聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ

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「慣れました」

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 本当の意味で、水魔法のコツをつかんでから数週間。
 フォ・ドさんに魔物退治用の魔法の使い方を教わる日々。
 最初は失敗が多かったけど、今では自分でもわかるくらい上達している。メイドさんみたいに手のひらから水を出せるようになったし、ある程度なら自由に操れるようになった。
 フォ・ドさんいわく、
「上達が早い! さすがタコスを倒しただけはある!」と褒めてくれるけど、相変わらずタコス推しだ。
 魔法を使うのは、単純に面白い。

 魔物退治では第一王子にまかせっきりだったけど、今ではオレから率先して低魔物から中の下くらいならひとりで倒している。
 特に第一王子が関われない湖や川のダンジョンはオレひとりで乗り込むことも増えた。
 さすがにオレひとりで全滅は無理だから、地上へと追い込むまでがオレの仕事。そんで、ダンジョンから地上へと逃げてきた魔物を第一王子の火魔法で一気に・・・。むごい。むごいけど、やらなきゃオレたちがやられる。(マジすまん)

 こっちの世界では魔物以外にいる生き物は獣と呼ばれてる。地球にいる動物とほぼ一緒。(牛とかきつねとか)ときたま、見たことのない珍しい獣を見かけることもある。この世界ならではって感じで出くわすとワクワクする。
 フォ・ドさん知識によると、魔物は女神様の創り出したものだからほとんど理性とか自分の意思がないらしい。だけど、獣は人間と一緒で自分の意思がある。
 人間を見て襲ってくるのは魔物だけ。理性も意思もない、本能だけで襲ってくる魔物に、少しだけ罪悪感は沸くけど、それ以上はない。むしろ、心がないことに安心してる。そんで、女神様のためにもこの世界のためにもさっさと成仏しろって思いながら、魔物の頭を水魔法で吹っ飛ばしてる。

 第一王子とは魔物退治を通してすっかり仲良くなった。ゆきやんほどじゃないけど、同じクラスメイトでいつもつるんでる友達って感じ。
 息を合わせた協力プレイも決まるようになったし、オレが一方的にキレることも減った。
 なにより、第一王子の火魔法を間近で見れる贅沢。(かっこいい)
 毎回見るたびに感動するし、ゾクゾクする。なんていうか、身体の奥から何かが沸き立つような、泣きそうな・・・とにかく感動する。(2回言った)
 フォ・ドさんは魔物退治を王族の務めだと言ってたけど、第一王子は違うと、一緒にいて気づいた。
 役目としてやってる部分もあるんだろうけど、それ以上に第一王子は絶対魔物が好きだ。
 そして、魔物を倒してる時の顔がヤバい。
 楽しくてしょうがないって感じの、ギラギラした目、戦闘中ずっと笑ってる口元。沼ってるオレが言うのもなんだけど、第一王子は絶対ヴィランだと思う。(倒しながら笑うって・・・クソだ。)

 岩山の中にあるダンジョンから外に出る。
 ここ3日間、このダンジョン内にこもりっきりでやっと陽を浴びれてホッとする。やっぱり人間は地下より地上が一番だ。
 自分の水魔法のおかげで体が洗えなくて臭くなることはないけど、さすがに髭が生えてあごの周りがザラザラする。早く剃りたい。
 一度、火魔法で「髭を燃やしてやる」と言ってやられたことがあるけど、誤って火傷を負わされ、数日間痛い思いをしたから二度とやりたくない。
 
 腕を伸ばしておもいっきり伸びをする。
「んーーー、帰ってベッドで寝たい」
 野宿はこりごり・・・と思いながら、空に浮かぶ欠けた白い月を発見する。
「その前にジジイのところに行くぞ。新種の魔物が出た報告だ」
 続いてダンジョンから出て来た第一王子が「魔物を運ぶのを手伝え」と促してくる。
「はいはい」
 やれやれとため息をつきながらダンジョンに戻る。


