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きみの本音が知りたい
しおりを挟む「やったじゃん」
中庭のベンチに座りながら有吉が焼きそばパンを頬張りながら言った。
同じく焼きそばパンを手に持ちながら微妙な顔をするおれ。
「やった。なのかな?」
「オレに聞かれても。つーか、舌の根が乾かぬうちに。ってやつだな」
じとっと見つめられ、思わずさっと視線をそらし、
「だよね、おれもそう思う」
「別に責めてるわけじゃないって。殿堂入りの片思いだーとか宣言してたのに昨日告られたっていうからさ」
「だからおれも突然すぎてびっくりしてる。男同士の恋愛はおかしいとか言ってたし。今でも夢なのかな? とか、ドッキリなんじゃ・・・とか」
「からかうような奴なの? 罰ゲームにするような奴?」
有吉に言われすぐに首を横に振った。
「逆にそういうのやめろって言う」
「正義感強いんだ」
「おばさんの影響みたい」
「おばさん?」
「三春くんのお母さんだよ。会ったことないけど、いつも話に出てきたけど、とにかく信念が強いっていうか」
「まさかの特待生、マザコン?」
ドン引きする有吉。
「違うよ、三春くんち、母子家庭なんだ。だから、おばさんがお父さんでもある存在なんじゃないかなー」
「へー。あ、だから奨学金か」
「うん、ちらっと聞いたことあるけど未婚らしい」
「・・・まぁ、ひとんちの事情はお口チャックだな」
「だね」
「ん」とふたりして口をぐっとつぐむ。
最後のひとくちを口に放り込んだあと、有吉が微妙な空気を切り替えるように明るい声で、
「返事は? まさか断った?」
「・・・それが、びっくりしちゃって流れで「はい」て言っちゃったんだよね」
「なんだそれ、でも断る理由もないし結果的によかったじゃん。今日の朝もオレを置いて一緒に登校してたしな」
またじとっとおれを見る。
「声かけてもいびきかいて寝てたじゃん」
「だぁーって、鉄のやつ、電話長いんだもん。昨日通話切ったの3時だよ? ありえなくない?」
「寝るって言って切ればいいじゃん」
「わかってないなー。好きな奴からきた電話を切れると思う?」
「・・・次の日が学校なら」
「・・・すぐ別れちまえ」
半べそ顔の有吉。ふてくされてまだ食べ終わってないおれを置いて校舎の中へ戻って行った。
やれやれとため息が出る。
鉄さんはうちの学校の付属大学に通う2年生。(高校のOBでもある)
近い将来、おれと有吉が通うであろう獣医学部生だ。毎日勉強やら課題やら研究やらでこっちから電話してもほとんど繋がらないし、ラインしても既読スルーが普通。
だから例え夜中だろうと鉄さんからくる電話は有吉にとってめちゃくちゃ嬉しいこと。なのは知ってるけど、さすがに尽くしすぎでは・・・と思う今日この頃のおれ。
食いかけの焼きそばパンを見つめながら、やっぱりちょっと冷たかったかなと反省。
昨日、三春くんと一緒に登校したあと、突然告白された。うっかり「はい」なんて返事しちゃったけど。そのあと誘われるままにお昼もとったし、下校はおれが部活あるから断っちゃったけど、今日の朝は一緒に登校した。
だけどなんだろう。お付き合いがスタートしたって感じがしないのは。このなんともいえない地に足のつかないような感覚。ふわっとした・・・。
「本当に付き合ってるのかな? 返事したの聞こえなくて保留になってたりする?」
うーん・・・と眉間にシワを寄せながら残りの焼きそばパンを食べる。
ベンチの上に置いてあるスマホが振動した。画面を覗くと三春くんからのラインだ。
『体育で一緒にお昼食べれなくてごめん。帰りは一緒に帰れる? 今日も部活?』
お昼を一緒に食べる約束はしてないはずなのに。これはこれから毎日一緒にお昼を食べることになっているのだろうか。と内心思いつつ、ラインで一緒に帰れる的なことを送信すると『迎えに行く』と返事がきた。
嬉しい。けど、戸惑いが強い。
「やっぱりもう付き合ってることになってる?」
三春くんの気持ちが知りたい。
付き合おうとは言われたけど、「好き」とは言われていない。
おれはずっと片思いしてたから嬉しいけど、三春くんはおれのこと親友だって言ってたばかりだし。
三春くんの本音が知りたい。
「んー。数学の復習終わりっと」
机から顔を上げて有吉が言った。
2段ベッドを挟んでお互いの机がある。おれも机から顔を上げスマホを覗く。
「夜の7時だ。もうそろそろシャワー行かない? Aクラスのシャワー時間終わっちゃう」
「あ、マジだ。勉強してて忘れてた」
いつも使うシャンプーやボディソープが入った洗面器をそれぞれ持ち出しバスタオルと下着を持って部屋を出る。
シャワー室がある1階へ下りると入口の前で人だかりができていた。ちょうど村田がいたから声をかけてみる。
「え。シャワーの水が出ない?!」
オレと有吉の声がハモッた。
「なんか知らんけど誰かが水道管壊したらしい。今のところシャワー室の水だけっぽいけど、下手したらトイレとか他もダメかも」
「壊すってなんだ?!」
「この建物わりと古い方だからもともと老朽してたのかも」
おれの返しにふたりが頷く。
「それに、シャワー室の水道管って天井に丸出しだもんな」
と、村田。
「えーー身体洗えないと臭いじゃん」
有吉が自分の腕の匂いを嗅ぐ。
集まってるみんなもシャワー室について話していると寮長兼Aクラスの寮リーダーの篠崎くんがやってきた。
「注目ーーー」
右手を上げながら大声を出すとみんなの視線が一斉に寮長に向く。
「壊したって言ってる奴いるけど、単に老朽で水漏れしてるっぽい。今日はもうシャワー使えないから各自他の学生寮に行ってシャワー室借してもらって。今さっき他の寮長に許可取ったからそのまま行っても問題ないから。あと、このことは他のクラスにも広めといて」
聞いていたみんなで「りょかーい」と口走りながらその場から離れて行く。
「村田。ただの老朽だってさ」
と、有吉。
「俺が来た時はそう聞いたんだよ」
肩を持ち上げてバツの悪い顔をした。
おれは周りの様子を見て、1度部屋に戻る人やそのまま洗面器を持って外へ出て行く人の姿を見ながら自分はどうしようかと考える。
「有吉、村田はどうする? どこの学生寮行く?」
村田が、
「俺はとりあえず部屋戻って高橋に相談するわ」と言って別れた。
「有吉どうする?」
「とりあえず他の学生寮行ってみるか」
「中等部とか?」
「それは絶対やめたほうがいい」
めちゃくちゃ睨まれた。
「う、うん?」
「行ったら鈴村のことが好きな奴がシャワー室に押しかけに来て覗き見するだろ」
「・・・。同じ男だから見ても面白くないと思うけど」
じとっと有吉が見つめる。
「男だろうと好きな奴の身体が面白くないわけないだろ。つーか、後輩を犯罪者にしたら可哀そうだろ。そーしたら2年か3年かー」
「今行ったらどっちも混んでそうだね」
「そこだよなーって、鈴村の彼氏がいるじゃん!」
ひらめいたとばかりに有吉がテンションを上げる。
「三春くんはまだ彼氏かどうか・・・って、三春くんの部屋のシャワー室借りるの?!」
「特待生の部屋に興味がある! 拝みに行くにはちょうどいい機会じゃん」
語尾が上がって楽しそうだ。
確かにわざわざSクラスの、しかも特待生の部屋のシャワー室を借りに行こうなんて考える無謀な人なんていないと思う。だからきっと2,3年生の学生寮に行くよりすいてるはず。効率的にいいけど・・・。
でも。
おれは首を横にめちゃくちゃ振った。
「三春くんがいつも使ってるシャワー室なんて使えないよ!!」
「お。無防備なこと言ってたのに彼氏のことになるとちゃんとエロイ想像できるんだ。よかった~、オレちょっと心配したもん。危機感なさすぎて」
ホッとする有吉におれの顔がカー―ッと熱くなる。
「と、とにかく混んでてもいーからとりあえず2年の学生寮に行ってみよう」
「えーーーせっかく彼氏がいるんだから頼ろうよーって、ね!」
スウェットのズボンのポケットに入れてあったスマホを有吉がヒョイッと奪った。
「有吉!」
平気平気。と適当なことを言いながら有吉は勝手に人のスマホのロックを解除して三春くんにラインを送ってしまった。(なんで暗証番号知ってるの?!)
