その婚約破棄は無効です!

ささ

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「また1位はシェリーか……」
「さすが魔法爵の娘だけあるよ」
「本当優秀よねぇ、その上見た目も美人だし……」

 早朝。始業にはまだ早いこの時間から、アストロフィーネ魔法学院の昇降口は多くの生徒で溢れかえっていた。
 今日は先日行われた中間考査の結果が貼り出される日だった。

 多くの者が喜んだり落胆したりと感情を表に出す中。学校指定ローブのフードを目深に被ったひとりの男子生徒が、感情のない目でそれを眺めている。視線の先にあるのは最高学年である4年生の結果。
 1位としてドンと大きく載るのは、ゆるく波打つ美しいブロンドを黒いリボンで一纏めにした、凛とした美少女の写真と、シェリー・ヘイゼルの文字。
 そのすぐ隣には、彼女の4分の1ほどの大きさで彼の名が書かれている。だがそれに気づく生徒はこの場にはいない。

 誰にも気づかれず歯噛みして顔を歪ませた男子生徒は、やはり誰にも気づかれないままその場をあとにしたのだった。




「素晴らしいよヘイゼルくん。君のような優秀な生徒を持って私もたーいへん鼻が高い」
「ありがとうございます」

 教授からの賛辞を受けて、頭を下げた彼女――シェリー・ヘイゼルは今日も変わらず輝いていた。類稀なる魔術の才能、そして整った容姿。授業態度は至って真面目で、友人も多く下級生からも慕われている。
 シェリーは『完璧』と称するにふさわしい人物だった。

「この前の実技試験は王立魔術師会の方々も絶賛していらっしゃった。声が掛かるのも時間の問題だろうねぇ」
「本当ですか? とても嬉しく思います」

 凛とした姿勢は崩さないままに顔を綻ばせるシェリー。表面上は上品に取り繕いながらも、心の中ではガッツポーズを決めている。

「うむ。私の教え子から王属魔術師が出るなんてまーったくもって信じられん。さすが黄金(こがね)の天才だねぇ」
「……ありがとうございます。用件がお済みなら失礼しても?」
「おお、引き止めてすまなかったね。これからも期待しておーるよ」

 もう一度頭を下げて、シェリーは職員室を出た。

「ふぅ……」

 扉を閉めた途端、強気な仮面が剥れた。
 年相応の少女に戻り嘆息する彼女には、ある秘密があった。
 その秘密がバレるのではないか、常にその恐怖に脅かされている。

(大丈夫よ。ここまでうまくやってきたんだもん。きっと、このまま――)

「浮かない顔だな」

 すぐ後ろから声がかかって、シェリーは声にならない悲鳴を上げた。
 暴れる心臓を抑えながら振り向くと、そこにいたのはよく知る青年。腕を組みながら西日の指す窓にもたれ掛かり、つまらなそうな目を向けてくるのは。

「ラッセル! なんであなたがここにいるのっ」
「いちゃ悪いのか」
「悪くないけど……」

 やや長めのアッシュブロンドにルビーのような瞳。
 美しくもどこか冷たい印象の彼は、シェリーが最も苦手とする人物――同学年のラッセル・ミルワードだ。
 シェリーにとって因縁深く、また秘密がバレる可能性が最も高いのがこの男である。
 居心地の悪い視線に耐えかねて、シェリーはさっと扉の前から身を引いた。

「職員室に用があるならどうぞ」
「ちがう、用があるのはおまえだ」

 予想外の返答に困惑する。
 ラッセルは窓から離れ数歩進む。そして背を向けたまま言った。

「大事な話がある。付いてきてくれ」
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