29 / 38
少女独居編16
しおりを挟む
「ロ、ロイさんどうしてあなたがここにっ、あなたには関係ないのですよっ」
ヤグルマ先生はどこか慌てた様子でそんな声を上げており、何よりもアルバ様の名前が聞こえてきた私はすぐさま振り返った。すると、そこにはアルバ様の姿があった。
どうして彼がいるのだろう、なんて事を考えながら凛々しい姿のアルバ様に私は魅了された。
「実は、ある人から出来損ないの魔女見習いには罰があると聞きまして」
「まさかそれを見物しに来たとでも言うのですか?」
「まぁ、それもそうなんですが、同胞が困っていたら手を差し伸べるのがベリル屋敷の流儀だと教わりましたので」
「それはどういう意味ですかロイさん」
「ヤグルマ先生、見た所その出来損ないには荷が重いように見えます、俺にも手伝わせてくれませんか」
アルバ様は私を指さす仕草を見せながらそういった。するとヤグルマ先生はまるで私とアルバ様を遮るかのように間に割って入ってきた。
「いえいえ、ロイさんが手伝うようなことではないのですよ、これは大角さんへの課題なのですから」
「えぇ、だからそいつがより良い魔法見習いになるために手を差し伸べに来たんです」
「何を言ってるんですかロイさん、これはあなたには関係のないことですよ」
「心配しないでください、こいつを連れてすぐに済ませます。何なら厳しい指導で二度と先生の授業の迷惑にならないようにして見せます。俺も今日の授業でこいつには腹が立ちましたからね」
アルバ様はそう言いながら体を動かし準備運動をし始めていた。しかし、そんな様子にヤグルマ先生が焦った様子でアルバ様に駆け寄った。
「ちょっと待ってくださいロイさん」
「はい、何ですか?」
「あなたの正義感は素晴らしいものです、まだ入学したての魔女見習いとは思えないほどの勇敢さです、その名にふさわしい力を持ち合わせているのですね」
「ありがとうございます、それよりもあいつの課題をさっさと終わらせましょう」
「ロイさん」
「今度はなんですか、ヤグルマ先生?」
「これは警告です、私に従って彼女に差し出そうとしている手を引きなさい」
ヤグルマ先生は突然に声色を低くした。その瞬間にそれまでの騒がしい空気が一瞬で凍り付き、アルバ様もそれを感じ取ったのかしばらく間をおいてから口を開いた。
「警告というのはよくわかりませんが、俺は何かいけない事をしてますか?」
「これは大角さんに与えられた課題ですあなたは関係ありません、黙ってこの場から去りなさい」
「俺にはあいつが課題をクリアすることもできず、無様に野垂れ死にするのが目に見えます、そうなったら責任を取るのは先生ですよ?」
「そうなったときには私が責任を取りますし、そんな事になるわけないじゃないですか、これは大角さんでも簡単にこなせる比較的に安易な課題です」
「それは、本気で言ってるんですか?」
「えぇ、もういいでしょうロイさん、あなたの正義感は存分にわかりました。加えてあなたが彼女を導けるほどの力があることもわかっています。
しかし、これは彼女に与えられた課題なのです、彼女のためにも邪魔しないであげてもらえませんか」
互いに譲らない様子の二人はじっとにらみ合った後、アルバ様がゆっくりと口を開いた。
「随分と意思がお強いんですねヤグルマ先生」
「当然です、意志の強さは魔女としての器量に直結します、先生である私が意志の弱い存在であるわけがありません」
「そうですか、なら、俺が何をするかも当然わかりますよね」
そう言うと、アルバ様は私の元へと歩いてきた。そして私の事をじっと見つめた後にヤグルマ先生の方へ向きなおした。
「どういうつもりですか、ロイさん」
「俺は、こいつを手助けに来ましたこの決意が揺らぐことはありません」
アルバ様は私に背を向けながらそう言って見せた。その背中はとても大きく輝いて見えた。そんな、彼の素敵な背中にほれぼれとしているとヤグルマ先生の大きなため息が聞こえてきた。
「私は先生です、魔女見習いに然るべき指導を行うのが仕事。しかし、それ以上にこの学校を守る守護者でもあります。
この学校に害をもたらす彼女はこの学校にいてはならない、そう、校長先生が何と言おうと彼女はこの魔法界に存在してはならない。
例え名家のご子息が邪魔をしてきたとしても、容赦はしない」
ヤグルマ先生はぶつぶつと呟きながら私たちの元へと歩み寄り、私を見つめてきた。そして手を突き出して見せると、私たちの背後からきしむ音が聞こえてきた。
それは背後にあった大きな木製の扉が開かれる音であり、開いたと同時にすさまじい風と冷気が流れ込んできた。
「ひっ」
思わず息を飲んでしまう程の寒さ、それは肌を突き刺してくるような冬の寒さとは違い、足元から全身にまとわりついてくるような気味の悪い冷気だった。
奇妙な感覚を味わいながら扉の先を見ると、そこはうっそうとした森のような場所が待ち構えていた。
「さぁ課題を始めましょう、大角さんはとっとと大烏の卵を背負って森を進むのです。心配ありませんよ、その卵を巣において来れば良いのですから」
ヤグルマ先生の言葉にアルバ様は驚いた様子で先生を見つめ、かすかに笑って見せた。
「なるほど、それがこいつに与えられた課題ですか・・・・・・」
「えぇ、今なら引き返せますよロイさん」
ヤグルマ先生は少し顔を傾けながら不敵な笑みを浮かべた。
「それはどういう意味ですか」
「ベリルの流儀だか何だか知りませんが、あなたのような名家の人間がどうしてこのようなことをするのか理解できません。立派な魔女になりたければ今すぐこの場から立ち去りなさい」
「いえ、ここで引いたら立派な魔女になれる気がしません、どうぞそのまま扉を閉めてください、課題は完ぺきにこなして見せます」
アルバ様は私が先生の提案に従うべきだという前にそう口にした。するとヤグルマ先生はものすごく険しい顔を見せた。おそらく何度も助言したにもかかわらず言う事を聞かないアルバ様に相当嫌気がさしている様子だった。
「・・・・・・いいでしょう、門をくぐりなさい」
その言葉を聞いた瞬間、近くにいたアルバ様が「行くぞ」と小さく声を漏らして地下庭園へと歩みを進めた。私はその背中を見て、すぐに体に力を込めてアルバ様の後を追った。
門を通り抜けると、背後からギシギシという音が鳴り響いてきた。それはまるで大きな扉が悲鳴を上げながら閉じていくかのようであり、私の恐怖心を煽りながら扉は完全に閉められた。
するとここで、あたりが真っ暗ではないことに気付いた。周囲は緑の蛍光色に照らされる景色が森の中に広がっており、それらはおそらく未知の植物たちによってもたらされている様に見えた。
それに加え、空を見上げてみるとまるで月のように丸く輝くものが存在しており、その光がまんべんなく降り注いできていた。
初めて見る光景に感動していると、隣から舌打ちのようなものが聞こえてきた。
「くそっ、面倒なことになっちまったっ」
「・・・・・・あ、あのぉ、アルバ様?」
私のよびかけにアルバ様は鬼の形相で私をにらみつけてきた。その様子を
見て私はすぐに両手で口をふさいだ。
「おいっ、その呼び方はやめろって言っただろ何回言えば覚えるんだ」
「す、すみませんっ」
「もういい、それよりも問題は山積みだ」
「先生は比較的簡単な課題だとおっしゃっていましたが、何か問題があるのでしょう」
「ふざけるなっ、俺たちはもう生死の境に立たされていることに気付かないのか?」
「えっと、それはどういう意味でしょう」
何もわからない状況の中、アルバ様は怒った様子で現状を悲観しているように見えた。もしかすると私が思っている以上にこの状況はまずいのかもしれない
「いいか、大烏といえば猛禽類に属される獰猛な鳥だ、人間だろうと簡単に食っちまう」
「に、人間を食うっ、そんな恐ろしい鳥なのですかっ」
「そうだ、しかも俺たちはそいつの卵を持っているときた」
「という事は、どういうことなのでしょう?」
「このままじゃ俺たちはあいつに襲われる、つまり、あいつはお前の命を狙っていたという事だ」
「どうして私なんかの命を、先生がそんなことをするわけがありません」
