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異常事態発生!
蒲島の忠告
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そして結局、
「俺が東を護る。お前は西だ」
「そう言う話ならやりましょう」
興俄の言葉に初めて鷲が頷いた。
「逐一、俺に報告しろ。今回は勝手な真似はさせん」
「僕はいつだって勝手な真似なんてしていません。貴方がそう思っただけでしょう。冬華、行こう」
鷲が冬華の手を引き、歩き始める。
「おい、冬華はこっちだ」興俄が声をあげる。
「あんたには力があるんだろ。こっちは誰も持っていないんだぞ」
鷲に続いた御堂が叫ぶと、
「私は鷲くんと行く。先輩は記憶を改ざんした人たちをうまく使えば何とかなるでしょ」
冬華は冷たく言い放って、鷲と手を繋いだまま歩き出した。
「奇襲攻撃はスピードが大切なんだ。あの人はそれが分からない。蒲島さん、僕はバイクで行くので、他のみんなをよろしくお願いします。車の運転を頼みましたよ」
「え? 俺が車出すの? 俺もこっちなの?」
輪の中にいた蒲島が、きょとんとした顔で鷲を見る。
「他に誰がいるんですか。早く行きますよ」
鷲に促され、蒲島も彼らに続いた。
「それで西って言っても、これからどこに行くんだよ」
蒲島が聞くと、
「まずは本州の西、山口県下関市へ行こうと思います」
「おい、壇之浦へ行くのか?」
御堂が目を丸くする。
「ああ、山口は岩国基地もあるし、自衛隊の施設もある。僕ができることは何もないと思う。けれど、様子を見ながら中国地方、四国、近畿、中部と戻って来ようと思うんだ。だから蒲島さんも、僕たちと一緒に行動しましょう」
「いや、俺はお前達を下関で降ろしたら、九州へ行く。今、日本全国の通信インフラが壊滅的な状況になっているからな。会社からも、様子を見てくるように言われているんだ」
そう言えば、以前もらった名刺に通信関係の仕事をしていて、全国に支店があると書いてあった。蒲島は続ける。
「それに、前に話した仲間たちとも落ち合う約束をしているんだ。もともと、あの人がよからぬことを企んでいるだろうって、集まるつもりだった。俺達独自で連絡できる通信体系を確立しているからな、携帯が不通でも連絡できるんだよ。みんなで暴れている奴らを押えてくる。沖縄は米軍基地が多数あるし、自衛隊と海上保安庁に任せた方が良いだろうな」
「ええ、そうでしょうね。じゃあ、九州を宜しくお願いします」
「まぁ、一緒に行動しても、お前ばっかり美味しいところを持って行くだろうし」
「え? そんなつもりはないんですけど」
「いいか、壇之浦が終わっても九州には誰も来るな。絶対に邪魔するなよ。誰も来させるな」
強い口調で蒲島が言うと、
「なんだか言い方に棘がありますね」
鷲が肩を竦める。
「覚えがあるだろう」
蒲島がぶっきらぼうに言い放った。
『元暦二年(1185)三月大九日壬辰 三河守自西海被献状云 就爲平家之在所近々 相搆着豊後國之處 民庶悉逃亡之間 兵粮依無其術 和田太郎兄弟 大多和二郎 工藤一臈以下侍數輩 推而欲歸參之間 抂抑留之 相伴渡海畢 猶可被加御旨歟 次熊野別當湛増依廷尉引汲 承追討使 去比渡讃岐國 今又可入九國之由 有其聞 四國事者 義經奉之 九州事者 範頼奉之處 更又被抽如然之輩者 匪啻失身之面目 已似無他之勇士 人之所思 尤
吾妻鏡 第四巻より』
三河守(範頼)が九州から頼朝に手紙を寄越した。『平家の所在が近いと思い(豊後)大分県へ来てみたら、庶民が逃げたので兵糧米がありません。和田太郎兄弟や大多和二郎、工藤一臈を始めとする侍達は、言う事を聞かず帰ろうとします。私が押し留めて伴に海を渡ってきました。一層の命令を出してください。それと、廷尉(義経)に加勢した熊野別當湛増が、今度は九州へ来ると聞きました。四国への進駐は義経で九州への進駐は範頼ですよね。こちらへ更にそのような人間が来れば、私は面子を失います。勇士がいないと人から思われてしまいます』と言うような内容だった。
「それにしても鷲くん、バイクの免許を持ってたんだ」
「うん、16歳になった時に取ったんだよ」
「かっこいいね。バイクの黒い色が鷲くんにぴったり」
「一目見て気に入ったんだ。オフロードだから山道とか自在に動けて楽しいよ。人間とバイクが一体となってさ、道なき道を走り抜けるって最高だよ」
二人は楽しそうに会話を始める。
「運転、気を付けてね」
「本当は冬華をバイクの後ろに乗せていきたいんだけど、免許を取ってまだ一年経ってないからさ。今度、乗せてあげる」
「ほんと? 楽しみにしてる」
鷲と冬華は笑顔で見つめあった。
「いつもながら躊躇なく先陣を切るよな。だいたい、バイクの二人乗りより、背負っているアレの方が物騒で危ないだろ。見つかったらどうするんだよ。銃刀法違反もいいとこだろ。あーあ、でも結局俺はついて行くしかないんだろうなぁ」
ぶつぶつと御堂が言うと、
「まぁまぁ、たっくんには私がいるでしょ」
ゆかりんが宥める。御堂は「ああ、そうだな」とにやけた。
「なんだよ、この光景は……」
いちゃついている高校生4人を見て、納得のいかない顔で蒲島は乱暴に車のドアを開けた。助手席には御堂が、後部座席に冬華とゆかりんが乗り込んだ。
「おじいちゃんちにあった冬華の荷物、持ってきてあげたよ。持ってたのは、たっくんだけど」
ほら、と御堂がリュックを一つ冬華に渡す。
「ありがとう。助かる。着替えもないから、どうしようって思ってたんだ」
「ああ、そうだ。何かあったこれを使え」
蒲島は鷲に携帯電話のようなものを差し出した。
「これは?」
「衛星携帯電話だよ。基地局が破壊されていても、これなら通話できる。どうせお前は一人で行動するだろ、御堂にも一台渡しておくよ。俺も持っているから何かあったら連絡しろ」
「ありがとうございます。じゃあ後で」
鷲は携帯を受け取り蒲島に短く礼を言うと、バイクに跨りヘルメットをかぶった。エンジンをかけ、颯爽と去って行く。
「あいつ、さっさと行きやがって。さてと、俺達も行くか」
蒲島が運転席に乗り込むと、『お願いします』と車内から元気な声がする。
「朋渚、俺達は? 俺達も椎葉と一緒でしょ。行こうよ」
賢哉が不思議そうな顔でともちゃんに聞いた。
「私達はこっちなの」
「何で?」
「どうしてもなの。あまり深く考えないで。賢哉は何も見ない。何も聞かない。何も考えないの。分かった?」
ぶっきらぼうに、ともちゃんは答えた。
「なんだよ、それ。あ、分かった。北川先生に借りがあるんだな。日本史のテストが悪かったとか。そうなんだろ」
賢哉はにやりと笑った。
「そ、そうよ。日本史の期末テストで、かなりオマケしてもらったの。日本史が一番の頼みだったのに、点数が悪かったのよ。点数をオマケしてくれる代わりに、夏休みは先生の手伝いをするって約束したの。バイト代も出すって言われたし」
「なるほど。それで、夏休み中にこうやって借り出されていたのか。でもさ、どうして生徒会長の神冷先輩がここにいるんだ? 他の人達は誰だよ。大人が沢山いるじゃないか」
彼は、周囲にいる男達を不思議そうに眺める。
「だから、あまり深く考えないで! 私の傍も離れないこと。他の人とも喋らないで! 誰も見ないで!」
賢哉が誰かと話をして覚醒されたら困ると思ったともちゃんは、大声をあげる。
「え? なんでそんなにキレてるの? 俺、何かした?」
「いいから黙って!」
理不尽に怒鳴られて、賢哉の頭上にはいくつもの疑問符が並んだ。
「とりあえず作戦を立てるぞ。ついて来い」
興俄は校舎の中に戻って行く。その場に居た人間達は彼の後に続いた。賢哉もついて行こうとするが、ともちゃんに止められた。
「賢哉は私とここにいて。あの人たちとは関係ないから」
「え? 俺たちはこっちなんだろ。どういうこと? それに外に居たら暑いじゃん。中にはエアコンもあるんだろう? 行こうよ」
「じゃあ、私の部屋で冷たいものでも飲もう」
そう言って、ともちゃんは賢哉の手を引いた。
「俺が東を護る。お前は西だ」
「そう言う話ならやりましょう」
興俄の言葉に初めて鷲が頷いた。
「逐一、俺に報告しろ。今回は勝手な真似はさせん」
「僕はいつだって勝手な真似なんてしていません。貴方がそう思っただけでしょう。冬華、行こう」
鷲が冬華の手を引き、歩き始める。
「おい、冬華はこっちだ」興俄が声をあげる。
「あんたには力があるんだろ。こっちは誰も持っていないんだぞ」
鷲に続いた御堂が叫ぶと、
「私は鷲くんと行く。先輩は記憶を改ざんした人たちをうまく使えば何とかなるでしょ」
冬華は冷たく言い放って、鷲と手を繋いだまま歩き出した。
「奇襲攻撃はスピードが大切なんだ。あの人はそれが分からない。蒲島さん、僕はバイクで行くので、他のみんなをよろしくお願いします。車の運転を頼みましたよ」
「え? 俺が車出すの? 俺もこっちなの?」
輪の中にいた蒲島が、きょとんとした顔で鷲を見る。
「他に誰がいるんですか。早く行きますよ」
鷲に促され、蒲島も彼らに続いた。
「それで西って言っても、これからどこに行くんだよ」
蒲島が聞くと、
「まずは本州の西、山口県下関市へ行こうと思います」
「おい、壇之浦へ行くのか?」
御堂が目を丸くする。
「ああ、山口は岩国基地もあるし、自衛隊の施設もある。僕ができることは何もないと思う。けれど、様子を見ながら中国地方、四国、近畿、中部と戻って来ようと思うんだ。だから蒲島さんも、僕たちと一緒に行動しましょう」
「いや、俺はお前達を下関で降ろしたら、九州へ行く。今、日本全国の通信インフラが壊滅的な状況になっているからな。会社からも、様子を見てくるように言われているんだ」
そう言えば、以前もらった名刺に通信関係の仕事をしていて、全国に支店があると書いてあった。蒲島は続ける。
「それに、前に話した仲間たちとも落ち合う約束をしているんだ。もともと、あの人がよからぬことを企んでいるだろうって、集まるつもりだった。俺達独自で連絡できる通信体系を確立しているからな、携帯が不通でも連絡できるんだよ。みんなで暴れている奴らを押えてくる。沖縄は米軍基地が多数あるし、自衛隊と海上保安庁に任せた方が良いだろうな」
「ええ、そうでしょうね。じゃあ、九州を宜しくお願いします」
「まぁ、一緒に行動しても、お前ばっかり美味しいところを持って行くだろうし」
「え? そんなつもりはないんですけど」
「いいか、壇之浦が終わっても九州には誰も来るな。絶対に邪魔するなよ。誰も来させるな」
強い口調で蒲島が言うと、
「なんだか言い方に棘がありますね」
鷲が肩を竦める。
「覚えがあるだろう」
蒲島がぶっきらぼうに言い放った。
『元暦二年(1185)三月大九日壬辰 三河守自西海被献状云 就爲平家之在所近々 相搆着豊後國之處 民庶悉逃亡之間 兵粮依無其術 和田太郎兄弟 大多和二郎 工藤一臈以下侍數輩 推而欲歸參之間 抂抑留之 相伴渡海畢 猶可被加御旨歟 次熊野別當湛増依廷尉引汲 承追討使 去比渡讃岐國 今又可入九國之由 有其聞 四國事者 義經奉之 九州事者 範頼奉之處 更又被抽如然之輩者 匪啻失身之面目 已似無他之勇士 人之所思 尤
吾妻鏡 第四巻より』
三河守(範頼)が九州から頼朝に手紙を寄越した。『平家の所在が近いと思い(豊後)大分県へ来てみたら、庶民が逃げたので兵糧米がありません。和田太郎兄弟や大多和二郎、工藤一臈を始めとする侍達は、言う事を聞かず帰ろうとします。私が押し留めて伴に海を渡ってきました。一層の命令を出してください。それと、廷尉(義経)に加勢した熊野別當湛増が、今度は九州へ来ると聞きました。四国への進駐は義経で九州への進駐は範頼ですよね。こちらへ更にそのような人間が来れば、私は面子を失います。勇士がいないと人から思われてしまいます』と言うような内容だった。
「それにしても鷲くん、バイクの免許を持ってたんだ」
「うん、16歳になった時に取ったんだよ」
「かっこいいね。バイクの黒い色が鷲くんにぴったり」
「一目見て気に入ったんだ。オフロードだから山道とか自在に動けて楽しいよ。人間とバイクが一体となってさ、道なき道を走り抜けるって最高だよ」
二人は楽しそうに会話を始める。
「運転、気を付けてね」
「本当は冬華をバイクの後ろに乗せていきたいんだけど、免許を取ってまだ一年経ってないからさ。今度、乗せてあげる」
「ほんと? 楽しみにしてる」
鷲と冬華は笑顔で見つめあった。
「いつもながら躊躇なく先陣を切るよな。だいたい、バイクの二人乗りより、背負っているアレの方が物騒で危ないだろ。見つかったらどうするんだよ。銃刀法違反もいいとこだろ。あーあ、でも結局俺はついて行くしかないんだろうなぁ」
ぶつぶつと御堂が言うと、
「まぁまぁ、たっくんには私がいるでしょ」
ゆかりんが宥める。御堂は「ああ、そうだな」とにやけた。
「なんだよ、この光景は……」
いちゃついている高校生4人を見て、納得のいかない顔で蒲島は乱暴に車のドアを開けた。助手席には御堂が、後部座席に冬華とゆかりんが乗り込んだ。
「おじいちゃんちにあった冬華の荷物、持ってきてあげたよ。持ってたのは、たっくんだけど」
ほら、と御堂がリュックを一つ冬華に渡す。
「ありがとう。助かる。着替えもないから、どうしようって思ってたんだ」
「ああ、そうだ。何かあったこれを使え」
蒲島は鷲に携帯電話のようなものを差し出した。
「これは?」
「衛星携帯電話だよ。基地局が破壊されていても、これなら通話できる。どうせお前は一人で行動するだろ、御堂にも一台渡しておくよ。俺も持っているから何かあったら連絡しろ」
「ありがとうございます。じゃあ後で」
鷲は携帯を受け取り蒲島に短く礼を言うと、バイクに跨りヘルメットをかぶった。エンジンをかけ、颯爽と去って行く。
「あいつ、さっさと行きやがって。さてと、俺達も行くか」
蒲島が運転席に乗り込むと、『お願いします』と車内から元気な声がする。
「朋渚、俺達は? 俺達も椎葉と一緒でしょ。行こうよ」
賢哉が不思議そうな顔でともちゃんに聞いた。
「私達はこっちなの」
「何で?」
「どうしてもなの。あまり深く考えないで。賢哉は何も見ない。何も聞かない。何も考えないの。分かった?」
ぶっきらぼうに、ともちゃんは答えた。
「なんだよ、それ。あ、分かった。北川先生に借りがあるんだな。日本史のテストが悪かったとか。そうなんだろ」
賢哉はにやりと笑った。
「そ、そうよ。日本史の期末テストで、かなりオマケしてもらったの。日本史が一番の頼みだったのに、点数が悪かったのよ。点数をオマケしてくれる代わりに、夏休みは先生の手伝いをするって約束したの。バイト代も出すって言われたし」
「なるほど。それで、夏休み中にこうやって借り出されていたのか。でもさ、どうして生徒会長の神冷先輩がここにいるんだ? 他の人達は誰だよ。大人が沢山いるじゃないか」
彼は、周囲にいる男達を不思議そうに眺める。
「だから、あまり深く考えないで! 私の傍も離れないこと。他の人とも喋らないで! 誰も見ないで!」
賢哉が誰かと話をして覚醒されたら困ると思ったともちゃんは、大声をあげる。
「え? なんでそんなにキレてるの? 俺、何かした?」
「いいから黙って!」
理不尽に怒鳴られて、賢哉の頭上にはいくつもの疑問符が並んだ。
「とりあえず作戦を立てるぞ。ついて来い」
興俄は校舎の中に戻って行く。その場に居た人間達は彼の後に続いた。賢哉もついて行こうとするが、ともちゃんに止められた。
「賢哉は私とここにいて。あの人たちとは関係ないから」
「え? 俺たちはこっちなんだろ。どういうこと? それに外に居たら暑いじゃん。中にはエアコンもあるんだろう? 行こうよ」
「じゃあ、私の部屋で冷たいものでも飲もう」
そう言って、ともちゃんは賢哉の手を引いた。
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