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第四章 三つの世界の謎
謝罪と和解
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「お前もこの子が気に入ったのか。いつもは、嫌がるくらいなのに」
「……そういうわけじゃありませんけど、なんか、可哀相になってきて」
その言葉を聞いた途端、リオの両目に涙の粒が浮かび上がる。かつては大部屋の友人として、後見人のように、何くれとなく面倒を見てくれていた、優しい少年。
しかし、彼も、自分のせいで、別人のように変わってしまった過去を持つ。京に次ぐ、要注意人物なのだ。
「わかった。同世代の方が、何かとスムーズにいくかもしれないな」
監督官は、頷き、
「上は、お前たちがやれ」
下腹にいた二人を片手で招く。
男が退くと、光は、リオに薄く笑いかけ、
「じゃあ、始めるよ。最初から大きなものは淹れないから、安心してリラックスして」
低い声でそう言った。
「嫌……やめて……」
光なら、懇願を聞いてくれるかもしれないと、一縷の望みも束の間に、尻の狭間に、温かな指が添えられる。
「やだったら……ねえっ」
悲鳴をよそに、乳首にオイルが塗り込められる。リオは啜り泣き始めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「……なあ、そんなに怒らないでくれよ」
「やだっ、もう一人で帰れるから、あっち行って」
「そういうわけにはいかないんだ。上司の命令だし」
両手を頭の後ろに組みながら、光は、リオの真後ろにつき、歩幅を合わせてついて来る。
前を行くリオは、もう、怒りの後光を放っているようだ。時どきフライング気味に振り返って威嚇するが、光は、ちっとも臆することなく、へらへらと笑いながら、いなしている。
さっきまで、あんなにかしこまっていたのに、笑うと子供っぽくなって、やっぱり光は、かつて仲間だった時と大して性格は変わっていない。だけど、それを喜ぶ余裕など、今のリオにはなく、トレーニング部屋で彼にされたあれこれを思い出し、新たな怒りがこみあげるだけだ。
結局。
あまりにリオが泣きじゃくるので、とうとう最後まで誰も無理強いは出来ず、アナルへの異物の挿入は先のばしになった。
その変わりだと言われ、さんざん陰部を撫でられ、舐められ、弄られた。
回りが生唾を飲み、見守る中、何度も精液を絞り出され、恥ずかしい声を上げさせられた。
「お前を部屋まで送り届けるのも、上司の命令。さっきのも、全部上司の命令。俺の意志じゃないし」
そう言って、光は、責任が自分にない事をさっきから主張しているが、そのわりには、ずいぶん楽しげにいたぶってくれたと思う。
細かい記憶が断片的に蘇るにつれ、リオはぶるると身を震わせ、拳を握りしめた。
「さてっと、もう着いちまった……早いな……」
京の部屋の前で立ち止まり、光は独りごちる。無言でドアを開けようとするリオを、長い手が遮った。
「なあ、いい加減許してくれないか。せっかくネーム付きの仲間だっていうのに、いつまでもふくれられてたら、俺もつらいよ」
「……」
ドアのノブの上に差し出されたカーキ色の制服の袖を、リオは無言で見つめた。
「なあ、ほんと、ごめんな……」
光の声のトーンが低くなる。その声を聞くと、泣きたくなった。リオは光の掌に自分のそれを重ねた。相手の一瞬の狼狽が伝わってくる。リオは、そっとノブから掌をどかせた。
「……わかった……。でも、明日同じ事したら、本当にお兄ちゃんの事嫌いになるから」
ぼつんと言い置いて、中に入る。
「無理な事言うなよ。だって俺、一番の下っぱだぜ」
ドアの向こう側から、明るい声が聞こえてきた。
光の足音が聞こえなくなるのを待って、リオは、ばたりとベッドに倒れこんだ。
今日は、挿入を免れたけれど、この先どうなるかわからない。自らが望んだ事ではあるが、大部屋に京がいないのが心細かった。一番目の世界とこことは、細かいルールが違っているし、以前と同じように、彼に毎回助けてもらえるとも限らない。
しかし、切羽詰まった時に、いつも思い出すのは、あの飄々とした優しい顔だ。
枕に顔を埋めれば、懐かしい匂いが鼻腔をくすぐる。
京の、甘い大人の匂いだ。
大きく息を吸い込んで、そして、リオは目を瞑った。
目覚めると部屋は、もう暗くなっていた。
ベッドヘッドのスイッチを押し、ライトをつける。めざましは、夜の九時半を示している。
