16 / 53
第一章 柴イヌ、冒険者になる
第十六話 一緒に帰りましょう
しおりを挟む
オレが森の中の道を駆け抜けると、突然に視界が開け、遠くの果てに魔物たちがうごめく姿が見えてきました。
まるでみんなで踊っているように見えます。
見えはしますが音も匂いも感じてこないので、まだ大分先のようです。でも多分あそこがリリアンさんのいる村です。
あと少しですからね、リリアンさん。
全力で駆けていきますッ!
「ジェインっ! 後退するなっ! いま後退すると奴らに挟撃される」
「うるせえリリアンっ! 俺様に指図するんじゃねえッ! それに様をつけて呼べっ」
「私たち二人でウルクたちを抑え込むんだ! その間にBランカーでオークの数を減らすッ!」
「んなことはわかってんだよ! てかっ、このウルクども硬てえっ、しかもなんで重装備の奴もいるんだって話ッ!」
「そいつらは指揮官クラスだっ、私が引き付けるから鎧のないやつを片付けてくれッ!」
「簡単に言うんじゃねえっ! この糞魔物どもっ、死ねやあッ!」
速く、速く、速くっ! 速く駆けろッ!
間に合え、間に合えっ!──あッ!
これは村からの音と匂い?……ですっ!
けどこれって──大量の血の匂いですね。ギャーギャー耳障りな音に人間の声が混じっています。
なんだか気持ちが悪いです……頭がおかしくなりそうですっ!
「か、回復が間に合いませんッ! Bランク組はもう持ちませんッ!」
「範囲魔法をぶっ放せっ! 仲間に当たるとか気にしている場合じゃねえっ!」
「で、出来ないわっ! もう魔力が足りないのッ! あっ! イヤーっ! 来ないでえッ!」
「戦士っ! 魔術師を護れっ!? あギャーッ! 腕があっ、俺の腕があああッ!」
「回復師っ! おいっ、回復師はどこだっ! 返事をしろーッ!」
「おいっ、リリアンッ! ウルクの奴を三匹減らしたがここらで限界だっ、特にあの重装備のデカいのがヤベえッ!」
「同感だジェインっ、私が魔剣術を連打して血路を開くっ、その間にBランク組を連れてそこから撤退してくれッ!」
「馬鹿ッ! お前が死ぬだろっ!」
「私は死なんっ、コテツ殿に必ず帰ると約束したからなッ!」
「知るかよっ! 誰だよそいつはッ!」
「お前が負けた御仁だよ、てか、いいから行けッ! 散らばったBランカーたちを頼んだぞッ!」
聴こえる……リリアンさんの声が聴こえますっ! よかった、間に合いましたッ!
しかしひどく匂いが混乱してますね……敵意、恐怖、憎しみ、絶望、楽しんでいるのもあります。
吐き気がする……
これってまともじゃない、狂っています! リリアンさんがいまこんなのに巻き込まれているとしたら……駄目ですっ、危険すぎますッ!
逃げてくださいリリアンさんッ!
オレは村の入口が見えてきたところで、力の限り大きく遠吠えをしました。
「ワオォォォーーーーぉぉぉんッ!」
「な、何だよこの遠吠えは、新手の魔物かっ!? おい、リリアン、聴こえたかっ?」
「えっ?……こ、コテツ……殿?」
「またそいつかよっ! てか見ろっ! オークどもが血相を変えて遠吠えのする方へ走りだしたぞっ!? 撤退するなら今がチャンスだッ!」
「わ、わかった、私がこのままウルクを抑えて血路を確保しとくっ! その間に逃げろ、時間はあまり無いぞッ!」
「馬鹿っ! お前も行くんだよッ!」
「馬鹿はお前だっ! 撤退には殿が必要なんだ、いいから行けジェインっ、時間を無駄にするなッ!」
「糞がぁっ! 死ぬなよリリアンッ!」
魔物たちがオレの遠吠えに反応したのがわかりました。おもいっきり敵意を含んで吠えましたからね。
大事なおともだちのリリアンさんを殺そうとしている奴らです。こっちも容赦はしません──
自分の鼻に皺が寄り、歯を剥き出しているのがわかります……怒りが抑えられないです。
おっと、魔物たちが来ましたね。
沢山来ました。一匹でも多く減らせばリリアンさんの役に立つでしょう。
なのでオレは一番先頭でオレに向かってくる魔物の首筋に跳び乗ります。
もちろん、お前のその喉笛を──噛み千切るためですッ!
