19 / 57
「会える」
しおりを挟むあずくんのラインを見た日は興奮しすぎて寝れず、トモセくんに会うことはできなかった。
次の日、改めて白い世界にいる自分を確認するなり、トモセくんの姿を探す。
少し離れた距離に、ぼんやりとトモセくんのシルエットを発見し、大きな声で呼びかけたいのを堪えて駆け寄る。
先にトモセくんがボクに気づき、
「アキ! 昨日は会えな・・・」
会話をさえぎって勢いよく飛びつく。
「コンサート行けることになりましたっ!! あずくんがチケット取ってくれたんですっ!! もうっっ、嬉しくて一番にトモセくんに伝えたかったんですけど、昨日は興奮しすぎて全然寝れなくて・・・」
「そう・・・だったんだ」
トモセくんの顔が引きつってることに気づき、ハッと我に返り慌ててトモセくんから離れる。
うわぁぁぁぁぁ、ボクはなんてことをっっ! トモセくんに抱きつくなんてっっ!!
「ごごごごごめんなさい!」
土下座しようとしたらトモセくんに止められた。
「チケット手に入ったんだ! おめでとうっ! オレも嬉しいよ」
アイドルスマイルを向けられ、パニックだった頭がシューッと湯気を出して停止した。顔も真っ赤だ。恥ずかしさで死ねる。
とりあえずその場でふたり並んで座り、深呼吸をひとつ。
「飛びついてごめんなさい、本当に嬉しくて・・・」
「いいよ、嬉しいことがあるとハグしたくなるよね」
ファンの荒ぶりに優しく共感してくれるなんて、ホントトモセくん神すぎるっ!(尊い)
気持ちが落ち着いたらトモセくんの髪型がまたネコっ毛になってることに気づいて、なんかほっこりする。(かわいい)
「こうゆうのってゆるふわって言うんだよね。かわいい」
「・・・え?」
「・・・へ?」
きょとんとするトモセくんに、ハッと我に返る。無意識に手を伸ばしてトモセくんの髪に触れて、しかもトモセくんに向かって「かわいい」なんて言ってしまったー!
今日のボクはどうかしてる!! コンサートに行けるからってきっと浮かれてるんだっっ!!
髪に触れた手を慌てて引っ込め、激しく謝った。トモセくんは怒るどころか笑ってくれた。
「本当は人前でこの髪型でいるのは嫌なんだけど、アキが似合うって言ってくれたから」
「はい! ストレートヘアも似合ってますけど、こっちもすごく似合ってます!」
「アキにそう言われると、好きじゃなかったこの髪も好きになれそう。じゃー、毎日この髪でいようかな。アイロンかけるの大変なんだよね。暑いし」
イシシと冗談気に笑う。
「ファンのみんな喜びますよ」(ボクも嬉しい)
「ここだけ。アキの前でだけだよ、この髪型は」
「・・・ボクの、前だけ?」
「うん、アキ限定」
そうだよね。地毛がネコっ毛なのは夢のトモセくんだけなんだから。
「アキ?」
一瞬、うわの空になったボクを心配するトモセくんにすぐさま笑顔を向ける。
「えへへ、嬉しいな、ボク限定なんて」
「・・・なんか、今のやりとり、恋人っぽくない?」
「へ?!」
トモセくんの唐突な発言に心臓が口から飛び出そうになる。代わりに、自分が飛ぶように立ち上がった。
「ごめん、急に変なこと言って。深夜ドラマで彼氏がいる友人の役を演じるからってアキに恋人ごっこをお願いしたじゃん?」
「は、はい!」
「アキ、意識すると緊張すると思って、今から『ごっこしよう』ていうより、自分で勝手に恋人としてアキに接してみたほうが自然に恋人っぽさをつかめるかなーっと思って」
「えぇ?! じゃぁ、今日は恋人としてボクに接してくれてたんですか?」
「今日だけじゃなくて、お願いした次の日から」
確信犯とばかりにニコッとドヤ顔のアイドルスマイル。(策士な推し、尊いっ)
そうだったんだ。そう言われると、なんとなく距離が近いのも、「アキ限定」なんて言ってきたのもそうゆうことだったのかと納得する。
「アキがハグしてきてくれたのも恋人ぽくってよかったけど、あまりに不意打ちすぎて対応できなかったのが反省」
「反省しなくていいですよ、ボクのはごっこじゃないんですから」
「素ならなおさら」
「トモセくーん」
仕事に貪欲な推しも好きッ。
立ち話していたことに気づき、再びトモセくんの横に座る。
「話は変わるんだけど・・・前から気になってたことがあって。ひとつ聞いてもいい?」
真顔なトモセくんが改まって言うから少し緊張が走る。
「な、なんでしょう?」
「アキって・・・リアルでオレに会ったことある?」
「・・・へ? それはどういう・・・」
なんだろう、心がざわつく。なんか違和感がする。まるで、自分が持ってる考えとは違う、異物な・・・。
「ごめん、言い方おかしかったね。すごく喜んでくれたから、オレたちのコンサートに行くの初めてなのかなーと思って」
ニコッと優しく微笑むトモセくんに緊張がほぐれて安心する。
「実は2回行ってて」
「そうなんだ、握手会とかは?」
「残念なことにそれは1回も参加できてなくて。応募はするんだけど毎回はずれるんです。デビュー当時は抽選じゃなかったって聞いて、もっと早くファンになってたらなぁ、て今でも悔やんでます」
「・・・そっか。なんか、ごめん。握手会が抽選で」
「そんな! トモセくんは悪くないです!」
「トラブルがあってから人数制限かけるようになって・・・。あ、うちの握手会じゃなくて、他のアイドルでね。社長が決めたことだし」
なんか、生々しい話になってしまった。トモセくんもちょっと気まずい顔をしてるような。
さっき感じた違和感は気のせいだったのかもしれない。トモセくんが真剣な顔をしていたから変に疑ってしまったのかも。
それにしても、するどすぎる、ボクの推しっっ!
ボクがなぜこんなに今回のコンサートを喜んでいるのか? それは行けないと思っていたのに行けることになって嬉しいっ! だけじゃなく、実は、トモセくんのファンになってから行くコンサートは今回が初めて・・・だから。
嘘はつきたくなくて、正直に2回行ったことを話しちゃったけど・・・。言えない。口が裂けても、前回の2回はトモセくん以外の推しのために行ったなんてっ。
本当はラヴずをデビュー当時から推してることも、実は握手会に1回参加してることも! 口がどんなに裂けても言えないっ。
これはボクが墓場まで持っていくつもり。推し変したなんて絶対トモセくんの耳に入れちゃダメだー!!
今まで自分の都合の悪いことは聞かれたことなかったし、自分の夢だからそこは安心していた。だから、さっき違和感がしたのかもしれない。
とはいえ、夢の中のトモセくんに半分以上嘘をついたことは罪悪感だ。
「あの! ファンレター書きますね。本当は手作りお菓子を渡したいところなんですけど、ファンボックスは飲食禁止だから」
「アキの手作りお菓子・・・捨てがたい! でも、ファンレターはありがとう! 絶対読むよ」
「はい!」
実際はファンレターだけでもすごい数なんだろうなぁ。
「席ってどのへん?」
「えーと、2階の東側・・・だったと思います。まだチケット手元になくて、友達情報なんですけど」
「・・・そっか、じゃーアキのために東担当になる」
「え、嬉しいです。でも、担当とか決まってるんですか?」
「決まってません。走り回ります」
トモセくんの冗談にお互い自然と笑みがこぼれる。(尊いっ)
「うちわ作りますね!」
久々のコンサートうちわに気合が入る。姉さんたちに仕込まれたおかげでうちわ作りは得意中の得意だ。派手なものから、ファンサ狙いのものまで。とにかく推しに見てもらうのが第一のうちわ。
「いいね! できたらどんなのか教えて。そしたらアキのこと探しやすいと思う。あと、座席の場所も」
「座席はいいですけど、うちわがどんなのかは秘密です!」
「え?」
「先に教えたら意味ないじゃないですか! 大丈夫です、トモセくんの目にとまるようなものにしますから!」
フンッと自信たっぷりのボクに、トモセくんがプッと吹き出し笑った。
「わかった、当日楽しみにしてる」
「はい、絶対トモセくんが気になって2度見するようなうちわにしてみませまっす!」
2度見にツボったトモセくんがよく笑うからキュンキュンが止まらないっ!(推しがかわいすぎるっ)
ヤバい、本当に本当にコンサートが楽しみすぎる!
なにより、リアルでトモセくんに会える! 夢の中のトモセくんじゃなくて、生のトモセくんに会えるんだっ!!
30
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
悲報、転生したらギャルゲーの主人公だったのに、悪友も一緒に転生してきたせいで開幕即終了のお知らせ
椿谷あずる
BL
平凡な高校生だった俺は、ある日事故で命を落としギャルゲーの世界に主人公としてに転生した――はずだった。薔薇色のハーレムライフを望んだ俺の前に、なぜか一緒に事故に巻き込まれた悪友・野里レンまで転生してきて!?「お前だけハーレムなんて、絶対ズルいだろ?」っておい、俺のハーレム計画はどうなるんだ?ヒロインじゃなく、男とばかりフラグが立ってしまうギャルゲー世界。俺のハーレム計画、開幕十分で即終了のお知らせ……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる