4 / 12
第四話 花嫁として
しおりを挟む
ドラゴンが言ったようにアリシアはいまドラゴンの目の前に辿り着いていた。白銀色をした鱗に覆われ翼をたたんで横たわる大きな身体は、幼い頃に本で見た恐ろしいドラゴンの挿絵によく似ている。
なのに少しも恐くはなかった。
「はじめましてドラゴンさま」
「ああ、はじめましてアリシアさん。俺の名前はラフィンドルだ。ラフィと呼んでおくれ」
「わかりましたラフィンドルさま、あ、いえ、ラフィさま」
「うんうん、長い名前は呼びづらいからね。それで、アリシアは何の用でここへ来たのかな? 道に迷ったかい? それにしては花嫁衣裳というのは珍しいけれど」
ラフィンドルはいかにも物珍しそうにアリシアを見ている。好奇心が刺激されたというところだろう。元来ドラゴンというのは好奇心が強い生き物だと言うが。
「珍しいでしょうか? ラフィさまのところにやって来る人間の娘はみな、この様な花嫁衣裳なのかと思っておりました」
「ははは、君は面白いことを言うね。それじゃまるで俺が何人もの花嫁を持っているかのようじゃないか」
「違うのですか? 私はここへ『ドラゴンの花嫁』として参ったのですが……」
アリシアは念のために、和平を望む証として自分がここへ来た事を説明した。
説明していくうちにラフィンドルの顔が驚きへと変わるのを見たアリシアは、何か自分が過ちを犯してしまったせいなのかと心配になったようだ。
「な、なんと言う事だ……俺はドラゴンとして千二百年は生きている。確かにこの国に留まるのは初めてではあるが、今までそのような慣わしに御目にかかったことなどは一度もないぞ!?」
「そうなのですか?」
「だいたいドラゴンに人間の花嫁というのが馬鹿げている。異種族間の婚姻はたまにはあるが、ドラゴンと人間とでは話にならなかろう」
「あ、いえ……それは」
「ん? それは、なんだね?」
アリシアは自分は本当の花嫁ではなくてドラゴンの餌なのだと説明しようと思ったが、それを話すと何とも気まずい雰囲気になりそうで少し困惑する。
「はい、あの……つまり私はラフィさまへの捧げ物という意味で……」
「捧げ物?……あ、それはまさか……」
こくんと無言で頷いてみせたアリシアに、ラフィンドルは大きな目を更に大きくさせた。
「なるほどな。かつてこの国に棲み付いていたドラゴンたちは、かなり程度の低い野蛮なものたちであったようだね」
そして溜め息をつき、どことなく居づらそうにし始めたアリシアを気遣ってその声を和らげた。
「いいかいアリシア、ドラゴンにも色々な者がいるのだ。おそらくその低俗なドラゴンどものせいで、この国に悪しき慣わしが出来てしまったのだろう──だからね、君は俺の花嫁になる必要などないのだよ」
「ラフィさま?」
「確かに俺とて昔は人間たちと戦い、その命を奪ったこともある。それも決して少ない回数ではない。だが、あくまで戦う理由があってのことだ、ましてや人間を食べる為に殺すなど有り得んことだよ!」
「す、すみません……」
少々語気が荒くなってしまいアリシアを恐がらせてしまった事に気づいたラフィンドルは、慌てて謝罪した。
「いやアリシアが謝ることはない、俺こそ恐がらせてしまってすまなかった」
「いえ、そんな……あの、それより先ほど仰った、私が花嫁になる必要がないというのは……」
「うむ、俺は花嫁などなくとも端から和平を望んでいる。アリシアよ、帰ってそう皆に伝えてくれぬか?」
だが、アリシアはそれには応えずにただ黙って俯き続けた。
「どうした? なぜ黙っている?」
ラフィンドルがそう訊いてもアリシアは黙っていた。
その娘の心をはかりかねていたラフィンドルもまた、少し困り顔で黙っているしかなかった様であった。
なのに少しも恐くはなかった。
「はじめましてドラゴンさま」
「ああ、はじめましてアリシアさん。俺の名前はラフィンドルだ。ラフィと呼んでおくれ」
「わかりましたラフィンドルさま、あ、いえ、ラフィさま」
「うんうん、長い名前は呼びづらいからね。それで、アリシアは何の用でここへ来たのかな? 道に迷ったかい? それにしては花嫁衣裳というのは珍しいけれど」
ラフィンドルはいかにも物珍しそうにアリシアを見ている。好奇心が刺激されたというところだろう。元来ドラゴンというのは好奇心が強い生き物だと言うが。
「珍しいでしょうか? ラフィさまのところにやって来る人間の娘はみな、この様な花嫁衣裳なのかと思っておりました」
「ははは、君は面白いことを言うね。それじゃまるで俺が何人もの花嫁を持っているかのようじゃないか」
「違うのですか? 私はここへ『ドラゴンの花嫁』として参ったのですが……」
アリシアは念のために、和平を望む証として自分がここへ来た事を説明した。
説明していくうちにラフィンドルの顔が驚きへと変わるのを見たアリシアは、何か自分が過ちを犯してしまったせいなのかと心配になったようだ。
「な、なんと言う事だ……俺はドラゴンとして千二百年は生きている。確かにこの国に留まるのは初めてではあるが、今までそのような慣わしに御目にかかったことなどは一度もないぞ!?」
「そうなのですか?」
「だいたいドラゴンに人間の花嫁というのが馬鹿げている。異種族間の婚姻はたまにはあるが、ドラゴンと人間とでは話にならなかろう」
「あ、いえ……それは」
「ん? それは、なんだね?」
アリシアは自分は本当の花嫁ではなくてドラゴンの餌なのだと説明しようと思ったが、それを話すと何とも気まずい雰囲気になりそうで少し困惑する。
「はい、あの……つまり私はラフィさまへの捧げ物という意味で……」
「捧げ物?……あ、それはまさか……」
こくんと無言で頷いてみせたアリシアに、ラフィンドルは大きな目を更に大きくさせた。
「なるほどな。かつてこの国に棲み付いていたドラゴンたちは、かなり程度の低い野蛮なものたちであったようだね」
