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少女独居編16
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「ロ、ロイさんどうしてあなたがここにっ、あなたには関係ないのですよっ」
ヤグルマ先生はどこか慌てた様子でそんな声を上げており、何よりもアルバ様の名前が聞こえてきた私はすぐさま振り返った。すると、そこにはアルバ様の姿があった。
どうして彼がいるのだろう、なんて事を考えながら凛々しい姿のアルバ様に私は魅了された。
「実は、ある人から出来損ないの魔女見習いには罰があると聞きまして」
「まさかそれを見物しに来たとでも言うのですか?」
「まぁ、それもそうなんですが、同胞が困っていたら手を差し伸べるのがベリル屋敷の流儀だと教わりましたので」
「それはどういう意味ですかロイさん」
「ヤグルマ先生、見た所その出来損ないには荷が重いように見えます、俺にも手伝わせてくれませんか」
アルバ様は私を指さす仕草を見せながらそういった。するとヤグルマ先生はまるで私とアルバ様を遮るかのように間に割って入ってきた。
「いえいえ、ロイさんが手伝うようなことではないのですよ、これは大角さんへの課題なのですから」
「えぇ、だからそいつがより良い魔法見習いになるために手を差し伸べに来たんです」
「何を言ってるんですかロイさん、これはあなたには関係のないことですよ」
「心配しないでください、こいつを連れてすぐに済ませます。何なら厳しい指導で二度と先生の授業の迷惑にならないようにして見せます。俺も今日の授業でこいつには腹が立ちましたからね」
アルバ様はそう言いながら体を動かし準備運動をし始めていた。しかし、そんな様子にヤグルマ先生が焦った様子でアルバ様に駆け寄った。
「ちょっと待ってくださいロイさん」
「はい、何ですか?」
「あなたの正義感は素晴らしいものです、まだ入学したての魔女見習いとは思えないほどの勇敢さです、その名にふさわしい力を持ち合わせているのですね」
「ありがとうございます、それよりもあいつの課題をさっさと終わらせましょう」
「ロイさん」
「今度はなんですか、ヤグルマ先生?」
「これは警告です、私に従って彼女に差し出そうとしている手を引きなさい」
ヤグルマ先生は突然に声色を低くした。その瞬間にそれまでの騒がしい空気が一瞬で凍り付き、アルバ様もそれを感じ取ったのかしばらく間をおいてから口を開いた。
「警告というのはよくわかりませんが、俺は何かいけない事をしてますか?」
「これは大角さんに与えられた課題ですあなたは関係ありません、黙ってこの場から去りなさい」
「俺にはあいつが課題をクリアすることもできず、無様に野垂れ死にするのが目に見えます、そうなったら責任を取るのは先生ですよ?」
「そうなったときには私が責任を取りますし、そんな事になるわけないじゃないですか、これは大角さんでも簡単にこなせる比較的に安易な課題です」
「それは、本気で言ってるんですか?」
「えぇ、もういいでしょうロイさん、あなたの正義感は存分にわかりました。加えてあなたが彼女を導けるほどの力があることもわかっています。
しかし、これは彼女に与えられた課題なのです、彼女のためにも邪魔しないであげてもらえませんか」
互いに譲らない様子の二人はじっとにらみ合った後、アルバ様がゆっくりと口を開いた。
「随分と意思がお強いんですねヤグルマ先生」
「当然です、意志の強さは魔女としての器量に直結します、先生である私が意志の弱い存在であるわけがありません」
「そうですか、なら、俺が何をするかも当然わかりますよね」
そう言うと、アルバ様は私の元へと歩いてきた。そして私の事をじっと見つめた後にヤグルマ先生の方へ向きなおした。
「どういうつもりですか、ロイさん」
「俺は、こいつを手助けに来ましたこの決意が揺らぐことはありません」
アルバ様は私に背を向けながらそう言って見せた。その背中はとても大きく輝いて見えた。そんな、彼の素敵な背中にほれぼれとしているとヤグルマ先生の大きなため息が聞こえてきた。