私の言葉にアルバ様はあきれた様子でため息をつきながら手で頭を支えた。
「本当にどこまでもお花畑な奴だなお前は」
「お、お花畑・・・・・・」
「いいか、お前が思っている以上に周りの人間はお前を嫌っている」
「それはその、召喚魔法の事でしょうか?」
「そうだ、もうわかってるとは思うが俺だってそのうちの一人だという事を忘れるなよ」
アルバ様が召喚魔法に対して嫌悪感を抱いていることはしていた。けれど、こうして面と向かって言われるのはどうにも心身に良くない。
「すみません」
「謝って済む話じゃない、それにこれはお前のためじゃない、リードさんのためだ」
「え?」
「お前を守るようにリードさんに頼まれた、ベリル屋敷に住まう同胞のためならば力の限りを尽くせとな」
なんだか徐々に状況が飲み込めてきた。どうやら師匠が私なんかのために気を利かせてくれたらしい、そしてそのためにアルバ様は来てくれた。
どんな理由であれ、この場所この状況において一人ではないという事がこれほど心強かった。
それは、思わず涙腺が緩んでしまうほどのものであり、孤独に固執していた自分をひどく恥じた。
どこまでも、陰気でどうしようもない自分を嫌になりながらも、今はアルバ様の手を借りて何とかこの課題をクリアすることに集中した。そう思い、背中に背負う卵を担ぎなおして森の中を進むことにした。
しかし、その時アルバ様が話しかけてきた。
「おい」
「はい、何でしょう?」
「そいつを下ろせ、俺が背負う」
アルバ様は私の背負う卵を指さしながらそう言った。
「いえ、しかしこれは私の課題です」
「こうなった以上俺とお前は一心同体だ、この課題を効率良く済ませるためにやるべき事はしっかりと決めるべきだ、素直に協力しろ」
アルバ様の言葉に私は戸惑った。
おそらく、この状況において彼の言葉を素直に聞いて、首を縦に振れば良いはずだ。しかし、私の心と体は彼の言葉に拒否感を持っているのか、アルバ様の提案に全くもって反応することができなかった。
すると、アルバ様は少しイラついた様子で「早く卵を寄越せ」と迫ってくると、私は彼から距離をとった。
その様子にアルバ様は明らかに不機嫌な様子を見せた。
「おい、本当にどういうつもりだお前は」
「こ、これは私の課題です、私がやらなければなりません」
「何言ってんだお前、この課題ってのはあのヤグルマとかいう教師がお前を貶めるために始めたことだっ」
「それでも、これを自分でこなさなければ会わせる顔がありません」
「何を言ってんだ、いいから寄越せっ、お前のわがままに付き合っている暇はない、命がかかってるんだぞ」
「渡しませんし、私はお前ではありません、大角カイアです」
普段からイライラなんてすることはないが、どういうわけか尊敬するアルバさんとの会話で私はイライラを感じ、そんな言葉を発してしまった。
私は思わず我に返ってアルバ様の顔を見ると、彼は少し驚いた様子を見せていたがすぐに眉をひそめて再び私に歩み寄ってきた。
「お、お断りしますっ、これは私の仕事なんですっ」
そうして、大きな声を張り上げていると、唐突にすさまじい鳴き声が聞こえてきた。
「グエェーーー」という奇妙な鳴き声は、天空から舞い降りてくるかの様にまんべんなく、そして確実に恐怖心を煽る様に聞こえてきた。
「まずい」
アルバ様は空を見上げ緊迫した表情で私を見つめてくると、唐突に私の手をつかんで走り出した。
あまりに突然の行為に驚きながらもなんとか体を動かしてアルバ様に引かれて走り出すと、今度は上空からバサバサというすさまじい羽音が聞こえ始め、さらにはあたりの木々がザワザワと騒ぎ始めた。
もしかするとアルバ様のいう大烏の仕業なのかもしれない、そう思い私は興味本位で空を見上げて見えると、そこには何も見えなかった。
けれど、どういうわけかあたりが騒がしく、さらに、先ほどまで感じていなかった風を感じ始めた。
ザワザワ、そよそよとランダムに起こり始める現象の数々を肌で感じながら走っているとアルバ様が近くにあった大木の陰を見つけ、私たちはそこに身を隠した。
