家に帰りたい狩りゲー転移

roos

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6章

(4)再興

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「オーライ、オーライ!」

 真っ白な砂浜の上で、石材運搬を誘導する旧人類たちの声が響き渡る。戦闘の痕跡が消え、真っ新に整地されたヨルドの里跡地。そこでは、新たな施設が建設されようとしていた。

 菌糸能力を駆使して建物が完成するたびに、その周辺で楽しそうな歓声が上がる。彼らを遠目に見守っていると、保護していた瀕死の子猫が元気に跳ねまわっているのを眺めているような気持ちになった。

 俺は手で庇を作りながら、隣で休憩しているアンリに感想を漏らした。
 
「なんか、想像していたよりも近未来な里になりそうでビビる」
「仮設住宅って本人たちは言ってるけど、一生暮らせそうな見た目してるよね」
「あれでまだ序の口らしいぞ」

 と、俺が指差したタイミングで、ごごごご、と地響きが鳴る。視線をそちらへ向ければ、ついさっき完成したばかりの仮設住宅が、階段を組み上げながら縦一列に合体していくところだった。狩人たちが唖然と見上げている間に、それは五階建てのアパートとなって砂浜のど真ん中に鎮座した。

 『砂紋』で土台を作ってあるとはいえ、これほど大きな住宅を建てるとは流石に予想外である。建築系の菌糸能力を行使していた研大は、まだまだ特大建築をする気満々のようで、新たな土地へスキップしながら向かっていった。

 と、その途中で研大は足を止めて、くるりと俺の方へ振り返る。

「リョーホ! もっかい手伝ってくれ!」
「ほら、呼ばれてるよ」
「うーい」

 アンリに促され、俺はのっそりと腰を上げた。こちとら、ついさっき『砂紋』で汗だくになるまでこき使われたばかりなのだ。本音を言えばあと五分休憩したかった。

 が、エトロも見ている前で弱音を吐いていられない。俺は勇足で新たな戦場へと赴いた。

「今度はもっと大き目な家建てるからさ、あそこの岩場まで一気に『砂紋』で整地してくれよ」
「おう」

 研大がご所望の土地は、ざっと見てビルのワンフロア分はあった。人力で整地するとなると途方もない面積だ。

「すぅ……」

 深呼吸し、某錬金術師のように砂浜に両手をついて菌糸能力を発動する。『砂紋』は砂を操れるだけでなく、押し固めて丈夫な壁や床へ変形させることができる。今回はそれを応用して、砂浜の底にある岩盤までがっちりと砂を固形化させる。後でその上から基礎部分をねじ込めば、頑丈な土台の完成だ。
 
 土台や建物の材料となるのは、崖や海底から採れる石材だ。本当は木材を使いたかったのだが、ディアノックスの大規模な捕食のせいで、ヨルドの里近辺は圧倒的に木材が不足している。ネガモグラが高冠樹海に帰ってくるまでは、急拵えの石材で我慢するしかなかった。

 石材の採掘作業は、旧人類たちの手によって進められた。俺の菌糸と適合した旧人類の中には『砂紋』の制御に特化した人が二十名ほど。しかも屈強な男たちばかりだ。

 採掘組がふらりとどこかに消えれば、海岸や枯れた川の上流から、巨大な石が次々と運び出されてくる。本当に五百年間寝たきりだったのか疑いたくなる仕事の速さだった。

 一方、力仕事に不慣れな旧人類たちは、メルクたちと世間話をしながら日用品の製作をしていた。貝殻から洗浄剤を作り出したり、海藻やドラゴンの皮をほぐして糸を作ったりと、ザ・サバイバル生活を謳歌している。

 そんな賑やかな砂浜の外れで、俺は数分かけてようやく整地を終えた。緩やかな高低差があった砂は全て真っ平らになった。試しに上でにじったり飛んでみたりしても、足跡が残らないほど頑丈である。

「はぁーつっかれた! もう無理!」
 
 俺は大声を上げながら、まだ整地されていない砂浜へ勢いよくダイブした。日差しも弱まったこの季節なら、砂はほどよく暖かくて昼寝に最適である。『砂紋』で適当な屋根を作りながら仰向けになると、視界の端で研大が上機嫌に俺を労った。

「お疲れ。後は任せろ」

 そして研大は、予め運び込まれていた石材の山へと近づいていった。

 研大の菌糸能力は『念力』。ヤツカバネ戦でお世話になった建築士たちと同じ能力だ。熟練のものならば道具を使わず『念力』だけで鉄を捻じ曲げることもできるらしい。使い方次第では戦闘にも応用できるが、発動には時間が掛かるので器用貧乏感は否めない。

「むん!」

 研大はぐっと両足を広げ、両手でダンベルを持ち上げるように踏ん張った。その約五秒後、およそ五百年の鬱憤を晴らすかの如く、『念力』が繊細かつ大胆に石材の山を持ち上げていった。

 石材のサイズは、予め作図した設計図の通りに切り出されており、部品ごとに染料のマークが付けられている。

 研大は設計図が丸ごと頭の中に入っているようで、迷いない手つきで部品を組み上げていった。

 やがて完成したのは、ゴシック様式風のずっしりとした四階建ての洋館だった。使用した石材が珊瑚の色を移したようにカラフルなため、ゴツい輪郭に反してポップな印象を与えてくる。

「すげぇ」
「素材が足りないから掘立て小屋しか作れないけど、木材がもっとあればお城だって作れるぞ」

 これを掘立て小屋呼ばわりとは恐れ入る。俺は唖然としながら起き上がり、背中の砂を払うのも忘れて研大を凝視した。

「ここをテーマパークにする気か?」
「あ、ジェットコースター作りたい!」
「やべ、余計な事言った」

 そのタイミングで、製糸組にいたアメリアから声をかけられた。
 
「ケンタさん! リョーホ! お昼ご飯食べましょー!」
「分かったー!」

 返事をしながら、細かいところを修正しようとする研大の脇腹を小突く。しぶしぶ作業を止めた研大を連れて、俺たちは即席で作られた石畳のオープンキッチンへと向かった。

 厨房では、バルド村の食堂を切り盛りしていた店員や商人たちが鼻息荒く食材を捌いている。店員は長い間まともな厨房に立てなかったから大興奮で、商人は素材の余りから採れる川や骨で高速勘定しているのだろう。

 オープンキッチンの周辺には、余った石材で拵えたテーブル席が並んでいる。数が限られており、グループごとに休憩時間をずらして対応しているようだ。今も追加のテーブル席を用意するべく、手の空いている男性陣が日曜大工をしていた。

 俺たちはカウンターでパエリアと海鮮スープを受け取り、適当な席に腰掛けた。
 
「すっかり馴染んでるな」
「色々と寛容なバルド村の人たちだからかもな。他の里だったら、そう簡単に受け入れてもらえなかったと思うよ」
「確かに。ミヴァリアだったら真っ先に武器を突きつけられそうだ」

「──俺から言わせれば、お前たちの警戒心が薄すぎる」
「うおっ」

 ふと背後からクライヴに声をかけられ、俺は座ったまま飛び跳ねた。一方で、向かいの席にいた研大は平然と挨拶を交わした。

「お疲れさん、クライヴ。カミケン様への報告は終わった?」
「連絡用の渡り花ならさっき飛ばしたばかりだ。二時間もすれば返信が来るだろう。それより……」

 クライヴはベンチを跨ぐようにして俺の隣に座ると、右手に持っていた土色の渡り花をテーブルに広げた。

「先ほど、中央都市にいるオーディというものから、お前宛に連絡があった。読め」

 滑るように差し出された渡り花を受け取り、そこに書かれた文字を拾う。二行目に差し掛かったあたりで、俺は自分の目を疑った。

「中央都市が……壊滅状態……?」
「市民が人っ子一人いない上、死体もない。だが、市場の食べ物は腐ったまま放置されていたそうだ。何日も前に、いきなり人が消えたみたいだったと」

 クライヴが研大に向けて内容を要約する。研大は蒼白になって、テーブルに爪を立てながら視線を鋭くした。

「市民の行方は?」
「まだ調査中らしい。憲兵が都市内を練り歩いて、人間を見つけたらどこかに連行しているのだけははっきりしている」
「その様子じゃ、追跡は上手くいかなかったらしいな」
「みたいだな。撒かれているのか、追いかけた仲間が帰ってこないのか」

 不穏なクライヴの推測に、研大は悔しげにテーブルの模様を睨みつける。

 渡り花の文章は、中央都市には絶対に近づくな、という忠告で締め括られていた。

 俺は小さく溜息を吐くと、渡り花を丁寧に折り畳んだ。

「心配だな」
「オーディと言えば、中央都市のスタンピードで上位ドラゴンを三タテした実力者だろう。奴の仲間たちも熟練の狩人ばかりだ。憲兵隊が相手だろうと遅れは取らないだろう」
「よく知ってるんだな」
「以前、ミヴァリアの狩人にならないかと打診した。一つの土地に留まるつもりはないとすげなく断られたが」

 そういえば、ミヴァリアは金で狩人を雇うような里だったことを思い出す。オーディほどの実力者を雇うなら、かなりの大金を積んだに違いない。

 クライヴは当時のことを思い出したのか、若干遠い目をした。次いで思考を切り替えるように一つ咳払いを挟む。

「それから、ミヴァリアで雇っているデッドハウンドからの触れ込みだ。ノースマフィアの縄張りに、新参者の犯罪者集団が入り込んで小競り合いが頻発している。その集団の中に、白い人面ドラゴンを操る者がいたそうだ」
「確かなのか?」
「情報屋が嘘をついてどうする」

 ごもっともな言い分に俺は苦笑し、パエリアを一口食べてから思考を巡らせた。

「白い人面ドラゴン──ネフィリムを操れるのは、今の所トゥアハ派だけだ。それとドミラスの日記には、ノースマフィアと機械仕掛けの世界が戦争をしていたとも書かれていた」
「なら、この小競り合いは、北方戦争の予兆だと言いたいのか?」
「俺の勘になるけどな」

 俺は渋面になりながら、クライヴの眉間の辺りを見つめた。

 北方戦争。
それはかつて、最初に終末の日を迎えた世界で起きた戦争の名前だった。
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