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第二部 ドラゴンシティ

キムのトレーニング

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「先生、じゃあ、頼むぜ。こいつをたっぷり躾けてやってくれ」
「ああ、やっぱり来たんだね。了解だよ。でも、僕に出来るかな? ここのところ、すっかりご無沙汰だったからね」
 キムは、書類から顔を上げ、ドアから半分だけ体をのぞかせている一星を見た。後ろにはリオがいて、頬をほんのり赤く染めている。
「すぐ思い出すさ。つか、そうしてくれ」
 リオを部屋の中に押し込み、ちゃっと頭の上に手をやって礼をすると、一星はそのままいなくなった。
「そこに座って」
 促され、リオは、黒革のソファに腰かけた。すぐにキムも立ち上がり、リオの隣に影のようにそっと寄り添い、小さな顎を指でつまみ、上向かせる。
「アナル調教がどうしても嫌だったのかい? 昨日、暴れまくったって聞いてるよ。いけない子だね。看護士さんたちを困らせては駄目じゃないか」
 沢山の光の玉がちりばめられた、綺麗な目が優しげに細められる。
「先生、俺、あんなの絶対無理」
 至近距離にあるキムの目を見つめ返しながら、リオはきっぱりとそう言った。
「器具を淹れるのが、怖いんだね。君は甘えん坊だから、確かに冷たい機械じゃ物足りないかもしれないね。でも、いきなり男のものを淹れられるのはつらいだろう? 赤夜叉様と寝た事は僕にはないけれど、大変立派なものをお持ちだと聞いているよ。受け入れるためには、普段かからかなり大きく広げておかなくちゃ」
 リオは顎を取られたまま、ふるふると首を振る。今朝も、看護士たちは、様々に言葉をかえて説得を試みたが、無駄だった。怖いし、嫌だ。昨日京の指で開かれた時の、鈍い痛みを思い出すと尚更嫌になる。感じたのは、痛みだけではなかったとしても。
「よしよし、わかってるよ。君は可愛すぎるから、皆無理強いは出来ないんだよね。だから、僕の出番になった。僕が看護士たちの代わりに、君を調教するんだよ。それはわかってるよね? なんだか、すっかり安心されてるみたいで、僕としては若干不満もあるんだけど」
 キムはリオの顔から手を離し、少し間をあけて腕を組んだ。
「僕の事は怖くないの? 今から君を躾けるのは僕なんだよ」
「先生は、お尻はしないんでしょう?」
 縋るように、リオは上目遣いでキムを見上げる。
「うん、僕はしないよ。君を気持よくさせてあげるだけだから、いつものトレーニングより楽かもしれない」
「……」
「そんなほっとした顔をするのは早すぎるよ。君にとって楽なだけのレッスンを、一星が用意すると思うかい?」
「……怖い事……するの? 先生が?」
 リオは両目を見開いた。ドラゴンシティで最初に診察を受けた時から始まって、何度かキムとは面談していた。いつも優しくて穏やかな、中性的美貌のキムは、リオにとっての癒しだった。その彼もトレーナーという立場になれば、豹変するのだろうか。
「どうだろうね。まあ、前置きはいいや。試してみようよ」
 キムは口角を上げ、綺麗な笑顔を見せた。
「ベッドを隣の部屋に用意してある。そろそろ行こうか」
 片腕をとられ、リオは立ち上がった。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※

 診察の時と同じ、シンプルな医療用ベッドを想像していたリオは、そこにあるキングサイズのダブルベッドに目を瞠った。
 ふんわりとしたマットに清潔そうなシーツ。分厚い遮光カーテンが太陽の光をシャットダウンし、人工的な夜の雰囲気を作り出している。
「おっと、いまさら逃げるなんて駄目だよ。それともアナル調教を受けに戻るかい?」
 思わず後退るリオの背中は、真後ろの広い胸にとんとぶつかって止まった。後ろから抱え込むように肩を抱かれ、
