物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう

maricaみかん

文字の大きさ
269 / 622
8章 導かれる未来

268話 シュテルの執着

しおりを挟む
 私は、レックス様のしもべとして、お役に立てるように努力を重ねていたわ。だって、私の心の中心にいるのは、レックス様なんだもの。

 もちろん、ジュリアだってサラだってラナ様だって、他の友達だって大切よ。でも、明らかに違うのよ。確かに、友達と過ごす時間は心を癒やしてくれる。希望になってくれるわ。

 ただ、レックス様がそばに居るだけで、私は多幸感で満たされるの。どんな麻薬だって勝てないって言ったのは、本心なのよ。

「今はレックス様と一緒に居られる。とても素晴らしいことだわ」

 その幸せを、噛み締めていたわ。目を閉じて、胸に手を当てながら。私を心から信じてくれて、大切にしてくれて、ずっと肯定し続けてくれる人。そんな相手を手に入れられた幸運は、一生忘れないわ。

 どんな未来が待っていようと、いま感じている幸福は失われたりしない。例えレックス様に騙されていたのだとしても。なんて、あり得ない仮定よね。

 でも、裏切られたって良いという気持ちは、間違いなく本物よ。レックス様が与えてくれるのなら、死すらも宝となるでしょう。

 今の私は、レックス様が何よりも大切なのよ。もう、過去になんて戻れないわ。例え飢えに苦しむ生活に戻るとしても、レックス様だけは手放さない。それは、絶対なのよ。離れ離れになる苦しみは、もう知っているのだもの。

「フェリシア様のところに行った時には、ずっと会えなかったもの」

 その時の苦しみは、寒さは、耐え難いものだったわ。ずっと震えていたくらいには。思い出すだけで震えそうになるくらいには。

 だから、今という時間の大切さは、より強く感じることになったわ。手放したくないという思いも、さらに高まったのよ。

「レックス様のそばに居られることは、当たり前じゃないのよね」

 レックス様と出会えたことは、とてつもない幸運なのよ。学校もどきに誘われたことですら。そこから関わることができたことなんて、とても言葉では言い表せないくらい。

 もし生まれ変わるとしても、レックス様と出会えない世界だけはごめんよ。と言っても、同じくらいの幸運なんて、きっと手に入れられないのでしょうけれど。

「それはそうよね。レックス様は、本来は天上の人。忘れかけていたけれど」

 私みたいなただの平民は、顔を見ることすらできないのが当然。直接会話をするなんて、それこそ強い魔法を持って生まれるよりも珍しいはずよ。1万人にひとりですら軽い。比べることすらおこがましいくらいに。

 だからこそ、いつ捨てられてもおかしくないのが、正しい現実。きっとレックス様は、ずっと大切にしてくれるでしょうけれど。

 でも、レックス様にも自分の人生がある。私だけを見ているなんてこと、不可能なのよ。私ですら、レックス様とだけ関わることはできないのに。

 レックス様には、多くの知り合いがいるわ。だからこそ、その人たちが困っていたら、助けようとしてしまうのでしょう。本当は、私だけを大切にしてほしい。そんな気持ちも、否定はできないけれど。

 でも、あり得ないことだから。それなら、妾でも何でも良いから、離れたくないわ。私を抱いてくれるのなら、とても嬉しいことよ。だって、レックス様の愛をいただけるのだもの。

 ただ、今はまだ、単なる夢でしかないのよね。ずっと傍に居るなんてことは。

「また、会えなくなるのかもしれないのよね……」

 かもしれないというより、もはや確実な未来なのでしょう。私にだって、ブラック家での仕事がある。それを投げ出すことはできないのだから、レックス様が外で仕事をするだけで、離れる可能性は常にあるわ。

 でも、本当は嫌。泣き出したいくらい。逃げ出したくなるくらい。レックス様の姿を、つい探してしまうくらい。

「寂しいです、レックス様……。私は、ずっとあなた様のそばに居たい……」

 それだけで、他の何もいらない。少なくとも、金銭も、贅沢な食事も、豪華な暮らしも、名誉だって。普通の人が求めるようなものより、レックス様の方がよほど大事なのだから。

 強欲と言われれば、そうなのでしょう。本来は仰ぎ見ることすらできない相手と、一緒にいようとしているのだから。でも、これが私よ。どれほどの罪だろうと、どんな罰が待っていようと、構うものですか。

「私の人生は、レックス様あってのもの。もう、そうなってしまったのよ」

 穏やかな声も、暖かい手のひらも、優しい顔も。レックス様のすべてが、とても輝いているわ。私が満たされている時間には、必ずレックス様が関わっているくらいに。

 でも、レックス様だって悪いのよ。ただの平民だった私を、どこまでも大事にしてしまうのだから。執着されるなんて、当たり前の話じゃない。

「だからこそ、しっかりお役に立たないとね。いつも必要としてもらえるように」

 どんな敵が現れたとしても、必ず倒す。どんな壁が待っていようと、突き破るだけ。何を求められようと、必ず叶えるべきなのよ。それが、私の望み。私の幸せ。そして、大切な恩返し。

 私の力のすべてを尽くして、全身全霊をかけて、どんな障害も踏み越えてみせるわ。

「でも、必ず成功するとは限らない。いえ、どうしても無理な状況だって、あるかもしれない」

 私の能力は、レックス様の足元にも及ばない。いえ、レックス様の知り合いの中でも底辺と言って良い。だからこそ、足りないものばかり。

 そんな私が、レックス様が挑むべき問題を解決できるなんて、うぬぼれなのかもしれないわ。

「レックス様と離れ離れになったとしても、私は耐えるべきなのよ。ラナ様だって、耐えていたのだから」

 レックス様を、私だけに縛り付けられないのだから。そんなワガママ、許されないのだから。でも、レックス様を求めることくらいは、許してくださいね。

 私だって、レックス様のために生きる。その覚悟は、あるつもりですから。

「でも、触れ合えないのは苦しいわ。話せないのは悲しいわ」

 どうしても、抑えきれない感情よ。レックス様が大切だからこそ、その存在を感じられない時間は空虚になってしまう。レックス様と一緒にいる時間が幸せだからこそ、それ以外の瞬間は色あせてしまう。

 でも、私は耐えなければならない。そのために、どうすれば良いのか。とても難しい問題だったわ。

「いえ、ひとつだけ手段がある。そうよね」

 頭の中に、ふと思い浮かんだものがあったわ。レックス様が大事なら、もっとその心を深めてしまえばいいだけ。そうですよね、レックス様。

「レックス様の顔も声も、体温も匂いも、ずっと思い描けるようになる。それでいいの」

 私の頭の中に、レックス様が存在するように。心の奥底に、ずっと刻み込めるように。そうすれば、幸せな時間に浸り続けられるのよ。

「多くの人を扱うのなら、少し離れる機会だってあるはずだもの」

 私の目標は、まだ忘れていないわ。レックス様の手駒を増やすことよ。それこそが、力の足りない私の道。今でも変わっていないわ。きっと、いえ、必ず達成してみせるわ。

「現実になんて、負けてられないわ。私は、レックス様のしもべなのよ」

 誰よりも偉大なレックス様の。その名を汚さないように、私にだって相応の格式が求められるのよ。少なくとも、単なる弱者で居て良いはずがないわ。

「私は、あなた様のために、どんなことでもします。だから、もっと求めてください」

 それだけで、私は笑って死ねるでしょうから。

 お願いですよ、レックス様。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...