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第二章 柴イヌと犬人族のお姫様
第三十三話 ホムンクルス
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「あらあら! 獣人ちゃん泣いているのぉ? 心配しなくてもワンコ二号の材料にしてあげるからぁ、そしたら心も無くなって泣く事もなくなるわよ!」
おネエさまはイジワルですね! イジメをする人はいつも同じ匂いをさせています。
散歩の途中でご主人様をイジメていた人たちと、おネエさまは同じです。
ご主人様はいま、イジメられたりしていないでしょうか……
って? そうだ! オレは大事なことを忘れていましたっ!
「おネエさまっ!」
「あらやだイケメンっ! ここ薄暗くてよく分からなかったけどぉ、あなたよく見たら凄いイケメンねっ!」
「おネエさまに訊きたいことがあります」
「なになに? 何でも訊いてぇ! ちなみに恋人募集中よっ!」
「この人を知りませんか?」
オレはおネエさまにご主人様の似顔絵を見せました。何よりも大事なことはご主人様捜しですからね!
それを忘れていたとは、飼いイヌとして反省せねばなりません。
「ふ~ん……なにこれ? 知らないわぁ。うちのホムンクルスのオークたんに似てるわねぇ」
「違います人間です! オレのご主人様で名前はキモオタといいますっ!」
「あらやだっ、あなたもう恋人がいるのぉ? それもご主人様だなんて変態な関係ねっ! ステキッ!」
「勘違いするなっ! コテツ殿の恋人はこの私だっ! キャッ、言っちゃった!」
「リリアンって馬鹿なの? 私こそが恋人ですわ、あんたは私の補欠よ」
「ふ、ふざけるなモニカっ!」
「こ、コテツ……けしからん奴じゃ! み、乱れた男女関係は不謹慎であるぞっ!」
えっと、恋人って何でしたっけ? てか、なんでそんな話になっているのでしょうか?
「い、いやまて! そもそも妾の無念をコテツが受け止めてくれて……なのに何故このまったく関係のない話題となっている!?」
なんですかねアジェルさんは。同じイヌならわかるでしょうに、ご主人様こそがなにより大事だという気持ちくらい。
あ、そういえば、アジェルさんにも訊いていなかったですね!
「アジェルさんはご主人様を知りませんか? はぐれてしまって……オレずっと捜しているんですよ」
「ふむどれ? むう、残念ながら妾は知らぬ。すまぬなコテツ……って! だからこの話題は後にせぬかっ!」
「う、う~ん……僕はどうしたんだ? あれ、縛られてるぞ?」
おや? オスカーさんがお目覚めのようですね。あっ!──
「お前は寝てろっ!」
「ギャッ!……ガクッ」
リリアンさんが、すかさず剣で殴りつけて気絶させました……
気絶したオスカーさんを、モニカさんがさらに踏みつけていますね。
「ちょっとぉ! オスカーちゃんに乱暴しないでちょうだい! その子、誘拐が得意で便利なんだからぁ、まだまだ役に立ってもらわなくちゃ困るのよっ!」
「させるかっ、このたわけがっ! うぬを捕らえて六人の同胞の恨みを晴らしてくれようぞッ!」
「あら生意気な獣人ちゃんねっ! 私の実験材料のくせにっ! 帰ったらたっぷりお仕置きだわっ。子供たちぃ、オスカーちゃんを取り返して、そこの獣人ちゃんを捕まえてきなさ~いッ!」
むむっ? いままでピクリとも動かなかったワンコたち三匹が、おネエさまの言葉で一斉に動きだしましたね。
オスカーさんの方にはゴブちゃんが、アジェルさんにはリザくんとワンコです。
敵意の匂いはありませんが、不気味な感じがして油断がなりませんね。
とりあえずオレはアジェルさんを守るとしましょうか。
「リリアンさんとモニカさん、そっちのゴブちゃんをお願いしますねっ!」
「お任せくださいコテツ殿ッ!」
「コテツさん気をつけてっ! ホムンクルスが、Aランカーパーティーを全滅させた戦闘力の持ち主である事をお忘れなくッ! あっ、リリアンもね」
「おいモニカ、私のことをオマケみたいに言うなっ──って来たっ! この化け物めッ!」
戦いが始まったようですね。こっちも『デキるオス』全開でいきますッ!
「アジェルさん、その場所から動かないように。下手に動かれると守りづらいんで!」
「うむ、承知した」
あ、そうだ。武器屋さんで作っちゃったグロいイヌの牙を持ってきているんでした。
一応使いますか……イヤだけど。
──カチッ。
「こ、コテツ、なんじゃその牙は!?」
「オレの武器ですよ、さあやりますかッ!」
オレはリザくんとワンコに向かって唸り声をあげました。
「うっ……鼻に皺を寄せ、牙を剥き出したその姿。なんと美しき戦士よ──キュン!」
ん? なんかいま怪しい匂いが……
「な、なんじゃ? 妾の胸がキュンキュンするぞ!?」
まったく不謹慎な仔イヌですねっ! いまはそれどころじゃないでしょうにッ!
おっ、リザくん、なかなか速いです! でも全部の動きが丸見えですね。
あの鋭い爪には気をつけてと……
オレは爪を避けると同時に、リザくんへと跳びました。狙いはもちろん首筋です。
喰らいつきそして──噛み千切るッ!
「キキャーーッ!」
──ペッ。
驚きました……肉ごと噛み千切ったつもりが、ウロコのような皮しか剥ぎ取れませんでしたよ!
「り、リザくぅーんッ! なによあんたホントに人間なのっ!? リザくんのウロコの表皮はドラゴン並にみ強化されているのよっ? なんで噛み切れるのよっ!」
おネエさまが驚いていますが、こっちも驚いているんですよ! って、今度はワンコですか。
ワンコとはあまり戦いたくないので避けるだけにしておきましょう。
「おネエさま、オレは人間じゃないですよっ。柴イヌのコテツですっ!」
「えっ? 人間じゃない? なによそれ?」
おっと、リザくんの尻尾も太くて当たると痛そうですね。当たればですが、ヒョイ。
爪も振り回していますが、簡単に避けられまっ!?
うおっ! 危なっ、急に爪が伸びてきましたっ! ゆっくりでも予想外の動きをされると危険ですね。
「いまよワンコっ! 獣人ちゃんを捕まえなさいっ! 最悪殺しても材料になるから構わないわッ!」
ダメですよ、そんなことはさせませんから。
オレはアジェルさんの正面でワンコを待ち構えると、おもいっきりイヌパンチを喰らわせました!
「ギャインッ!」
「えっ? あんたなんでそこにいるの!? 瞬間移動??」
真横からリザくんの爪が伸びて、アジェルさんを切り裂こうとしていますね。
なら──
この牙で噛み砕いてやりましょうッ!
バキンッ……
「キィキャッ!?」
ほら今度は背中に乗りましたよ。あとはこのさっきウロコを剥ぎ取った、むき出しの首筋を──
噛み千切って殺すだけですッ!
「キャワワワワーッ!」
「ちょっ! ウソでしょぉ……」
ついでに倒れているワンコも気絶させておきましょう!
イヌパンチ、イヌパンチ、イヌパンチっ!
「ギャウンッ…………」
ふむ、正直オスカーさんのほうがイヌにとっては手強いですね。
ところでリリアンさんは大丈夫かな?
「すばしっこい奴めっ! だが私の魔剣術をなめるなよっ、フリスビー犬で鍛えあげられた極上の技を喰らえッ!」
あっ、ゴブちゃんの首が落ちた……
でもリリアンさん、結構血まみれですが大丈夫でしょうか?
「イヤーーッ! アタシのホムンクルスが全滅だなんてっ! ウソウソウソよーッ!」
「アジェルさん、ちょっとリリアンさんにオレの指をくっつけてくれたのと同じこと、してあげてくれますか?」
「むろんじゃ、しかし、コテツ。おぬしの強さはやはり尋常ではないな……」
さて、おネエさまをどうしましょうかね。気絶させておきましょうか。
「あんた、何者? もしかしてSランク冒険者とか?」
「オレですか? オレはBランカーですよ」
「ウソよっ! 信じないわっ! 前にAランカー四人でさえ、五体のホムンクルスで全滅させたのよ? 答えなさいっ、あんたは何者なのよっ!」
「だから柴イヌですって」
「犬なの? 獣人の?」
「獣人ではありません、ただのイヌです」
「訳が分からないわっ! でも……すごく興味深いわよあなたっ! いやん、何だかゾクゾクしてきちゃったぁッ!」
身体をクネクネさせてるおネエさま、気持ち悪いです……
おや? なんだか丸く光る絵が浮かびあがってきましたね。
「今度会うときはあなた、えっとコテツちゃん? コテツちゃんのこと捕まえて、じっくりと解剖してその身体を調べさせて貰うからぁ~! じゃあね、バイバ~イ」
あっ、おネエさまが丸い光の中に消えてしまった!
「転移魔法陣のスクロールで逃げられてしまいましたわね。まあ仕方ありませんわ」
「あ、モニカさん、リリアンさんは大丈夫そうですか?」
「ええ、アジェル姫が回復魔法で傷を治してくれてますから問題ないですわ。ところでこのワンコ、まだ生きていますわよね?」
「はい、気絶しているだけです。名前もワンコですし見た目もイヌの獣人に似ていたもので、殺したくなかったんですよね」
「そうですか……」
このワンコ、これからどうなるのでしょうかね? おネエさまが何も命令しなければ無害のようですが。
「剣士殿はもう大丈夫じゃ、特に深手はなかったゆえ心配はいらぬ」
アジェルさんがワンコを見つめていますね。悲しい匂いがしてきます。
「のおコテツ……このホムンクルスには六名の犬人族の者の命が使われておる。だが無論、その者たちは死んでこの世にはもうおらぬのじゃ。しかし──」
えっ? これはワンコでしょ? アジェルさんが言っている意味がよくわかりませんね。
「しかし妾はこのホムンクルスを始末するのが忍びない。どうしたらよいものかのお……」
「それなら、アジェルさんがこのワンコの飼い主になってあげればいいじゃないですか」
「それはできぬ。ホムンクルスは造った者の、あのボルトミという錬金術師の命令しかきかぬように出来ておるでな」
ふむ、立派な忠犬ですね!
「コテツ殿……」
オレはリリアンさんに呼び掛けられて振り向きました。
「そのホムンクルス、殺してあげるのが慈悲かもしれません」
なんですって!?
「私も……そう思いますわ。またボルトミが現れたら、危険な兵器になるだけですし」
モニカさんまで……
だけど──
「このワンコはただ忠犬なだけじゃないですか、悪いのはおネエさまです。それなのに殺処分だなんて可哀想ですよっ!」
「しかしコテツ、あの錬金術師が申したようにホムンクルスには心は無いのじゃ。悲しいが忠犬などではなく、ただの兵器なのじゃよ……やはり妾は感傷的になりすぎていたのかもしれぬ」
アジェルさんは諦めたようにそう言って、リリアンさんとモニカさんに頷きました。
「慈悲か……うむ、その通りじゃな」
だけどオレは──
「絶対ダメですっ! もういいです、ならオレがワンコの飼い主になりますからッ!」
だってオレは確かにワンコの悲しみの匂いを嗅いだんです。
だったらそれはワンコの心の匂いのはずなんです──
おネエさまはイジワルですね! イジメをする人はいつも同じ匂いをさせています。
散歩の途中でご主人様をイジメていた人たちと、おネエさまは同じです。
ご主人様はいま、イジメられたりしていないでしょうか……
って? そうだ! オレは大事なことを忘れていましたっ!
「おネエさまっ!」
「あらやだイケメンっ! ここ薄暗くてよく分からなかったけどぉ、あなたよく見たら凄いイケメンねっ!」
「おネエさまに訊きたいことがあります」
「なになに? 何でも訊いてぇ! ちなみに恋人募集中よっ!」
「この人を知りませんか?」
オレはおネエさまにご主人様の似顔絵を見せました。何よりも大事なことはご主人様捜しですからね!
それを忘れていたとは、飼いイヌとして反省せねばなりません。
「ふ~ん……なにこれ? 知らないわぁ。うちのホムンクルスのオークたんに似てるわねぇ」
「違います人間です! オレのご主人様で名前はキモオタといいますっ!」
「あらやだっ、あなたもう恋人がいるのぉ? それもご主人様だなんて変態な関係ねっ! ステキッ!」
「勘違いするなっ! コテツ殿の恋人はこの私だっ! キャッ、言っちゃった!」
「リリアンって馬鹿なの? 私こそが恋人ですわ、あんたは私の補欠よ」
「ふ、ふざけるなモニカっ!」
「こ、コテツ……けしからん奴じゃ! み、乱れた男女関係は不謹慎であるぞっ!」
えっと、恋人って何でしたっけ? てか、なんでそんな話になっているのでしょうか?
「い、いやまて! そもそも妾の無念をコテツが受け止めてくれて……なのに何故このまったく関係のない話題となっている!?」
なんですかねアジェルさんは。同じイヌならわかるでしょうに、ご主人様こそがなにより大事だという気持ちくらい。
あ、そういえば、アジェルさんにも訊いていなかったですね!
「アジェルさんはご主人様を知りませんか? はぐれてしまって……オレずっと捜しているんですよ」
「ふむどれ? むう、残念ながら妾は知らぬ。すまぬなコテツ……って! だからこの話題は後にせぬかっ!」
「う、う~ん……僕はどうしたんだ? あれ、縛られてるぞ?」
おや? オスカーさんがお目覚めのようですね。あっ!──
「お前は寝てろっ!」
「ギャッ!……ガクッ」
リリアンさんが、すかさず剣で殴りつけて気絶させました……
気絶したオスカーさんを、モニカさんがさらに踏みつけていますね。
「ちょっとぉ! オスカーちゃんに乱暴しないでちょうだい! その子、誘拐が得意で便利なんだからぁ、まだまだ役に立ってもらわなくちゃ困るのよっ!」
「させるかっ、このたわけがっ! うぬを捕らえて六人の同胞の恨みを晴らしてくれようぞッ!」
「あら生意気な獣人ちゃんねっ! 私の実験材料のくせにっ! 帰ったらたっぷりお仕置きだわっ。子供たちぃ、オスカーちゃんを取り返して、そこの獣人ちゃんを捕まえてきなさ~いッ!」
むむっ? いままでピクリとも動かなかったワンコたち三匹が、おネエさまの言葉で一斉に動きだしましたね。
オスカーさんの方にはゴブちゃんが、アジェルさんにはリザくんとワンコです。
敵意の匂いはありませんが、不気味な感じがして油断がなりませんね。
とりあえずオレはアジェルさんを守るとしましょうか。
「リリアンさんとモニカさん、そっちのゴブちゃんをお願いしますねっ!」
「お任せくださいコテツ殿ッ!」
「コテツさん気をつけてっ! ホムンクルスが、Aランカーパーティーを全滅させた戦闘力の持ち主である事をお忘れなくッ! あっ、リリアンもね」
「おいモニカ、私のことをオマケみたいに言うなっ──って来たっ! この化け物めッ!」
戦いが始まったようですね。こっちも『デキるオス』全開でいきますッ!
「アジェルさん、その場所から動かないように。下手に動かれると守りづらいんで!」
「うむ、承知した」
あ、そうだ。武器屋さんで作っちゃったグロいイヌの牙を持ってきているんでした。
一応使いますか……イヤだけど。
──カチッ。
「こ、コテツ、なんじゃその牙は!?」
「オレの武器ですよ、さあやりますかッ!」
オレはリザくんとワンコに向かって唸り声をあげました。
「うっ……鼻に皺を寄せ、牙を剥き出したその姿。なんと美しき戦士よ──キュン!」
ん? なんかいま怪しい匂いが……
「な、なんじゃ? 妾の胸がキュンキュンするぞ!?」
まったく不謹慎な仔イヌですねっ! いまはそれどころじゃないでしょうにッ!
おっ、リザくん、なかなか速いです! でも全部の動きが丸見えですね。
あの鋭い爪には気をつけてと……
オレは爪を避けると同時に、リザくんへと跳びました。狙いはもちろん首筋です。
喰らいつきそして──噛み千切るッ!
「キキャーーッ!」
──ペッ。
驚きました……肉ごと噛み千切ったつもりが、ウロコのような皮しか剥ぎ取れませんでしたよ!
「り、リザくぅーんッ! なによあんたホントに人間なのっ!? リザくんのウロコの表皮はドラゴン並にみ強化されているのよっ? なんで噛み切れるのよっ!」
おネエさまが驚いていますが、こっちも驚いているんですよ! って、今度はワンコですか。
ワンコとはあまり戦いたくないので避けるだけにしておきましょう。
「おネエさま、オレは人間じゃないですよっ。柴イヌのコテツですっ!」
「えっ? 人間じゃない? なによそれ?」
おっと、リザくんの尻尾も太くて当たると痛そうですね。当たればですが、ヒョイ。
爪も振り回していますが、簡単に避けられまっ!?
うおっ! 危なっ、急に爪が伸びてきましたっ! ゆっくりでも予想外の動きをされると危険ですね。
「いまよワンコっ! 獣人ちゃんを捕まえなさいっ! 最悪殺しても材料になるから構わないわッ!」
ダメですよ、そんなことはさせませんから。
オレはアジェルさんの正面でワンコを待ち構えると、おもいっきりイヌパンチを喰らわせました!
「ギャインッ!」
「えっ? あんたなんでそこにいるの!? 瞬間移動??」
真横からリザくんの爪が伸びて、アジェルさんを切り裂こうとしていますね。
なら──
この牙で噛み砕いてやりましょうッ!
バキンッ……
「キィキャッ!?」
ほら今度は背中に乗りましたよ。あとはこのさっきウロコを剥ぎ取った、むき出しの首筋を──
噛み千切って殺すだけですッ!