「私は先生です、魔女見習いに然るべき指導を行うのが仕事。しかし、それ以上にこの学校を守る守護者でもあります。
この学校に害をもたらす彼女はこの学校にいてはならない、そう、校長先生が何と言おうと彼女はこの魔法界に存在してはならない。
例え名家のご子息が邪魔をしてきたとしても、容赦はしない」
ヤグルマ先生はぶつぶつと呟きながら私たちの元へと歩み寄り、私を見つめてきた。そして手を突き出して見せると、私たちの背後からきしむ音が聞こえてきた。
それは背後にあった大きな木製の扉が開かれる音であり、開いたと同時にすさまじい風と冷気が流れ込んできた。
「ひっ」
思わず息を飲んでしまう程の寒さ、それは肌を突き刺してくるような冬の寒さとは違い、足元から全身にまとわりついてくるような気味の悪い冷気だった。
奇妙な感覚を味わいながら扉の先を見ると、そこはうっそうとした森のような場所が待ち構えていた。
「さぁ課題を始めましょう、大角さんはとっとと大烏の卵を背負って森を進むのです。心配ありませんよ、その卵を巣において来れば良いのですから」
ヤグルマ先生の言葉にアルバ様は驚いた様子で先生を見つめ、かすかに笑って見せた。
「なるほど、それがこいつに与えられた課題ですか・・・・・・」
「えぇ、今なら引き返せますよロイさん」
ヤグルマ先生は少し顔を傾けながら不敵な笑みを浮かべた。
「それはどういう意味ですか」
「ベリルの流儀だか何だか知りませんが、あなたのような名家の人間がどうしてこのようなことをするのか理解できません。立派な魔女になりたければ今すぐこの場から立ち去りなさい」
「いえ、ここで引いたら立派な魔女になれる気がしません、どうぞそのまま扉を閉めてください、課題は完ぺきにこなして見せます」
アルバ様は私が先生の提案に従うべきだという前にそう口にした。するとヤグルマ先生はものすごく険しい顔を見せた。おそらく何度も助言したにもかかわらず言う事を聞かないアルバ様に相当嫌気がさしている様子だった。
「・・・・・・いいでしょう、門をくぐりなさい」
その言葉を聞いた瞬間、近くにいたアルバ様が「行くぞ」と小さく声を漏らして地下庭園へと歩みを進めた。私はその背中を見て、すぐに体に力を込めてアルバ様の後を追った。
門を通り抜けると、背後からギシギシという音が鳴り響いてきた。それはまるで大きな扉が悲鳴を上げながら閉じていくかのようであり、私の恐怖心を煽りながら扉は完全に閉められた。
するとここで、あたりが真っ暗ではないことに気付いた。周囲は緑の蛍光色に照らされる景色が森の中に広がっており、それらはおそらく未知の植物たちによってもたらされている様に見えた。
それに加え、空を見上げてみるとまるで月のように丸く輝くものが存在しており、その光がまんべんなく降り注いできていた。
初めて見る光景に感動していると、隣から舌打ちのようなものが聞こえてきた。
「くそっ、面倒なことになっちまったっ」
「・・・・・・あ、あのぉ、アルバ様?」
私のよびかけにアルバ様は鬼の形相で私をにらみつけてきた。その様子を
見て私はすぐに両手で口をふさいだ。
「おいっ、その呼び方はやめろって言っただろ何回言えば覚えるんだ」
「す、すみませんっ」
「もういい、それよりも問題は山積みだ」
「先生は比較的簡単な課題だとおっしゃっていましたが、何か問題があるのでしょう」
「ふざけるなっ、俺たちはもう生死の境に立たされていることに気付かないのか?」
「えっと、それはどういう意味でしょう」
何もわからない状況の中、アルバ様は怒った様子で現状を悲観しているように見えた。もしかすると私が思っている以上にこの状況はまずいのかもしれない
「いいか、大烏といえば猛禽類に属される獰猛な鳥だ、人間だろうと簡単に食っちまう」
「に、人間を食うっ、そんな恐ろしい鳥なのですかっ」
「そうだ、しかも俺たちはそいつの卵を持っているときた」
「という事は、どういうことなのでしょう?」
