柴イヌのコテツですが異世界ってなんですか?

灰色テッポ

文字の大きさ
15 / 53
第一章 柴イヌ、冒険者になる

第十五話 闇を駆けろ

しおりを挟む
「コテツさん、もう朝ですわよ? 起きないのですか?」

「起きません」

「私が歯を磨いて差しあげますよ?」

「磨きません」

「ご飯たべましょうよ?」

「骨かじっているのでいいです」

「はぁ、すっかり不貞腐ふてくされていますわね」

「…………」

 モニカさんの言う通り、オレは不貞腐れています。なのでギルドの床で背中を向けて寝ているのです。
 べつにモニカさんに対してではありません。でも不貞腐れていたいのです!

「そのうちコテツさんにも出来るCランク依頼はきますわよ、だから機嫌なおしてね。まあ、個人的には不貞腐れているイケメンも大好物ですがっ!」

 そうなのです。オレはせっかくCランクというものになったのに、オレに出来るCランクの依頼がないのです。
 これではリリアンさんと同じランクにはなれません……

 Cランクになると弱い魔物さんを倒すのが仕事になるそうなんですが、そんなの可哀想でイヌのオレにはできません!

 イヌが戦うのは狩りをするか大事な人を守るか、それか自分の身を守るかだけです。
 見ず知らずの魔物さんとなんで戦って倒さなくちゃいけないのか、わけがわからないですよ!

 じゃあその弱い魔物さんを狩って食べようかと思ったのですが、モニカさんが言うには依頼にあるスライモ? スライム? とか、キラーブー? ビー? とかは食べられないそうです。

 でもたまに食べられる魔物さんの依頼もあるから、それまで待てと……

 あとは要人警護とかいうのがあるそうです。これは番犬をすればいいという、まさにイヌのための仕事! と思ったのですが、知らない人の番犬になれというのです。
 そんなこと出来るわけがありませんっ!

 だってイヌが番犬をするのは自分の縄張りだからですよ。このギルドの番犬になら喜んでなりますが、知らない人の縄張りの番犬などイヌの倫理に反しますっ!

 そんなわけでオレは何も出来ることがなくて不貞腐れているのです。
 
「リリアンたちはちょうど村に着いている頃合いですわね」

 オレは不貞腐れてモニカさんに背中を向けたままききました。

「……戦いってすぐに始まるのですか?」

「昨晩の村からの連絡では、オークはまだ現れる気配を見せていないようですわ。オークは夜行性ですから襲撃があるとすれば今晩以降でしょうか」

「そうですか……」

「もう少し経てば村からトンビが飛んできて、もっと詳しい報告をパーティーメンバーが届けてくれますわ」

「四つ目トンビ?」

「通信用の鳥ですね。とても速く飛ぶ鳥で、村とギルドの距離ならあっという間です」

 そのあとも不貞腐れたまま寝ていたら、しばらくして本当にすぐトンビさんがやって来たのです。
 パーティーメンバーで村人たちを避難させ、オーク迎撃の準備を始めるそうだとモニカさんは教えてくれました。

 せっかくなのでトンビさんともお話をしてみたオレは、ちょっとビックリなことを聞いてしまいます。

「ヤバいピア! 俺は空から見たピア! オークは家来ピア! あれはウルクの群れピア!」

「ウルクって強いんですよね?」

「そうだピア! それが沢山いるピア!」

 鳥はウソつきが多いので完全には信用できないのですが、やはり心配になりすぐさまモニカさんにトンビがそう話していたと伝えたのですが……

「ああ、可哀想に……心配しすぎて幻聴まで聴こえてしまったのですわね……」

 そう言ってオレを嬉そうに抱き締めるだけで相手にはしてくれませんでした。

 なんだかとても心配です。心配でもオレに出来ることはなにもありません。


 結局今日はずっとこうしてギルドの床で寝て待つだけでした。リリアンさんが帰ってくるのを待つことしかオレにはできないのです。
 もう、お日さまも沈みます……

 ふと窓の外を見たら、向かいの家の屋根をニャンキチが歩いていました。
 ちょうどいいです、気晴らしにニャンキチをからかってやりましょう!

「おい、ニャンキチ!」

「誰ニャ! あっ、お前は人間の姿をした悪いイヌニャッ! イヌのくせに屋根の上になぜいるニャっ」

「また野良ネコになりたくて逃げてきたのですか?」

「違うニャ、ただのお散歩ニャ、ババアが俺に遠くへ行けない魔法をかけたニャ……ババアが死ぬまでもう野良にはなれないニャ! 早く死ぬニャッ!」

「ニャンキチはウルクって動物を知ってますか?」

「ウルク? なんニャ? 美味しいニャか?」

 はぁ、ニャンキチなんかにきいたオレが馬鹿でした。どうも心配でその話ばかりしてしまいます。

「どうしたニャ? 今日は憎たらしい元気さがニャいニャ? いい気味ニャ!」

「ふっ……役立たずのイヌというのはミジメなものなのですよ、所詮ネコにはわからないでしょうけどね!」

「当たり前ニャ! 誰かの役に立つとか馬鹿が考えることニャ! イヌは馬鹿ニャ、飼い主の奴隷ニャ!」

「今回はご主人様ではありません。おともだちの役に立ちたかったのです……」

 オレはリリアンさんのために冒険者ランクを上げられないイライラ感と、危険な戦いに同行できないガッカリ感を話しました。
 ニャンキチごときにです! でも時には我慢強いイヌでも誰かに愚痴りたいこともあるのです……