「先生……」
 リオはか細い声で呟いた。
「大丈夫。怖い事や痛い事は絶対しないよ。君を可愛がってあげるだけだから」
「でも……」
「君はアナルが怖いんだろう? それなら、きっとトレーニングの度に、ここに来る事になるんだよ。早く僕とのセックスに慣れておいた方がいい。その方がきっと何事も楽に済むからね」
 耳たぶに触れるようにして囁かれ、ぞくぞくと背中に震えがはしる。駄目だ。この部屋は、オークション会場に似すぎている。初めて男たちに性的な行為を与えられた、あの日の出来事は、リオのトラウマになっていた。
「京に……どこまでされたの?」
 かりりと耳たぶを噛まれ、リオは首をすくめる。くすぐったさと、胸の底から湧いてくる、甘い感覚。
「指……淹れられちゃった……」
 告げ口みたいに訴えれば、
「京は君が大好きだからね」
耳の穴までも舌をいれて清めながら、キムはリオを自分の方に向かせた。
「キスするよ。口を開けて」
 トレーニングの最中にキスを要求されるのなんて、初めてで、リオはきょとんとキムを見上げた。看護士たちはどんな攻めも淡々とこなす。
 キスや、首筋への愛撫など、まるで恋人からみたいな触れ合いを与えられているのは、沙蘭だけである。
「どうしたの? キスは好きだって、京から聞いてるよ」
 柔和な笑みを含んだ声。
「それとも、君は京が好きなの? だから彼とするキスは好きなのかな?」
 尋ねられ、リオは、京を頭の中に思い浮かべた。優しくて、面倒見のいい京。だけど、昨日彼はリオを犯そうとした。泣きじゃくりながら、やめてと何度も頼んだのに聞き入れてくれず、強い力で押さえつけ、猛った欲棒を、リオの蕾に押しつけた。
 一星が来なかったら、きっとあのまま、貫かれていただろう。
 京なんか嫌いだ。彼のキスだから好きだなんて、あり得ない。
「ううん……京ちゃんなんか、全然好きじゃない」
「なら、奪っていいんだね」
 いきなり綺麗な顔が下りてきた。
 奪われる事に慣れた唇は、条件反射のように薄く開き、熱い吐息と共に、長い舌が、差し込まれる。
 余裕に満ちた、技巧に長けたキス。
 リオの幼い舌を吸いながら、キムはじりじりとベッドへと移動していった。
 直前にキムは舌を抜き、ベッドへとリオをそっと横たえた。そのまま覆い被さり、胸のボタンを一つ一つゆっくりと外していく。
 医者の手管だからだろうか。京や看護士にされている時ほどの心理的な抵抗は感じられず、リオはなすがままにじっとしていた。ボタンは全てはずされ、剥き出しになった乳首を、温かい指がそっと摘む。
「君の魔性は僕の心まで揺らがせるよ。この体を前に、我慢するのは忍耐力を総動員しないと無理みたいだ」
 こりこりと擦りあわされ、両目を瞑って耐えるリオに、キムは囁く。男の指の腹は、まるで肌に吸いつくみたいで、他の者とは違う違和感があった。
 そういえば、キムに抱かれるのは始めてなのだ。そんな事実にやっと気がつく。
「怖くないの? ずいぶん大人しいんだね」
 訝しげな声に
「だって先生はお尻はしないし……」
 もじもじとリオは説明した。
「わからないよ。ほら、見てごらん」
 乳首をいじりながら、もう片方の手で、キムはリオの手を自身の股間へと誘った。
「ね、もうこんなに固くなってる。我慢出来なくなって、僕は君を犯してしまうかもしれないよ」
 リオはゆっくりと被りを振る。どんなに挑発されても平気だった。キムは絶対に自分を傷つけたりしない。そんな妙な確信があった。。
「ははっ。君の想像通りだよ。僕は暴走なんてしない。だって、君を抱いたりしたら、赤夜叉からどんな懲罰を受けるかわからないからね。京と違ってそんな無謀はできないよ。だから、どんなに愛しくても、犯せない。悔しいけどね」
 そう言うと、キムはリオを抱きしめた。
「私が与えるのは、快感だけだ。君を傷つける事はない。だから、力を抜きなさい。今から、服を全部脱がせてあげようね。ちょっとずつでいいから、脚を開いて、私に全てを見せるんだ」
 退こうとした手は、まだ駄目だとばかりに、上から握り込まれた。手のひらの中で、男のものが、ますます固くなっていく。
「先生。なんだか、身体が変だよ……動かない」
「アロマの効果だよ。官能を呼び覚ます作用があるものを選んだ。可愛い君をせっかくこの腕に抱けるんだからね。思い切り、気持よくさせてあげたいからね」
 そういえば、この部屋には最初からいい匂いがしていた。作用を耳にした途端、リオの下腹にずくりと妙な感覚が走る。
「感じてきたの? まだどこも舐めてもいないのに?」
「違うもん……」
 拗ねたように言いながら、リオは少しうろたえていた。恐怖心はないのに、心臓がドキドキする。これがアロマの効果なのか。
「素直じゃないところも可愛いよ。じゃあ、リオそろそろトレーニングを始めようか。お尻を免除する代わりに、君はここに来たんだからね」
 キムの口調が変わった。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※  

 どうして最初あんなに落ち着いていられたのだろう。
 数分後、リオはキムに散々なぶられて、荒い息をついていた。
「ああっ……やあっ……せんせ……んっ」
「本当に感じやすい子供だね。君は。普通の男の子は乳首を弄られたくらいで、こんなに気持ちよくなったりしないんだよ」
「嘘っ」
「先の部分から、嫌らしく蜜を垂れ流して……。もう一つ教えてあげようか。普通は、先走り程度で、こんなに濡れたりもしないんだよ。ほら、君の愛液で、後ろのわれめがもうべとべとになってしまっているだろう? 君の身体は特別なんだよ」
「特別って……」
「女の子のように、男を受け入れて感じることのできる身体なんだ」
 キムはきっぱりと言った。
「さあ、後ろを見せてごらん。どんな風になっているのか、確かめてあげるから」
「身体が痺れて、動かないもん。出来ないっ」
 リオは涙を浮かべて訴えた。真実だった。職業柄のせいか、キムの動きには全く迷いがなく、翻弄される。
「じゃあ、私が開いてあげよう。おとなしく身をまかせるんだよ」
 キムはリオの白くて華奢なカモシカのような太ももに手を当て、一気に大きく割り拡げた
「やあっ……」
 リオは唇を噛んで羞恥に耐えた。
「思ったとおり……君のここはとっても可愛いよ。ピンク色で、つつましくって、可憐で、小さな蕾が、愛液にまぶされて、光っている」
 キムの唇から感嘆が洩れる。
「えっ……えっ……」
「泣くんじゃないよ。他の子達は、とっくにここにバイブを受け入れて拡げられているんだからね。それとも、レッスン室に戻った方がいい?」
「いやっ。それだけは嫌だ。先生っ。させないで」
 リオは激しく拒絶の意を示した。
「君は前への愛撫が好きなようだけれど、お尻だって、同じくらい、いや、それ以上に気持ちよくなれるんだよ。痛いのは最初だけだからね。特に君は看護人たちに好かれているから、特別丁寧に身体を開いてもらえるはずだよ」
「やだやだやだっ。やだっ」
 媚薬で弛緩した身体の力を振り絞って、リオは抵抗する。
「君がそんなに嫌がるのなら、無理強いはできないね。でも、そこを舐めるだけなら、いいだろう?」
 本当はからかっているのだろうか。
 涙に濡れた小さな顔を両手で挟むと、キムはくすりと笑った。
「返事は?」
 促され、リオは横を向き、涙声で訴えた。
「舐めるだけなら……」
「ん、、聞こえないよ」
「ほんとに、舐めるだけにしてくれる? 指、淹れたりしない?」
 京にされた時の、痛みと恐怖が蘇り、リオはぴくりと身体を震わせる。キムはきつくリオを抱きしめると、
「今日は淹れないよ。舐めるだけだ。うんと気持ちよくしてあげるからね」
 そう言って、額に優しいキスを落とした。
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