「ギャギャーーッ!」
イヤな声ですね。
リリアンさんの姿はないです。匂いも相変わらず混ざりすぎててわかりません。
くそっ。
とりあえずこのノロマどもは皆殺しです。片っ端からお前らの喉笛は嚙み千切りますんでッ!
「ギャーッ! ギギヤーッ! ギャギャッ!」
「お、おい、誰なんだあの人は……パーティーメンバー? じゃ、ないよな……」
「あ、ああ……オークがバタバタと死んでゆく……それも一瞬で……」
「あの人の、剥き出しで血塗れの歯……人間なの?」
お前で最後ですッ! ああっ、クサいっ! クサい魔物の血の匂いが不愉快ですッ!
「ギギャーャーッ!」
ほんとイヤな声です。
あそこにいる人たちはリリアンさんの仲間でしょうか?
「こんばんはみなさん、リリアンさんを知りませんか? 血の匂いが濃すぎてリリアンさんの匂いが見つからないのです……」
「…………」
「みなさん?」
「あ、いえ、リリアンさんは、ごめんなさい、わからないです……」
「そうですか……」
この先にもイヤな匂いがありますね、そこでしょうか? とにかく急ぎましょう!
「あっ、どこへ? あなたは誰で……って、行ってしまった……」
「おいっ、てめえら何をボサッとしているんだっ! こっちにもウルクが来るぞっ、俺様が止めておくから早く撤退しろッ!」
「あっ! ジェインさんっ」
「ん、って? 何だそのオークの死骸の山は!? これお前らが?」
「い、いえ、違います……誰だかわからないのですが、全部嚙み殺して……」
「はあ? 嚙み殺す? なんだそれ、犬かよっ」
リリアンさん、どこですかっ? 早くリリアンさんを見つけないとッ! なんだかとてもイヤな予感がします。
そうだっ! 匂いが混ざってわからないのなら、音で捜せばいいんです!
イヌの耳の良さを舐めてはいけません! なのでオレは集中して────
ギャギャ……はぁはぁ……ギャーッ……ギャ……くっ!……ギギッ……おのれ……ギャーッギャギャ……うそっ!……ギギャギャ……糞がッ!……ギャーッ……痛ッ!……ギギャギャ……させるかッ!……ギャーッギギッ……はぁはぁ……ギギッ……なっ!……ギャッギギャーッ……しまっ!……ギャッ……剣が折れ……ギャッギャッ……ちぃっ!……ギャッ……だっ、だめか……ギギギャッ……うぐっ……ギャギ……コテツ殿……ギャーッギャーッ……ごめんなさい……ギギ……帰れない……ギギャーギッ……いやっ!……やだっ!……ギッギャッ……そんなのいやだ!……ギギャギャ……まだ……ギャーッギギッ……死にたくないっ!……キギャギャッ……コテツ殿……ギギ……わたし……キギャ……ここにいますっ……ギャーッ……届いてッ!
「わおぉぉぉぉーーーぉんっ!」
「ワオォォォォーーーォンッ!」
「えっ! 届いた!?」
「いい遠吠えでしたよリリアンさんっ!」
「こ、コテツ殿ッ!」
「しっかりオレに届きましたよっーーッ!」
リリアンさんが沢山の魔物たちに囲まれて、血まみれの泥だらけで立っていました。
手にした棒も折れて、服もボロボロで、腕からは血がダラダラと流れています……
「おまえらかああああーーーッ!」
「ギギャッ!?」
特にこのデカい奴ッ! いまリリアンさんにひどいことしてましたっ、許さないですっ! 噛み殺しますッ!!
そう思ったのですが、他の魔物たちがオレに向かって襲いかかってきました。
ウザいです。なので全員の喉笛を噛み千切ってやりました。
「う、うそっ! ウルク四匹が瞬殺!?」
あとここにいるのはこのデカい魔物だけですね。
皺の寄った鼻が震え、剥き出しの歯についた血の匂いがクサい。
ああ、不快です! なのでさっさと終わらせましょう!
オレは奴の肩に跳び乗り、後ろからその喉笛を嚙み千切りまっ!?
って、硬てえッ!
