43 / 57
「クリスマスイベント」ートモセ視点ー
しおりを挟む12月24日。
ラブずのクリスマスイベントがあと1時間後に始まる。
控室でスタイリストさんと一緒に衣装の最終チェックをしながら着替える。
クリスマスカラーを取り入れたスーツを身にまとい、鏡の前で自分とにらめっこ。
「トモセくん、とっても似合いますよ~。最近は本当に大人の色気が出てきたからスーツ姿がヤバイですっ!」
スタイリストさんが興奮しながら赤いネクタイをキュッと締める。
「あ、ありがとう」
色気が出たとかセクシーだとか本当によく言われるワードになった。
おかげで、雑誌の撮影が増えて忙しい。
写真集を出さないかという話まで出てるし。
正直、自分では全然わからん。
いくら鏡を覗いても兄貴にちょっと似てきたなーと思う程度だ。(老けた?)
アキは・・・特に言ってない。
雑誌が発売するたびに買ってくれるし感想も言ってくれるけど、アキの口からはそのワードが出ないのがちょっと嬉しい。というか安心する。
いや、ここはドキドキしてもらうところなのかもしれない。
複雑だ。
メイクさんに軽くファンデーションを塗られ、髪をオールバックにされて準備完了。
鏡で見るとだいぶ厳つい自分がいる。(おでこが出てて違和感しかない)
周りを見渡すとメンバーも準備が整ったらしく、それぞれイベントに向けて心の準備に入っている。
瞑想してる奴もいれば、スマホで新曲のおさらいをしてる奴もいる。
リーダーは用意されたお弁当をガツガツ食ってる。(メンタル強っ)
オレはー・・・みんなの目を盗んで控室のドアを音が出ないようにそっと閉めて廊下に出る。
先の尖った革靴がカツカツと音が響き周りの視線が痛い。
コソコソと行きたいところを開き直って堂々と胸を張って会場の舞台裏へと向かった。
本番前の舞台裏はスタッフが慌ただしく行き来していて挨拶をしても特に気にもとめない。
それをいいことに幕の隙間からそっと会場内を覗く。
夏のコンサート会場と違って200人程度の客席しかない会場は狭くてファンとの距離も近い。
ここで覗いてるのがバレそうでヒヤヒヤする。
慌てて変装とばかりに、誰かが置きっぱなしにしているスタッフ用の帽子を被ってツバで顔を隠す。
お目当ての席に視線をゆっくり走らせると・・・いたっ!
アキだ。
真ん中の列の通路側にいる。
ステージから離れているけどここからでもよく見える。
夢の中では3日ぶり。
現実では剣道試合以来だから1か月ぶりぐらいだ。
ひとり席に座っているアキ。グレーのセーターを着ている。
Tシャツに短パンかスウェットパンツ姿に見慣れているせいか、袴もそうだけど、普通の私服にキュンキュンくる。(かわいい)
よく見ると、今日のイベントのパンフレットを持っている手がセーターの袖に隠れて指先がちょっとしか見えない。
かわいすぎて思わず天を仰ぐ。(オレの恋人がかわいすぎるッ)
気になるのはそこじゃない。
気を取り直してアキをじっくり観察する。
夢の中で約束した、とろりプリンの写真を貼ったうちわを探すけど、持っているかここからじゃさすがにわからない。
「始まらないと無理か」
教えてもらった席に座っているアキは本物だ。
それはもう信じることにした。
あとは、本当に同じ夢を見ているか。
夏のコンサートでは失敗したから今回は絶対間違えたくない。
ジュンにもこのことは話したし、アキの席がどこかも教えた。
オレがうっかり見間違えたとしてもジュンがいる。
ズボンのポケットからプリンのストラップを取り出す。
「やっと渡せる」
聞くたびアキはしょんぼりしながら「まだ見つからない」と言う姿に良心が痛んだけど、それも今日で終わり。
アキがとろりプリンの写真を貼ったうちわをかかげればそれが合図。
イベントが終わったらこっそりくすねておいたスタッフ用のTシャツと帽子に着替えて会場を出るアキに会いに行く。
そして、不思議がるアキの前にこのストラップを渡せば・・・。
「ハッピーエンド!!」
グッと拳を握りしめ、何度もシュミレーションしたシナリオに酔いしれる。
興奮と緊張で喉が渇いてきた。
控室に戻る前にアキの顔見たさに客席に視線を向けると、ひとりだと思っていたアキの横に女性がひとり、アキと楽しく会話している姿が目に入る。
セミロングヘアの大人しそうな人だ。よく見ると両耳にピアスをしている。
アキと身長が同じくらいではたからみるとお似合いのカップルだ。
しかも、色違いの赤のセーターを着ている。
一気に血の気が引く。
いや、待った。
このイベントはペアチケットだ。
アキは推し仲間が当てたから誘われたって言ってた。
てっきりあずくんだと思ってたけど、他にも仲間がいたんだ!
アイドル仲間が全員男とは限らない。
男性アイドルだし、男のファンなんてまだまだ少ないし。
女子の推し仲間がいたって不思議じゃない。
セーターはたまたまだ!
どこにでもある形のセーターだし、たまたま被っただけとか。
あれこれ推測するけど、足元がどんどんふわふわしてきた。
よく笑う推し仲間だろう彼女がふいにアキの肩に触れる。
それを嫌がることなくアキは楽しそうに笑いながら彼女の肩に自分の肩をくっつけて寄り添った。
グラッと地面が揺れ、ふらふらしながら幕から離れ廊下へと出た。
そうだ、他人の空似だ。
あれはアキにそっくりな人だ。
うちわだって持ってなかったし。
席の番号は・・・そうだ、オレ、また聞き間違いしたんだ。
それか、やっぱり夢と現実は繋がってないんだ。
アキは現実にいない?
それはない! アキは絶対にいる!
さっき見たのはきっと何かの間違いだ。
「お、トモー! ここにいたのかよ」
ポンッとジュンが肩に手を置く。
ハッと我に返って振り返るとジュンの眉間にしわが寄った。
「おまえ・・・顔色がマジ悪い」
「え・・・」
どうしよう、これからイベントなのに、アキに楽しみにしててって言ったのに。
できる気がしない。
23
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
悲報、転生したらギャルゲーの主人公だったのに、悪友も一緒に転生してきたせいで開幕即終了のお知らせ
椿谷あずる
BL
平凡な高校生だった俺は、ある日事故で命を落としギャルゲーの世界に主人公としてに転生した――はずだった。薔薇色のハーレムライフを望んだ俺の前に、なぜか一緒に事故に巻き込まれた悪友・野里レンまで転生してきて!?「お前だけハーレムなんて、絶対ズルいだろ?」っておい、俺のハーレム計画はどうなるんだ?ヒロインじゃなく、男とばかりフラグが立ってしまうギャルゲー世界。俺のハーレム計画、開幕十分で即終了のお知らせ……!
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる