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第二部 ドラゴンシティ
後デビュー
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「リオ、おい、リオ」
誰かが名前を呼んでいる。
「おい、起きろよ。もう五時過ぎてるぜ」
どうやら起床の時間らしい。
「もうちょっと、眠らせて」
少年はごろりと寝返りをうった。
「皆もう行っちまったぜ。朝飯抜きなんてお前には無理だろ」
「大丈夫……」
「嘘つけよ。また課題に遅れたら連帯責任で俺まで怒られるんだぜ」
連帯責任。
リオはぱちりと目をあけた。
「急いで着替えろ。もう皆食堂に行っちまったぜ」
傍らには、予想通り光がいて、こちらを除きこんでいた。
黒く澄んだ瞳には、大きく目を見開いた自分の顔が映っている。
「なんだよ。じろじろ」
「あ……なんでもない」
リオはよろよろと起き上がった。
「変な奴」
光は肩をすくめている。
普段と変わらない態度。ならば、あれは夢だったのだ。縞シャツに着替えながら、リオはあまりにも過激だった昨日の夢を思い出していた。
光に迫られ、愛撫され、そして彼の手のひらの中に……。
「……俺ってもしかして欲求不満かな?」
廊下を歩きながらひとりごちれば、
「……んなわけないだろ。あんなに先生たちにかまわれてんだから」
ぼそりと返事が返ってくる。何の屈託も感じられない声のトーン。やはりあれは夢だったのだとリオは結論づけた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
その日はフロア全体に、ぴりぴりとした空気が漂っていた。
何故だか厳しい看護士の表情と、台に並んだ、様々な器具。
「ここしばらく乳首調教だけだったのにな」
「リオもとうとう……アナルデビューか……」
少年たちの囁き声に耳をすませば、尚更不安が募っていく。
「何? お兄ちゃん、今から何すんの?」
尋ねても、皆悲しげに目をそらすばかりだ。
丸い突起のついたピンク色の棒状の器具は、オークション部屋でも目にした事がある。結局使われる事はなかったが、存在自体がまがまがしいオーラを放っていて、直視する事は出来なかった。
いつもとは明らかに違う雰囲気。
そしてトレーニング開始のチャイムが鳴り、看護士は説明を始めた。
「リオ以外は皆、今から何が始まるか、わかっているね。だけど一応手順を伝えておこう。まずここにある器具を、いくつか選びなさい。ごくごく細身のものから、太いものまでサイズも形も様々だが、それぞれの器具には小さく数字が振ってある。一から五までの数字がね。大体太いものが五で、極小が一だ」
男は、一つを手にとり、側面の数字を示してみせた。
「全部足して五になるようにして、選別をしたらベッドに行きなさい。そして、アナルに挿入するんだ。久しぶりだから、君たちのあそこも、ずいぶんきつくなってしまっていると思う。だから、最初は小さなものから始める事をお勧めするよ。まあ、最初から極太を選べば、淹れるのは一本ですむけどね」
リオの顔は紙のように白くなる。
「……先生、リオはどうするんですか。この子には、それはまだ……無理だと思います」
光が小声で尋ねた。
「勿論新入りにはそれなりの道具を用意しているよ。リオだけは、私たちがやる」
看護士は答えた。
少年たちの同情に満ちた視線が、一瞬リオに集まった。
「や……だ」
後退りながら、壁際を見た。光は目をそらし、諦めろという風に首を振る。
看護士の数人が、入り口にさりげなく移動した。行動を、読まれている。
「いやっ……嫌だ……できない、嫌っ」
リオは叫んだ。
暴れる隙も与えられず、リオは数人の看護士にはがい締めにされ、ベッドへと運ばれた。