「ギャギャ? ギギャッ! ギャーッ!」
なんでしょう、コイツの着ている服は? 硬くて噛み千切れませんっ!
オレは肩から跳び降りて、とりあえず一旦リリアンさんの元へと行きました。
「リリアンさん、大丈夫ですか? おそくなってすみませんでした!」
「こ、コテツ殿? 本当にコテツ殿なんですか?……」
「はい、コテツです! ちよっと怖い顔してるかもですがコテツですッ!」
「うっ、うううっ、遅いですうーっ、もっと早く来てくれなくちゃイヤですーっ! わーーん」
「な、泣かないでください、えっ? てか、リリアンさんが来ちゃ駄目だって……」
「知らないですーっ、そんなの知らないですーッ! わーーん」
「と、とりあえずこの魔物を倒してしまいましょう。まだ危険な匂いがしています!」
「そ、そうですね……くすん、そいつはウルクの指揮官です、かなり強いです……くすん」
「指揮官というのはボスですか? ならこいつを倒せば群れは逃げていきますねっ! あ、でもこいつの服、めちゃくちゃ硬いんです」
「ええ、奴の鎧は鋼です。普通にやっては剣でも刃は通りません」
「なるほど、噛むときの集中がまだ足りないですか……」
「ギギャッ! ギャッ、ギャギャッ!」
「うるさいっ! なに言ってるのかさっぱりわかりません!」
「ギャギャ! ギャーッ!」
「コテツ殿、気をつけてっ、そいつ馬鹿力ですからっ!」
「はいっ! デカいのもヤル気のようなので、もう一度行ってきますッ!」
オレは魔物の振り下ろした棒を避けると奴の肩に跳び乗り、その首筋に狙いを定めました。まったくもってノロマです。止まっているも同じですから訳ないです。
しかしこの喉笛を隠している鎧というのが邪魔ですねえ……
「ギャギャッ!」
うーん、よしっ! 鎧を噛み千切ってやりましょう! 「デキるオス」全開でいきますよッ!
えーいっ、硬い硬い硬い硬いーっ!
「ギャッ? ギ、ギャギッ!……」
硬っ……おっ!? なんか歯が食い込んできましたよ! これ一気にいけるんじゃないですか?
よしっいけるッ! 噛み千切ったれーッ!
「ギャアッ!?」
噛み千切った鎧を吐き出すと、奴の喉笛が丸出しになりました。
いい気味です!
これでようやく喰い破ってやれますッ!
──死ねッ。
「ゴギャアッ!……ゴボッゴボ……」
ふう、血の味が気持ち悪いです。
「……リリアンさん、終わりました!」
「は、はい、一瞬でしたねっ、やっぱりコテツ殿はすごいですッ!」
一瞬? ずいぶんと時間が掛かった気がしましたが……まあ、どうでもいいです。
「おいリリアン無事かっ? 一斉に残っていたウルクとオークどもが逃げ出していったが……何があった?」
「あ、ジェイン、コテツ殿がウルクの指揮官を倒したんだ、それを察知して群れが瓦解したんだろう」
「マジか!?……え、てか、お前は謎の組織の柴犬じゃねえの!?」
「はい、コテツですっ!」
「うえ、ドッグランすげえ……」
「ねえ、コテツ殿、少しだけ、肩をかしてくれますか?……私、疲れちゃった」
そう言うとリリアンさんは、ぐったりとオレにもたれかかってきました。
心配になって顔をのぞき込んだら、なんだか無防備でとても安らかな顔がそこにあって……
「リリアンさん、もう大丈夫ですからね」
オレがペロッとなめたリリアンさんの頬は、少しだけしょっぱかったです。
さあ、一緒に帰りましょう。
まるでみんなで踊っているように見えます。
見えはしますが音も匂いも感じてこないので、まだ大分先のようです。でも多分あそこがリリアンさんのいる村です。
あと少しですからね、リリアンさん。
全力で駆けていきますッ!
「ジェインっ! 後退するなっ! いま後退すると奴らに挟撃される」
「うるせえリリアンっ! 俺様に指図するんじゃねえッ! それに様をつけて呼べっ」
「私たち二人でウルクたちを抑え込むんだ! その間にBランカーでオークの数を減らすッ!」
「んなことはわかってんだよ! てかっ、このウルクども硬てえっ、しかもなんで重装備の奴もいるんだって話ッ!」
「そいつらは指揮官クラスだっ、私が引き付けるから鎧のないやつを片付けてくれッ!」
「簡単に言うんじゃねえっ! この糞魔物どもっ、死ねやあッ!」
速く、速く、速くっ! 速く駆けろッ!