「このままじゃ俺たちはあいつに襲われる、つまり、あいつはお前の命を狙っていたという事だ」
「どうして私なんかの命を、先生がそんなことをするわけがありません」
私の言葉にアルバ様はあきれた様子でため息をつきながら手で頭を支えた。
「本当にどこまでもお花畑な奴だなお前は」
「お、お花畑・・・・・・」
「いいか、お前が思っている以上に周りの人間はお前を嫌っている」
「それはその、召喚魔法の事でしょうか?」
「そうだ、もうわかってるとは思うが俺だってそのうちの一人だという事を忘れるなよ」
アルバ様が召喚魔法に対して嫌悪感を抱いていることはしていた。けれど、こうして面と向かって言われるのはどうにも心身に良くない。
「すみません」
「謝って済む話じゃない、それにこれはお前のためじゃない、リードさんのためだ」
「え?」
「お前を守るようにリードさんに頼まれた、ベリル屋敷に住まう同胞のためならば力の限りを尽くせとな」
なんだか徐々に状況が飲み込めてきた。どうやら師匠が私なんかのために気を利かせてくれたらしい、そしてそのためにアルバ様は来てくれた。
どんな理由であれ、この場所この状況において一人ではないという事がこれほど心強かった。
それは、思わず涙腺が緩んでしまうほどのものであり、孤独に固執していた自分をひどく恥じた。
どこまでも、陰気でどうしようもない自分を嫌になりながらも、今はアルバ様の手を借りて何とかこの課題をクリアすることに集中した。そう思い、背中に背負う卵を担ぎなおして森の中を進むことにした。
しかし、その時アルバ様が話しかけてきた。
「おい」
「はい、何でしょう?」
「そいつを下ろせ、俺が背負う」
アルバ様は私の背負う卵を指さしながらそう言った。
「いえ、しかしこれは私の課題です」
「こうなった以上俺とお前は一心同体だ、この課題を効率良く済ませるためにやるべき事はしっかりと決めるべきだ、素直に協力しろ」
アルバ様の言葉に私は戸惑った。
おそらく、この状況において彼の言葉を素直に聞いて、首を縦に振れば良いはずだ。しかし、私の心と体は彼の言葉に拒否感を持っているのか、アルバ様の提案に全くもって反応することができなかった。
すると、アルバ様は少しイラついた様子で「早く卵を寄越せ」と迫ってくると、私は彼から距離をとった。
その様子にアルバ様は明らかに不機嫌な様子を見せた。
「おい、本当にどういうつもりだお前は」
「こ、これは私の課題です、私がやらなければなりません」
「何言ってんだお前、この課題ってのはあのヤグルマとかいう教師がお前を貶めるために始めたことだっ」
「それでも、これを自分でこなさなければ会わせる顔がありません」
「何を言ってんだ、いいから寄越せっ、お前のわがままに付き合っている暇はない、命がかかってるんだぞ」
「渡しませんし、私はお前ではありません、大角カイアです」
普段からイライラなんてすることはないが、どういうわけか尊敬するアルバさんとの会話で私はイライラを感じ、そんな言葉を発してしまった。
私は思わず我に返ってアルバ様の顔を見ると、彼は少し驚いた様子を見せていたがすぐに眉をひそめて再び私に歩み寄ってきた。
「お、お断りしますっ、これは私の仕事なんですっ」
そうして、大きな声を張り上げていると、唐突にすさまじい鳴き声が聞こえてきた。
「グエェーーー」という奇妙な鳴き声は、天空から舞い降りてくるかの様にまんべんなく、そして確実に恐怖心を煽る様に聞こえてきた。
「まずい」
アルバ様は空を見上げ緊迫した表情で私を見つめてくると、唐突に私の手をつかんで走り出した。
あまりに突然の行為に驚きながらもなんとか体を動かしてアルバ様に引かれて走り出すと、今度は上空からバサバサというすさまじい羽音が聞こえ始め、さらにはあたりの木々がザワザワと騒ぎ始めた。
もしかするとアルバ様のいう大烏の仕業なのかもしれない、そう思い私は興味本位で空を見上げて見えると、そこには何も見えなかった。
けれど、どういうわけかあたりが騒がしく、さらに、先ほどまで感じていなかった風を感じ始めた。
ザワザワ、そよそよとランダムに起こり始める現象の数々を肌で感じながら走っているとアルバ様が近くにあった大木の陰を見つけ、私たちはそこに身を隠した。
ヤグルマ先生はどこか慌てた様子でそんな声を上げており、何よりもアルバ様の名前が聞こえてきた私はすぐさま振り返った。すると、そこにはアルバ様の姿があった。
どうして彼がいるのだろう、なんて事を考えながら凛々しい姿のアルバ様に私は魅了された。
「実は、ある人から出来損ないの魔女見習いには罰があると聞きまして」
「まさかそれを見物しに来たとでも言うのですか?」
「まぁ、それもそうなんですが、同胞が困っていたら手を差し伸べるのがベリル屋敷の流儀だと教わりましたので」
「それはどういう意味ですかロイさん」
「ヤグルマ先生、見た所その出来損ないには荷が重いように見えます、俺にも手伝わせてくれませんか」
アルバ様は私を指さす仕草を見せながらそういった。するとヤグルマ先生はまるで私とアルバ様を遮るかのように間に割って入ってきた。
「いえいえ、ロイさんが手伝うようなことではないのですよ、これは大角さんへの課題なのですから」
「えぇ、だからそいつがより良い魔法見習いになるために手を差し伸べに来たんです」
「何を言ってるんですかロイさん、これはあなたには関係のないことですよ」
「心配しないでください、こいつを連れてすぐに済ませます。何なら厳しい指導で二度と先生の授業の迷惑にならないようにして見せます。俺も今日の授業でこいつには腹が立ちましたからね」
アルバ様はそう言いながら体を動かし準備運動をし始めていた。しかし、そんな様子にヤグルマ先生が焦った様子でアルバ様に駆け寄った。
「ちょっと待ってくださいロイさん」
「はい、何ですか?」
「あなたの正義感は素晴らしいものです、まだ入学したての魔女見習いとは思えないほどの勇敢さです、その名にふさわしい力を持ち合わせているのですね」
「ありがとうございます、それよりもあいつの課題をさっさと終わらせましょう」
「ロイさん」
「今度はなんですか、ヤグルマ先生?」
「これは警告です、私に従って彼女に差し出そうとしている手を引きなさい」
ヤグルマ先生は突然に声色を低くした。その瞬間にそれまでの騒がしい空気が一瞬で凍り付き、アルバ様もそれを感じ取ったのかしばらく間をおいてから口を開いた。
「警告というのはよくわかりませんが、俺は何かいけない事をしてますか?」
「これは大角さんに与えられた課題ですあなたは関係ありません、黙ってこの場から去りなさい」
「俺にはあいつが課題をクリアすることもできず、無様に野垂れ死にするのが目に見えます、そうなったら責任を取るのは先生ですよ?」
「そうなったときには私が責任を取りますし、そんな事になるわけないじゃないですか、これは大角さんでも簡単にこなせる比較的に安易な課題です」
「それは、本気で言ってるんですか?」
「えぇ、もういいでしょうロイさん、あなたの正義感は存分にわかりました。加えてあなたが彼女を導けるほどの力があることもわかっています。
しかし、これは彼女に与えられた課題なのです、彼女のためにも邪魔しないであげてもらえませんか」
互いに譲らない様子の二人はじっとにらみ合った後、アルバ様がゆっくりと口を開いた。
「随分と意思がお強いんですねヤグルマ先生」
「当然です、意志の強さは魔女としての器量に直結します、先生である私が意志の弱い存在であるわけがありません」
「そうですか、なら、俺が何をするかも当然わかりますよね」
そう言うと、アルバ様は私の元へと歩いてきた。そして私の事をじっと見つめた後にヤグルマ先生の方へ向きなおした。
「どういうつもりですか、ロイさん」
「俺は、こいつを手助けに来ましたこの決意が揺らぐことはありません」
アルバ様は私に背を向けながらそう言って見せた。その背中はとても大きく輝いて見えた。そんな、彼の素敵な背中にほれぼれとしているとヤグルマ先生の大きなため息が聞こえてきた。
「私は先生です、魔女見習いに然るべき指導を行うのが仕事。しかし、それ以上にこの学校を守る守護者でもあります。