ヤグルマ先生はどこか慌てた様子でそんな声を上げており、何よりもアルバ様の名前が聞こえてきた私はすぐさま振り返った。すると、そこにはアルバ様の姿があった。
どうして彼がいるのだろう、なんて事を考えながら凛々しい姿のアルバ様に私は魅了された。
「実は、ある人から出来損ないの魔女見習いには罰があると聞きまして」
「まさかそれを見物しに来たとでも言うのですか?」
「まぁ、それもそうなんですが、同胞が困っていたら手を差し伸べるのがベリル屋敷の流儀だと教わりましたので」
「それはどういう意味ですかロイさん」
「ヤグルマ先生、見た所その出来損ないには荷が重いように見えます、俺にも手伝わせてくれませんか」
アルバ様は私を指さす仕草を見せながらそういった。するとヤグルマ先生はまるで私とアルバ様を遮るかのように間に割って入ってきた。
「いえいえ、ロイさんが手伝うようなことではないのですよ、これは大角さんへの課題なのですから」
「えぇ、だからそいつがより良い魔法見習いになるために手を差し伸べに来たんです」
「何を言ってるんですかロイさん、これはあなたには関係のないことですよ」
「心配しないでください、こいつを連れてすぐに済ませます。何なら厳しい指導で二度と先生の授業の迷惑にならないようにして見せます。俺も今日の授業でこいつには腹が立ちましたからね」
アルバ様はそう言いながら体を動かし準備運動をし始めていた。しかし、そんな様子にヤグルマ先生が焦った様子でアルバ様に駆け寄った。
「ちょっと待ってくださいロイさん」
「はい、何ですか?」
「あなたの正義感は素晴らしいものです、まだ入学したての魔女見習いとは思えないほどの勇敢さです、その名にふさわしい力を持ち合わせているのですね」
「ありがとうございます、それよりもあいつの課題をさっさと終わらせましょう」
「ロイさん」
「今度はなんですか、ヤグルマ先生?」
「これは警告です、私に従って彼女に差し出そうとしている手を引きなさい」
ヤグルマ先生は突然に声色を低くした。その瞬間にそれまでの騒がしい空気が一瞬で凍り付き、アルバ様もそれを感じ取ったのかしばらく間をおいてから口を開いた。
「警告というのはよくわかりませんが、俺は何かいけない事をしてますか?」
「これは大角さんに与えられた課題ですあなたは関係ありません、黙ってこの場から去りなさい」
「俺にはあいつが課題をクリアすることもできず、無様に野垂れ死にするのが目に見えます、そうなったら責任を取るのは先生ですよ?」
「そうなったときには私が責任を取りますし、そんな事になるわけないじゃないですか、これは大角さんでも簡単にこなせる比較的に安易な課題です」
「それは、本気で言ってるんですか?」
「えぇ、もういいでしょうロイさん、あなたの正義感は存分にわかりました。加えてあなたが彼女を導けるほどの力があることもわかっています。
しかし、これは彼女に与えられた課題なのです、彼女のためにも邪魔しないであげてもらえませんか」
互いに譲らない様子の二人はじっとにらみ合った後、アルバ様がゆっくりと口を開いた。
「随分と意思がお強いんですねヤグルマ先生」
「当然です、意志の強さは魔女としての器量に直結します、先生である私が意志の弱い存在であるわけがありません」
「そうですか、なら、俺が何をするかも当然わかりますよね」
そう言うと、アルバ様は私の元へと歩いてきた。そして私の事をじっと見つめた後にヤグルマ先生の方へ向きなおした。
「どういうつもりですか、ロイさん」
「俺は、こいつを手助けに来ましたこの決意が揺らぐことはありません」
アルバ様は私に背を向けながらそう言って見せた。その背中はとても大きく輝いて見えた。そんな、彼の素敵な背中にほれぼれとしているとヤグルマ先生の大きなため息が聞こえてきた。
「私は先生です、魔女見習いに然るべき指導を行うのが仕事。しかし、それ以上にこの学校を守る守護者でもあります。
この学校に害をもたらす彼女はこの学校にいてはならない、そう、校長先生が何と言おうと彼女はこの魔法界に存在してはならない。