ニコニコしながらスマホを返された。
「彼氏、オッケーだって。よかったじゃん! さっそく行こうぜ!」
ポンッとおれの肩に手を置く有吉。(最悪だ)
学生寮が並ぶ敷地内の奥にS寮はある。
中等部、高等部のSクラスと特待生、ついでに在学の教師が住む寮でもある。
「鈴村! シャワー使えないんだって?」
受付の窓口で名前を記入しているとフロアの中心にある階段から三春くんが下りてきた。
「あーうん、なんかごめんね。迷惑かけちゃって」
「オレらの学生寮古いから老朽だって」
「そっか。こっちはべつに迷惑じゃないから気にせず使って。名前・・・」
じっと有吉を見つめる三春くん。
「あ、有吉って呼んで」
すかさずおれが言うと有吉もこくっと頷く。
「じゃー有吉・・・は、オレの友達の部屋の貸すから。その方が待たなくていいし。あと、他の人にも拡散していいよ。S寮にも複数人使えるシャワー室あるから」
「マジで? んじゃオレ、同じ寮の奴に拡散しとこ」
移動しながら有吉がスマホで拡散した。
3階まで上がって、三春くんが紹介してくれた友達、綾瀬くん(ちょっとチャラそうな人だ)の部屋に有吉がお邪魔して、おれはその隣の部屋に案内された。
「よかったー、シャワーあとにして正解だった。ちゃんと掃除してあるから安心して使って」
部屋の入口のすぐ横にあるドアを開けて三春くんがシャワー室はここ。と教えてくれた。
中を覗くとすぐ横にトイレ、奥にボックスタイプのシャワー室がある。薄い水色のタイルで統一されて小奇麗な感じだ。
「掃除って自分でやるの?」
「うん! それが部屋のルール。ときどき抜き打ちチェックとかされて汚いとペナルティつけられるんだよねー」
「わーそれは気がぬけないね」
入口前で覗くだけのおれを不思議そうに三春くんが見つめる。
「入んないの?」
「はっ、入るよ! えーと・・・お邪魔、します!」
「シャンプーとか好きに使っていいよ」
「大丈夫、持参してきたから」
「用意いいね!」
「自分が使うものは自分で用意するっていうのがうちの高等部1年の学生寮のルールなんで」
「そっか。オレ、奥で勉強してるから時間気にせず使って」
「うん、ありがとう」
やっと中に入ってドアをパタンと閉める。
三春くんが先に使ってなくてよかったーーーーーー。
でも、ここで毎日三春くんがシャワー浴びてると思うとそれはそれで・・・・。
危うく想像しかけてハッと我に返る。
想像しちゃダメだ、想像しちゃダメだ。
とにかく何も考えずシャワーを浴びるんだ!!
なんとかシャワーを浴びてげっそりした顔で洗面所を出る。
なんかめちゃくちゃ疲れた。早く有吉と合流して自分の寮に帰りたい。
奥に進むと5畳半くらいの部屋が。そこにベッドと机、小さい冷蔵庫にテレビもある。
特待生部屋といってもそんなに広いわけじゃないのかと眺める。とはいっても、自分の部屋なんか同じ広さでふたり部屋だもんね。やっぱりVIP待遇だ。
ベッドの横にある机で言ってたとおり勉強してる三春くんの背中に声をかけるけど反応がない。
おそるおそる少し離れた距離で顔を覗き込むけど、まったくおれに気づかない。
すごい集中力。
この集中力が三春くんを特待生にしたのかと思うと、なんだか気軽に話しかけちゃいけない存在のように思えて・・・。ぐっと喉がしまった。
気づかれないように静かに離れて部屋を出ようとしたその時、
「鈴村!」
「三春くん」
振り返ると三春くんがきょとんとしながらこっちに寄ってくる。
「なんで黙って帰んの?」
「あーえっと、勉強の邪魔しちゃ悪いかなーっと思って。ごめん」
「そっか、オレこそごめん、気づかなくて。綾瀬が有吉連れてくるからそれまで一緒にいよう。なんか飲む?」
コーラでいい? と聞きながら三春くんがミニ冷蔵庫を開けてコーラーの缶を取っておれにくれた。
「ありがとう」
適当にテレビの前に座ってもらったコーラーをグビッと飲む。
シャワーを浴びたのと、三春くんとふたりっきりで緊張してるのもあって喉がカラカラだった。炭酸が喉越し良すぎてうまい。あっという間に飲み干す。
おれの隣に座ってる三春くんのすぐ近くになにかコルクみたいのが落ちてる。声をかけると三春くんは拾いながら、
「片方どこ行ったのかと思った」
よく見ると、
「耳栓?」
「つけてないと勉強に集中できないから」
「だからさっき声かけても反応なかったんだ。すごいね、勉強に専念するためにそこまでするなんて」
「・・・ていうか」
視線をそらして照れる三春くん。
「シャワーの音、聞いてると想像しちゃうから」
「え」
「え?」
お互い目が合ったまま沈黙が流れる。
「おれ男だよ」
「鈴村だよ」
「え?」
「だって、意識するって」
目が点になる。
なん、だと?!
意識するって言った?
三春くんが急につきあおうと言ってきたこととか、今おれたちはつきあってることになってるのとか、おれのことをどう思ってるのか、とにかく聞きたいことが頭の中で次々と浮かんでくる。
これは良いタイミングかもしれない。気になってることを聞くには今だっ。
そう思って口を開いたところで三春くんのスマホが鳴った。
スマホの画面を見るなり、
「ごめん、出ていい? エミからだ」
「全然いいよ!」
え? エミ? 女の人?!
スマホの画面を見ながら会話してる三春くんの横顔を見ながらあれこれとネガティブな妄想が膨らむ。
エミって誰? 元カノ? 小学校の時から女子に人気あったし中学でも彼女のひとりやふたりいるよね? ていうか、おれの前で電話するって・・・。
あれ? もしかしてやっぱりおれたちつきあってないってことになる? 普通、つきあってる人の前で元カノと電話したりしないよね?
「つきあう」ってどこかにつきあうって意味だった???
どんどんネガティブ沼にのまれていると三春くんに肩をトントンされる。
「ビデオ通話でごめんだけど、うちの母親と妹のミコ」
「ぅえ」
急にスマホを向けられる。
画面に映ってるのは若そうな女性と抱っこされてる赤ちゃんだ。
「こんばんはー! 豪と仲良くしてくれてありがとー! 全寮制の学校に行くとかいうからちゃんとやっていけるのか心配だったのー。豪はちゃんとやれてますぅ? 自分でパンツ洗えてますぅ?」
甲高い声でめちゃくちゃ喋る。スマホの前で戸惑うおれに気にせず次々と話しかけてくる。
「エミ、喋りすぎ。鈴村が困ってる」
三春くんがストップをかけた。
「あ、ごっめーん! ついつい」
茶目っ気たっぷりに舌を出す。
「もう切っていい?」
「えーもう? なかなか豪から電話してこないからこっちから電話してやったのに」
「ラインしてんじゃん」
「ミコだってお兄ちゃんのお顔みたいでちゅよね~」
「ミコ寝てるんだから起こすなよ」
まったくツッコミができないほど繰り広げられる親子?の会話を横で呆然と見つめる。
ショートボブに茶髪の、どうみても20代後半女性に見えるエミさんという人は確かに目元が三春くんにそっくりだ。
赤ちゃんのほうはさっきから寝てて似てるかどうか全然わかんない。抱っこの仕方からしてまだ首も座ってない新生児な気がする。
観察してたらビデオ通話が終わった。
はーーーー、と深いため息をつく三春くん。
「あいつほんと喋りすぎ」
本当に実の母親なのかと疑いたくなる三春くんの態度だけど目元だけじゃなくて雰囲気も似てたし、あのスピードについていける三春くんはまぎれもなく息子だ。
「おばさんの話はよくしてくれたけど、会ったのは初めてだ。なんかごめん、ちゃんと自己紹介できなくて」
自分で言っておいて今更後悔が。
ヤバイ、親に見えない外見と弾丸トークで気負いしちゃったけど、三春くんのお母さんだったんだ! あいさつどころか全然喋れてないし。印象悪かったかも。
「全然平気。エミにも鈴村の話よくしてたから初めて会ったとか多分思ってないと思う」
「でも、おばさんてたしかあいさつとかマナーとかに厳しいって言ってたよね」
「・・・・。大丈夫大丈夫、あれはどうみても鈴村が困ってるの楽しんでる態度だったから」
「え」
それを聞いて地味にショック。
「鈴村が常識ある奴だってオレがさんざん話してる内容で理解してるから安心して」
ニカッと笑う三春くんだけど、ちょっと複雑。
でも、三春くんがおばさんにおれの話をよくしてくれていたことを知れたのはめちゃくちゃ嬉しい。
「おばさんのこと名前で呼んでるんだね。てっきり元カノかと・・・」
うっかり口を滑らせてぐっと口をつぐむ。
「それ聞いたらエミ、すげー喜ぶよ。まだ10代を騙せるって」
「ぅえ。あ、でも、おばさん若く見えるよ」
「若作りに余念がないから。実際、まだ30代し」
「若いね」
「19でオレ産んでるから」
「え、早っ」
「エミ、再婚したんだ。ミコはその再婚相手の子供。まだ生後2か月だから全寮制の学校行くのちょっと心配だったんだけど、貴広(たかひろ)さんがちょーど日本に戻ってきてくれたから安心してる。ばーちゃんとじーちゃんもふたりめの孫だとか言って喜んで世話しに来てるみたいだし」
さらっと喋ってるけど、情報がハンパない。
再婚? おれが小学校の頃に聞いたときは未婚って言ってませんでした? ミコちゃんやっぱりまだ新生児だった!! 貴広さんて三春くんでいうと義理父ってこと??
「ごめん、オレ一気にしゃべりすぎた。鈴村の顔にすげーどうゆうこと??て書いてある」
「ぅえ、そんな顔してる??」
「してるしてる」
ケラケラ笑う三春くん。
「あ!再婚て言ったけど本当ははじめて結婚した。オレの親父がさーオレが産まれたときまだ大学生で周りに反対されて就職するまで結婚しなかったんだけど、せっかく塾の講師になって結婚できるっていう直前で浮気したからエミがブチギレて結局未婚のまま」
呆れる三春くんに同感しかない。
複雑な事情があるんだろうとは思ってたけど・・・なんていうか。
「貴広さんて今のお義父さん?」
話題を変えてみる。
「うん、オレが小6の頃にエミに紹介されてすぐに結婚した」
「小6?! 全然知らなかった」
「誰にも言ってなかったから。苗字も面倒くさいとかいってエミが変えなかったし。それに、貴広さんの仕事が橋作りで1年のほとんどが海外だから」
「だからさっき日本に戻ってきてるって言ったんだ」
「うん、エミがラインしろってうるさいからしてるけど、オレも今まで数えるくらいしか会ってない」
「え」
「あ、中学ん時に引っ越した。前住んでたアパートにわりと近いけど」
「そう、なんだ」
おれが三春くん会いたさに家まで行った時はもうすでに三春くんは引っ越してたってこと?!
呼び鈴鳴らしてダッシュで逃げたことを思うと、内心めちゃくちゃホッとした。
「オレの話ばっかでごめん」
「そんなことないよ。知れてよかったし、おばさんとミコちゃんに会えてよかった」
そう言うと三春くんがホッとしたように笑った。
「そういえば電話に出る前になにか言おうとしたけど、なに?」
「え」
すっかり忘れていたことを掘り返され目が点になる。
なに? と一歩も譲る気のない視線で見つめてくる三春くん。
複雑な家族話の次に聞くのはちょっと気まずいような、勢いがどこかへいってしまった後は聞きずらいような。
数秒考え、意を決して口を開く。
「おれと三春くんてつきあってる、でいいの?」
思ったより弱々しい声が出た。
三春くんの目が点になったまま動かない。
「・・・つきあってるって思ってたの、オレだけ?!」
5畳半の部屋に三春くんの声が響く。
オロオロする、おれ。
「あーあーえっと、勢いで返事しちゃったっていうか、そのあと普通に友達っていうか、その前に男同士のつきあいがおかしいとか三春くん言ってたし。そもそも好きとか言われてないし」
思ってることだいたい言ったあとに言い過ぎたかなと反省。
「なんか、ごめん」
「なんで謝んの。そっか、うん」
三春くんがくしゃっと自分の髪をかき上げる。
流れる沈黙が怖い。
やっぱり言わなきゃよかった。やっぱりつきあってるで正解だった。
体育座りする三春くんが頭を膝に乗せてこっちを向いた。
「オレ、ちゃんと鈴村のこと好きだよ」
「・・・」
「て、気づいたの最近なんだけど。ちゃんと言わなくてごめん」
照れる三春くんの顔を見ながら、胸がきゅーと苦しくなる。
おれは3年前から好きです。
言いたいのに胸がいっぱいで、泣きそうで、喉が詰まって言えなかった。
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