きょろきょろとあたりを見回しながら、唐突に、リオは約束を思い出した。
京と恋人になるか、断るか。
今日中に、返事をするはずだった。しかし、肝心の京が帰ってきた様子はない。
テーブルの上には、食事のトレイが一人分だけ置かれてあって、リオが眠っている間に、誰かが運んできたのだと知れる。京が一度帰ってきて、そして又出て行った可能性もあるが、なんとなく、そうではないような気がしていた。
のろのろと起きて、トレイの前に座る。
食事をすませ、しばらく待つが、なかなか京は帰ってこない。
時計が十一時を回る頃、リオは立ち上がり、廊下に出た。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「おやおや、どうしたね。子供はもう寝る時間だろう」
夜中の突然の訪問者に、キムは相好を崩した。
まじまじとリオはキムを見上げる。
白衣姿ではないキムの姿は初めてで。
スエット姿の身体からは、柑橘系の匂いがほのかに漂っていて、風呂上がりの長い髪は、いつもに増して、艶っぽい色気を醸しだしていた。
「ねえ、先生、京ちゃんが帰ってこないんだけど、どうしたか知ってる?」
どこかいつもと雰囲気の違う彼に戸惑いながら、リオは一気に尋ねた。
「彼はしばらく戻ってこないよ。沙蘭を探しに、外に出たから」
「沙蘭を? 外って……」
「詳しくは知らないが、もしかしたら、元の世界まで追っていったのかもしれない。早く見つかれば別だが、そうじゃなければ、数ヶ月は帰らないかもしれないね。一度は一星が探して、それでも見つからなかったくらいだから、うまく隠れてるんだろう」
医師の口ぶりに、一瞬違和感を感じたが、それが何やら掴めぬまま、
「そう……」
リオはうなだれる。
提案の返事は必然的に先のばしになった。どちらとも決心がついてなかったのだから、ほっとした気持は勿論ある。
だけど、それ以上に寂しさもあった。今夜はなんとなく一人になりたくなかったから。
「ありがとう……じゃ」
踵を返そうとする少年の肩を、キムはそっと掴んで、自分に向かせた。
「上がっていけば。せっかく来てくれたんだし」
「……先生……」
「眠れなくて、暇だったんだ。君が、相手してくれないか?」
そしてキムはリオの背中に片手をまわし、部屋の中へと引き入れた。
「先生……」
背中の後ろで、ゆっくりとドアが閉まる。
「さあ、どうぞ。紅茶を淹れてあげるから、そこにかけて」
キムは、ソファを指さした。
「……そういうわけじゃありませんけど、なんか、可哀相になってきて」
その言葉を聞いた途端、リオの両目に涙の粒が浮かび上がる。かつては大部屋の友人として、後見人のように、何くれとなく面倒を見てくれていた、優しい少年。
しかし、彼も、自分のせいで、別人のように変わってしまった過去を持つ。京に次ぐ、要注意人物なのだ。
「わかった。同世代の方が、何かとスムーズにいくかもしれないな」
監督官は、頷き、
「上は、お前たちがやれ」
下腹にいた二人を片手で招く。
男が退くと、光は、リオに薄く笑いかけ、
「じゃあ、始めるよ。最初から大きなものは淹れないから、安心してリラックスして」
低い声でそう言った。
「嫌……やめて……」
光なら、懇願を聞いてくれるかもしれないと、一縷の望みも束の間に、尻の狭間に、温かな指が添えられる。
「やだったら……ねえっ」
悲鳴をよそに、乳首にオイルが塗り込められる。リオは啜り泣き始めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「……なあ、そんなに怒らないでくれよ」
「やだっ、もう一人で帰れるから、あっち行って」
「そういうわけにはいかないんだ。上司の命令だし」
両手を頭の後ろに組みながら、光は、リオの真後ろにつき、歩幅を合わせてついて来る。
前を行くリオは、もう、怒りの後光を放っているようだ。時どきフライング気味に振り返って威嚇するが、光は、ちっとも臆することなく、へらへらと笑いながら、いなしている。
さっきまで、あんなにかしこまっていたのに、笑うと子供っぽくなって、やっぱり光は、かつて仲間だった時と大して性格は変わっていない。だけど、それを喜ぶ余裕など、今のリオにはなく、トレーニング部屋で彼にされたあれこれを思い出し、新たな怒りがこみあげるだけだ。
結局。
あまりにリオが泣きじゃくるので、とうとう最後まで誰も無理強いは出来ず、アナルへの異物の挿入は先のばしになった。
その変わりだと言われ、さんざん陰部を撫でられ、舐められ、弄られた。
