聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ

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「1ヶ月きっていた」

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「ダイヤ様! ここしばらくお会いしていませんでしたね。お変わりありませんか?」
 城内の廊下を歩いていたら、ルノーにばったり会った。
 嬉しそうにニコニコと笑顔を向けてくれるルノーは、相変わらずのクリーム色のマッシュルームヘアに白い肌、女子に負けないくらいのつぶらな瞳。そして体系をすっぽり隠す白い服。
 まったくブレのないルノーに思わずほっこりしてしまう。(美少年)

「元気だよ。そういえばここ最近全然会ってなかったな。ルノー、忙しいもんな」
「ディナーをご一緒できない日が何度かありましたが、ダイヤ様も、兄上のダンジョン攻略に付き合うようになってからこちらに戻らない日が続いているとメイドから聞いています。兄上は無茶がすぎることがありますから、ダイヤ様に無理をさせていないか心配で心配で」
「あははは、ありがとう。オレも魔法に慣れてきて戦えるようになってからはむしろ楽しいっていうか」
「ダイヤ様、お会いしないうちにたくましくなられたんですね」
 瞳を潤ませるルノーに、そんなに? と疑問が沸く。

「今日はこれからどちらへ?」
「今から魔物研究所に」
「それでしたら、兄上にお伝えくださいませんか」
「ロウに?」
「聖女様をお迎えするにあたっていろいろと準備を進めたいので、一度城に戻ってきて欲しいと」
「聖女?」
 目が点になるオレにルノーの目も点になった。
「・・・はい。今月で3ヶ月目に入りましたので、聖女様を召喚する儀式を行います。ダイヤ様もようやく元の場所にお返しできます。お会いできなくなるのは寂しいですが」
 寂しいといいながら、聖女に会えることの方が勝ってるルノーは、笑顔のまま会話を続ける。だけど、オレはルノーの会話が全然聞こえてこなくなった。

 わ・・・。
 忘れてたーーーーーーー!!!
 しかも、まだ数週間しか経ってないってずっと思ってたけど、いつの間にか2ヶ月も経ってたーーー!!(マジかーー)

 頭を抱えて床にひれふしたい衝動を必死に抑えていると、
「召喚の儀式まで残り少ないですが、それまでに一度お茶会でもいたしましょう。記憶に残らないとはいえ、せっかくダイヤ様に会えたこの幸運を・・・」
「待った!」
 ルノーの会話を強め声で中断させる。
「記憶が残らないってどういうこと?」
 ルノーの笑顔がさっと消えた。
「ごめん、また覚えてなくて。嫌じゃなかったらもう一度教えてほしい。オレが、自分の世界に戻った後のことを」
「嫌だなんてめっそうもありません! 確かにこちらに召喚されたころにお話しましたが、酷だと思い、あまり深くはお伝えしていませんでした」

 ん?

 視線をそらすルノーが、珍しくそわそわしている。
「どういうこと?」
「知らない方がいいかと勝手な判断をしてしまい、申し訳ありません!」
 ぺこーーーと頭が足のつま先につきそうなくらい下げられ、思わずビビる。
 待っても顔を上げないルノーにため息が出た。
「えーと、怒ってないから顔を上げよう。んで、詳しく話してほしい」
 バッとすごい勢いで顔を上げ、ぱぁぁぁとめちゃくちゃ明るい笑顔を放出してきた。(眩しくて目が潰れる)
「もちろんです!! もしまだ時間が大丈夫でしたら今からでも!」
「ルノーは大丈夫なの?」
「ダイヤ様のためでしたらなんとでもなりますから!」
「いや、それ、どうにもならない系じゃない?」

 とりあえずまた明日会う約束をしてルノーとわかれた。

 魔法を使うのが楽しすぎて3ヶ月目になってたなんて、マジかよーーー!!
 普通にファンタジーライフ堪能してた! まだまだ堪能する気でいたし!!(ついでに冒険する気満々だった)
 しかも、地球に戻ったらこっちの記憶が残らない? 忘れるってこと?
 まぁでも、よく漫画とかにある話だよな。

「・・・」
 
 ピタッと足を止める。
 
 明日、何言われるんだろう。なんか、怖い。
 あぁ、これだったらさっき素直に聞いとけばよかった! オレのバカっ。

 人が行き交う廊下で地団駄を踏むオレは、通り過ぎる人たちの注目を地味に浴びるはめに。
 そのあと、魔物研究所に行ってフォ・ドさんの研究の手伝いをするも、集中できなくて木箱を足の上に落として痛い思いをしたり、間違ってフォ・ドさんを溺死させそうになったりさんざんだった。


 次の日、昼前に呼ばれてルノーと一緒に庭園でランチをとった。
 正直、あまり喉に通らず美味しそうな魚料理を半分以上残した。
「兄上に伝えて頂けましたか?」
「言ったよ。勝手に進めろ、て言ってた」
「もう、兄上はっ」
 ぷくぅと頬を膨らませる、ルノー。(かわいい)

 メイドがお皿などを片付け、テーブルにお茶と一口サイズの焼き菓子を用意してくれた。
 このままここで話をするみたいだ。
 メイドがペコリとお辞儀して離れていくと、黄色い花で囲まれた庭園にはオレとルノーだけになった。
「安心してください。人払いをしましたから。この時間は誰もここには来ませんし、音漏れもしないよう、防御魔法もかけておきました」
「それは・・・どうも」
 目からうろこだ。防御魔法はそういった使い方もあるのか。(勉強になった)

 お茶を一口飲んでから、ルノーが静かに口を開く。
「では、さっそくダイヤ様が元の世界に戻った後のことをお伝えいたします」
「はい、お願いします」
 緊張して、思わず姿勢を正す。
「ダイヤ様がこちらに召喚された日に戻ることになります」
「ん? それって時間が戻るってこと?」
「はい。そして、入れ替わるように聖女様がこちらに召喚されます」
「じゃぁ、オレは自分の世界に戻っても妹の桃花には会えないってこと?」
「会えるどころか、聖女様の存在はありません」

 ん?
 なんだか雲行きが怪しくなってきた。

「それは・・・最初っから桃花はいないってことで、オレはひとりっ子?」
「はい。ダイヤ様もこちらの世界で過ごした記憶が消えます」
「桃花のことも、こっちの世界のことも忘れる?」

 頭の中が真っ白だ。
 なんとなく予想はしてたけど、はっきり言われるとすぐに受け入れられないみたいだ。

「ご安心ください。必ず聖女様をお守りします」
「え」
 拳を胸にあて、覚悟を決めた強い瞳で見つめてくるルノー。いつもかわいいだけのつぶらな瞳なのに、今はすごく心強く見える。(漢らしい・・・て男だった)
 
「必ず聖女を守るから、安心して忘れて」て、ことか。

 ここにくるまで動揺と何を言われるかの不安でいっぱいだったけど、ルノーの優しくて、でも、残酷な一言でストンッと落ち着いた。
 急にお腹がすいてきた。喉が通らなくてせっかくの魚料理をほとんど残したことを後悔する。
「ルノー、この焼き菓子、全部食べてもいい? なんかお腹すいちゃって」
 ルノーの返事を待たずに、焼き菓子に手を伸ばす。
「もちろんです! どうぞお召し上がりください。先ほどの昼食ではあまり手をつけていませんでしたが、お魚は苦手でしたか?」
「そうゆうわけじゃないんだけど。お、この焼き菓子、中に甘い実が入ってて美味しい!」
 パクパク食べるオレに、困惑が隠せないルノーだったけど、気持ちを切り替えたのか、メイドを呼んで焼き菓子の追加を頼んでくれた。
 そのあと、小一時間ほどたわいない話で盛り上がって終わった。


「今日は疲れた」
 ベッドに倒れこみ、そのまま枕に頭をのっけて天井を仰ぐ。
 ルノーとわかれたあと、魔物研究所へ行ってフォ・ドさんの手伝いをして、ひとりで街の水路に魔物が出たと報告があった場所へ向かった。
 昨日とは違ってミスもなく、淡々とやることをこなす半日だった。
 心の中は静かで冷静で、案外平気なんだなーと思う自分がいた。

