ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ

文字の大きさ
6 / 57

「アイドル仲間」2/2

しおりを挟む

「遅くなっちゃったね。家の人大丈夫?」
 ファミレスを出ると外はすっかり暗くなっていた。街の中とはいえ星がちらほらビルの隙間から見える。
 先を歩いていると制服のブレザーの裾をクィッと引っ張られ、その場で立ち止まって振り返る。
「どうしたの? あずくん」
 無言の上目遣いでボクを見つめ、
「帰りたくない」
「・・・親とケンカでもしたの?」
 ボクの問いに数秒してからパッと裾から手を放すあずくんは、
「父さんはともかく、母さんは僕のことなんかこれっぽちも気にかけてないよ。今日だって東京に来てることすら把握してるかどうか!」
「言ってないの?」
 ぎょっとする。
「言ってるよ。ちゃんとラインしたし。でも・・・」
 あずくんはビルの屋上にある広告の看板を見上げて何も言わなくなった。
 ボクも広告を見上げると、最近よくテレビのCMや雑誌で見かける人気の女性モデルが頬杖をついている。
 薄く淡いブラウンの瞳、ロングヘアーはチョコレート色だけど、見れば見るほどあずくんに似ている。
「お姉さんと何かあった?」
 ボクの問いにあずくんが広告から顔をそらして、
「今日、家にいるんだ。モデルの仕事が急にドタキャンになったからって・・・不愉快すぎる。母さんは姉ちゃんのことしか頭にないんだ」

 あずくんには少し年の離れたお姉さんがいる。それがあの広告看板のモデル、エミリ。
「僕なんかさー、姉ちゃんと違って男のくせに身長伸びないし、顔も華やかじゃないし、松岡家にいてもいなくてもいい存在? みたいな」
 あずくんがいじけてる。

 確かに、あずくんはボクより身長が低いし、(多分、160くらい)小柄で華奢だ。だけど、顔は十分すぎるほど美形だしお姉さんとそっくりだと思うのはボクだけなのかなぁ。
 あずくんが落ち込むなんて、両親はどんだけ面食いなんだろう。モデルのお姉さんと比べられて育ったのは2年間のつきあいでだいたい把握してるけど。

「あずくんはめちゃくちゃ必要な存在だよ」
 ボクの一言にあずくんが期待を込めた瞳でパッとこっちを向いた。
「ほんとに?」
「本当だよ。あずくんのおかげでボク、推し活楽しいもん。男性アイドル好きの男仲間なんて本当に貴重だし。今日だって夢の話できたのあずくんだけだよ」
「・・・それだけ?」
「え?」
「姉ちゃんはキレイだけど、ボクの顔はどう思う?」
「美人だと思うけど」
「身長低くても?」
 ズィッと距離を縮められ、戸惑う。
「身長は関係ないと思うけど」
「絶対? 絶対だな?!」
 よくわかんない圧力をかけられ、頷くことしかできないでいると、あずくんは鞄から一枚のチラシを引っ張り出しボクに見せた。
『目指せ、男性アイドルオーディション』と書いてある。ラヴずのメンバー10人がキラキラした笑顔で、それぞれこっちに向かって手を差し伸べている。

「え? どういうこと?」
 目を点にしてるボクに、あずくんはドヤ顔で、
「モデルは無理でも、アイドルだったらボクだってなれると思うんだよね! というか、今までアイドルを追っかけててどうして気づかなかったんだろうって不思議なくらいだよ」
「あずくん、アイドル目指すの?」
「目指すんじゃない、なる!」
 グッと拳に力を入れる。
「待ってあずくん。受験は?」
「高校受験だって頑張ってるよ! そのための塾通いじゃん。でも、オーディションも受ける! 他のオーディションもすでに応募してるんだ!」
「えぇー。今年は受験に専念した方が・・・」
「親みたいなこと言うなよ」
 チッと舌打ちするあずくんに、やっぱり親とケンカしたんだと悟る。

「安心してよ。もう第一希望決めてるし。模試でA判定も出てるからこのまま維持すれば間違いなく受かる」
「え、本当!」
 期待するボクにあずくんが余裕たっぷりのドヤ顔でブイサインする。
「でもショックだなー。アイドルオタク仲間として、仲間がアイドル目指そうっていうのに全然喜んでくれない」
 チラシを鞄にしまい込みながらいじけてくる。
「ごめんごめん、時期が時期だから」
 苦笑いを浮かべながら平謝りするボクに、あずくんはツーンとそっぽ向いていじけまくる。
「ボク、めちゃくちゃ応援するよ! あずくんなら絶対アイドルになれるよ! 口は悪いけど美人だし、ダンス上手いし、可愛い時もあるし、年下キャラとしていけると思うよ」
 あずくんの機嫌をとるためにテンション高めで褒めまくるけど、「口悪いのは余計だ」と舌打ちされた。

「アキは僕がアイドルになったら推しにしてくれる?」
 急に上目遣いであざとい視線を送るあずくんに、不覚にもキュンッとした。
「もちろん、推すよ!」
「トモセくんよりも?」
 確信をついてくるあずくん。それはもちろん、
「それは無理」
「おい、そこは僕優先だろ」
「無理、それは断じて無理無理無理」
 両手で大きくバッテンをするボクにあずくは渾身の右ストレートをするフリをし、それを食らったフリをしてよろけてみせた。

 駅へと歩き出すあずくんに、
「いつでもラインして」
 ボクは横に並んで歩く。
「リモートがいい。顔見ないと眠くなる」
「いいよ、あ、でも、あんまり遅い時間だと寝てるから」
「そしたら着信音で起こす」
「そこはスルーで」

 仲間。だけど、弟みたいな存在。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

悲報、転生したらギャルゲーの主人公だったのに、悪友も一緒に転生してきたせいで開幕即終了のお知らせ

椿谷あずる
BL
平凡な高校生だった俺は、ある日事故で命を落としギャルゲーの世界に主人公としてに転生した――はずだった。薔薇色のハーレムライフを望んだ俺の前に、なぜか一緒に事故に巻き込まれた悪友・野里レンまで転生してきて!?「お前だけハーレムなんて、絶対ズルいだろ?」っておい、俺のハーレム計画はどうなるんだ?ヒロインじゃなく、男とばかりフラグが立ってしまうギャルゲー世界。俺のハーレム計画、開幕十分で即終了のお知らせ……!

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

処理中です...