例え名家のご子息が邪魔をしてきたとしても、容赦はしない」
ヤグルマ先生はぶつぶつと呟きながら私たちの元へと歩み寄り、私を見つめてきた。そして手を突き出して見せると、私たちの背後からきしむ音が聞こえてきた。
それは背後にあった大きな木製の扉が開かれる音であり、開いたと同時にすさまじい風と冷気が流れ込んできた。
「ひっ」
思わず息を飲んでしまう程の寒さ、それは肌を突き刺してくるような冬の寒さとは違い、足元から全身にまとわりついてくるような気味の悪い冷気だった。
奇妙な感覚を味わいながら扉の先を見ると、そこはうっそうとした森のような場所が待ち構えていた。
「さぁ課題を始めましょう、大角さんはとっとと大烏の卵を背負って森を進むのです。心配ありませんよ、その卵を巣において来れば良いのですから」
ヤグルマ先生の言葉にアルバ様は驚いた様子で先生を見つめ、かすかに笑って見せた。
「なるほど、それがこいつに与えられた課題ですか・・・・・・」
「えぇ、今なら引き返せますよロイさん」
ヤグルマ先生は少し顔を傾けながら不敵な笑みを浮かべた。
「それはどういう意味ですか」
「ベリルの流儀だか何だか知りませんが、あなたのような名家の人間がどうしてこのようなことをするのか理解できません。立派な魔女になりたければ今すぐこの場から立ち去りなさい」
「いえ、ここで引いたら立派な魔女になれる気がしません、どうぞそのまま扉を閉めてください、課題は完ぺきにこなして見せます」
アルバ様は私が先生の提案に従うべきだという前にそう口にした。するとヤグルマ先生はものすごく険しい顔を見せた。おそらく何度も助言したにもかかわらず言う事を聞かないアルバ様に相当嫌気がさしている様子だった。
「・・・・・・いいでしょう、門をくぐりなさい」
その言葉を聞いた瞬間、近くにいたアルバ様が「行くぞ」と小さく声を漏らして地下庭園へと歩みを進めた。私はその背中を見て、すぐに体に力を込めてアルバ様の後を追った。
門を通り抜けると、背後からギシギシという音が鳴り響いてきた。それはまるで大きな扉が悲鳴を上げながら閉じていくかのようであり、私の恐怖心を煽りながら扉は完全に閉められた。
するとここで、あたりが真っ暗ではないことに気付いた。周囲は緑の蛍光色に照らされる景色が森の中に広がっており、それらはおそらく未知の植物たちによってもたらされている様に見えた。
それに加え、空を見上げてみるとまるで月のように丸く輝くものが存在しており、その光がまんべんなく降り注いできていた。
初めて見る光景に感動していると、隣から舌打ちのようなものが聞こえてきた。
「くそっ、面倒なことになっちまったっ」
「・・・・・・あ、あのぉ、アルバ様?」
私のよびかけにアルバ様は鬼の形相で私をにらみつけてきた。その様子を
見て私はすぐに両手で口をふさいだ。
「おいっ、その呼び方はやめろって言っただろ何回言えば覚えるんだ」
「す、すみませんっ」
「もういい、それよりも問題は山積みだ」
「先生は比較的簡単な課題だとおっしゃっていましたが、何か問題があるのでしょう」
「ふざけるなっ、俺たちはもう生死の境に立たされていることに気付かないのか?」
「えっと、それはどういう意味でしょう」
何もわからない状況の中、アルバ様は怒った様子で現状を悲観しているように見えた。もしかすると私が思っている以上にこの状況はまずいのかもしれない
「いいか、大烏といえば猛禽類に属される獰猛な鳥だ、人間だろうと簡単に食っちまう」
「に、人間を食うっ、そんな恐ろしい鳥なのですかっ」
「そうだ、しかも俺たちはそいつの卵を持っているときた」
「という事は、どういうことなのでしょう?」
「このままじゃ俺たちはあいつに襲われる、つまり、あいつはお前の命を狙っていたという事だ」
「どうして私なんかの命を、先生がそんなことをするわけがありません」
私の言葉にアルバ様はあきれた様子でため息をつきながら手で頭を支えた。
「本当にどこまでもお花畑な奴だなお前は」