「やっ……やだ……ねえ……嫌っ」
「まずは細身のプラグから始めていき、段々に大きなものにシフトする。今日は、指以上の物は淹れないから、安心しなさい」
「やだったら……!」
看護士の一人が、先に丸い突起のついた、棒つきキャンディーみたいな器具をサイドワゴンから取り上げる。
同情に満ちた視線の中に、沙蘭の涼しげな瞳を見つけ、リオの体はますます震え始めた。
「誰か、助けてっ、ねえっ……京ちゃんっ……」
リオは、泣きじゃくりながら、ここにはいない救世主の名を呼んだ。勿論、京が現れる事はなく、リオの体は、逞しい大人たちによってベッドへと止められる。
「あの……リオは、許してやってください。この子はまだ……子供なんです」
光が一歩前へと進み出た。
「奴隷は、黙ってろ」
看護士は一喝する。
「でも、」
「調教を免れているからといって勘違いするな。お前は、リオとは違い、何のオーラもない、ただの奴隷なんだよ。赤夜叉様の意向一つで、すぐにこの世から消されてしまう、つまらない存在なんだ」
光は唇をかみしめ、その場に立ちすくむ。ざわめきの中、リオの衣服は脱がされ、白いなめらかな肌が露になった。
「嫌っ……ねえっ、誰か……」
リオの頬は涙と涎でべとべとである。今までも、訓練の度に全身を使って抗ってはきたが、痛みを伴う行為は初めてなのだ。感じている恐怖は普段のそれとは比べ物にならない。
「さあ、お前たちも、準備をしろ」
看護士の指示に、他の少年たちものろのろと従った。リオを気にしながらも、それぞれ指定のベッドに上がり、好みのプラグを物色する。光だけは、壁際に直立したまま、握り締めた両手を震わせていた。 沙蘭も紫色のアナルビーズを手に取ったが、
「沙蘭。お前はいい……隣の部屋で待っていなさい」
傍らの男に言われて、するりとベッドから下り歩きだす。
リオは一瞬恐怖を忘れ、立ち去る沙蘭の後ろ姿を目で追った。
「観念したのかい? 出来るだけ、痛くはしないから、力を抜いて……」
はっと目を上げれば、顔のすぐ間近に看護士がいて、熱い吐息と共に、下腹にぐにゃりとした物が押し当てられた。
「あっ……やっ……」
腰をくねらせ避けようとするリオを、あざ笑うかのように、それは、ぴたぴたと狭間の割れ目を滑っていく。
「先だけ、淹れるよ」
器具を持っている看護士が、リオを押さえている二人に目配せすれば、両手にかけられた力は一気に強まった。
「ああっ……」
奇妙な感触のそれが、リオの体の芯をとらえる。逃げをうとうとする腰の動きは、かけられた男の体重に封印された。
もう逃げられない。誰もがそう思った時。
大きな音を立てて扉が開いた。
「もう、いい。リオを離してやれ」
「京ちゃん!」
待ちわびた人の登場に、リオは渾身の力を振り絞った。
一瞬関心のそれた看護士たちの拘束を振り切り、ベッドから飛び下りて、京へと走り寄る。屈んだ京の首に手をまわし、その頬に、涙に濡れた顔を押し付た。
「アナル調教は、外せませんよ。どうするつもりなんですか?」
看護士が、厳しい顔で問いかける。
「俺が、この子を調教する」
頭の上から聞こえてきた台詞の意味が、最初リオにはわからなかった。
「そんな勝手が許されると思ってるんですか?」
「俺は監督だぜ。そしてリオは赤夜叉の……花嫁候補だ」
京は言った。
「あんまり怖がらせたら味が落ちて赤夜叉の機嫌を損ねちまうぜ。後ろを嫌がらないように、俺が、うまくやってやるさ」
男にしがみついたまま、リオは、ぴくりと体を震わせた。
「ねえ、俺が京ちゃん呼んでたの聞こえた?」
「いいや」
「じゃあ、どうして」
助けに来てくれたの? と尋ねるリオに、告げられたのはあまりにも意外な事実だった。
「沙蘭が呼びに来た。俺のお姫様がピンチだって」
「沙蘭が……?」
「ああ。それだけ言うと、すぐにいなくなったけどな」
「……」
京の説明にリオは首を傾げる。
では、おとなしく別室へと行く振りをして、その実沙蘭は、京を探しに行ったのだ。もし看護士や、他の監督に見つかれば、どんな罰則を与えられるかわからない、危険な行為である。
一度も口をきいた事すらない自分に、どうしてそこまでしてくれたのか、わからない。
しかし、憧れの沙蘭に助けてもらったという事実は、ほんのりとリオの心を温めた。京と手をつなぎ歩くリノリウムの床が、いつもより明るく光って見える。
結局アナル調教を免れたリオは、京の部屋へと向かっていた。
看護士たちは皆苦々しい顔をしていたし、光は、何故か怒っているようにさえ見えたけれど、さっきまでの不安はすっかり消えた。
京は、自分が調教をするなんて言ったけれど、そんなのは嘘に決まっている。今までも何度か京の部屋を訪れた事はあるが、痛い事なんて一度もされた事はない。
裸にされて抱きしめられたり、もしかしたら、乳首や性器を弄られたりくらいならされるかもしれないが、看護士たちよりも京の手順は、どことなく優しくて、恥ずかしくてたまらないくせに、嫌な気分にはならなかった。
押し寄せる羞恥心に、どうしても泣いてしまうのだが、そのあと、ぎゅっと抱きしめられ、背中を撫でられれば、全てを許し、次に会った時にはまた甘えてしまう。
ちらりと横目で京を見上げ、今日は、何もされないかもしれない、とリオは思った。
いつもの彼より、ずいぶん落ち着いている。おぞましい調教に怯えきったリオを、もしかしたら慰めてくれるだけかもしれないと、甘い展望が頭をよぎる。
そして、それが実に手ぬるい願望だと気づかされるのは、すぐだった。
先にリオを部屋に入れ、京は後ろ手にドアを閉めた。
廊下では感じられなかった雄の匂いが、後ろからリオの体を包む。
激しすぎる抱擁の後、長い指はシャツのボタンを外し始めたが、リオは込み上げる不安に、男のなすがままで動けない。振り向く事さえ、出来そうにない。
「京ちゃん、何……」
シャツを片手ずつ丁寧にはぎ取られ、剥き出しになった裸の背中に、京の鼓動が伝わってくる。
朝方だというのに、すでに新しいシーツで整えられた目の前のベッドが、リオの不安を倍増させた。
京は綿のゴムに手をかけ、下着ごとするりと床に下ろした。
全裸のリオを横抱きにし、皺一つないシーツの上にそっと下ろす。
「怖い事は……しないよね?
それだけで済みそうな雰囲気ではなかったが、信じたい気持ちが強かった。
「俺がお前をしつけると言っただろう」
京は一言で済ませると、手早くシャツのボタンとベルトをはずし、自らも裸になって、リオの横に身を滑らせる。
鍛え抜かれた、大人の男の身体に、リオの心臓は早鐘を打ち始めた。
「好きだ」
暗闇の中、京はいきなり、そう告げた。
突然過ぎる告白に、リオはどんな反応を示せばいいのか、わからない。
きつく抱きしめられると、再び心臓がどくんと跳ねた。
「気がついたら、いつだってお前の事ばかり考えてる。いい大人が、ったく、馬鹿だよな。だけど、本気だ。お前が、好きだ」
京は苦しげにそう続けた。
薄い唇が近づいてくる。
柔らかな、その感触を受けながら、リオは、生まれて初めての告白の意味を、頭の中でぐるぐると考えていた。
京の手が、裸の身体を這い回っている。
看護人に、鳥の羽や、ローターで刺激された事はあったが、こんな風に撫で回されるのは初めてだった。
いつもなら看護用ベッドの上に縛られて、刺激に耐えることだけに集中していれば良かったが、今は、息をするのも苦しいくらいにきつく抱きしめられている。告白の後、こんな風に抱かれてしまう意味。思わず心情を吐露してしまっただけなのか、それともリオに何らかのアクションを期待しているのだろうか。
わからない。わからないけど……。
さっきから胸の中で沢山の小人が飛び跳ねていて、あちこちが痛い。しかしその痛みは、どこか、甘い。
京の手が、リオの性器に到達する。
びくんと、身体が跳ねてしまう。
突然の告白に、呆然としてしまっていたが、再び、恐怖が競りあがってきた。
「俺を抱くの?」
「ああ」
乳首に顔を伏せながら、京は答えた。
「あそこは……しないよね?」
ソフトタッチで繰り返される愛撫に耐えながら、リオはアナル調教について暗に尋ねた。
「トレーニングを中断させて浚ってきたんだ。やらなきゃ、もう二度と特別扱いは出来なくなる」
「したって言えばいい」
「無理だ。ここを確認すれば、やったかやらないか、すぐわかる」
京の指が、リオの蕾をつっと撫でた。たちまち体に微かな電流が走る。
「やだっ。京ちゃん、触らないで」
リオは顔を赤くして身を捩った。
「どうして? 俺は、いつだってここを触りたいよ。お前の一番可愛いところだ。それに」
強引に、京は蕾に添えた指を数回往復させた。
「赤夜叉の嫁になったら、毎日ここを使うんだ。今から慣れておいた方がいい」
もう一度京の指は性器へと戻り、側面をソフトに撫であげる。
「んっ……」
リオは唇を噛んだ。
「ここを刺激されるのは好きだろう? だけど、後ろの気持よさは、そんなもんじゃないらしいぜ。最初は嫌がっていた子が数回でやみつきになるのを俺は今まで何人も見てきた。大丈夫だ。お前も慣らしていけば、そのうち、きっと後ろが好きになる」
「京ちゃん、俺の事好きだって言ったのに、どうしてそんな事言うの?」
リオは涙目で訴えた。
「好きだから、するんだ。お前の可愛い蕾が初めて赤夜叉に抱かれる時、ひどく傷つかないように」
男は袋を、指先で摘む。
「ああっ……」
じんわりとした快感に、少年の腰が怪しく揺れた。
誰かが名前を呼んでいる。
「おい、起きろよ。もう五時過ぎてるぜ」
どうやら起床の時間らしい。
「もうちょっと、眠らせて」
少年はごろりと寝返りをうった。
「皆もう行っちまったぜ。朝飯抜きなんてお前には無理だろ」
「大丈夫……」
「嘘つけよ。また課題に遅れたら連帯責任で俺まで怒られるんだぜ」
連帯責任。
リオはぱちりと目をあけた。
「急いで着替えろ。もう皆食堂に行っちまったぜ」
傍らには、予想通り光がいて、こちらを除きこんでいた。
黒く澄んだ瞳には、大きく目を見開いた自分の顔が映っている。
「なんだよ。じろじろ」
「あ……なんでもない」
リオはよろよろと起き上がった。
「変な奴」
光は肩をすくめている。
普段と変わらない態度。ならば、あれは夢だったのだ。縞シャツに着替えながら、リオはあまりにも過激だった昨日の夢を思い出していた。
光に迫られ、愛撫され、そして彼の手のひらの中に……。
「……俺ってもしかして欲求不満かな?」
廊下を歩きながらひとりごちれば、
「……んなわけないだろ。あんなに先生たちにかまわれてんだから」
ぼそりと返事が返ってくる。何の屈託も感じられない声のトーン。やはりあれは夢だったのだとリオは結論づけた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
その日はフロア全体に、ぴりぴりとした空気が漂っていた。
何故だか厳しい看護士の表情と、台に並んだ、様々な器具。
「ここしばらく乳首調教だけだったのにな」
「リオもとうとう……アナルデビューか……」
少年たちの囁き声に耳をすませば、尚更不安が募っていく。
「何? お兄ちゃん、今から何すんの?」
尋ねても、皆悲しげに目をそらすばかりだ。
丸い突起のついたピンク色の棒状の器具は、オークション部屋でも目にした事がある。結局使われる事はなかったが、存在自体がまがまがしいオーラを放っていて、直視する事は出来なかった。
いつもとは明らかに違う雰囲気。
そしてトレーニング開始のチャイムが鳴り、看護士は説明を始めた。
「リオ以外は皆、今から何が始まるか、わかっているね。だけど一応手順を伝えておこう。まずここにある器具を、いくつか選びなさい。ごくごく細身のものから、太いものまでサイズも形も様々だが、それぞれの器具には小さく数字が振ってある。一から五までの数字がね。大体太いものが五で、極小が一だ」
男は、一つを手にとり、側面の数字を示してみせた。
「全部足して五になるようにして、選別をしたらベッドに行きなさい。そして、アナルに挿入するんだ。久しぶりだから、君たちのあそこも、ずいぶんきつくなってしまっていると思う。だから、最初は小さなものから始める事をお勧めするよ。まあ、最初から極太を選べば、淹れるのは一本ですむけどね」
リオの顔は紙のように白くなる。
「……先生、リオはどうするんですか。この子には、それはまだ……無理だと思います」
光が小声で尋ねた。
「勿論新入りにはそれなりの道具を用意しているよ。リオだけは、私たちがやる」
看護士は答えた。
少年たちの同情に満ちた視線が、一瞬リオに集まった。
「や……だ」
後退りながら、壁際を見た。光は目をそらし、諦めろという風に首を振る。
看護士の数人が、入り口にさりげなく移動した。行動を、読まれている。
「いやっ……嫌だ……できない、嫌っ」
リオは叫んだ。
暴れる隙も与えられず、リオは数人の看護士にはがい締めにされ、ベッドへと運ばれた。
「やっ……やだ……ねえ……嫌っ」
「まずは細身のプラグから始めていき、段々に大きなものにシフトする。今日は、指以上の物は淹れないから、安心しなさい」
「やだったら……!」
看護士の一人が、先に丸い突起のついた、棒つきキャンディーみたいな器具をサイドワゴンから取り上げる。
同情に満ちた視線の中に、沙蘭の涼しげな瞳を見つけ、リオの体はますます震え始めた。
「誰か、助けてっ、ねえっ……京ちゃんっ……」
リオは、泣きじゃくりながら、ここにはいない救世主の名を呼んだ。勿論、京が現れる事はなく、リオの体は、逞しい大人たちによってベッドへと止められる。
「あの……リオは、許してやってください。この子はまだ……子供なんです」
光が一歩前へと進み出た。
「奴隷は、黙ってろ」
看護士は一喝する。
「でも、」
「調教を免れているからといって勘違いするな。お前は、リオとは違い、何のオーラもない、ただの奴隷なんだよ。赤夜叉様の意向一つで、すぐにこの世から消されてしまう、つまらない存在なんだ」
光は唇をかみしめ、その場に立ちすくむ。ざわめきの中、リオの衣服は脱がされ、白いなめらかな肌が露になった。
「嫌っ……ねえっ、誰か……」
リオの頬は涙と涎でべとべとである。今までも、訓練の度に全身を使って抗ってはきたが、痛みを伴う行為は初めてなのだ。感じている恐怖は普段のそれとは比べ物にならない。
「さあ、お前たちも、準備をしろ」
看護士の指示に、他の少年たちものろのろと従った。リオを気にしながらも、それぞれ指定のベッドに上がり、好みのプラグを物色する。光だけは、壁際に直立したまま、握り締めた両手を震わせていた。 沙蘭も紫色のアナルビーズを手に取ったが、
「沙蘭。お前はいい……隣の部屋で待っていなさい」
傍らの男に言われて、するりとベッドから下り歩きだす。
リオは一瞬恐怖を忘れ、立ち去る沙蘭の後ろ姿を目で追った。
「観念したのかい? 出来るだけ、痛くはしないから、力を抜いて……」
はっと目を上げれば、顔のすぐ間近に看護士がいて、熱い吐息と共に、下腹にぐにゃりとした物が押し当てられた。
「あっ……やっ……」
腰をくねらせ避けようとするリオを、あざ笑うかのように、それは、ぴたぴたと狭間の割れ目を滑っていく。
「先だけ、淹れるよ」
器具を持っている看護士が、リオを押さえている二人に目配せすれば、両手にかけられた力は一気に強まった。
「ああっ……」
奇妙な感触のそれが、リオの体の芯をとらえる。逃げをうとうとする腰の動きは、かけられた男の体重に封印された。
もう逃げられない。誰もがそう思った時。
大きな音を立てて扉が開いた。
「もう、いい。リオを離してやれ」
「京ちゃん!」
待ちわびた人の登場に、リオは渾身の力を振り絞った。
一瞬関心のそれた看護士たちの拘束を振り切り、ベッドから飛び下りて、京へと走り寄る。屈んだ京の首に手をまわし、その頬に、涙に濡れた顔を押し付た。
「アナル調教は、外せませんよ。どうするつもりなんですか?」
看護士が、厳しい顔で問いかける。
「俺が、この子を調教する」
頭の上から聞こえてきた台詞の意味が、最初リオにはわからなかった。
「そんな勝手が許されると思ってるんですか?」
「俺は監督だぜ。そしてリオは赤夜叉の……花嫁候補だ」
京は言った。
「あんまり怖がらせたら味が落ちて赤夜叉の機嫌を損ねちまうぜ。後ろを嫌がらないように、俺が、うまくやってやるさ」
男にしがみついたまま、リオは、ぴくりと体を震わせた。
「ねえ、俺が京ちゃん呼んでたの聞こえた?」
「いいや」
「じゃあ、どうして」
助けに来てくれたの? と尋ねるリオに、告げられたのはあまりにも意外な事実だった。
「沙蘭が呼びに来た。俺のお姫様がピンチだって」
「沙蘭が……?」
「ああ。それだけ言うと、すぐにいなくなったけどな」
「……」
京の説明にリオは首を傾げる。
では、おとなしく別室へと行く振りをして、その実沙蘭は、京を探しに行ったのだ。もし看護士や、他の監督に見つかれば、どんな罰則を与えられるかわからない、危険な行為である。
一度も口をきいた事すらない自分に、どうしてそこまでしてくれたのか、わからない。
しかし、憧れの沙蘭に助けてもらったという事実は、ほんのりとリオの心を温めた。京と手をつなぎ歩くリノリウムの床が、いつもより明るく光って見える。
結局アナル調教を免れたリオは、京の部屋へと向かっていた。
看護士たちは皆苦々しい顔をしていたし、光は、何故か怒っているようにさえ見えたけれど、さっきまでの不安はすっかり消えた。
京は、自分が調教をするなんて言ったけれど、そんなのは嘘に決まっている。今までも何度か京の部屋を訪れた事はあるが、痛い事なんて一度もされた事はない。
裸にされて抱きしめられたり、もしかしたら、乳首や性器を弄られたりくらいならされるかもしれないが、看護士たちよりも京の手順は、どことなく優しくて、恥ずかしくてたまらないくせに、嫌な気分にはならなかった。
押し寄せる羞恥心に、どうしても泣いてしまうのだが、そのあと、ぎゅっと抱きしめられ、背中を撫でられれば、全てを許し、次に会った時にはまた甘えてしまう。
ちらりと横目で京を見上げ、今日は、何もされないかもしれない、とリオは思った。
いつもの彼より、ずいぶん落ち着いている。おぞましい調教に怯えきったリオを、もしかしたら慰めてくれるだけかもしれないと、甘い展望が頭をよぎる。
そして、それが実に手ぬるい願望だと気づかされるのは、すぐだった。
先にリオを部屋に入れ、京は後ろ手にドアを閉めた。
廊下では感じられなかった雄の匂いが、後ろからリオの体を包む。
激しすぎる抱擁の後、長い指はシャツのボタンを外し始めたが、リオは込み上げる不安に、男のなすがままで動けない。振り向く事さえ、出来そうにない。
「京ちゃん、何……」
シャツを片手ずつ丁寧にはぎ取られ、剥き出しになった裸の背中に、京の鼓動が伝わってくる。
朝方だというのに、すでに新しいシーツで整えられた目の前のベッドが、リオの不安を倍増させた。
京は綿のゴムに手をかけ、下着ごとするりと床に下ろした。
全裸のリオを横抱きにし、皺一つないシーツの上にそっと下ろす。
「怖い事は……しないよね?
それだけで済みそうな雰囲気ではなかったが、信じたい気持ちが強かった。
「俺がお前をしつけると言っただろう」
京は一言で済ませると、手早くシャツのボタンとベルトをはずし、自らも裸になって、リオの横に身を滑らせる。
鍛え抜かれた、大人の男の身体に、リオの心臓は早鐘を打ち始めた。
「好きだ」
暗闇の中、京はいきなり、そう告げた。
突然過ぎる告白に、リオはどんな反応を示せばいいのか、わからない。
きつく抱きしめられると、再び心臓がどくんと跳ねた。
「気がついたら、いつだってお前の事ばかり考えてる。いい大人が、ったく、馬鹿だよな。だけど、本気だ。お前が、好きだ」
京は苦しげにそう続けた。
薄い唇が近づいてくる。
柔らかな、その感触を受けながら、リオは、生まれて初めての告白の意味を、頭の中でぐるぐると考えていた。
京の手が、裸の身体を這い回っている。
看護人に、鳥の羽や、ローターで刺激された事はあったが、こんな風に撫で回されるのは初めてだった。
いつもなら看護用ベッドの上に縛られて、刺激に耐えることだけに集中していれば良かったが、今は、息をするのも苦しいくらいにきつく抱きしめられている。告白の後、こんな風に抱かれてしまう意味。思わず心情を吐露してしまっただけなのか、それともリオに何らかのアクションを期待しているのだろうか。
わからない。わからないけど……。
さっきから胸の中で沢山の小人が飛び跳ねていて、あちこちが痛い。しかしその痛みは、どこか、甘い。
京の手が、リオの性器に到達する。
びくんと、身体が跳ねてしまう。
突然の告白に、呆然としてしまっていたが、再び、恐怖が競りあがってきた。
「俺を抱くの?」
「ああ」
乳首に顔を伏せながら、京は答えた。
「あそこは……しないよね?」
ソフトタッチで繰り返される愛撫に耐えながら、リオはアナル調教について暗に尋ねた。
「トレーニングを中断させて浚ってきたんだ。やらなきゃ、もう二度と特別扱いは出来なくなる」
「したって言えばいい」
「無理だ。ここを確認すれば、やったかやらないか、すぐわかる」
京の指が、リオの蕾をつっと撫でた。たちまち体に微かな電流が走る。
「やだっ。京ちゃん、触らないで」
リオは顔を赤くして身を捩った。
「どうして? 俺は、いつだってここを触りたいよ。お前の一番可愛いところだ。それに」
強引に、京は蕾に添えた指を数回往復させた。
「赤夜叉の嫁になったら、毎日ここを使うんだ。今から慣れておいた方がいい」
もう一度京の指は性器へと戻り、側面をソフトに撫であげる。
「んっ……」
リオは唇を噛んだ。
「ここを刺激されるのは好きだろう? だけど、後ろの気持よさは、そんなもんじゃないらしいぜ。最初は嫌がっていた子が数回でやみつきになるのを俺は今まで何人も見てきた。大丈夫だ。お前も慣らしていけば、そのうち、きっと後ろが好きになる」
「京ちゃん、俺の事好きだって言ったのに、どうしてそんな事言うの?」
リオは涙目で訴えた。
「好きだから、するんだ。お前の可愛い蕾が初めて赤夜叉に抱かれる時、ひどく傷つかないように」
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