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パラレル番外編
中編
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突風が足元のケットを巻き上げた。
風がスタンドライトを倒し、サイドテーブルの本を床にばらまく。天井の照明器具がゆらゆら揺れ、今にも体の上に落ちてきそうだった。
タペストリーの中の獣の目が、サーチライトのように、部屋の中を赤く照らしている。龍の前足が動いた気がして……、リオの脳裏にドラゴンシティの恐怖が蘇る。
逃げなければ。
だが、リオは金縛りにあったかのように、動けなかった。
恐怖が、背中を伝い、リオの全身を凍らせる。窓は開いていないはずだ。この風は、どこから来ているのだろう。
地を這うような唸り声が聞こえてくる。
どこか、聞き覚えのある、邪悪な声。
怖い。
「京ちゃん……!」
リオは助けを求めて叫んだ。京は今頃、店に向かってバイクを走らせている頃だろう。
わかっていたけど、呼ばずにはいられなかった。
「男が恋しいか。淫乱な奴め」
突然、耳元で見知らぬ男の声がした。はっとして、両目を見開くと、体の上に見たことのない、黒髪の男が覆い被さっていた。リオの手首を強く握ってベッドの上に釘付けにし、薄い笑みを浮かべている。
風がぴたりとやみ、同時にリオの体に力が戻ってきた。
「だ、誰!」
もがきながらリオは叫んだ。
「わかってるだろう? 俺は紅龍」
渾身の力を振り絞っても、片手一本自由に出来ないリオをせせら笑いながら、男は言った。
「そんなの……嘘だ!」
リオは両目を見開いた。龍が人型に変化するなど、聞いたことがない。
いや、あるのだろうか……。
わからない。
「なんで疑う? 薄々気付いていただろう……。京が、このタペストリーを壁に飾った時、お前の心の中に予感はあったはずだ」
男は必死の抵抗を自らの体重で難なく封じ、リオの顔を眺め回した。
あまりに距離が近すぎて最初はわからなかったものの、男はとても綺麗な顔をしていた。さらりとした長い黒髪に、鋭い、形のいい目。尖った顎のラインから、どこか気品のようなものが読み取れる。
確かに、龍神の威厳はある。だけどやはりにわかには信じられない。
「俺の体が赤くないからか?」
男は、にやりと片頬を上げた。
「……どうして!」
考えていることがわかったのかと問いかける前に
「俺は神だ。お前の考えなど、簡単に読む」
男はあっさりと教え、
「紅龍の赤は血の色だ。実際は普通の龍と代わりない。だから人間型だと、ごく一般的な見てくれになる。人型で殺生はしないからな」
と続けた。手首を握った両手に力がこもる。
「そう。俺はお前を連れ戻しにきた。ドラゴンシティへ。来い。みんながお前を待っている」
男の目の奥がきらりと光り、リオははっとした。
瞳の奥に、赤い炎が見える。この男は、紛れもなく、龍が変化したものだと、リオははっきり理解した。
「みんな、って、何のこと? 俺はドラゴンシティになんて戻らない……」
恐怖に早鐘を打ち始める心臓を意識しながら、リオは言った。
赤夜叉こと沙蘭は、シティのことなどあっさりと忘れ、高校生活を楽しんでいる。今や京以外に、リオに執着している者などいないはずだ。
「男はみな、お前を欲しがる。お前が戻るのを手ぐすねひいてる奴なんて、どこの世界にだってごまんといるさ」
だが、紅龍は、リオの希望的観測を一言で打ち砕く。頬をつ、と指で撫でられ、
「離して!」
リオは叫んだ。
「……欲しがってるくせに、いざとなると男を拒む。お前は本当に淫乱な小悪魔だよ」
紅龍はリオの両手をひとまとめにしてシーツの上に置き、今止めたばかりのボタンを器用に外し始めた。
「な……にするの……」
不安にみっともなく声が震えてしまう。恋人に愛されたばかりの、鬱血の痕が無数に散らばる白い肌が、男の前に晒されていく。
「こっちに来てから、京以外の男に抱かれてないな。いい加減他のモノが欲しくなった頃だろう。俺がたっぷり可愛がってやるよ」
「いや、離して……」
リオは両足を摺り合わせて、なんとか男の拘束から逃れようとした。
「嫌がるな。余計にやりたくなる」
男は、上着を脱がせ、パジャマのズボンを下着ごと一気に引きずり下ろす。
「ああっ……やだったら……!」