「お、お花畑・・・・・・」
「いいか、お前が思っている以上に周りの人間はお前を嫌っている」
「それはその、召喚魔法の事でしょうか?」
「そうだ、もうわかってるとは思うが俺だってそのうちの一人だという事を忘れるなよ」
アルバ様が召喚魔法に対して嫌悪感を抱いていることはしていた。けれど、こうして面と向かって言われるのはどうにも心身に良くない。
「すみません」
「謝って済む話じゃない、それにこれはお前のためじゃない、リードさんのためだ」
「え?」
「お前を守るようにリードさんに頼まれた、ベリル屋敷に住まう同胞のためならば力の限りを尽くせとな」
なんだか徐々に状況が飲み込めてきた。どうやら師匠が私なんかのために気を利かせてくれたらしい、そしてそのためにアルバ様は来てくれた。
どんな理由であれ、この場所この状況において一人ではないという事がこれほど心強かった。
それは、思わず涙腺が緩んでしまうほどのものであり、孤独に固執していた自分をひどく恥じた。
どこまでも、陰気でどうしようもない自分を嫌になりながらも、今はアルバ様の手を借りて何とかこの課題をクリアすることに集中した。そう思い、背中に背負う卵を担ぎなおして森の中を進むことにした。
しかし、その時アルバ様が話しかけてきた。
「おい」
「はい、何でしょう?」
「そいつを下ろせ、俺が背負う」
アルバ様は私の背負う卵を指さしながらそう言った。
「いえ、しかしこれは私の課題です」
「こうなった以上俺とお前は一心同体だ、この課題を効率良く済ませるためにやるべき事はしっかりと決めるべきだ、素直に協力しろ」
アルバ様の言葉に私は戸惑った。
おそらく、この状況において彼の言葉を素直に聞いて、首を縦に振れば良いはずだ。しかし、私の心と体は彼の言葉に拒否感を持っているのか、アルバ様の提案に全くもって反応することができなかった。
すると、アルバ様は少しイラついた様子で「早く卵を寄越せ」と迫ってくると、私は彼から距離をとった。
その様子にアルバ様は明らかに不機嫌な様子を見せた。
「おい、本当にどういうつもりだお前は」
「こ、これは私の課題です、私がやらなければなりません」
「何言ってんだお前、この課題ってのはあのヤグルマとかいう教師がお前を貶めるために始めたことだっ」
「それでも、これを自分でこなさなければ会わせる顔がありません」
「何を言ってんだ、いいから寄越せっ、お前のわがままに付き合っている暇はない、命がかかってるんだぞ」
「渡しませんし、私はお前ではありません、大角カイアです」
普段からイライラなんてすることはないが、どういうわけか尊敬するアルバさんとの会話で私はイライラを感じ、そんな言葉を発してしまった。
私は思わず我に返ってアルバ様の顔を見ると、彼は少し驚いた様子を見せていたがすぐに眉をひそめて再び私に歩み寄ってきた。
「お、お断りしますっ、これは私の仕事なんですっ」
そうして、大きな声を張り上げていると、唐突にすさまじい鳴き声が聞こえてきた。
「グエェーーー」という奇妙な鳴き声は、天空から舞い降りてくるかの様にまんべんなく、そして確実に恐怖心を煽る様に聞こえてきた。
「まずい」
アルバ様は空を見上げ緊迫した表情で私を見つめてくると、唐突に私の手をつかんで走り出した。
あまりに突然の行為に驚きながらもなんとか体を動かしてアルバ様に引かれて走り出すと、今度は上空からバサバサというすさまじい羽音が聞こえ始め、さらにはあたりの木々がザワザワと騒ぎ始めた。
もしかするとアルバ様のいう大烏の仕業なのかもしれない、そう思い私は興味本位で空を見上げて見えると、そこには何も見えなかった。
けれど、どういうわけかあたりが騒がしく、さらに、先ほどまで感じていなかった風を感じ始めた。
ザワザワ、そよそよとランダムに起こり始める現象の数々を肌で感じながら走っているとアルバ様が近くにあった大木の陰を見つけ、私たちはそこに身を隠した。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる