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1章 勇者リオンの始まり
24話 愛情と憧れ
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俺とユリアは、転移装置を経由して俺の家へとたどり着いた。
はっきり言って、もう限界だ。すぐにでも眠ってしまいたい。とはいえ、両親にユリアを紹介しないと。この子を助けた俺の義務だからな。
そのままユリアを両親の元へ連れて行く。父さんも母さんも、何故か俺の方へ駆け寄ってきた。
「リオン、ボロボロじゃないか? 何があったんだ?」
「それだけじゃないわ。その子はいったい誰なの、リオンちゃん?」
さて、どこまで説明したものか。流石にディヴァリアの計画について話す訳にはいかない。
だとすると、暴漢に襲われたユリアを助けたって方向性にするか。
「この子がちょっと危ない目にあっていてな。だから、助けてやったんだ。今日はここに泊めていいか?」
「構わないが。それよりも、リオンの治療をしてやらないと。回復術師を呼ぶか?」
「シルクちゃんに連絡するのはどうかしら? シルクちゃんが来る前に、この子を着替えさせておくわね」
確かにシルクならば完璧に治療してくれるはず。とはいえ、今から呼んで来てくれるだろうか。あまりシルクに迷惑をかけたいわけでは無いのだが。
そのまま、母さんはユリアを連れて行った。おそらくは風呂に入らせたりするのだろう。
それにしても、家に帰ってくると落ち着くな。先ほどまでは、どこか気を張ったままだったから。
「じゃあ、父さんはシルクを呼んでくるな。リオンはゆっくり休んでおけ」
俺は父さんの言葉通りにゆっくりと休んでいた。
しばらく待っていると、慌てた様子のシルクがやってくる。
俺は大丈夫だから、そこまで急がなくても良かったのに。まあ、大切にされていると思うと、嬉しいのだが。
「軽症ですね。思ったよりは元気そうで安心しました」
「そうだな。何度か殴られはしたが、それくらいだ」
「不安でした。だから、その責任は取ってもらいますよ、リオン君」
シルクはこちらを黒い瞳でじっと見る。心配をかけてしまったみたいだな。
とはいえ、シルクを不安にさせてでも、やるべきことだった。
俺は何度繰り返したとしてもユリアを助けようとするはずだ。シルクには悪いが、これが俺だと諦めてもらうしか無い。
「俺に何をさせるつもりだ?」
「否定します。何もさせるつもりはありません。ただ、私の心を伝えるだけです」
そう言うシルクの目からは、涙がこぼれていた。黒い瞳から流れる涙を見ていると、心が痛い。
そうか。これがシルクの考える罰か。確かに俺は今苦しんでいる。シルクを泣かせたいわけでは無かったのに。
「すまなかった、シルク。でも、俺はきっと何度でも同じことをするだろう」
「同感ですね。だから、私達も巻き込んでください。あなたが傷ついたときには、必ず癒やしてみせますから。今のように。ヒールをかけます」
シルクの両手から白い光が流れ込んできて、俺の傷を癒やしていく。
またシルクに助けられてしまったな。なのに、シルク達を巻き込めと言われている。借りばかりが増えていくような気がするな。
ただ、シルクの意思をないがしろにする方が、きっとシルクは悲しむから。
「いつもありがとう、シルク。お前のおかげで、俺は今でも生きているんだ」
「当然です。あなたと私は友達。それだけが、あなたを癒やす理由のすべてですから」
シルクにそこまでしてもらえるほどの事をしただろうか。それとも、シルクにとって友達の重さはとてつもないものなのだろうか。
なんにせよ、俺はシルクが困ったときには必ず手助けしてみせる。
借りがあるからだけじゃない。シルクが大切な友達だから。
そうか。俺と同じ思いなのかもな。だとすれば、シルクには悪いことをした。
俺の知らないところでシルクが傷ついていたら。考えるだけでも苦しい。
だとすれば、巻き込めとシルクが言うのも分かる気がするな。
「シルクこそ、俺の力が必要なら何でも言ってくれよ。俺が役に立てるなら、何でもするさ」
「感謝します。それでは、私はそろそろ失礼しますね。ゆっくり休んでください」
シルクはそのまま去っていく。
俺はどこまでシルクの役に立てるだろうな。何度もシルクに治療してもらった恩は全然返せていない。
だから、シルクが望むならば大抵のことはできる。さすがに、知り合いを殺せと言われたら断るだろうが。
とはいえ、シルクはそんな事を言う人ではない。だから、実際は何でも頼みを聞くだろうな。
しばらくして、父さんと母さんがユリアを連れてきた。
ユリアは赤い服を着ていて、ユリアのイメージには合っている。
真っ白な髪と肌。血のように赤い目。その両者を引き立てているような感覚があるんだ。
「どう、ですか? 似合っていますか? リオンさんの好みですか?」
なんというか、圧のようなものを感じるな。とはいえ、ユリアにとって俺は初めて幸福を教えた人。ならば、おかしな事ではないか。
俺としては、よく似合っていると思う。だから、その感情を伝えればいいだろう。
「とても綺麗だ。見ていて癒やされるよ」
「ありがとうございますっ。リオンさんの好みにもっと近づけるよう、頑張りますねっ」
ユリアは朗らかな顔でそう言うが。俺としては、ユリアに無理をしてほしいわけでは無い。
俺の好みがどんなものか、俺自身ですらわからない。
なのに、ユリアが俺の好みに近づこうとすれば、きっと、大きな歪みになるだろうから。
「今でも十分ユリアは魅力的だよ。だから、気にするな」
「嬉しいですっ。でも、もっとリオンさんに大好きになってもらいたいですからっ」
「リオンはまたハーレムを拡大してしまうのか!? ディヴァリアとサクラだけでは物足りないんだな!?」
「まあまあ。リオンちゃんはモテモテね。さすがだわ~」
父さんも母さんも相変わらずだな。
というか、父さんは俺がハーレムを作りたいとでも思っているのか? 正直言ってしんどそうだから、勘弁してほしいぞ。
それに何より、不誠実だとしか思えない。数多くいる中のひとりとして扱われて、誰が嬉しいのやら。
「やっぱりリオンさんはモテモテなんですねっ。なら、もっと頑張らないとっ」
ユリアは拳を握って気合を入れている。
さすがにユリアから強い好意を持たれていることは分かる。とはいえ、すりこみの様なものだろう。俺が唯一この子を助けた存在だからというだけ。
ユリアには、もっといい相手がいくらでもいると思う。結局ユリアの故郷を救えなかった俺なんかより。
「ところで、ユリアはこれからどうするつもりなんだ? 帰る家なんて無いだろう?」
「できれば、リオンさんのおそばに居たいですっ。なんでもしますからっ」
まあ、そう言われるだろうなとは思っていた。
父さんと母さんなら、きっと受け入れるだろうが。絶対に変人だが、優しい両親だから。
「なら、うちの使用人にするのはどうかしら? リオンちゃんも、ユリアちゃんにお世話されたら嬉しいでしょ?」
「リオンはユリアが大切みたいだからな。俺達にとっても大切な存在だ。だから、歓迎するぞ」
本当に母さんも父さんも良い親だ。
俺が大切に感じているものを、同じように大切にしようとしてくれる。それだけで、この2人がどれだけ俺を想ってくれているかがよく分かるんだ。
「ユリア、使用人はうまくできそうか?」
「分かりませんが、リオンさんのそばに居るためですからっ。全力を尽くしますよっ」
ユリアならば、本当に全力を尽くすように見える。
無理はしてほしくないが、あまり失敗されてもうちには置いておけないだろうから。
侯爵家といういい家に生まれて、その恩恵を得ている俺だが。こういう時ばかりは不便に感じてしまうんだよな。
単純に仲良くしたいだけの相手と仲良くするのは、案外難しい。
サクラを両親が受け入れてくれたのも、メルキオール学園に入学しているという事実あってのものだろうから。
「ユリアちゃんは本当に良い子ね。きっとリオンちゃんを支えてくれるわ」
「そうだな。リオンだけのために働く使用人というのがいても良いだろう」
なるほど。うちの使用人はアインソフ家に仕えている。当然、俺と父さんでは父さんを優先するだろうな。
だから、俺を第一にする人間がいても良い。やはり、父さんも母さんも俺を大切にしてくれている。本当にこの両親のもとに生まれられて良かった。
「わたし、リオンさんのために頑張りますねっ。リオンさんが望むこと、何でもしてみせますからっ」
――――――
私は聖女と呼ばれているが、私を恐れている人間も多い。今目の前にいる人間もそうだ。近衛騎士団長という立場を持つ女。
私がリオンを成長させるために送り込んだ存在。この女は、近衛騎士でありながら、自国の村を滅ぼすことになった。
当然、私が命じたことだ。今はその成果を聞いている。
「それで、リオンはどうでしたか? ソニア」
「あなたの勇者候補は、想像以上の存在でした。弱き者のために立ち上がり、周りに勇気を与える。本当に素晴らしい」
ソニアの薄紫色をした目には強い炎が灯っているようで。だから、この女もリオンの魅力に気づいたのだろう。
とはいえ、ソニア程度の存在にリオンはあまりにももったいない。なにせ、私の力を一度見ただけで心折れるほどの人間だから。
――人間なんだから、立ち上がれなくなる瞬間はきっとやってくる。大事なのは、その後にどうやってもう一度立ち上がるかだよ。
リオンの言葉から考えると、ソニアは大した人間じゃない。
私の力を知ってから、私に敵対することだけを恐れているようだから。結局、ずっと立ち上がれていないだけの存在だから。
「ソニア、リオンは私のものですよ? それを忘れないでくださいね」
少し圧をかけてあげただけで、ソニアは心から震え上がっている。目と同じ薄紫の長く伸びた髪が、同時に大きく揺れていた。
サクラとは大違いだね。サクラは私の力を見ても諦めなかった。だから、リオンすら諦めない心を身につけるほどに。
ソニアはサクラとリオンの2人を足したよりは強いけれど。でも、全くもって弱い心しか持っていない。
ただ、力の1割を見せてあげただけなのにね。とはいえ、サクラに見せた力はもっと弱いけれど。
最上級魔法だって、リオンごと吹き飛ばすことなんて簡単だからね。まあ、リオンもサクラも殺したくないから、手加減したんだけどね。
「はい。心得ております。小生は聖女様に逆らいません」
「それで? 辺境の村を襲った帝国軍は、ちゃんと処分した?」
私が用意した偽装兵。できるだけむごたらしく村人を殺してもらうための存在。
そうすれば、反帝国の感情が生まれてくれる。だから、リオンに新しい戦場を用意してあげられる。
ついでに、ノエルと私達がもっと近づく機会も用意できるかな。ノエルは私達の妹なんだから、もっとそばにいて良いからね。
「はい、もちろん。今後のためにも、ひとり残らず」
「本当みたいだね。じゃあ、リオンの師匠になってもらうね」
「まことですか!? ありがとうございます!」
この反応を見るに、ソニアはよほどリオンのことが気に入ったみたい。でも、私がいる限り、ソニアはリオンには手出しできないから。
私の逆鱗に触れる可能性のある選択肢を、ソニアは選べない。残念だったね。せっかく希望が見つかったのに。
リオンは私の敵にはならないから、何をしても無駄だよ。
「じゃあ、頑張ってリオンを強くしてあげてね」
「かしこまりました」
リオンにはもっと強くなってもらって、もっと活躍してもらうから。私にふさわしい名声を得られるように、頑張ってね。
今でも私にとっては最高だけど、きっと他の人は認めないから。
だから、私とずっと一緒にいようね、リオン。
はっきり言って、もう限界だ。すぐにでも眠ってしまいたい。とはいえ、両親にユリアを紹介しないと。この子を助けた俺の義務だからな。
そのままユリアを両親の元へ連れて行く。父さんも母さんも、何故か俺の方へ駆け寄ってきた。
「リオン、ボロボロじゃないか? 何があったんだ?」
「それだけじゃないわ。その子はいったい誰なの、リオンちゃん?」
さて、どこまで説明したものか。流石にディヴァリアの計画について話す訳にはいかない。
だとすると、暴漢に襲われたユリアを助けたって方向性にするか。
「この子がちょっと危ない目にあっていてな。だから、助けてやったんだ。今日はここに泊めていいか?」
「構わないが。それよりも、リオンの治療をしてやらないと。回復術師を呼ぶか?」
「シルクちゃんに連絡するのはどうかしら? シルクちゃんが来る前に、この子を着替えさせておくわね」
確かにシルクならば完璧に治療してくれるはず。とはいえ、今から呼んで来てくれるだろうか。あまりシルクに迷惑をかけたいわけでは無いのだが。
そのまま、母さんはユリアを連れて行った。おそらくは風呂に入らせたりするのだろう。
それにしても、家に帰ってくると落ち着くな。先ほどまでは、どこか気を張ったままだったから。
「じゃあ、父さんはシルクを呼んでくるな。リオンはゆっくり休んでおけ」
俺は父さんの言葉通りにゆっくりと休んでいた。
しばらく待っていると、慌てた様子のシルクがやってくる。
俺は大丈夫だから、そこまで急がなくても良かったのに。まあ、大切にされていると思うと、嬉しいのだが。
「軽症ですね。思ったよりは元気そうで安心しました」
「そうだな。何度か殴られはしたが、それくらいだ」
「不安でした。だから、その責任は取ってもらいますよ、リオン君」
シルクはこちらを黒い瞳でじっと見る。心配をかけてしまったみたいだな。
とはいえ、シルクを不安にさせてでも、やるべきことだった。
俺は何度繰り返したとしてもユリアを助けようとするはずだ。シルクには悪いが、これが俺だと諦めてもらうしか無い。
「俺に何をさせるつもりだ?」
「否定します。何もさせるつもりはありません。ただ、私の心を伝えるだけです」
そう言うシルクの目からは、涙がこぼれていた。黒い瞳から流れる涙を見ていると、心が痛い。
そうか。これがシルクの考える罰か。確かに俺は今苦しんでいる。シルクを泣かせたいわけでは無かったのに。
「すまなかった、シルク。でも、俺はきっと何度でも同じことをするだろう」
「同感ですね。だから、私達も巻き込んでください。あなたが傷ついたときには、必ず癒やしてみせますから。今のように。ヒールをかけます」
シルクの両手から白い光が流れ込んできて、俺の傷を癒やしていく。
またシルクに助けられてしまったな。なのに、シルク達を巻き込めと言われている。借りばかりが増えていくような気がするな。
ただ、シルクの意思をないがしろにする方が、きっとシルクは悲しむから。
「いつもありがとう、シルク。お前のおかげで、俺は今でも生きているんだ」
「当然です。あなたと私は友達。それだけが、あなたを癒やす理由のすべてですから」
シルクにそこまでしてもらえるほどの事をしただろうか。それとも、シルクにとって友達の重さはとてつもないものなのだろうか。
なんにせよ、俺はシルクが困ったときには必ず手助けしてみせる。
借りがあるからだけじゃない。シルクが大切な友達だから。
そうか。俺と同じ思いなのかもな。だとすれば、シルクには悪いことをした。
俺の知らないところでシルクが傷ついていたら。考えるだけでも苦しい。
だとすれば、巻き込めとシルクが言うのも分かる気がするな。
「シルクこそ、俺の力が必要なら何でも言ってくれよ。俺が役に立てるなら、何でもするさ」
「感謝します。それでは、私はそろそろ失礼しますね。ゆっくり休んでください」
シルクはそのまま去っていく。
俺はどこまでシルクの役に立てるだろうな。何度もシルクに治療してもらった恩は全然返せていない。
だから、シルクが望むならば大抵のことはできる。さすがに、知り合いを殺せと言われたら断るだろうが。
とはいえ、シルクはそんな事を言う人ではない。だから、実際は何でも頼みを聞くだろうな。
しばらくして、父さんと母さんがユリアを連れてきた。
ユリアは赤い服を着ていて、ユリアのイメージには合っている。
真っ白な髪と肌。血のように赤い目。その両者を引き立てているような感覚があるんだ。
「どう、ですか? 似合っていますか? リオンさんの好みですか?」
なんというか、圧のようなものを感じるな。とはいえ、ユリアにとって俺は初めて幸福を教えた人。ならば、おかしな事ではないか。
俺としては、よく似合っていると思う。だから、その感情を伝えればいいだろう。
「とても綺麗だ。見ていて癒やされるよ」
「ありがとうございますっ。リオンさんの好みにもっと近づけるよう、頑張りますねっ」
ユリアは朗らかな顔でそう言うが。俺としては、ユリアに無理をしてほしいわけでは無い。
俺の好みがどんなものか、俺自身ですらわからない。
なのに、ユリアが俺の好みに近づこうとすれば、きっと、大きな歪みになるだろうから。
「今でも十分ユリアは魅力的だよ。だから、気にするな」
「嬉しいですっ。でも、もっとリオンさんに大好きになってもらいたいですからっ」
「リオンはまたハーレムを拡大してしまうのか!? ディヴァリアとサクラだけでは物足りないんだな!?」
「まあまあ。リオンちゃんはモテモテね。さすがだわ~」
父さんも母さんも相変わらずだな。
というか、父さんは俺がハーレムを作りたいとでも思っているのか? 正直言ってしんどそうだから、勘弁してほしいぞ。
それに何より、不誠実だとしか思えない。数多くいる中のひとりとして扱われて、誰が嬉しいのやら。
「やっぱりリオンさんはモテモテなんですねっ。なら、もっと頑張らないとっ」
ユリアは拳を握って気合を入れている。
さすがにユリアから強い好意を持たれていることは分かる。とはいえ、すりこみの様なものだろう。俺が唯一この子を助けた存在だからというだけ。
ユリアには、もっといい相手がいくらでもいると思う。結局ユリアの故郷を救えなかった俺なんかより。
「ところで、ユリアはこれからどうするつもりなんだ? 帰る家なんて無いだろう?」
「できれば、リオンさんのおそばに居たいですっ。なんでもしますからっ」
まあ、そう言われるだろうなとは思っていた。
父さんと母さんなら、きっと受け入れるだろうが。絶対に変人だが、優しい両親だから。
「なら、うちの使用人にするのはどうかしら? リオンちゃんも、ユリアちゃんにお世話されたら嬉しいでしょ?」
「リオンはユリアが大切みたいだからな。俺達にとっても大切な存在だ。だから、歓迎するぞ」
本当に母さんも父さんも良い親だ。
俺が大切に感じているものを、同じように大切にしようとしてくれる。それだけで、この2人がどれだけ俺を想ってくれているかがよく分かるんだ。
「ユリア、使用人はうまくできそうか?」
「分かりませんが、リオンさんのそばに居るためですからっ。全力を尽くしますよっ」
ユリアならば、本当に全力を尽くすように見える。
無理はしてほしくないが、あまり失敗されてもうちには置いておけないだろうから。
侯爵家といういい家に生まれて、その恩恵を得ている俺だが。こういう時ばかりは不便に感じてしまうんだよな。
単純に仲良くしたいだけの相手と仲良くするのは、案外難しい。
サクラを両親が受け入れてくれたのも、メルキオール学園に入学しているという事実あってのものだろうから。
「ユリアちゃんは本当に良い子ね。きっとリオンちゃんを支えてくれるわ」
「そうだな。リオンだけのために働く使用人というのがいても良いだろう」
なるほど。うちの使用人はアインソフ家に仕えている。当然、俺と父さんでは父さんを優先するだろうな。
だから、俺を第一にする人間がいても良い。やはり、父さんも母さんも俺を大切にしてくれている。本当にこの両親のもとに生まれられて良かった。
「わたし、リオンさんのために頑張りますねっ。リオンさんが望むこと、何でもしてみせますからっ」
――――――
私は聖女と呼ばれているが、私を恐れている人間も多い。今目の前にいる人間もそうだ。近衛騎士団長という立場を持つ女。
私がリオンを成長させるために送り込んだ存在。この女は、近衛騎士でありながら、自国の村を滅ぼすことになった。
当然、私が命じたことだ。今はその成果を聞いている。
「それで、リオンはどうでしたか? ソニア」
「あなたの勇者候補は、想像以上の存在でした。弱き者のために立ち上がり、周りに勇気を与える。本当に素晴らしい」
ソニアの薄紫色をした目には強い炎が灯っているようで。だから、この女もリオンの魅力に気づいたのだろう。
とはいえ、ソニア程度の存在にリオンはあまりにももったいない。なにせ、私の力を一度見ただけで心折れるほどの人間だから。
――人間なんだから、立ち上がれなくなる瞬間はきっとやってくる。大事なのは、その後にどうやってもう一度立ち上がるかだよ。
リオンの言葉から考えると、ソニアは大した人間じゃない。
私の力を知ってから、私に敵対することだけを恐れているようだから。結局、ずっと立ち上がれていないだけの存在だから。
「ソニア、リオンは私のものですよ? それを忘れないでくださいね」
少し圧をかけてあげただけで、ソニアは心から震え上がっている。目と同じ薄紫の長く伸びた髪が、同時に大きく揺れていた。
サクラとは大違いだね。サクラは私の力を見ても諦めなかった。だから、リオンすら諦めない心を身につけるほどに。
ソニアはサクラとリオンの2人を足したよりは強いけれど。でも、全くもって弱い心しか持っていない。
ただ、力の1割を見せてあげただけなのにね。とはいえ、サクラに見せた力はもっと弱いけれど。
最上級魔法だって、リオンごと吹き飛ばすことなんて簡単だからね。まあ、リオンもサクラも殺したくないから、手加減したんだけどね。
「はい。心得ております。小生は聖女様に逆らいません」
「それで? 辺境の村を襲った帝国軍は、ちゃんと処分した?」
私が用意した偽装兵。できるだけむごたらしく村人を殺してもらうための存在。
そうすれば、反帝国の感情が生まれてくれる。だから、リオンに新しい戦場を用意してあげられる。
ついでに、ノエルと私達がもっと近づく機会も用意できるかな。ノエルは私達の妹なんだから、もっとそばにいて良いからね。
「はい、もちろん。今後のためにも、ひとり残らず」
「本当みたいだね。じゃあ、リオンの師匠になってもらうね」
「まことですか!? ありがとうございます!」
この反応を見るに、ソニアはよほどリオンのことが気に入ったみたい。でも、私がいる限り、ソニアはリオンには手出しできないから。
私の逆鱗に触れる可能性のある選択肢を、ソニアは選べない。残念だったね。せっかく希望が見つかったのに。
リオンは私の敵にはならないから、何をしても無駄だよ。
「じゃあ、頑張ってリオンを強くしてあげてね」
「かしこまりました」
リオンにはもっと強くなってもらって、もっと活躍してもらうから。私にふさわしい名声を得られるように、頑張ってね。
今でも私にとっては最高だけど、きっと他の人は認めないから。
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