「地球に戻ったらオレ、ひとりっ子か」
 オレが2歳のときに桃花が現れた。
 桃花のお兄ちゃんになってから振り回されてばかりで、うるさいしわがままだし、ゆきやんみたいにひとりっ子の方がよかったと口にしていた時期もあった。
 念願叶うのに、なんか変な気分だ。
 ルノーに言われてから、今日1日ずっと頭の中に桃花の顔ばかり浮かぶ。
「そういえば、召喚される時、桃花泣いてたな」

『お兄ちゃん!!』

 青ざめた顔で必死にオレを呼んでた。
 そんなことすっかり忘れてた。ついでに魔法を使うのに楽しすぎて聖女のことも忘れてた。

「オレってけっこー薄情かも」
 

 ふと目が覚めると、天井の窓から星空が見える。
「・・・」
 第一王子の部屋か。 
 寝てる間に移動されるなんてもういつものことだ。最近は自分の部屋に帰らずそのまま第一王子の部屋に泊まることもある。
 一呼吸すると、すぐ近くに寝息が聞こえ視線だけ横を見ると第一王子がこっちを向いてオレに寄り添う形で寝ていた。
 
 近っ。

「・・・」

 起きてる時は一匹狼みたいな態度だけど、本当は寂しがり屋だったり。
 身体ごと第一王子に向けて、じっくり観察する。
 今日はオレだけじゃなく、第一王子も用事があったみたいで顔を見るのは朝以来だ。
 毎日顔を合わせてるだけあって、1日会ってないだけでなんか久しぶりな感じだ。
 あとちょっとでこのエグい顔ともおさらばだと思うと、なんか考え深いものがあるようなないような。
 気がづいたらいつも一緒に寝てるけど、こんなにじっくり寝顔を見たのは初めてだ。
 まつ毛長いし、起きてる時より少しだけ幼く見える。

「なんか新鮮だなー」

 思わず手を伸ばして頬を指で軽く突っつくと、「んっ」と声が出て眉間にしわが寄った。(面白い)
 もう1回やろうかと思ったけど、起きた時の反応が怖そうだからやめておくことにした。

「この寝顔も見れないのか・・・寂しいな」
 ぽそりと出たひとりごとに、自分でもびっくりして思わずあたりをきょろきょろと伺う。目が合うのははく製の魔物ばかり。
 急に恥ずくなって顔が熱くなる。掛け布団を頭まで被って、八つ当たりとばかりに第一王子の体のどこかを適当に蹴ってやった。
「いっ・・・」
 第一王子の痛がる声が聞こえ、起きたのかと思ったけど寝返りを打ってそのまま寝た。(寝言か)

 寂しいってなんだ?!
 オレが第一王子に会えなくなるのが寂しい? 
 そりゃぁ毎日一緒につるんで魔物退治してれば友情心も出てくるわけで。
 友達に会えなくる、の寂しいだ。それ以上の感情はない。
 それ以上の感情ってなに??!!

 朝になるまで布団の中でひたすら自分のひとりごとに振り回されるはめに。
 おかげでその日は寝不足になった。


「なんか顔色悪いな?」
 服に着替えながら第一王子が聞いてくる。
「気のせいだろ」
 寝不足のことは言いたくない。オレも着替えながら話を流した。 
 そおか? と腑に落ちない顔をしつつ、
「悪いがまた用事で出かける。魔物退治は頼んだ」
「え、今日も」
 素直に出た言葉に自分でもびっくりして、とっさに口を手でふさぐ。
 それを見逃さなかった第一王子がオレをじっと見る。
「な、なんだよ」
「明日は一緒にできるから、今日は我慢して励め」
フッと鼻で笑った。(くっそーーー)

「うるせーよ。つーか、何勘違いしてんだよ! オレひとりでもできるんだよ。行くならさっさと行け!」
 ニヤニヤしながら第一王子が部屋を出て行った。

 くっそーーー。
 なんなんだよ、オレ。(自分のことがわからん)
 顔が熱い。

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