「ウケるニャ~ッ、やっぱお前馬鹿ニャ! 冒険者って人間がなるものニャろ? ニャんで人間の真似して命令に従うニャ? イヌは飼い主の命令だけに従うものニャないニャか?」

「うっ! 確かに……」

「お前の人間のともだちがお前の飼い主ニャのか? だから待てと言ったニャか?」

「ち、違います……」

「じゃあ好きにするニャ。勝手に助けに行けばいいニャ、イヌはイヌらしく生きればいいニャ! 飼い主以外はくそニャ! ネコにとっては飼い主も糞ニャっ! ババア死ねニャッ!」

 これはショックです。ニャンキチごときに負けた感じがして悔しいです。
 でも……ニャンキチは間違ったことは言ってませんね……

「しかし勝手に行くのはいいとして、せっかく出会えても追い返されたら意味がありません……」

「なら隠れてついて行けばいいニャろ?」

 そ、そうでした、その手がありましたっ! くっ、またニャンキチに負けた……

「馬鹿に付き合うと疲れるニャ! 俺はもう行くニャ」

 そう捨てゼリフを残してニャンキチは行ってしまいました。空にはもういつの間にかお月様がのぼっています。

 オレはご主人様とはぐれ、もう逢えないかもしれないという心細さから、ご主人様に代わるなにかを求めていたのかもしれません。

 もしかしたらそれがリリアンさんやモニカさんだったのかも……

 でもニャンキチの言う通りです! オレが従うのはご主人様の命令だけです。
 おともだちを助けたいと思う気持ちを邪魔するジェインさんも、ギルドのルールもオレを従わせることはできませんっ!

 なんだか元気がでてきましたよっ! ご飯を食べてさっそくリリアンさんを助けに行きましょう! こっそり隠れて!

 オレは意気揚々としてギルドに戻ってきたのですが、なんだかずいぶんと騒がしくて、不穏な匂いがただよっていました。

 どうしたのかと思いモニカさんに聞こうとしたら、モニカさんはギルド支部長という偉いヒゲのおじさんと深刻な感じで話をしています。

「とにかくすぐに領主に掛け合って軍隊を動員させて下さい! このままじゃ村だけでなくパーティーメンバーも全滅してしまいますよッ!」

「モニカ、そうは言ってもあのケチな領主が動くわけあるまい」

「それを動かすのが支部長の仕事でしょッ!」

「うむう……」

「どなたかっ! どなたかBランカーの冒険者の方で、救出隊として急行して頂ける方はいませんかッ!? 一刻を争うのです! お願いしますッ!」

 こんなに慌てたモニカさんを見るのは初めてです。恐怖の匂いがすごいです……
 なんだかとてもイヤな予感がします。

「そんな事言われてもなあ……オーク五十匹の群れだという話が、実はウルクが主力の百匹の軍勢だと言うじゃないか……死にに行くようなものだぜ」

「だな、自力で逃げて来られることを祈るしかねえよ……」

「それに今から行っても間に合わないだろ、気の毒だが……」

「ですがッ!……」

「モニカさん、どうかしたのですか?」

「あっ! コテツさんッ! コテツさんどうしよう! 私、どうしよう……」

 モニカさんの目から涙がぽたぽたとこぼれています。可哀想に、よほど怖かったのでしょう……

「なにか悪いことですか?」

「はい……さっき四つ目トンビからの連絡が来て、リリアンたちがオークの、いえ、ウルクの軍勢に包囲されてしまったと伝えてきました……」

「リリアンさんたちだけじゃ倒せないのですか?」

「おそらく……いえ、絶対に、無理です」

「じゃあこのままだと、リリアンさんは帰って来れないんですね?」

「……はい」

「助けに行ってきます」

「コテツさんッ! で、でも間に合うかどうか……」

「間に合わせます」

「ば、場所は!? コテツさんは村への道を知りませんよね? 私が一緒に行って案内しますッ!」

「大丈夫です、道に残ったリリアンさんの匂いを追いますから」

「…………」

「では行きますね」

「コテツさんッ! どうかお願いしますっ」

 オレはモニカさんに返事をする時間も惜しくて、無言でギルドを飛び出しました。

 ニャンキチが正しかったのです。最初からイヌらしくリリアンさんについて行けばよかったのです。
 いまさら後悔してもはじまりませんが……

 街の高い壁を抜けると街道にはまだリリアンさんの匂いが残っていました。オレは「デキるオス」モード全開で、匂いを見失わないように低い姿勢で走ります。
 人間走りは出来ませんが、スピードはシナモン走りくらいは出ているでしょう。

 景色がいままで見たことのない速さで流れていきます。お月様は雲に隠れていて街道は真っ暗闇です。オレはひたすらにその闇を駆け抜けていきました。
 
 リリアンさん、待っていてくださいね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

処理中です...