リオは顔を真っ赤にしてうろたえた。
「前戯はすっ飛ばしても大丈夫だよな。あれだけ時間をかけて抱かれたんだ。もう、蕩けてるだろう?」
紅龍はリオの蕾にそっと触れた。
「あっ……駄目っ……」
さっきまで、京を受け入れていた秘密の箇所が、まるで誘っているかのように男の指に反応してひくつく。嫌悪感で吐きそうなくらいなのに、こんな反応をしてしまうのは、シティでの経験故だった。
あらゆる性戯と官能を、教え込まれてしまっているのだ。
「いや、やだったら……」
つぷ、と第一関節を入れられて、リオは上にずり上がって逃げようとした。
「いや、か? こんなに喜んで締めつけてくるのに?」
男の指が、ずぶずぶと中にめりこんでくる。
「ああっ」
くい、と中をひっかかれて、リオはうめき声をあげた。
「……ずいぶん柔らかいな。伊達に毎晩抱かれてはないか」
紅龍は指を増やして抉りながら、リオの耳たぶをちろりと舐めた。
「や、駄目、出して、お願い……」
「淹れるぜ、リオ」
熱い吐息が、耳奥に流れ込む。
「や、やだっ……」
「すぐに淹れられるのは嫌か? お前が望むなら、ちゃんとフルコースで可愛がってやるぜ」
紅龍は、片手で少年の後頭部を抱え込んで少し浮かせ、蕾に指を含ませたまま、リオの細い顎や首のラインをちろちろと舐めていく。
「やだあ……」
男の熱い体にぴったりと抱きしめられ、激しい愛撫をうけながら、リオはぐずぐずと泣き始めた。
嫌なのに、怖くて怖くてたまらないのに、指を食んだ蕾は嫌らしくひくつき、弱い首筋を責められれば、ぴくぴくと体が動いてしまう。さっきまで京に抱かれていたのに……。
京……。
リオは、優しい恋人の顔を思い浮かべた。
はやく戻ってきて、この悪夢を祓ってほしい。
もう逃げないと、太股に当たる、固くなった男根を感じながらリオは思った。怖い。怖くてたまらない。
好きでもない男に犯される恐怖を、リオはまざまざと思い出した。
「淹れるぞ?」
長い指は去り、固くて熱いものが、押しつけられる。
「い、いや、やめて……お願い、待って」
「どうした。いきなりはやっぱり駄目なのか? ん?」
揶揄するような声。昂りの先端は、もうリオの中にある。
「いや……」
リオは縋るような目で紅龍を見た。
「わがままな奴だ。だが、望みをかなえてやろう」
紅龍は腰を引き、満足げな笑みを浮かべた。
風がスタンドライトを倒し、サイドテーブルの本を床にばらまく。天井の照明器具がゆらゆら揺れ、今にも体の上に落ちてきそうだった。
タペストリーの中の獣の目が、サーチライトのように、部屋の中を赤く照らしている。龍の前足が動いた気がして……、リオの脳裏にドラゴンシティの恐怖が蘇る。
逃げなければ。
だが、リオは金縛りにあったかのように、動けなかった。
恐怖が、背中を伝い、リオの全身を凍らせる。窓は開いていないはずだ。この風は、どこから来ているのだろう。
地を這うような唸り声が聞こえてくる。
どこか、聞き覚えのある、邪悪な声。
怖い。
「京ちゃん……!」
リオは助けを求めて叫んだ。京は今頃、店に向かってバイクを走らせている頃だろう。
わかっていたけど、呼ばずにはいられなかった。
「男が恋しいか。淫乱な奴め」
突然、耳元で見知らぬ男の声がした。はっとして、両目を見開くと、体の上に見たことのない、黒髪の男が覆い被さっていた。リオの手首を強く握ってベッドの上に釘付けにし、薄い笑みを浮かべている。
風がぴたりとやみ、同時にリオの体に力が戻ってきた。
「だ、誰!」
もがきながらリオは叫んだ。
「わかってるだろう? 俺は紅龍」
渾身の力を振り絞っても、片手一本自由に出来ないリオをせせら笑いながら、男は言った。
「そんなの……嘘だ!」
リオは両目を見開いた。龍が人型に変化するなど、聞いたことがない。
いや、あるのだろうか……。
わからない。
「なんで疑う? 薄々気付いていただろう……。京が、このタペストリーを壁に飾った時、お前の心の中に予感はあったはずだ」
男は必死の抵抗を自らの体重で難なく封じ、リオの顔を眺め回した。
あまりに距離が近すぎて最初はわからなかったものの、男はとても綺麗な顔をしていた。さらりとした長い黒髪に、鋭い、形のいい目。尖った顎のラインから、どこか気品のようなものが読み取れる。
確かに、龍神の威厳はある。だけどやはりにわかには信じられない。