そして溜め息をつき、どことなく居づらそうにし始めたアリシアを気遣ってその声を和らげた。
「いいかいアリシア、ドラゴンにも色々な者がいるのだ。おそらくその低俗なドラゴンどものせいで、この国に悪しき慣わしが出来てしまったのだろう──だからね、君は俺の花嫁になる必要などないのだよ」
「ラフィさま?」
「確かに俺とて昔は人間たちと戦い、その命を奪ったこともある。それも決して少ない回数ではない。だが、あくまで戦う理由があってのことだ、ましてや人間を食べる為に殺すなど有り得んことだよ!」
「す、すみません……」
少々語気が荒くなってしまいアリシアを恐がらせてしまった事に気づいたラフィンドルは、慌てて謝罪した。
「いやアリシアが謝ることはない、俺こそ恐がらせてしまってすまなかった」
「いえ、そんな……あの、それより先ほど仰った、私が花嫁になる必要がないというのは……」
「うむ、俺は花嫁などなくとも端から和平を望んでいる。アリシアよ、帰ってそう皆に伝えてくれぬか?」
だが、アリシアはそれには応えずにただ黙って俯き続けた。
「どうした? なぜ黙っている?」
ラフィンドルがそう訊いてもアリシアは黙っていた。
その娘の心をはかりかねていたラフィンドルもまた、少し困り顔で黙っているしかなかった様であった。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる
鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳――
それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。
公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。
だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、
王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。
政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。
紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが――
魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、
まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。
「……私が女王? 冗談じゃないわ」
回避策として動いたはずが、
誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。
しかも彼は、
幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた――
年を取らぬ姿のままで。
永遠に老いない少女と、
彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。
王妃になどなる気はない。
けれど、逃げ続けることももうできない。
これは、
歴史の影に生きてきた少女が、
はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。
ざまぁも陰謀も押し付けない。
それでも――
この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。
白い結婚をご希望ですか? 良いですよ。私はジャガイモと筋肉を育てますので!
松本雀
恋愛
「……いいか、エルゼ。あらかじめ言っておくが、私は君を愛するつもりはない」
「願ったり叶ったりです! 実は私、国境警備隊に幼馴染の恋人がいまして。この結婚が決まった時、二人で『体は売っても心は売らない』って涙ながらに誓い合ったんです。閣下が愛してくださらないなら、私の貞操も守られます! ありがとうございます、公爵閣下!」
「……こいびと?」
◆
「君を愛するつもりはない」
冷徹な公爵ギルベルトが新婚初夜に放った非情な宣告。しかし、新妻エルゼの反応は意外なものだった。
「よかった! 実は私、国境警備隊に恋人がいるんです!」
利害が一致したとばかりに秒速で就寝するエルゼ。彼女の目的は、愛なき結婚生活を隠れ蓑に、恋人への想いを込めた「究極のジャガイモ」を育てることだった!
公爵家の庭園を勝手に耕し、プロテインを肥料にするエルゼに、最初は呆れていたギルベルト。だが、彼女のあまりにフリーダムな振る舞いと、恋人への一途(?)な情熱を目の当たりにするうち、冷徹だった彼の心(と筋肉)に異変が起き始めて……!?
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
殿下、私以外の誰かを愛してください。
ハチワレ
恋愛
公爵令嬢ラブリーは、第一王子クロードを誰よりも愛していました。しかし、自分の愛が重すぎて殿下の負担になっている(と勘違いした)彼女は、愛する殿下を自由にするため、あえて「悪役令嬢」として振る舞い、円満に婚約破棄されるという前代未聞の計画を立てる。協力者として男爵令嬢ミリーを「ヒロイン役」に任命し、準備は整った。
いつも唐揚げ弁当しか頼まない彼の秘密
加藤ラスク
恋愛
まさか私が異世界転生するなんて!
転生先は何度もやり込んだゲーム『みんな勇者〜ラブ&ピースは世界を救う〜』の世界。
けれども転生したのはチート能力なんてない、なんなら特殊スキルもない、ただのモブ一般人。
だから大人しく前世で得意だった料理スキルを活かしてお弁当屋さんを始めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる