家に帰りたい狩りゲー転移

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6章

(3)歓迎

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 旧人類が目覚めたという知らせを受けたのは、戦いを終えた翌日の朝のことだった。カーヌマとアメリアが、黄昏の塔の見学ついでにポッドの様子を見に行った時に、通路で万歳しまくる旧人類を発見したらしい。

 大盛り上がりの現場に、旧人類が会いたくて仕方なかった新人類が現れたものだから、地下施設はさらなる熱狂に包まれた。

 なんとかその場を脱出したカーヌマたちは、急いで俺たちを叩き起こして、パニックになりながら事のあらましを捲し立てた。俺とエトロが感極まってハイタッチをしたのは言うまでもない。他の狩人たちも、昨日のうちにヨルドの旧人類たちの情報を共有していたので、夏祭りを前にした子供のように興奮気味だった。

 それから約十分後。旧人類たちは、研大に連れられて黄昏の塔からぞろぞろと出てきた。ほとんどの人が強張った表情であったが、俺たちが歓迎の拍手で出迎えると、ついにボロボロと泣き出してしまった。

 ヨルドのサーバーから救助された旧人類はおよそ二百人。砂漠化のため物資は少なかったが、ドラゴン狩り最前線という立地のため、食料については事欠かない。そのため、悪ノリした狩人たちが上位ドラゴンを二、三体担いできて、盛大な宴が催される事になった。

 五百年の間何も口にしていなかった旧人類に固形物を食べさせてよいのか、と俺は不安だった。が、研大からコールドスリープだったから大丈夫というお墨付きが出たので、存分に食事が振舞われた。

 宴の最中、旧人類たちは久しぶりの食事に涙を流し、俺たちに現実世界の話をこれでもかとせがんできた。彼らの好奇心の矛先は、狩人たちの基本的な文化から、失われてしまった技術までと多岐に渡った。しかも質問に質問が重なるものだから、何度も本筋から逸れ、最終的に自分たちが何の話をしていたのか忘れてしまうほど会話は混沌と化した。

 たった一日で世界の全てを知れるわけもなく、「常識以外の知識は各自で勝手に学んでこい!」というメルクの鶴の一声によって、ひとまずその場は収まった。旧人類と狩人の両方から質問攻めに合っていた俺からすれば、メルクの機転は崇めたくなるほど非常に助かるものだった。

 歓迎会の熱気がある程度引いたあたりで、俺はこっそりと宴の席から抜け出した。そして、砂浜に大の字で寝転がる友人の隣にどっかりと胡座をかく。

「改めて、おはようさん」
「おはよう。もうすっかり夜だけどな」
「はは、それもそうだ」

 笑いながら隣にごろんと寝転がり、少し前から疑問に思っていたことを口にする。

「研大って、適応者だったんだろ? 俺の菌糸と拒絶反応を起こさなかったのか?」
「問題ないよ。鍵者の菌糸は誰とでも適応できるのが特徴だからさ」
「じゃあ、他のNoDに俺の菌糸を入れたら、鍵者を量産できたり?」
「できるよ。トゥアハ派はそれを狙って君を追い続けてるんだ。まぁ、サーバーを開けられる程度の十分な菌糸はリョーホしか持てないだろうけどな」

 思い返せば、サーバーを起動する時にモニターから菌糸を吸い出されたような覚えがある。もしあの場にいたのが失敗作の鍵者だったなら、菌糸が足りず、仮想世界に入ることすら叶わなかったのだろう。ベートたちもそれが原因で、海底遺跡まで辿り着けてもサーバー内まで届かなかったのである。

 そういう点では、浦敷博士は功労者だろう。菌糸融合の人体実験、NoDを見殺しにしたこと、レオハニーを放置していたことなど色々と苦言を呈したい部分もあるが、世界の均衡を保ち続けたのは事実なのだから。

 だが、当の本人はここにいない。

 俺は砂越しに波の音を聞きながら、研大の横顔を見つめた。

「浦敷博士とミモナ博士は、まだ?」
「うん。まだヨルドのサーバーにいるよ。ダアトの研究がゴモリーの手に渡らないように、戦争が終わるまでサーバーを凍結するらしい」
「そんなことをして大丈夫なのか?」
「あの世界では、意識も所詮はデータでしかないんだよ。言い方は悪いけれど、バックアップがあればどうにかなる」

 四季折々の変化もない永遠の仮想世界に、たった二人。しかも五感の一部を制限された環境なのだから、生身の人間なら半年で発狂してもおかしくない。研大たちが五百年も精神を保てていられたのは、バックアップという絶対の記憶装置があったおかげと言っても過言ではない。

 浦敷博士とミモナ博士の並々ならぬ覚悟に俺は言葉を失った。それから、昨日のベートの姿を思い出して危惧を口にする。

「そういえば昨日の戦闘で、ベートはダアトを使っていたぞ。不完全なダアトだったから、レオハニーさんだけで対処できていたけど……
「心配? トゥアハ派がすでに、完璧なダアトを手に入れているかもしれないって」

 無言で頷くと、研大は少々難しそうな顔で笑みを浮かべた。

「安心しなよ。奴らが完璧なダアトを手に入れたら、君を捕まえるまでもなく終末の日が訪れる。新人類が滅びていないってことは、まだ時間が残されてるってことだ」

 それは確かにそうなのだろう。レオハニーも、トゥアハ派は完璧なダアトを持っていないと確信している様子だった。しかし、それも俺たちを油断させる罠だったら、という不安を捨てきれないのだ。

 そんな俺の思考を読み取ったかのように、研大は続けた。

「ダアトを完璧に仕上げられるのはシモン博士だけだ。浦敷博士は研究を手伝っただけで、実際にダアトを作り出したのは彼だけだから」
「シモン博士……」

 名前を口の中で転がしてみると、別れ際の浦敷博士の言葉が蘇ってきた。

『シモンは研究を途中で投げ出すような人間じゃない』

『彼を助けられるのは君しかいない。旧人類の中で初めて、NoDとして目覚めた君以外には』

 レオハニーに対して力説する浦敷博士は、まるでシモン博士の生存を信じているようにも見えた。

 シモン博士はすでに亡くなっている。他ならぬ、彼のそばにずっといたレオハニーがそう言っているのだ。しかし、死後NoDの身体に入れられたレオハニーのように、シモン博士も何らかの形で生きながらえていたとしたら。

「シモン博士は、まだ現実世界で生きているんだな?」

 半ば問い詰めるように言えば、研大は苦々しい面持ちで緩慢に頷いた。

「ああ。今もどこかで終末の日を止めようと研究をしているはずだ。どこにいるかまでは、俺たちにも知らされてないけど」
「自力で探すしかないってことか」

 この五百年の間、トゥアハ派から完全に隠れ仰せた人物を探し出すのは至難である。シュレイブに聞いた話だと、カミケンはデッドハウンドという諜報機関と繋がりがあるらしいので、依頼してみても良いかもしれない。

「はぁー、まだまだやることは山積みだな」

 組んだ手のひらを枕代わりにしながら、ぼんやりと空を見上げる。

 まずは、ミカルラの記憶本をハウラに渡してやらねば。そして浦敷博士から預けられたワクチンを持って、テララギのサーバーを解放する。そこでリバースロンドにあるもう一つのサーバーと連絡を取り、中央都市のサーバーを陥落させるよう、協力してもらわなければ。

 手足をもぐようにトゥアハ派の計画を阻止し終えたら、全ての元凶であるゴモリー・リデルゴアを止める。それでようやく、現実世界は予言書から解放されるのだ。

 ドミラスの日記では、マガツヒの出現や北方の戦線崩壊などが示唆されていたが、原因が分からないため関わりようがない。その辺りは流れに任せるしかなさそうだ。

 俺は頬を膨らませて息を吐くと、くるりと研大に向き直った。

「お前たちはどうするんだ? エラムラの里なら二百人ぐらい受け入れてくれると思うけど」
「いや、ヨルドの里を復興させようと思う」
「えっ!? でもお前、ここはドラゴン狩りの最前線だぞ!?」
「まさか、俺が戦えないと思ってる?」

 思うに決まっているだろう、と、元建築士の男を凝視する。しかし研大は尊大な笑みを浮かべると、起き上がりながら右手を厨二病のように持ち上げた。

 すると、研大の指先に見覚えのある『紅炎』が灯り、彼の顔を悪魔的に照らし出した。

「俺もリョーホの菌糸能力を使えるようになったし、他の旧人類だってそうだ。ウチには元軍人の人もいるし、五百年前に、適合者と一緒に生身でドラゴンを仕留めた猛者だっているぞ。お前が心配するほど俺たちは弱くない」
「こわぁ……」

 てっきり適合者たちに守られているだけだと思っていたため、語られた内容に俺は縮み上がった。菌糸能力なしでドラゴンに立ち向かうなんてどうかしている。高冠樹海で目覚めたばかりの俺は逃げ回ることしかできなかったというのに。

 研大はふっと『紅炎』を吹き消すと、腕を伸ばして大きく伸びをした。

「それにさ、俺たちの自我データには、ヨルドの里の景色も残ってるんだ。ミカルラとニヴィが集めてくれたデータだよ」

 俺は一瞬固まって、ニヴィの記憶の中で見た鮮やかなヨルドの里を思い出した。

「なら、ヨルドの里を丸ごと再現できるってことか?」
「再現するつもりはないよ。それでは過去のやり直しになってしまうからね。でも、エトロちゃんが昔の面影を感じられるような建物があった方がいいとは思う」

 さっぱりとした物言いだったが、俺の胸に熱いものが込み上げてくる。

「……手伝ってくれるのか、あいつの里の復興」
「喜んで手伝うよ。あわよくば、俺を新生ヨルドの里の住人1号にして欲しいな!」
「俺とエトロを押し除けて1号取るのかよ!」
「あはは!」

 しょうもない冗談に笑いながら、俺はほんの少し身軽な気持ちになった。

 前にエトロと復興について話し合った時は、戦争が終わってからという前提で予定を決めている節があった。もし復興に着手するなら、戦いに参加できない、させたくないという一種の強迫観念もあったかもしれない。

 俺たちには時間も人手も足りなかった。エトロも故郷の景色が曖昧で、里を再興できるのかという不安をよく口にしていた。

 だから、ヨルドの里を愛し、覚えていた研大からの申し出はたまらなく嬉しかった。

「……エトロなら絶対に喜んでくれる。ありがとな」
「はは、どーいたしまして」

 研大は鼻下を擦りながら笑うと、ふと思い出したように俺の方へ身を乗り出した。

「それで、エトロちゃんとはどこまで行った?」
「ん!?」
「付き合ってるんだろ? 隠さなくてもいいじゃないか。キスぐらいはしたんだよね?」
「う、うっせぇばーか!」

 しゅば! と勢いよく砂浜から起き上がり、俺は賑やかな焚き火の方へと遁走する。手を繋いだり、ハグしたりといったスキンシップはあれど、額や頬にキスをするのが限界だと知られたら、どんな揶揄われ方をするか判ったものではない。戦略的撤退だ。

 研大はそれを唖然と見送ったあと、苦笑しながらまた寝転んだ。

「奥手なところまで良甫にそっくりだなぁ」

 声を殺すように笑ったあと、研大は菌糸模様の浮かんだ右手を空へ向けた。細やかに絡み合った菌糸模様は、研大が最初に適合した風属性の菌糸と調和しており、ドラゴン化の兆候は全く見られない。

「あと一つで、リョーホの菌糸属性が揃う……」

 研大は手のひらを握りしめ、黒い瞳に力強い光を宿した。

「シンビオプロジェクトの第三段階。絶対に成功させるよ、良甫」
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