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第二章 柴イヌと犬人族のお姫様
第三十話 獣人奪還作戦
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「お、お前らこんなことして、オスカーさんが黙っていないぞッ!」
「あら? こちらもオスカーに黙っているつもりがないので、こういう事をしていますのよ?」
外でオレたちを見張っていたオスカーさんの仲間の人を、リリアンさんが気絶させ縛って連れてきました。
その人からいまモニカさんが色々と訊いているところなのですが……
オレはもうこの人が可哀想で見ていられませんよ!
「さあ吐きなさい! オスカーはいまどこにいますの? なぜ匂いを消し気配を無くすアサシンの技を使っているのかしら?」
「だから知らねえって! てかこの全身の猛烈な痒みを止めてくれっ! 頭が変になりそうなんだよーっ!」
「うふふ、その呪詛はもっと痒くなってきますわよ。でも質問にちゃんと答えてくれれば、止めてさしあげますわ」
「かゆいっ、かゆいっ! 本当に知らねえんだよッ! ああっ、かゆいッ!」
掻いてあげたいっ! オレはとっても掻いてあげたいんですっ!
でも掻いたらモニカさんに怒られるので、ごめんなさい……
「モニカ、まだ手ぬるいんじゃないか? 例のあの呪詛を使ってはどうだろう? フフフ」
「まあリリアン、鬼畜ですわね! でもいい提案ですわ、そうね例のあの呪詛を使いましょうッ!」
「よ、よせ、何をする気だっ!?」
あ、またモニカさんがあの恐ろしい変な言葉をブツブツと言い始めました!
イヌのキラいなすごく低い音が混じっているんですよね。
「あがっ!? 痛いっ、痛いっ! 歯が痛いーっ! 歯がーッ!」
「ホホホ、これは『虫歯の恐怖』という呪詛ですわ。この虫歯の痛みに耐えられますかしら?」
「モニカ……恐ろしい奴。コテツ殿、ちゃんと歯を磨かないと虫歯になって、あのような痛みが襲ってくるのです」
「痛いっ、歯が痛いっ! この虫歯をなんとかしてくれーッ!」
あわわわ、オレもう二度と歯磨きをさぼったりしませんっ! こんな苦しみ絶対イヤですッ!
「リリアンさん、オレ間違っていました……虫歯怖いですっ!」
「分かって頂けましたかっ!」
「はいっ!」
「話すっ、話すからこの歯の痛みを止めてくれっ! 俺が知っているのは誘拐した獣人たちの取引を、今晩するって事だけだっ! オスカーさんが何をしているのかは本当に知らねえんだよッ!」
「オスカーも一緒に取引場所へ行きますの?」
「一緒じゃねえっ! 現地での合流だッ! 歯が痛いっ! それにかゆいっ! もう助けてくれーッ!」
モニカさんとリリアンさんは、この可哀想な人がこれ以上は何も知らないと判断したようです。かゆみと虫歯の痛みを止めてあげました。
「ああ、痒みも歯の痛みもない人生って素晴らしい……俺って今まで幸せだったんだなあ」
この可哀想な人は、なんだか遠い目をして幸福感に浸っていますね。オレまで幸せな気分になってきましたよ。
なのでオレはこの人に……
「ん、なんだ? って兄ちゃん……こ、これはっ!」
「そうです、歯ブラシです。一緒に磨きませんか? お互いの歯の健康のためにっ!」
「ありがとう。一緒に磨こうぜっ!」
こうしてオレたちは歯磨きの大切さを学ぶことができました。
ところでモニカさんはさっそく獣人さんたちを奪還しに行くと張り切っていて、オレたち三人はいま町の外の林に向かっています。
獣人さんたちがアジトの地下牢にいることも分かったので、取引場所へ移動される前に奪還してしまう方が簡単だからだそうです。
「リリアンいい? 念のため私とコテツさんから地下牢を見つけた合図があるまでは、ぶった斬るの禁止だからね! あ、てか殺さないでよっ!」
「わかってるよモニカ、私だって人間を殺すのなんて嫌だよ! 半殺しで十分だっ。と、ところでその合図だが……」
「大丈夫よ、もう呪詛してあるわ」
「痒かったり痛かったりしないよな?」
「馬鹿ねえ、一番簡単な優しいのにしてあるわよ」
何だかんだいっても二人はおともだちですね。あんなヒドいことをするわけがないですよっ! オレも安心しました。
先に林の中のアジトの近くまで来たオレは、家の中と外の人の匂いを数えたのです。
しかし考えてみたらオレが知っている数は四まででしたっ! それより多いのは沢山なのですが、まあいいでしょう。
「沢山……コテツ殿は数を数えられないのですか?」
「いいえっ! 四までは数えられますっ」
「どうしたのリリアン?」
するとそこにモニカさんの匂いをさせた、ニワトリさんの顔の人が現れました! すごい不気味なんですけどっ!