回りが生唾を飲み、見守る中、何度も精液を絞り出され、恥ずかしい声を上げさせられた。
「お前を部屋まで送り届けるのも、上司の命令。さっきのも、全部上司の命令。俺の意志じゃないし」
そう言って、光は、責任が自分にない事をさっきから主張しているが、そのわりには、ずいぶん楽しげにいたぶってくれたと思う。
細かい記憶が断片的に蘇るにつれ、リオはぶるると身を震わせ、拳を握りしめた。
「さてっと、もう着いちまった……早いな……」
京の部屋の前で立ち止まり、光は独りごちる。無言でドアを開けようとするリオを、長い手が遮った。
「なあ、いい加減許してくれないか。せっかくネーム付きの仲間だっていうのに、いつまでもふくれられてたら、俺もつらいよ」
「……」
ドアのノブの上に差し出されたカーキ色の制服の袖を、リオは無言で見つめた。
「なあ、ほんと、ごめんな……」
光の声のトーンが低くなる。その声を聞くと、泣きたくなった。リオは光の掌に自分のそれを重ねた。相手の一瞬の狼狽が伝わってくる。リオは、そっとノブから掌をどかせた。
「……わかった……。でも、明日同じ事したら、本当にお兄ちゃんの事嫌いになるから」
ぼつんと言い置いて、中に入る。
「無理な事言うなよ。だって俺、一番の下っぱだぜ」
ドアの向こう側から、明るい声が聞こえてきた。
光の足音が聞こえなくなるのを待って、リオは、ばたりとベッドに倒れこんだ。
今日は、挿入を免れたけれど、この先どうなるかわからない。自らが望んだ事ではあるが、大部屋に京がいないのが心細かった。一番目の世界とこことは、細かいルールが違っているし、以前と同じように、彼に毎回助けてもらえるとも限らない。
しかし、切羽詰まった時に、いつも思い出すのは、あの飄々とした優しい顔だ。
枕に顔を埋めれば、懐かしい匂いが鼻腔をくすぐる。
京の、甘い大人の匂いだ。
大きく息を吸い込んで、そして、リオは目を瞑った。
目覚めると部屋は、もう暗くなっていた。
ベッドヘッドのスイッチを押し、ライトをつける。めざましは、夜の九時半を示している。
きょろきょろとあたりを見回しながら、唐突に、リオは約束を思い出した。
京と恋人になるか、断るか。
今日中に、返事をするはずだった。しかし、肝心の京が帰ってきた様子はない。
テーブルの上には、食事のトレイが一人分だけ置かれてあって、リオが眠っている間に、誰かが運んできたのだと知れる。京が一度帰ってきて、そして又出て行った可能性もあるが、なんとなく、そうではないような気がしていた。
のろのろと起きて、トレイの前に座る。
食事をすませ、しばらく待つが、なかなか京は帰ってこない。
時計が十一時を回る頃、リオは立ち上がり、廊下に出た。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「おやおや、どうしたね。子供はもう寝る時間だろう」
夜中の突然の訪問者に、キムは相好を崩した。
まじまじとリオはキムを見上げる。
白衣姿ではないキムの姿は初めてで。
スエット姿の身体からは、柑橘系の匂いがほのかに漂っていて、風呂上がりの長い髪は、いつもに増して、艶っぽい色気を醸しだしていた。
「ねえ、先生、京ちゃんが帰ってこないんだけど、どうしたか知ってる?」
どこかいつもと雰囲気の違う彼に戸惑いながら、リオは一気に尋ねた。
「彼はしばらく戻ってこないよ。沙蘭を探しに、外に出たから」
「沙蘭を? 外って……」
「詳しくは知らないが、もしかしたら、元の世界まで追っていったのかもしれない。早く見つかれば別だが、そうじゃなければ、数ヶ月は帰らないかもしれないね。一度は一星が探して、それでも見つからなかったくらいだから、うまく隠れてるんだろう」
医師の口ぶりに、一瞬違和感を感じたが、それが何やら掴めぬまま、
「そう……」
リオはうなだれる。
提案の返事は必然的に先のばしになった。どちらとも決心がついてなかったのだから、ほっとした気持は勿論ある。
だけど、それ以上に寂しさもあった。今夜はなんとなく一人になりたくなかったから。
「ありがとう……じゃ」
踵を返そうとする少年の肩を、キムはそっと掴んで、自分に向かせた。
「上がっていけば。せっかく来てくれたんだし」
「……先生……」
「眠れなくて、暇だったんだ。君が、相手してくれないか?」
そしてキムはリオの背中に片手をまわし、部屋の中へと引き入れた。
「先生……」
背中の後ろで、ゆっくりとドアが閉まる。
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