家に帰りたい狩りゲー転移

roos

文字の大きさ
205 / 243
6章

(2)新たな目覚め

しおりを挟む
 五百年もの間、旧人類たちは外の世界への情を断ち切ることができなかった。NoDが持ち帰る外の記録は、誕生日プレゼントのように大切で、新人類たちの生活を知るのが、彼らにとってのささやかな楽しみだった。

 記録を覗くたび、新人類たちは驚くほど駆け足で発展を遂げ続けた。

 書かれている内容は、子供の成長日記に近かったかもしれない。小さな村が里にまで成長した。ヨルドの里はドラゴン狩りの最前線と呼ばれるようになった。ついこの間生まれた少年が、立派な守護狩人になった。

 そういった話を盗み聞くのは悪いと思いつつも、旧人類たちは手を止めることができなかった。変化のない仮想世界では、天井知らずに成長する現実世界──特にヨルドの里は、あまりにも美しく見えたから。

 その幸せは唐突に終わりを迎えた。十二年前、トゥアハ派の陰謀によって暴走したミカルラが、ヨルドの里を滅ぼしたのだ。

 信じられなかった。これまで仮想世界に記録を持ち帰ってきたミカルラが、自分たちを裏切るなんて想像の埒外だった。

 ヨルドの民はヨルドのサーバーに暮らす旧人類全員の命の恩人だった。彼らが困った時には、今度は自分たちが必ず助けに行くと約束していたのだ。

 だというのに旧人類たちは、何一つ約束を果たせず、滅びゆく瞬間を人伝に聞くことしかできなかった。

 ヨルドの里が滅びたと知って、旧人類の多くが魂管理局にバックアップの消去申請を提出した。

 バックアップの消去申請は、一つとして通らなかった。魂管理局の所長は、ここで自分たちも死を選ぶのは、我々を生かしてくれたヨルドの先祖の思いを踏みにじることになると語った。浦敷博士は、鍵者が自分たちを解放するその時まで決して諦めるなと同胞を叱咤した。

 旧人類たちは絶望に打ちひしがれながらも、指導者たちの言葉を信じて耐え続ける道を選んだ。今度こそ、旧人類を守護する機会が巡ってくると信じて。

 リデルゴア暦三百七十五年の満星の月。旧暦の十一月の中旬のこと。

 ヨルドの民の祈り、そして旧人類たちの後悔で形作られた仮想世界は、唐突に終わりを迎えた。


 ・・・―――・・・


 目が覚めると、瞼を開けているのか分からぬほどの漆黒に包まれていた。まだ自分は寝ているのだろうか、と旧人類の一人は腕を持ち上げる。途端、寝ころんだ自分の背後から真っ白な光が点灯した。驚く間もなく、白い煙を上げながら目の前を覆っていたらしいガラスの蓋が自動的に開かれる。

 恐る恐る、棺のような箱の縁に手をかけて起き上がる。

「ここは……」

 駅に酷似した通路が目の前に広がっていた。通路の中央には停止したオートウォークが埃をかぶっており、一瞬、仮想世界の施設管理者が暇つぶしに停電でも起こしたのかと思った。

 しかし、それにしては施設内が傷だらけで廃墟のようだ。天井の照明はとっくの昔に寿命を終え、代わりに得体の知れないキノコが、蝋燭のような頼りない光で足元を照らしていた。
 
 ぼんやりと周囲を見渡してみると、自分が入っていたものと同じ型のポッドが左右にずらりと並んでいることに気づいた。

 そういえばこのポッドは、ずいぶん昔に見た覚えがある。それに、先ほどから気泡を飲んだように喉が苦しい気がする。

「ごほん……ゴホゴホ、ゴッホゴホッ!」

 咳ばらいをすると、風船のように肺が萎んで咳が止まらなくなった。

 苦しい。苦しい? 痛みを遮断できる仮想世界で、そのような言葉は死語じゃないか。

 目を白黒させながらひゅうひゅうと呼吸を整えていると、隣のポッドが白い煙を吐きながら開かれた。さらにその隣、またその隣と、次々にポッドが開かれていき、あっという間にすべてのポッドが開かれる。キノコの照度が低いせいで視認性が悪かったが、ポッドから現れた人間はどれもこれも五百年で見飽きた顔だった。

 不意に、自分の隣で寝ぼけ眼を擦っていた友人が、勢いよく口を押えた。
 
「うぷ、情報量が多いッ……内臓が動いてて気持ち悪いッおえっ」
「うおわ、ここで吐くなよ」

 具合の悪い友人を抱えて、生まれたての子鹿のようにポッドから這い出る。素足で冷たい床を踏みしめた時、ようやく自分の拍動を、鼓膜の奥で感じ取った。

「……嘘だろ、心臓がある」

 息をしている。脈がある。ずっしりと重い体温が肩にのしかかっている。諸行無常から解き放たれた世界では決してあり得ない質量だ。五百年以上も前に手放したっきり、恋焦がれていた命だ!

 気づけば目頭が熱くなった。どうにか涙を堪えたと安堵した途端、周囲から聞こえる啜り泣きで、あっという間に涙腺が決壊した。

「外の世界だ……」

 様々な感情がせぐり上がり、それ以上の言葉は紡げなかった。あちこちで抱き合いながら生還を喜ぶ声がする。一つ一つは囁き声にしか満たなかったが、波打つように勢いを増して、限界を迎えた興奮が一気にはちきれた。

「「「「わああああああ!」」」」

 目覚めたばかりで、ろくに声帯も動かせないはずなのに、人々からは驚くほど大きな声が上がった。踊り回る体力もなかったが、人々は誰彼構わずよろよろと抱き着いて、腕を掲げて喜びを分かち合った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...