「ご苦労じゃった。今回はちと苦戦したかの」
 魔物研究所に来ると、フォ・ドさんが笑顔で迎えてくれた。
 疲れきった笑顔で「はい」と返事をしようとしたら、横から第一王子が、
「ジジイじゃあるまいし」
「これ! なんじゃその口の利き方は。あと、ジジイじゃなく師匠と呼べと言ってるじゃろ!」
「誰が師匠だ。ジジイはジジイで十分だ」
「なんじゃとぉ! そこに座れ。久々に説教してやるわい!」
「誰がジジイの説教なんか聞くか」

 玄関先でぎゃいぎゃいと始まった口ゲンカに、オレのため息が出る。

 疲れてるのによくやるよなぁ、このふたり。
 仲がいいのか悪いのか。
 師匠と弟子。というより、祖父と孫って感じだ。
 ふたりは顔を合わせると口ゲンカばっかりだけど、はたからみてるとこれはこれで楽しんでるんじゃ? と思ったり。

 言い合いをしてるふたりの横で、オレは黙々と新種の魔物を研究室へと運んだ。
 
「礼を言う、助かったわい。魔物だけじゃなく、他の郵便物まで運んで貰って」
 玄関に置きっぱなしの重そうな荷物を2階の部屋まで運んだことに、フォ・ドさんが中級ポーションを渡しながらねぎらってくれる。
「この部屋初めて来ました」
 貰ったポーションを飲みながら辺りを見渡す。
 物置にしているのか、古そうな本や物が無造作に床に置かれている。埃をかぶった木箱もちらほら。
 ふと、壁に貼られた地図のようなものに目が留まる。
「これは・・・」
「この世界の地図じゃ。旅をしてる時に使っとったやつじゃ」
 懐かしそうに目を細めながらひゃっひゃっと品なく笑った。

 地図!

「初めて見ました!」
「そーかそーか。いくらでも見るがよい。どれ、何かあたたかいものでも淹れてくるかの。飽きたら下に来るがよい」
「あ、はい。ありがとうございます」
 杖を突きながらゆっくり部屋を出ていくフォ・ドさんを見送ったあと、地図に視線を戻して眺める。
 使っていたというだけあって、ずいぶんと年期がはいっているのがわかる。黄色く黄ばんでいるし、隅が破れてたり欠けてたり。何かこぼしたあとの染みもある。癖がひどくて読めないけど、書き込みもされている。
 でもこれがかえって味があって、なんかいい! 見ててワクワクする。

 パッと見てわかるのは、大陸らしき塊がよっつほどあるということ。その周りに小さな島っぽい塊が無数ある。
 オレが今いるこの国はどこなのかは全然わからん。

 目を細めながら眺めていると、ずしっと右肩に重みが。
「なに? 地図? 外に興味でもあんの?」
「ロウ」
 身長差がちょうどいいと言って、第一王子はオレの肩を肘置きにする。
「ある! ていうか、単純にワクワクするじゃん。オレ、この国しかまだ知らないし」
「ふーん」
「この地図でいうと、この国はどこらへん?」
「・・・ここ」
 そう言って、第一王子が地図の中で一番小さめの大陸を指さす。
「へー! わりと西のほうなんだな。ロウは他の国とか行ったことあるの?」
「ある。何度か」
 こことここ。と、指で大雑把に教えてくれるけどざっくりすぎてよくわからんかった。
 聞き直すのも面倒だから、ふーんと相づちだけうった。
「他の国ってどんな感じ? 他も魔物いる?」
「・・・。海を渡ればもっと強い魔物がいるし、冒険者もいる。この国にはないけど、他にはギルドがあって・・・」
「ギルド?!」

 知ってるワードに、思わずテンションが上がる。勢いよく振り返ったオレに第一王子がびっくり顔だ。
「すげー! ギルドがあるんだ! 他には?」
「・・・。行くか? 海を渡って他の大陸に」
「マジで?! 行く! 行ってみたい!」
「すごい食いつき」
 フッと鼻で笑われた。
「なんだよ、いいじゃん」
 さすがに素直すぎたかと恥ずくなる。
「行こうぜ。魔物退治が一段落ついたら」
「マジで言ってる?」
「あぁ。ジジイも喜ぶ。この国の魔物にも飽きてきただろうし」
「そこか」
「オレもここ以外の魔物に興味がある。どうせなら、旅してまわるのもいい」
「お、いいねー!」
 ゲームのRPGみたいでワクワクする。
 フォ・ドさんは連れて行けないから、第一王子とふたりだけのパーティは少なすぎだけど、道中仲間が増えたら楽しそうだ。
 