間に合え、間に合えっ!──あッ!
これは村からの音と匂い?……ですっ!
けどこれって──大量の血の匂いですね。ギャーギャー耳障りな音に人間の声が混じっています。
なんだか気持ちが悪いです……頭がおかしくなりそうですっ!
「か、回復が間に合いませんッ! Bランク組はもう持ちませんッ!」
「範囲魔法をぶっ放せっ! 仲間に当たるとか気にしている場合じゃねえっ!」
「で、出来ないわっ! もう魔力が足りないのッ! あっ! イヤーっ! 来ないでえッ!」
「戦士っ! 魔術師を護れっ!? あギャーッ! 腕があっ、俺の腕があああッ!」
「回復師っ! おいっ、回復師はどこだっ! 返事をしろーッ!」
「おいっ、リリアンッ! ウルクの奴を三匹減らしたがここらで限界だっ、特にあの重装備のデカいのがヤベえッ!」
「同感だジェインっ、私が魔剣術を連打して血路を開くっ、その間にBランク組を連れてそこから撤退してくれッ!」
「馬鹿ッ! お前が死ぬだろっ!」
「私は死なんっ、コテツ殿に必ず帰ると約束したからなッ!」
「知るかよっ! 誰だよそいつはッ!」
「お前が負けた御仁だよ、てか、いいから行けッ! 散らばったBランカーたちを頼んだぞッ!」
聴こえる……リリアンさんの声が聴こえますっ! よかった、間に合いましたッ!
しかしひどく匂いが混乱してますね……敵意、恐怖、憎しみ、絶望、楽しんでいるのもあります。
吐き気がする……
これってまともじゃない、狂っています! リリアンさんがいまこんなのに巻き込まれているとしたら……駄目ですっ、危険すぎますッ!
逃げてくださいリリアンさんッ!
オレは村の入口が見えてきたところで、力の限り大きく遠吠えをしました。
「ワオォォォーーーーぉぉぉんッ!」
「な、何だよこの遠吠えは、新手の魔物かっ!? おい、リリアン、聴こえたかっ?」
「えっ?……こ、コテツ……殿?」
「またそいつかよっ! てか見ろっ! オークどもが血相を変えて遠吠えのする方へ走りだしたぞっ!? 撤退するなら今がチャンスだッ!」
「わ、わかった、私がこのままウルクを抑えて血路を確保しとくっ! その間に逃げろ、時間はあまり無いぞッ!」
「馬鹿っ! お前も行くんだよッ!」
「馬鹿はお前だっ! 撤退には殿が必要なんだ、いいから行けジェインっ、時間を無駄にするなッ!」
「糞がぁっ! 死ぬなよリリアンッ!」
魔物たちがオレの遠吠えに反応したのがわかりました。おもいっきり敵意を含んで吠えましたからね。
大事なおともだちのリリアンさんを殺そうとしている奴らです。こっちも容赦はしません──
自分の鼻に皺が寄り、歯を剥き出しているのがわかります……怒りが抑えられないです。
おっと、魔物たちが来ましたね。
沢山来ました。一匹でも多く減らせばリリアンさんの役に立つでしょう。
なのでオレは一番先頭でオレに向かってくる魔物の首筋に跳び乗ります。
もちろん、お前のその喉笛を──噛み千切るためですッ!
「ギャギャーーッ!」
イヤな声ですね。
リリアンさんの姿はないです。匂いも相変わらず混ざりすぎててわかりません。
くそっ。
とりあえずこのノロマどもは皆殺しです。片っ端からお前らの喉笛は嚙み千切りますんでッ!
「ギャーッ! ギギヤーッ! ギャギャッ!」
「お、おい、誰なんだあの人は……パーティーメンバー? じゃ、ないよな……」
「あ、ああ……オークがバタバタと死んでゆく……それも一瞬で……」
「あの人の、剥き出しで血塗れの歯……人間なの?」
お前で最後ですッ! ああっ、クサいっ! クサい魔物の血の匂いが不愉快ですッ!
「ギギャーャーッ!」
ほんとイヤな声です。
あそこにいる人たちはリリアンさんの仲間でしょうか?
「こんばんはみなさん、リリアンさんを知りませんか? 血の匂いが濃すぎてリリアンさんの匂いが見つからないのです……」
「…………」
「みなさん?」
「あ、いえ、リリアンさんは、ごめんなさい、わからないです……」
「そうですか……」
この先にもイヤな匂いがありますね、そこでしょうか? とにかく急ぎましょう!
「あっ、どこへ? あなたは誰で……って、行ってしまった……」
「おいっ、てめえら何をボサッとしているんだっ! こっちにもウルクが来るぞっ、俺様が止めておくから早く撤退しろッ!」
「あっ! ジェインさんっ」
「ん、って? 何だそのオークの死骸の山は!? これお前らが?」
「い、いえ、違います……誰だかわからないのですが、全部嚙み殺して……」
「はあ? 嚙み殺す? なんだそれ、犬かよっ」
リリアンさん、どこですかっ? 早くリリアンさんを見つけないとッ! なんだかとてもイヤな予感がします。
そうだっ! 匂いが混ざってわからないのなら、音で捜せばいいんです!
イヌの耳の良さを舐めてはいけません! なのでオレは集中して────
ギャギャ……はぁはぁ……ギャーッ……ギャ……くっ!……ギギッ……おのれ……ギャーッギャギャ……うそっ!……ギギャギャ……糞がッ!……ギャーッ……痛ッ!……ギギャギャ……させるかッ!……ギャーッギギッ……はぁはぁ……ギギッ……なっ!……ギャッギギャーッ……しまっ!……ギャッ……剣が折れ……ギャッギャッ……ちぃっ!……ギャッ……だっ、だめか……ギギギャッ……うぐっ……ギャギ……コテツ殿……ギャーッギャーッ……ごめんなさい……ギギ……帰れない……ギギャーギッ……いやっ!……やだっ!……ギッギャッ……そんなのいやだ!……ギギャギャ……まだ……ギャーッギギッ……死にたくないっ!……キギャギャッ……コテツ殿……ギギ……わたし……キギャ……ここにいますっ……ギャーッ……届いてッ!
「わおぉぉぉぉーーーぉんっ!」
「ワオォォォォーーーォンッ!」
「えっ! 届いた!?」
「いい遠吠えでしたよリリアンさんっ!」
「こ、コテツ殿ッ!」
「しっかりオレに届きましたよっーーッ!」
リリアンさんが沢山の魔物たちに囲まれて、血まみれの泥だらけで立っていました。
手にした棒も折れて、服もボロボロで、腕からは血がダラダラと流れています……
「おまえらかああああーーーッ!」
「ギギャッ!?」
特にこのデカい奴ッ! いまリリアンさんにひどいことしてましたっ、許さないですっ! 噛み殺しますッ!!
そう思ったのですが、他の魔物たちがオレに向かって襲いかかってきました。
ウザいです。なので全員の喉笛を噛み千切ってやりました。
「う、うそっ! ウルク四匹が瞬殺!?」
あとここにいるのはこのデカい魔物だけですね。
皺の寄った鼻が震え、剥き出しの歯についた血の匂いがクサい。
ああ、不快です! なのでさっさと終わらせましょう!
オレは奴の肩に跳び乗り、後ろからその喉笛を嚙み千切りまっ!?
って、硬てえッ!
「ギャギャ? ギギャッ! ギャーッ!」
なんでしょう、コイツの着ている服は? 硬くて噛み千切れませんっ!
オレは肩から跳び降りて、とりあえず一旦リリアンさんの元へと行きました。
「リリアンさん、大丈夫ですか? おそくなってすみませんでした!」
「こ、コテツ殿? 本当にコテツ殿なんですか?……」
「はい、コテツです! ちよっと怖い顔してるかもですがコテツですッ!」
「うっ、うううっ、遅いですうーっ、もっと早く来てくれなくちゃイヤですーっ! わーーん」
「な、泣かないでください、えっ? てか、リリアンさんが来ちゃ駄目だって……」
「知らないですーっ、そんなの知らないですーッ! わーーん」
「と、とりあえずこの魔物を倒してしまいましょう。まだ危険な匂いがしています!」
「そ、そうですね……くすん、そいつはウルクの指揮官です、かなり強いです……くすん」
「指揮官というのはボスですか? ならこいつを倒せば群れは逃げていきますねっ! あ、でもこいつの服、めちゃくちゃ硬いんです」
「ええ、奴の鎧は鋼です。普通にやっては剣でも刃は通りません」
「なるほど、噛むときの集中がまだ足りないですか……」
「ギギャッ! ギャッ、ギャギャッ!」
「うるさいっ! なに言ってるのかさっぱりわかりません!」
「ギャギャ! ギャーッ!」
「コテツ殿、気をつけてっ、そいつ馬鹿力ですからっ!」
「はいっ! デカいのもヤル気のようなので、もう一度行ってきますッ!」
オレは魔物の振り下ろした棒を避けると奴の肩に跳び乗り、その首筋に狙いを定めました。まったくもってノロマです。止まっているも同じですから訳ないです。
しかしこの喉笛を隠している鎧というのが邪魔ですねえ……
「ギャギャッ!」
うーん、よしっ! 鎧を噛み千切ってやりましょう! 「デキるオス」全開でいきますよッ!
えーいっ、硬い硬い硬い硬いーっ!
「ギャッ? ギ、ギャギッ!……」
硬っ……おっ!? なんか歯が食い込んできましたよ! これ一気にいけるんじゃないですか?
よしっいけるッ! 噛み千切ったれーッ!
「ギャアッ!?」
噛み千切った鎧を吐き出すと、奴の喉笛が丸出しになりました。
いい気味です!
これでようやく喰い破ってやれますッ!
──死ねッ。
「ゴギャアッ!……ゴボッゴボ……」
ふう、血の味が気持ち悪いです。
「……リリアンさん、終わりました!」
「は、はい、一瞬でしたねっ、やっぱりコテツ殿はすごいですッ!」
一瞬? ずいぶんと時間が掛かった気がしましたが……まあ、どうでもいいです。
「おいリリアン無事かっ? 一斉に残っていたウルクとオークどもが逃げ出していったが……何があった?」
「あ、ジェイン、コテツ殿がウルクの指揮官を倒したんだ、それを察知して群れが瓦解したんだろう」
「マジか!?……え、てか、お前は謎の組織の柴犬じゃねえの!?」
「はい、コテツですっ!」
「うえ、ドッグランすげえ……」
「ねえ、コテツ殿、少しだけ、肩をかしてくれますか?……私、疲れちゃった」
そう言うとリリアンさんは、ぐったりとオレにもたれかかってきました。
心配になって顔をのぞき込んだら、なんだか無防備でとても安らかな顔がそこにあって……
「リリアンさん、もう大丈夫ですからね」
オレがペロッとなめたリリアンさんの頬は、少しだけしょっぱかったです。
さあ、一緒に帰りましょう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
【マグナギア無双】チー牛の俺、牛丼食ってボドゲしてただけで、国王と女神に崇拝される~神速の指先で戦場を支配し、気づけば英雄でした~
月神世一
ファンタジー
「え、これ戦争? 新作VRゲーじゃなくて?」神速の指先で無自覚に英雄化!
【あらすじ紹介文】
「三色チーズ牛丼、温玉乗せで」
それが、最強の英雄のエネルギー源だった――。
日本での辛い過去(ヤンキー客への恐怖)から逃げ出し、異世界「タロウ国」へ転移した元理髪師の千津牛太(22)。
コミュ障で陰キャな彼が、唯一輝ける場所……それは、大流行中の戦術ボードゲーム『マグナギア』の世界だった!
元世界ランク1位のFPS技術(動体視力)× 天才理髪師の指先(精密操作)。
この二つが融合した時、ただの量産型人形は「神速の殺戮兵器」へと変貌する!
「動きが単調ですね。Botですか?」
路地裏でヤンキーをボコボコにしていたら、その実力を国王に見初められ、軍事用巨大兵器『メガ・ギア』のテストパイロットに!?
本人は「ただのリアルな新作ゲーム」だと思い込んでいるが、彼がコントローラーを握るたび、敵国の騎士団は壊滅し、魔王軍は震え上がり、貧乏アイドルは救われる!
見た目はチー牛、中身は魔王級。
勘違いから始まる、痛快ロボット無双ファンタジー、開幕!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる