箱入り娘のご令嬢は、夜釣り青年と肝を冷やしたい。

しゃこじろー

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踊る男、女の霊

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 一条との心霊スポット探索。
 それは、一人の警察官との出会いによって終わりを迎えそうになっていた。

 だが、俺の心中は穏やかではなかった。 
 そして、その嫌な予感は一条と帰り道の道中に起こった。
 俺と一条の目の前に現れたのは異様な人だった。

 それは、徐々にこちらに近づいてきていた。
 その人は、まるで踊っているかの様に手足を動かしており、見た限り、成人男性に見えた。
 しかも、彼のむき出しになった手足は、どこか赤くただれている様にも見えた。

 踊り狂う男をよく目を凝らしてみると、彼はらしき服を身にまとっていた。

 それにしても、踊りと言うにはあまりに不出来であり奇妙。
 まさしく、狂人と呼ぶべき存在に思えた。
 この場が心霊スポットであることから、悪戯心を持った愉快犯であればまだいいが。
 見ている限りその様には見えない。

 何より、現在進行形でパトカーを取りに行っている警官の様子と照らし合わせると。
 まるで、何かしらの事案が起きていて、それに俺達が巻き込まれない様。
 警官が、わざわざパトカーを取りに行った様に思えてきた。

 すると、一条もこの異常事態に恐れを感じたのか、おびえた様子で俺に身を寄せてきた。

「ね、ねぇ山藤君、あの人何?」
「そうだな、たぶん、こういう時に一番出くわしたくないタイプだ」

「な、なになに、どういう事?」
「一条、この付近にがあるのを知ってるか?」

「え、そんなの知らない」
「この辺りじゃ、定期的にその精神病棟から抜け出す患者がいるのは有名な話だ」

「えぇっ!?」
「そんでもって、その患者が起こす事件が度々報告されている」

「じゃ、じゃあ、あの人がそうだっていうの?」
「服装だけ見れば、そうかもしれない」

「て、ていうかさ、なんであの人は踊ってるの?」
「いや、踊っているというよりは、喜んでるのかもしれないな」

「喜ぶって、どういうこと?」
「重度の精神疾患をもつ患者は、院内のベッドで拘束される事もあるらしい。そして、そこから脱出した時に抑圧からの解放と、持病の精神疾患が重なり、異常なほどの高揚感で奇行に及ぶ事もあると聞いた事がある」

「ね、ねぇ、なんでそんなに詳しいの?」
「それを知ってたから、ここには来るべきじゃないって思ったんだが、今日は運のない日だな、一条」

 俺は、一条の顔を見ながらそう言った。
 すると、彼女はすっかり顔面蒼白になって怯えていた。
 最初の元気はどこへ行ったんだ?
 そして、一条は俺の腕にしがみついてきた。

「ど、どどど、どうするの山藤君、こういう時どうすればいいの?」
「まぁ、いざとなったらやるしかないな」

 焦る一条に対して、俺はひとまず背負ってる釣り竿に手を伸ばした。

 そうして、いざという時に備えながら、目の前の狂人に鉢合わせない様に歩道の反対側へと移動した。
 すると、狂人は俺達の進行方向へと動いてきた。
 向こうは手ぶらの様子、やろうと思えば素手でも人にダメージを与える事はできるがリスクが多い。

 しかも、相手が興奮状態であればあるほどそれは手が付けられなくなる。
 この状況なら、警察官の方向に逃げるというのが最善に思える。
 だが、一条が俊足には思えないし、どうするべきか・・・・・・

「なぁ一条、お前陸上部だったりしないか?」
「えっと、帰宅部ですが、何か?」

「足には自信があるか?」
「セクハラおじさんによく「足がキレイだね」って褒められるけど、動かすのは苦手かも」
「・・・・・・そ、そうか」
 
 やはり、逃げるという行為は無しかと思っていた矢先、視界に映る狂人が踊りをやめた。
 瞬時に高まる緊張感と、相手の出方に身構えていると、狂人が勢いよくこちらに向かって走り出してきた。
 すると、一条が大きな声で叫びながら俺に抱き着いてきた。

「いやぁぁぁっ」
「お、おい、落ち着け」

 落ち着く様子のない一条に対して、俺は釣り竿を握りしめて狂人に立ち向かう体制をとった。
 こちらに走ってくる狂人は完全に正気を失った様子で何かを口走りながらら向かってきていた。
 俺は恐怖を感じながら、せめて一条だけでも守るべく、釣り竿を振り上げた。

 すると、ちょうどそんなとき背後からすさまじいサイレンの音と、車のエンジン音が聞こえてきた。
 それは一直線に俺たちの元へと突っ込んできており、あっという間に俺たちの傍までやって来た。
 すると、すさまじいブレーキ音と共に停止した。

 だが、狂人は構わず俺たちに向かってきており、そいつは俺に向かって襲い掛かろうとしてきた。
 しかし、狂人はパトカーのライトで目がくらんだのか、俺たちのすぐ横に転がった。
 すると、そのすきにパトカーから降りてきた警官が地面に横たわる狂人を取り押さえ始めた。

「この野郎っ、若い子たちになんてことをするんだぁっ!!」

 警官はそんなことを言いながら狂人を取り押さえ、手錠を手に取った。
 そして、警官はあっという間に狂人を逮捕して見せた。

 その手際に感心しながらも、いまだ暴れる狂人は「女、女ぁ」という言葉をひたすらつぶやいていた。
 そして、芋虫の様にグネグネと体を動かしていた。
 激しい抵抗を見せる狂人相手に警察官は苦労する様子を見せた。
 すると、狂人が突然俺の方を向き、大きな声で叫んできた。

「女ぁっ、女の霊がぁっ、女の霊がいるぅぅぅっ!!」

 狂気じみた言動にそばにいる一条が小さく悲鳴を上げた。
 そして、狂人の言葉にどこか俺は違和感を感じた。
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