを見たアリシアは、何か自分が過ちを犯してしまったせいなのかと心配になったようだ。
「な、なんと言う事だ……俺はドラゴンとして千二百年は生きている。確かにこの国に留まるのは初めてではあるが、今までそのような慣わしに御目にかかったことなどは一度もないぞ!?」
「そうなのですか?」
「だいたいドラゴンに人間の花嫁というのが馬鹿げている。異種族間の婚姻はたまにはあるが、ドラゴンと人間とでは話にならなかろう」
「あ、いえ……それは」
「ん? それは、なんだね?」
アリシアは自分は本当の花嫁ではなくてドラゴンの餌なのだと説明しようと思ったが、それを話すと何とも気まずい雰囲気になりそうで少し困惑する。
「はい、あの……つまり私はラフィさまへの捧げ物という意味で……」
「捧げ物?……あ、それはまさか……」
こくんと無言で頷いてみせたアリシアに、ラフィンドルは大きな目を更に大きくさせた。
「なるほどな。かつてこの国に棲み付いていたドラゴンたちは、かなり程度の低い野蛮なものたちであったようだね」
そして溜め息をつき、どことなく居づらそうにし始めたアリシアを気遣ってその声を和らげた。
「いいかいアリシア、ドラゴンにも色々な者がいるのだ。おそらくその低俗なドラゴンどものせいで、この国に悪しき慣わしが出来てしまったのだろう──だからね、君は俺の花嫁になる必要などないのだよ」
「ラフィさま?」
「確かに俺とて昔は人間たちと戦い、その命を奪ったこともある。それも決して少ない回数ではない。だが、あくまで戦う理由があってのことだ、ましてや人間を食べる為に殺すなど有り得んことだよ!」
「す、すみません……」
少々語気が荒くなってしまいアリシアを恐がらせてしまった事に気づいたラフィンドルは、慌てて謝罪した。
「いやアリシアが謝ることはない、俺こそ恐がらせてしまってすまなかった」
「いえ、そんな……あの、それより先ほど仰った、私が花嫁になる必要がないというのは……」
「うむ、俺は花嫁などなくとも端から和平を望んでいる。アリシアよ、帰ってそう皆に伝えてくれぬか?」
だが、アリシアはそれには応えずにただ黙って俯き続けた。
「どうした? なぜ黙っている?」
ラフィンドルがそう訊いてもアリシアは黙っていた。
その娘の心をはかりかねていたラフィンドルもまた、少し困り顔で黙っているしかなかった様であった。
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