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第四章 三つの世界の謎
眠り
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「おい、起きろ。このねぼすけ」
冷たい口調で揺り起こされ、リオははっと目を開けた。
「お前って、ほんと、度胸すわってんのな。よく熟睡できるぜ。こんな時に」
整ったシャープな顔が、にこりともせずにこちらを見下ろしている。
「一星!」
リオはケットを慌ててはらい、飛び起きた。
「着とけよ、ほら」
裸のリオに、一星はぽんと縞シャツを投げてよこす。
「ねえ、京ちゃんは? 無事なの?」
急いで袖を通しながらリオは尋ねる。
「ああ、命に別状はない……。着替えたらさっさと行くぜ」
「どこに行くの?」
「地下だ。京のいるところだよ」
一星は答えた。
「京ちゃん……!」
「……リオか……」
以前リオが囚われていた地下室の岩壁に、京は両手を広げて繋がれていた。上半身を剥かれほどよい筋肉が晒されている。一晩だけで、頬が少しやつれていた。何か、拷問を受けたのかもしれない。
リオは駆け寄り、鎖を外そうとした。
「……っ」
京は顔をしかめる。
「ほらよ」
一星が用意した鍵で、男を開放した。自由になった京は、ひしとリオを抱きしめる。
「京ちゃん……」
上向いた唇を、薄い京のそれか塞いだ。すぐに口づけは深くなり、京は、待ちきれぬように小さな舌を吸う。
「気持はわかるが、あんまり時間がない。紅龍が起きてもやっかいだ。俺の部屋に移ろう」
言われて、やっと二人は口づけを解いた。名残惜しげに、京はちゅっとリオの口を吸い、しっかりと肩を抱く。
「紅龍は、沙蘭と一緒に外出中だ。嘘じゃないなら、戻るのは明日だ」
「丁度いい。たっぷり作戦が立てられる」
リオは、背の高い二人を交合に見た。何かが、起きようとしている。ざわざわと胸の奥が騒ぎ始めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「沙蘭に、どこまで聞いた? お前と俺と、そしてあいつが幼なじみで、そして、お前のためにここが作られた事、それはもう知ってるよな」
部屋に着くなり、一星は向かい側のソファから、しっかりとリオを見据えて尋ねた。
「俺と沙蘭が同級生なのは聞いたよ……ずっと俺が好きだったって。一人じめしたかったって言ってた」
京に、抱き抱えられるようにして座りながら、リオは言った。
「俺を慰めるために、一星や光を連れてきたって……そうだ、キム先生も」
「光はお前の同級生だ。そしてキムは、沙蘭の主治医」
一星は言った。
「そして、俺は、あいつに連れて来られたわけじゃない。自分からあいつを追ってきたんだ。まあ、大体わかったぜ。沙蘭はやっぱり、肝心な事は隠してんな」
「ああ」
隣で頷く京を、リオは不思議そうに見る。
「よし、とりあえず、最初から説明するぜ。ちゃんと理解しろよ。本物の沙蘭は、一年前からずっと意識不明で眠ってる。事故にあったんだ。目を開ける事も、食べる事もなく、病院にベッドで、寝たきりだ」
「え……?」
一瞬意味がわからなかった。
「あいつは、ずっと夢の中にいる。きっと孤独で、寂しかったんだろう。だから、ドラゴンシティを作ったんだ。この町では、沙蘭は自由に動きまわり、人と話す事もできる。強がってるけど、結局は人恋しかったんだよ。お前や、仲間たちに、一緒にいて欲しかったんだ」
ひたとこちらに向けられた目は、真剣そのもので、冗談とはまるっきり思えなかった。リオは隣を見上げた。京は大きく頷き、同意を示す。
「都合が悪くなると、あいつは何度もシティの歴史をリセットして、体裁を保ってきた。だけど、今は相当に力が弱まってる。俺たちの記憶はすっかり戻ってる……もう、失われる事はないだろう」
「どうして……?」
「たぶん、本物の沙蘭の容体が悪化したんだと、俺は思ってる」
「それって……沙蘭が死にそうって事?」
「そうだ」
一星は頷いた。
きーんと、耳ざわりな金属音が、頭の中心を駆け抜けた気がした。
沙蘭が死ぬ。
それも、ここからほど遠い世界の、冷たい病院のベッドの上で。
バラ色の頬と、そして花のように艶やかな笑みが脳裏に浮かび、リオの心臓は何かで搾られたように痛んだ。
「もし、そうなったら……俺たち、どうなっちゃうの……?」
「たぶん、ドラゴンシティに取り残されるだろう。沙蘭と一緒に」
「そんな」
「わかってる。だから、行動する事に決めたんだ。この町をぶっつぶす。俺と京で」
一星は厳しい顔で言った。
冷たい口調で揺り起こされ、リオははっと目を開けた。
「お前って、ほんと、度胸すわってんのな。よく熟睡できるぜ。こんな時に」
整ったシャープな顔が、にこりともせずにこちらを見下ろしている。
「一星!」
リオはケットを慌ててはらい、飛び起きた。
「着とけよ、ほら」
裸のリオに、一星はぽんと縞シャツを投げてよこす。
「ねえ、京ちゃんは? 無事なの?」
急いで袖を通しながらリオは尋ねる。
「ああ、命に別状はない……。着替えたらさっさと行くぜ」
「どこに行くの?」
「地下だ。京のいるところだよ」
一星は答えた。
「京ちゃん……!」
「……リオか……」
以前リオが囚われていた地下室の岩壁に、京は両手を広げて繋がれていた。上半身を剥かれほどよい筋肉が晒されている。一晩だけで、頬が少しやつれていた。何か、拷問を受けたのかもしれない。
リオは駆け寄り、鎖を外そうとした。
「……っ」
京は顔をしかめる。
「ほらよ」
一星が用意した鍵で、男を開放した。自由になった京は、ひしとリオを抱きしめる。
「京ちゃん……」
上向いた唇を、薄い京のそれか塞いだ。すぐに口づけは深くなり、京は、待ちきれぬように小さな舌を吸う。
「気持はわかるが、あんまり時間がない。紅龍が起きてもやっかいだ。俺の部屋に移ろう」
言われて、やっと二人は口づけを解いた。名残惜しげに、京はちゅっとリオの口を吸い、しっかりと肩を抱く。
「紅龍は、沙蘭と一緒に外出中だ。嘘じゃないなら、戻るのは明日だ」
「丁度いい。たっぷり作戦が立てられる」
リオは、背の高い二人を交合に見た。何かが、起きようとしている。ざわざわと胸の奥が騒ぎ始めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「沙蘭に、どこまで聞いた? お前と俺と、そしてあいつが幼なじみで、そして、お前のためにここが作られた事、それはもう知ってるよな」
部屋に着くなり、一星は向かい側のソファから、しっかりとリオを見据えて尋ねた。
「俺と沙蘭が同級生なのは聞いたよ……ずっと俺が好きだったって。一人じめしたかったって言ってた」
京に、抱き抱えられるようにして座りながら、リオは言った。
「俺を慰めるために、一星や光を連れてきたって……そうだ、キム先生も」
「光はお前の同級生だ。そしてキムは、沙蘭の主治医」
一星は言った。
「そして、俺は、あいつに連れて来られたわけじゃない。自分からあいつを追ってきたんだ。まあ、大体わかったぜ。沙蘭はやっぱり、肝心な事は隠してんな」
「ああ」
隣で頷く京を、リオは不思議そうに見る。
「よし、とりあえず、最初から説明するぜ。ちゃんと理解しろよ。本物の沙蘭は、一年前からずっと意識不明で眠ってる。事故にあったんだ。目を開ける事も、食べる事もなく、病院にベッドで、寝たきりだ」
「え……?」
一瞬意味がわからなかった。
「あいつは、ずっと夢の中にいる。きっと孤独で、寂しかったんだろう。だから、ドラゴンシティを作ったんだ。この町では、沙蘭は自由に動きまわり、人と話す事もできる。強がってるけど、結局は人恋しかったんだよ。お前や、仲間たちに、一緒にいて欲しかったんだ」
ひたとこちらに向けられた目は、真剣そのもので、冗談とはまるっきり思えなかった。リオは隣を見上げた。京は大きく頷き、同意を示す。
「都合が悪くなると、あいつは何度もシティの歴史をリセットして、体裁を保ってきた。だけど、今は相当に力が弱まってる。俺たちの記憶はすっかり戻ってる……もう、失われる事はないだろう」
「どうして……?」
「たぶん、本物の沙蘭の容体が悪化したんだと、俺は思ってる」
「それって……沙蘭が死にそうって事?」
「そうだ」
一星は頷いた。
きーんと、耳ざわりな金属音が、頭の中心を駆け抜けた気がした。
沙蘭が死ぬ。
それも、ここからほど遠い世界の、冷たい病院のベッドの上で。
バラ色の頬と、そして花のように艶やかな笑みが脳裏に浮かび、リオの心臓は何かで搾られたように痛んだ。
「もし、そうなったら……俺たち、どうなっちゃうの……?」
「たぶん、ドラゴンシティに取り残されるだろう。沙蘭と一緒に」
「そんな」
「わかってる。だから、行動する事に決めたんだ。この町をぶっつぶす。俺と京で」
一星は厳しい顔で言った。
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