「キャワワワワーッ!」
「ちょっ! ウソでしょぉ……」
ついでに倒れているワンコも気絶させておきましょう!
イヌパンチ、イヌパンチ、イヌパンチっ!
「ギャウンッ…………」
ふむ、正直オスカーさんのほうがイヌにとっては手強いですね。
ところでリリアンさんは大丈夫かな?
「すばしっこい奴めっ! だが私の魔剣術をなめるなよっ、フリスビー犬で鍛えあげられた極上の技を喰らえッ!」
あっ、ゴブちゃんの首が落ちた……
でもリリアンさん、結構血まみれですが大丈夫でしょうか?
「イヤーーッ! アタシのホムンクルスが全滅だなんてっ! ウソウソウソよーッ!」
「アジェルさん、ちょっとリリアンさんにオレの指をくっつけてくれたのと同じこと、してあげてくれますか?」
「むろんじゃ、しかし、コテツ。おぬしの強さはやはり尋常ではないな……」
さて、おネエさまをどうしましょうかね。気絶させておきましょうか。
「あんた、何者? もしかしてSランク冒険者とか?」
「オレですか? オレはBランカーですよ」
「ウソよっ! 信じないわっ! 前にAランカー四人でさえ、五体のホムンクルスで全滅させたのよ? 答えなさいっ、あんたは何者なのよっ!」
「だから柴イヌですって」
「犬なの? 獣人の?」
「獣人ではありません、ただのイヌです」
「訳が分からないわっ! でも……すごく興味深いわよあなたっ! いやん、何だかゾクゾクしてきちゃったぁッ!」
身体をクネクネさせてるおネエさま、気持ち悪いです……
おや? なんだか丸く光る絵が浮かびあがってきましたね。
「今度会うときはあなた、えっとコテツちゃん? コテツちゃんのこと捕まえて、じっくりと解剖してその身体を調べさせて貰うからぁ~! じゃあね、バイバ~イ」
あっ、おネエさまが丸い光の中に消えてしまった!
「転移魔法陣のスクロールで逃げられてしまいましたわね。まあ仕方ありませんわ」
「あ、モニカさん、リリアンさんは大丈夫そうですか?」
「ええ、アジェル姫が回復魔法で傷を治してくれてますから問題ないですわ。ところでこのワンコ、まだ生きていますわよね?」
「はい、気絶しているだけです。名前もワンコですし見た目もイヌの獣人に似ていたもので、殺したくなかったんですよね」
「そうですか……」
このワンコ、これからどうなるのでしょうかね? おネエさまが何も命令しなければ無害のようですが。
「剣士殿はもう大丈夫じゃ、特に深手はなかったゆえ心配はいらぬ」
アジェルさんがワンコを見つめていますね。悲しい匂いがしてきます。
「のおコテツ……このホムンクルスには六名の犬人族の者の命が使われておる。だが無論、その者たちは死んでこの世にはもうおらぬのじゃ。しかし──」
えっ? これはワンコでしょ? アジェルさんが言っている意味がよくわかりませんね。
「しかし妾はこのホムンクルスを始末するのが忍びない。どうしたらよいものかのお……」
「それなら、アジェルさんがこのワンコの飼い主になってあげればいいじゃないですか」
「それはできぬ。ホムンクルスは造った者の、あのボルトミという錬金術師の命令しかきかぬように出来ておるでな」
ふむ、立派な忠犬ですね!
「コテツ殿……」
オレはリリアンさんに呼び掛けられて振り向きました。
「そのホムンクルス、殺してあげるのが慈悲かもしれません」
なんですって!?
「私も……そう思いますわ。またボルトミが現れたら、危険な兵器になるだけですし」
モニカさんまで……
だけど──
「このワンコはただ忠犬なだけじゃないですか、悪いのはおネエさまです。それなのに殺処分だなんて可哀想ですよっ!」
「しかしコテツ、あの錬金術師が申したようにホムンクルスには心は無いのじゃ。悲しいが忠犬などではなく、ただの兵器なのじゃよ……やはり妾は感傷的になりすぎていたのかもしれぬ」
アジェルさんは諦めたようにそう言って、リリアンさんとモニカさんに頷きました。
「慈悲か……うむ、その通りじゃな」
だけどオレは──
「絶対ダメですっ! もういいです、ならオレがワンコの飼い主になりますからッ!」
だってオレは確かにワンコの悲しみの匂いを嗅いだんです。
だったらそれはワンコの心の匂いのはずなんです──
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