この学校に害をもたらす彼女はこの学校にいてはならない、そう、校長先生が何と言おうと彼女はこの魔法界に存在してはならない。
例え名家のご子息が邪魔をしてきたとしても、容赦はしない」
ヤグルマ先生はぶつぶつと呟きながら私たちの元へと歩み寄り、私を見つめてきた。そして手を突き出して見せると、私たちの背後からきしむ音が聞こえてきた。
それは背後にあった大きな木製の扉が開かれる音であり、開いたと同時にすさまじい風と冷気が流れ込んできた。
「ひっ」
思わず息を飲んでしまう程の寒さ、それは肌を突き刺してくるような冬の寒さとは違い、足元から全身にまとわりついてくるような気味の悪い冷気だった。
奇妙な感覚を味わいながら扉の先を見ると、そこはうっそうとした森のような場所が待ち構えていた。
「さぁ課題を始めましょう、大角さんはとっとと大烏の卵を背負って森を進むのです。心配ありませんよ、その卵を巣において来れば良いのですから」
ヤグルマ先生の言葉にアルバ様は驚いた様子で先生を見つめ、かすかに笑って見せた。
「なるほど、それがこいつに与えられた課題ですか・・・・・・」
「えぇ、今なら引き返せますよロイさん」
ヤグルマ先生は少し顔を傾けながら不敵な笑みを浮かべた。
「それはどういう意味ですか」
「ベリルの流儀だか何だか知りませんが、あなたのような名家の人間がどうしてこのようなことをするのか理解できません。立派な魔女になりたければ今すぐこの場から立ち去りなさい」
「いえ、ここで引いたら立派な魔女になれる気がしません、どうぞそのまま扉を閉めてください、課題は完ぺきにこなして見せます」
アルバ様は私が先生の提案に従うべきだという前にそう口にした。するとヤグルマ先生はものすごく険しい顔を見せた。おそらく何度も助言したにもかかわらず言う事を聞かないアルバ様に相当嫌気がさしている様子だった。
「・・・・・・いいでしょう、門をくぐりなさい」
その言葉を聞いた瞬間、近くにいたアルバ様が「行くぞ」と小さく声を漏らして地下庭園へと歩みを進めた。私はその背中を見て、すぐに体に力を込めてアルバ様の後を追った。
門を通り抜けると、背後からギシギシという音が鳴り響いてきた。それはまるで大きな扉が悲鳴を上げながら閉じていくかのようであり、私の恐怖心を煽りながら扉は完全に閉められた。
するとここで、あたりが真っ暗ではないことに気付いた。周囲は緑の蛍光色に照らされる景色が森の中に広がっており、それらはおそらく未知の植物たちによってもたらされている様に見えた。
それに加え、空を見上げてみるとまるで月のように丸く輝くものが存在しており、その光がまんべんなく降り注いできていた。
初めて見る光景に感動していると、隣から舌打ちのようなものが聞こえてきた。
「くそっ、面倒なことになっちまったっ」
「・・・・・・あ、あのぉ、アルバ様?」
私のよびかけにアルバ様は鬼の形相で私をにらみつけてきた。その様子を
見て私はすぐに両手で口をふさいだ。
「おいっ、その呼び方はやめろって言っただろ何回言えば覚えるんだ」
「す、すみませんっ」
「もういい、それよりも問題は山積みだ」
「先生は比較的簡単な課題だとおっしゃっていましたが、何か問題があるのでしょう」
「ふざけるなっ、俺たちはもう生死の境に立たされていることに気付かないのか?」
「えっと、それはどういう意味でしょう」
何もわからない状況の中、アルバ様は怒った様子で現状を悲観しているように見えた。もしかすると私が思っている以上にこの状況はまずいのかもしれない
「いいか、大烏といえば猛禽類に属される獰猛な鳥だ、人間だろうと簡単に食っちまう」
「に、人間を食うっ、そんな恐ろしい鳥なのですかっ」
「そうだ、しかも俺たちはそいつの卵を持っているときた」
「という事は、どういうことなのでしょう?」
「このままじゃ俺たちはあいつに襲われる、つまり、あいつはお前の命を狙っていたという事だ」
「どうして私なんかの命を、先生がそんなことをするわけがありません」
私の言葉にアルバ様はあきれた様子でため息をつきながら手で頭を支えた。
「本当にどこまでもお花畑な奴だなお前は」
「お、お花畑・・・・・・」
「いいか、お前が思っている以上に周りの人間はお前を嫌っている」
「それはその、召喚魔法の事でしょうか?」
「そうだ、もうわかってるとは思うが俺だってそのうちの一人だという事を忘れるなよ」
アルバ様が召喚魔法に対して嫌悪感を抱いていることはしていた。けれど、こうして面と向かって言われるのはどうにも心身に良くない。
「すみません」
「謝って済む話じゃない、それにこれはお前のためじゃない、リードさんのためだ」
「え?」
「お前を守るようにリードさんに頼まれた、ベリル屋敷に住まう同胞のためならば力の限りを尽くせとな」
なんだか徐々に状況が飲み込めてきた。どうやら師匠が私なんかのために気を利かせてくれたらしい、そしてそのためにアルバ様は来てくれた。
どんな理由であれ、この場所この状況において一人ではないという事がこれほど心強かった。
それは、思わず涙腺が緩んでしまうほどのものであり、孤独に固執していた自分をひどく恥じた。
どこまでも、陰気でどうしようもない自分を嫌になりながらも、今はアルバ様の手を借りて何とかこの課題をクリアすることに集中した。そう思い、背中に背負う卵を担ぎなおして森の中を進むことにした。
しかし、その時アルバ様が話しかけてきた。
「おい」
「はい、何でしょう?」
「そいつを下ろせ、俺が背負う」
アルバ様は私の背負う卵を指さしながらそう言った。
「いえ、しかしこれは私の課題です」
「こうなった以上俺とお前は一心同体だ、この課題を効率良く済ませるためにやるべき事はしっかりと決めるべきだ、素直に協力しろ」
アルバ様の言葉に私は戸惑った。
おそらく、この状況において彼の言葉を素直に聞いて、首を縦に振れば良いはずだ。しかし、私の心と体は彼の言葉に拒否感を持っているのか、アルバ様の提案に全くもって反応することができなかった。
すると、アルバ様は少しイラついた様子で「早く卵を寄越せ」と迫ってくると、私は彼から距離をとった。
その様子にアルバ様は明らかに不機嫌な様子を見せた。
「おい、本当にどういうつもりだお前は」
「こ、これは私の課題です、私がやらなければなりません」
「何言ってんだお前、この課題ってのはあのヤグルマとかいう教師がお前を貶めるために始めたことだっ」
「それでも、これを自分でこなさなければ会わせる顔がありません」
「何を言ってんだ、いいから寄越せっ、お前のわがままに付き合っている暇はない、命がかかってるんだぞ」
「渡しませんし、私はお前ではありません、大角カイアです」
普段からイライラなんてすることはないが、どういうわけか尊敬するアルバさんとの会話で私はイライラを感じ、そんな言葉を発してしまった。
私は思わず我に返ってアルバ様の顔を見ると、彼は少し驚いた様子を見せていたがすぐに眉をひそめて再び私に歩み寄ってきた。
「お、お断りしますっ、これは私の仕事なんですっ」
そうして、大きな声を張り上げていると、唐突にすさまじい鳴き声が聞こえてきた。
「グエェーーー」という奇妙な鳴き声は、天空から舞い降りてくるかの様にまんべんなく、そして確実に恐怖心を煽る様に聞こえてきた。
「まずい」
アルバ様は空を見上げ緊迫した表情で私を見つめてくると、唐突に私の手をつかんで走り出した。
あまりに突然の行為に驚きながらもなんとか体を動かしてアルバ様に引かれて走り出すと、今度は上空からバサバサというすさまじい羽音が聞こえ始め、さらにはあたりの木々がザワザワと騒ぎ始めた。
もしかするとアルバ様のいう大烏の仕業なのかもしれない、そう思い私は興味本位で空を見上げて見えると、そこには何も見えなかった。
けれど、どういうわけかあたりが騒がしく、さらに、先ほどまで感じていなかった風を感じ始めた。
ザワザワ、そよそよとランダムに起こり始める現象の数々を肌で感じながら走っているとアルバ様が近くにあった大木の陰を見つけ、私たちはそこに身を隠した。
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