 視線に気づいて横を向くと、第一王子にじっと見られていた。
「なんだよ!」
「嬉しそうな顔してるから」
「そりゃぁ、楽しそうじゃん、冒険! 仲間できたりとかさ」
「仲間なんて必要ない。俺とダイヤだけで十分だ」
「えー、旅は道連れっていうだろ。多い方が楽しいじゃん」
 言いながらドアへと歩きだすオレに、第一王子の次の言葉に足が止まる。
「俺は、ダイヤのことがもっと知りたい」
「は?」
 振り返ると、第一王子の真剣な瞳にドキッと心臓が跳ねる。
 緊張して、喉が渇く。
「どういう・・・意味」
「翻訳じゃいまいち言ってることがわかんないから、直訳で聞いてきたけど、それでも理解に苦しむ」
 ギロッとおもいっきり睨まれた。

 ん?! 直訳って言った? 今?!

「ロウ、翻訳なしでオレと会話してたの?! え、いつから?!」
「ダイヤが沼とか言い出しあたりから」
「沼・・・はぁぁ?! 数週間前じゃん?! オレ全然気づかなかった!」
 第一王子が「週間前?」とはてな顔をするけど、そこにツッコミを入れてる余裕はなく、ただただ第一王子が独学でオレの日本語を学んでいたことに驚きだ。(天才か)
「聞きとるだけだ。この世界にない発音があって口にするのはさすがに難しい」
「聞きとれるだけすごいって。オレも、一瞬だけ直訳に切り替えたことあったけど、あまりにわけわかんなくてすぐ翻訳に戻した」
「ダイヤは根性がないな」
 フッと鼻で笑われた。(ムカつく)
 
「あーびっくりしすぎて喉カラカラ。フォ・ドさんが飲み物用意してくれるって言ってたから早く下に行こう」
 ガチャッとドアを開けて廊下に出る。

 紛らわしいこと言うからマジで一瞬ビビった。
 あの言いまわしじゃ、オレのこと好きなのかと・・・。

 ハッとして、首を横に振りながら頭に浮かんだことを否定する。
「なんだ、小さい魔物でもいたのか?」
「そう! 蚊がいた!」
「カ? ほら、今みたいのが理解に苦しむ」
「蚊はわかんなくないって。ていうか、この世界にいない生き物だからだろ。普通に聞けよ」
「生き物の名前か」
「ロウはもっと聞けよ」
「・・・。この世界にいない生き物がなんでいたんだ?」
「あーもう、うるさい! いちいちツッコむな。さっさとフォ・ドさんとこ行くぞ」

 今までたいていのことは自分で解決できてきたのか、第一王子はあまりオレに頼ったりわかんないことを聞いてきたりしない。多分、フォ・ドさんにもあまり相談とかしないんだろうな。
 もっとオレを頼って。なんて恥ずくて言わんけど、仲良くなったんだからわかんないことは聞いて欲しい。なんて、友情心が芽生えていたり。
 さっきのも、聞きとるだけとはいえ、オレが本当は何を言ってるのか興味を持ってくれたことが、単純に嬉しい。

 ん?

 リビングにしている部屋の窓から欠けた月を発見する。

「あれ? さっき見た月と欠け方が違うような・・・」
 目を細めて月を睨んでいると、フォ・ドさんが淹れたてのお茶を持ってきてくれた。
 お礼を言いながら受け取り、月のことは気のせいだということで記憶の隅に追いやることにした。





*あとがき*
 読んでくださりありがとうございます!
 更新の変更をお伝えします。
 週1の更新でしたが、次からは非定期でいきたいと思います。
 目標は2週間に1回更新です。
 更新の曜日と時間は変わりません。(木曜のAM1:00)
 楽しみにしてくださる方には大変心苦しいのですが、ご理解いただければと思います。
 よろしくお願い致します。

  たっぷりチョコ
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