「ゲッ! な、なんだその気持ち悪い覆面は……お前趣味悪いぞっ!」
「馬と笑顔の男とこの覆面しか売ってなかったんだから仕方ないでしょ! 冒険者でない私が依頼に参加している事がバレる訳にはいかないんだから、我慢するしかないのよっ!」
この不気味なニワトリさんの人は、やはりモニカさんでしたか……危なかった、思わす噛みつくところでしたよ。
「それより人数は分かったの?」
「はいっ! 沢山ですっ」
「そうだ、沢山だっ! 私はそれで問題ないぞ、コテツ殿は悪くない!」
「ああ、なるほど……じゃあコテツさんには、今度数字の数え方を教えてさしあげますわね」
「えーっ、面倒だし別にいいです」
「駄目ですよっ! 今後のためにもちゃんと覚えて下さいっ!」
その顔でいわれると怖いですモニカさん。てか一緒に居たくないです。
でもこれから地下牢へ二人で獣人さんたちを助けに行かねばなりません。イヌの匂いがするので獣人さんたちは多分いるのだと思います。
「あの見張りが二人居るところの地面に、地下牢の入口が見えますわ。私がこれから呪術で見張りを排除しますので、そしたらコテツさんは鍵を壊して侵入して下さいね。牢の中には見張りは居ないんですよね?」
「はいっ! イヌの匂いだけです」
「分かりましたわ、では……」
うっ、またモニカさんがブツブツと言い始めました。その不気味なニワトリさんの顔だとますます恐ろしいっ!
しばらくすると見張りの二人が突然に……
「あたたっ、腹痛え! 俺ちょっと便所行ってくるわっ! ヤベえ、漏れそうだッ!」
「ちょちょっ! 待て待て俺が先だっ! 強烈な便意が急にッ! 駄目っ、漏れるっ!」
「ふ、ふざけるなっ! 俺の方が先だっ!」
「知るかっ! そこで漏らしてろッ! って、あっ、ちょっとでた」
おおっ! 二人とも慌ててどこかへ行ってしまいましたっ!
「モニカさん、すごいですッ!」
「オホホ、呪詛『便意に御用心』ですわ。ではコテツさんお願いしますっ!」
「はいっ!」
オレは素早く地面の扉の鍵を噛み千切って壊し、中へと入ります。
するとそこには鍵のかかった牢屋が二つあり、沢山の獣人さんたちがぐったりとしていて──
「まあ、こんなに衰弱して……可哀想に」
あとから入ってきたモニカさんも、オレと同じことを思ったようです。
とにかく早く助けてあげたくて、鍵を噛み千切り牢の扉を開けました。
「みなさん、私たちはアジェル姫様からの依頼で救出に参った冒険者ですわ」
モニカさんの言葉を聞いた獣人さんたちは、驚いた顔をしています。いやむしろ怯えていますね。
そりゃそうでしょう、そのニワトリの覆面は普通に怖いです。
「あら、ごめんあそばせ」
モニカさんが覆面を外したら、みなさんホッとしたようです。けど、元気がないせいでしょうか、動きがゆっくりですね。
「いいですか、今から脱出します! 出来るだけ静かに、そして決してバラバラにならない様に纏まって移動して下さい」
外の様子を見たオレは、まだ見張りの二人が戻っていないことを確認し、そのことをモニカさんに知らせました。
「それではリリアンに暴れて貰って、その隙に脱出いたしましょう。ただ獣人のみなさんはどうやら薬物で弱らされているようなので、コテツさんは脱落者がでないよう注意してあげてくださいねっ!」
オレがうなずいたのと同時に、モニカさんは指をパチンと鳴らします。
すると──
現在『デキるオス』モードのオレの耳に、ブビ~ッという音とリリアンさんの悲鳴が届いたのでした。
「ち、違うっ! 私がしたのでは断じてないっ! 勝手に出てるんだっ! てか、これってモニカの合図か!? ブーーッ」
ふむ、オナラの音ですね。
「ブウ~ッ! や、やめてくれっ、もう合図は分かったからっ! プゥッ」
「おい、誰だっ! そこの女っ、何をしているっ!」
「ブビ~ッ、お、お前らをぶった斬りにやってきた者だっ! ブホーッ」
「うっ、くさっ! この女、さっきから屁を出しまくっているぜ?」
「う、うるさいっ! プスーッ! と、とにかくお前らはブーーッ。ぜ、全員半殺しだからなっ! ブビ~ッ」
「うわあっ! 屁をしながら襲いかかってきたぞっ!? てか、くせえっ!」
「くっ! わ、私だってオナラをしながら戦いたくはないわっ! ブビッ。てかやめてくれーっ! プピ~ッ! こんなのイヤーッ! ブウーッ」
が、頑張れリリアンさん! とりあえずこの匂いはオレもキツいので、嗅覚の集中は切らせていただきますっ!
町の外側から人目を避けながら逃げてきたオレたちは、ようやくギルドへと辿り着きました。
獣人さんたちはヘトヘトで、口も利けないまま倒れ込んでいるようです。
「この二十二人で全員でしたわね。何はともあれ一安心ですわ。あとはリリアンが帰るのを待ちましょう」
「リリアンさんなら怒りの匂いを撒き散らしながら、すぐそこまで来ていますよ!」
「えっ? 何で怒っているのかしら!?」
「多分ですけど、モニカさんの呪いの合図のせいだと思います! ずっとブーブーとオナラが止まらないで悲鳴をあげてたんでっ!」
「オナラが止まらない? 合図のオナラは一回だけのはずだけど……って、うそっ! 私ったらあんな簡単な呪術を失敗させてたの!?」
おや? リリアンさんがご到着のようですね。オレはいま、この二人には関わりたくない気分で一杯です。
「モ~ニ~カ~ぁ……お~の~れ~ッ!」
「ま、待ってリリアンっ! わ、わざとじゃないのよっ! ちょっと失敗しちゃっただけなのよッ!」
「ちょっとだとっ!? ちょっとと言ったなっ! 私がどれだけ恥ずかしい思いをしながら、奴ら全員を倒して縛り上げてきたと思っているんだッ!」
「お、落ち着いてっ! お、オナラしたっていいじゃない、人間だものっ!」
「貴様はぶった斬るッ!」
あ、そういえばこのあとオレは獣人のアジェルさんに、奪還成功の報告に行く仕事があったのでした。
いまこの二人に話しかける勇気はないので、オレは獣人さんたちにアジェルさんの所へ行くと言ってそっとギルドを出たのです。
アジェルさんの匂いは憶えているので、真っ直ぐその元へと走っていたのですが……
なんだか匂いが弱い? かわりにそこから強い血の匂いがしています。
オレはとてもイヤな予感がして、アジェルさんの所へと急いだのでした。
「あら? こちらもオスカーに黙っているつもりがないので、こういう事をしていますのよ?」
外でオレたちを見張っていたオスカーさんの仲間の人を、リリアンさんが気絶させ縛って連れてきました。
その人からいまモニカさんが色々と訊いているところなのですが……
オレはもうこの人が可哀想で見ていられませんよ!
「さあ吐きなさい! オスカーはいまどこにいますの? なぜ匂いを消し気配を無くすアサシンの技を使っているのかしら?」
「だから知らねえって! てかこの全身の猛烈な痒みを止めてくれっ! 頭が変になりそうなんだよーっ!」
「うふふ、その呪詛はもっと痒くなってきますわよ。でも質問にちゃんと答えてくれれば、止めてさしあげますわ」
「かゆいっ、かゆいっ! 本当に知らねえんだよッ! ああっ、かゆいッ!」
掻いてあげたいっ! オレはとっても掻いてあげたいんですっ!
でも掻いたらモニカさんに怒られるので、ごめんなさい……
「モニカ、まだ手ぬるいんじゃないか? 例のあの呪詛を使ってはどうだろう? フフフ」
「まあリリアン、鬼畜ですわね! でもいい提案ですわ、そうね例のあの呪詛を使いましょうッ!」
「よ、よせ、何をする気だっ!?」
あ、またモニカさんがあの恐ろしい変な言葉をブツブツと言い始めました!
イヌのキラいなすごく低い音が混じっているんですよね。
「あがっ!? 痛いっ、痛いっ! 歯が痛いーっ! 歯がーッ!」
「ホホホ、これは『虫歯の恐怖』という呪詛ですわ。この虫歯の痛みに耐えられますかしら?」
「モニカ……恐ろしい奴。コテツ殿、ちゃんと歯を磨かないと虫歯になって、あのような痛みが襲ってくるのです」
「痛いっ、歯が痛いっ! この虫歯をなんとかしてくれーッ!」
あわわわ、オレもう二度と歯磨きをさぼったりしませんっ! こんな苦しみ絶対イヤですッ!
「リリアンさん、オレ間違っていました……虫歯怖いですっ!」
「分かって頂けましたかっ!」
「はいっ!」
「話すっ、話すからこの歯の痛みを止めてくれっ! 俺が知っているのは誘拐した獣人たちの取引を、今晩するって事だけだっ! オスカーさんが何をしているのかは本当に知らねえんだよッ!」
「オスカーも一緒に取引場所へ行きますの?」
「一緒じゃねえっ! 現地での合流だッ! 歯が痛いっ! それにかゆいっ! もう助けてくれーッ!」
モニカさんとリリアンさんは、この可哀想な人がこれ以上は何も知らないと判断したようです。かゆみと虫歯の痛みを止めてあげました。
「ああ、痒みも歯の痛みもない人生って素晴らしい……俺って今まで幸せだったんだなあ」
この可哀想な人は、なんだか遠い目をして幸福感に浸っていますね。オレまで幸せな気分になってきましたよ。
なのでオレはこの人に……
「ん、なんだ? って兄ちゃん……こ、これはっ!」
「そうです、歯ブラシです。一緒に磨きませんか? お互いの歯の健康のためにっ!」
「ありがとう。一緒に磨こうぜっ!」
こうしてオレたちは歯磨きの大切さを学ぶことができました。
ところでモニカさんはさっそく獣人さんたちを奪還しに行くと張り切っていて、オレたち三人はいま町の外の林に向かっています。
獣人さんたちがアジトの地下牢にいることも分かったので、取引場所へ移動される前に奪還してしまう方が簡単だからだそうです。
「リリアンいい? 念のため私とコテツさんから地下牢を見つけた合図があるまでは、ぶった斬るの禁止だからね! あ、てか殺さないでよっ!」
「わかってるよモニカ、私だって人間を殺すのなんて嫌だよ! 半殺しで十分だっ。と、ところでその合図だが……」
「大丈夫よ、もう呪詛してあるわ」
「痒かったり痛かったりしないよな?」
「馬鹿ねえ、一番簡単な優しいのにしてあるわよ」
何だかんだいっても二人はおともだちですね。あんなヒドいことをするわけがないですよっ! オレも安心しました。
先に林の中のアジトの近くまで来たオレは、家の中と外の人の匂いを数えたのです。
しかし考えてみたらオレが知っている数は四まででしたっ! それより多いのは沢山なのですが、まあいいでしょう。
「沢山……コテツ殿は数を数えられないのですか?」
「いいえっ! 四までは数えられますっ」
「どうしたのリリアン?」
するとそこにモニカさんの匂いをさせた、ニワトリさんの顔の人が現れました! すごい不気味なんですけどっ!
「ゲッ! な、なんだその気持ち悪い覆面は……お前趣味悪いぞっ!」
「馬と笑顔の男とこの覆面しか売ってなかったんだから仕方ないでしょ! 冒険者でない私が依頼に参加している事がバレる訳にはいかないんだから、我慢するしかないのよっ!」
この不気味なニワトリさんの人は、やはりモニカさんでしたか……危なかった、思わす噛みつくところでしたよ。
「それより人数は分かったの?」
「はいっ! 沢山ですっ」
「そうだ、沢山だっ! 私はそれで問題ないぞ、コテツ殿は悪くない!」
「ああ、なるほど……じゃあコテツさんには、今度数字の数え方を教えてさしあげますわね」
「えーっ、面倒だし別にいいです」
「駄目ですよっ! 今後のためにもちゃんと覚えて下さいっ!」
その顔でいわれると怖いですモニカさん。てか一緒に居たくないです。
でもこれから地下牢へ二人で獣人さんたちを助けに行かねばなりません。イヌの匂いがするので獣人さんたちは多分いるのだと思います。
「あの見張りが二人居るところの地面に、地下牢の入口が見えますわ。私がこれから呪術で見張りを排除しますので、そしたらコテツさんは鍵を壊して侵入して下さいね。牢の中には見張りは居ないんですよね?」
「はいっ! イヌの匂いだけです」
「分かりましたわ、では……」
うっ、またモニカさんがブツブツと言い始めました。その不気味なニワトリさんの顔だとますます恐ろしいっ!
しばらくすると見張りの二人が突然に……
「あたたっ、腹痛え! 俺ちょっと便所行ってくるわっ! ヤベえ、漏れそうだッ!」
「ちょちょっ! 待て待て俺が先だっ! 強烈な便意が急にッ! 駄目っ、漏れるっ!」
「ふ、ふざけるなっ! 俺の方が先だっ!」
「知るかっ! そこで漏らしてろッ! って、あっ、ちょっとでた」
おおっ! 二人とも慌ててどこかへ行ってしまいましたっ!
「モニカさん、すごいですッ!」
「オホホ、呪詛『便意に御用心』ですわ。ではコテツさんお願いしますっ!」
「はいっ!」
オレは素早く地面の扉の鍵を噛み千切って壊し、中へと入ります。
するとそこには鍵のかかった牢屋が二つあり、沢山の獣人さんたちがぐったりとしていて──
「まあ、こんなに衰弱して……可哀想に」
あとから入ってきたモニカさんも、オレと同じことを思ったようです。
とにかく早く助けてあげたくて、鍵を噛み千切り牢の扉を開けました。
「みなさん、私たちはアジェル姫様からの依頼で救出に参った冒険者ですわ」
モニカさんの言葉を聞いた獣人さんたちは、驚いた顔をしています。いやむしろ怯えていますね。
そりゃそうでしょう、そのニワトリの覆面は普通に怖いです。
「あら、ごめんあそばせ」
モニカさんが覆面を外したら、みなさんホッとしたようです。けど、元気がないせいでしょうか、動きがゆっくりですね。
「いいですか、今から脱出します! 出来るだけ静かに、そして決してバラバラにならない様に纏まって移動して下さい」
外の様子を見たオレは、まだ見張りの二人が戻っていないことを確認し、そのことをモニカさんに知らせました。
「それではリリアンに暴れて貰って、その隙に脱出いたしましょう。ただ獣人のみなさんはどうやら薬物で弱らされているようなので、コテツさんは脱落者がでないよう注意してあげてくださいねっ!」
オレがうなずいたのと同時に、モニカさんは指をパチンと鳴らします。
すると──
現在『デキるオス』モードのオレの耳に、ブビ~ッという音とリリアンさんの悲鳴が届いたのでした。
「ち、違うっ! 私がしたのでは断じてないっ! 勝手に出てるんだっ! てか、これってモニカの合図か!? ブーーッ」
ふむ、オナラの音ですね。
「ブウ~ッ! や、やめてくれっ、もう合図は分かったからっ! プゥッ」
「おい、誰だっ! そこの女っ、何をしているっ!」
「ブビ~ッ、お、お前らをぶった斬りにやってきた者だっ! ブホーッ」
「うっ、くさっ! この女、さっきから屁を出しまくっているぜ?」
「う、うるさいっ! プスーッ! と、とにかくお前らはブーーッ。ぜ、全員半殺しだからなっ! ブビ~ッ」
「うわあっ! 屁をしながら襲いかかってきたぞっ!? てか、くせえっ!」
「くっ! わ、私だってオナラをしながら戦いたくはないわっ! ブビッ。てかやめてくれーっ! プピ~ッ! こんなのイヤーッ! ブウーッ」
が、頑張れリリアンさん! とりあえずこの匂いはオレもキツいので、嗅覚の集中は切らせていただきますっ!
町の外側から人目を避けながら逃げてきたオレたちは、ようやくギルドへと辿り着きました。
獣人さんたちはヘトヘトで、口も利けないまま倒れ込んでいるようです。
「この二十二人で全員でしたわね。何はともあれ一安心ですわ。あとはリリアンが帰るのを待ちましょう」
「リリアンさんなら怒りの匂いを撒き散らしながら、すぐそこまで来ていますよ!」
「えっ? 何で怒っているのかしら!?」
「多分ですけど、モニカさんの呪いの合図のせいだと思います! ずっとブーブーとオナラが止まらないで悲鳴をあげてたんでっ!」
「オナラが止まらない? 合図のオナラは一回だけのはずだけど……って、うそっ! 私ったらあんな簡単な呪術を失敗させてたの!?」
おや? リリアンさんがご到着のようですね。オレはいま、この二人には関わりたくない気分で一杯です。
「モ~ニ~カ~ぁ……お~の~れ~ッ!」
「ま、待ってリリアンっ! わ、わざとじゃないのよっ! ちょっと失敗しちゃっただけなのよッ!」
「ちょっとだとっ!? ちょっとと言ったなっ! 私がどれだけ恥ずかしい思いをしながら、奴ら全員を倒して縛り上げてきたと思っているんだッ!」
「お、落ち着いてっ! お、オナラしたっていいじゃない、人間だものっ!」
「貴様はぶった斬るッ!」
あ、そういえばこのあとオレは獣人のアジェルさんに、奪還成功の報告に行く仕事があったのでした。
いまこの二人に話しかける勇気はないので、オレは獣人さんたちにアジェルさんの所へ行くと言ってそっとギルドを出たのです。
アジェルさんの匂いは憶えているので、真っ直ぐその元へと走っていたのですが……
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