「俺の体が赤くないからか?」
男は、にやりと片頬を上げた。
「……どうして!」
考えていることがわかったのかと問いかける前に
「俺は神だ。お前の考えなど、簡単に読む」
男はあっさりと教え、
「紅龍の赤は血の色だ。実際は普通の龍と代わりない。だから人間型だと、ごく一般的な見てくれになる。人型で殺生はしないからな」
と続けた。手首を握った両手に力がこもる。
「そう。俺はお前を連れ戻しにきた。ドラゴンシティへ。来い。みんながお前を待っている」
男の目の奥がきらりと光り、リオははっとした。
瞳の奥に、赤い炎が見える。この男は、紛れもなく、龍が変化したものだと、リオははっきり理解した。
「みんな、って、何のこと? 俺はドラゴンシティになんて戻らない……」
恐怖に早鐘を打ち始める心臓を意識しながら、リオは言った。
赤夜叉こと沙蘭は、シティのことなどあっさりと忘れ、高校生活を楽しんでいる。今や京以外に、リオに執着している者などいないはずだ。
「男はみな、お前を欲しがる。お前が戻るのを手ぐすねひいてる奴なんて、どこの世界にだってごまんといるさ」
だが、紅龍は、リオの希望的観測を一言で打ち砕く。頬をつ、と指で撫でられ、
「離して!」
リオは叫んだ。
「……欲しがってるくせに、いざとなると男を拒む。お前は本当に淫乱な小悪魔だよ」
紅龍はリオの両手をひとまとめにしてシーツの上に置き、今止めたばかりのボタンを器用に外し始めた。
「な……にするの……」
不安にみっともなく声が震えてしまう。恋人に愛されたばかりの、鬱血の痕が無数に散らばる白い肌が、男の前に晒されていく。
「こっちに来てから、京以外の男に抱かれてないな。いい加減他のモノが欲しくなった頃だろう。俺がたっぷり可愛がってやるよ」
「いや、離して……」
リオは両足を摺り合わせて、なんとか男の拘束から逃れようとした。
「嫌がるな。余計にやりたくなる」
男は、上着を脱がせ、パジャマのズボンを下着ごと一気に引きずり下ろす。
「ああっ……やだったら……!」
リオは顔を真っ赤にしてうろたえた。
「前戯はすっ飛ばしても大丈夫だよな。あれだけ時間をかけて抱かれたんだ。もう、蕩けてるだろう?」
紅龍はリオの蕾にそっと触れた。
「あっ……駄目っ……」
さっきまで、京を受け入れていた秘密の箇所が、まるで誘っているかのように男の指に反応してひくつく。嫌悪感で吐きそうなくらいなのに、こんな反応をしてしまうのは、シティでの経験故だった。
あらゆる性戯と官能を、教え込まれてしまっているのだ。
「いや、やだったら……」
つぷ、と第一関節を入れられて、リオは上にずり上がって逃げようとした。
「いや、か? こんなに喜んで締めつけてくるのに?」
男の指が、ずぶずぶと中にめりこんでくる。
「ああっ」
くい、と中をひっかかれて、リオはうめき声をあげた。
「……ずいぶん柔らかいな。伊達に毎晩抱かれてはないか」
紅龍は指を増やして抉りながら、リオの耳たぶをちろりと舐めた。
「や、駄目、出して、お願い……」
「淹れるぜ、リオ」
熱い吐息が、耳奥に流れ込む。
「や、やだっ……」
「すぐに淹れられるのは嫌か? お前が望むなら、ちゃんとフルコースで可愛がってやるぜ」
紅龍は、片手で少年の後頭部を抱え込んで少し浮かせ、蕾に指を含ませたまま、リオの細い顎や首のラインをちろちろと舐めていく。
「やだあ……」
男の熱い体にぴったりと抱きしめられ、激しい愛撫をうけながら、リオはぐずぐずと泣き始めた。
嫌なのに、怖くて怖くてたまらないのに、指を食んだ蕾は嫌らしくひくつき、弱い首筋を責められれば、ぴくぴくと体が動いてしまう。さっきまで京に抱かれていたのに……。
京……。
リオは、優しい恋人の顔を思い浮かべた。
はやく戻ってきて、この悪夢を祓ってほしい。
もう逃げないと、太股に当たる、固くなった男根を感じながらリオは思った。怖い。怖くてたまらない。
好きでもない男に犯される恐怖を、リオはまざまざと思い出した。
「淹れるぞ?」
長い指は去り、固くて熱いものが、押しつけられる。
「い、いや、やめて……お願い、待って」
「どうした。いきなりはやっぱり駄目なのか? ん?」
揶揄するような声。昂りの先端は、もうリオの中にある。
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