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2章 希望を目指して

30話 新しい友達

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 今日もいつものように学園に来ていると、急に声をかけられた。

「よう! お前、帝国軍から女の子を守ったんだって? 良いやつじゃないか」

 何故かユリアのことを知られているようで、ちょっと驚く。おそらくは、ディヴァリアが噂として流したはずだ。
 というか、ディヴァリア以外に知っている人などいないはずなのだから。
 ソニアさんには正確な話を説明していないし、ミナ達にも教えてはいない。

 シルクに治療されはしたが、危ないことをしたくらいしか知らないはずだからな。
 だから、ディヴァリアが原因だという予想は間違っていないはず。
 とはいえ、意図が読めない。俺のやったことが広まって、何の意味がある?

「さあな。結局あの子しか助けられなかったからな」

謙遜けんそんするなって! 1人助けただけでも大きいさ! なにせ、どんな村だったのかはその子の記憶に残るんだからな」

 金髪碧眼の男は、にこやかに笑いながら言う。まあ、分からなくはない。あの村の住人が全員死んでいれば、何も残らなかっただろう。
 とはいえ、死んだ人間にとっては関係ないことなんじゃないか?

 ディヴァリアが仕向けたことの罪が、浮かび上がってくるな。なのに、俺は告発することすらできない。
 本当に愚かなことだ。俺はあの村人たちよりも、ディヴァリアを優先しているのだから。

「ありがとう。次があるのならば、もっと大勢助けたいものだな。何も無いのが一番良いが」

「だな。だけど、これから戦争が起こるかもしれないじゃないか。ここの生徒も戦いに行くって話があるし、みんなを守ってやれよ」

 まあ、そうするしか無いだろうな。まさか戦っている敵を守れはしないだろう。
 だから、戦場で近くにいる仲間を守っていくことが基本になるはずだ。悲しいが、そこは割り切るしかない。

「そうだな。ところで、お前の名前は何なんだ? 知っているかもしれないが、俺はリオンだ」

「俺の名前を知らないのか? 悲しいな。俺はマリオ。この国の第2王子だ。よく覚えておけよ!」

 なるほど。第2王子。あるいはマリオは攻略対象だったりするのかもな。
 もうあまり覚えていないが、王族に攻略対象がいたはず。同じクラスであることも考えると、可能性は高いだろうな。

 たしか、原作ではクーデターを起こしたミナを討伐して、王に近づいたんだったか。
 今のミナがクーデターなど起こすはずもないが、マリオの動向には注視していても良いかもな。
 これからマリオとは親しくなるかもしれないが、少なくとも今の俺はミナを優先したいから。

「それはすまなかったな。第2王子ってことは、戦争がどれほど準備されているのかも分かるのか?」

「そうだな。全面戦争にはならないと思う。報復に領地の一部を切り取って、それで終わりだろうさ」

 そんなに都合よく行くだろうか。まあ、できればマリオの言葉通りになってほしくはあるが。
 王族がそこまで知っているのなら、いまさら戦争がなくなるという事はないだろう。

 ミナに聞いても良かったとは思うが、あいつは忙しそうだったから。負担を増やすのもな。
 おそらくは、サッドネスオブロンリネスの力で、帝国の情報を集めているのだろう。ミナの力は、とにかく応用できるからな。忙しくなるのは必然か。

「だといいが。何にせよ、俺にできることは戦争への準備をすることだけだ。黙って死ぬ訳にはいかないからな」

「だよな。戦争なんて起きないに越したことはないが、手柄を立てる機会とでも思っておくか」

 マリオは手柄を求めている。つまり、王位を狙っているのか? だとすると、今のうちに親しくなっておいたほうが良いか。
 もしミナになにか仕掛けようとした時に、早めに察知できるかもしれないからな。
 まあ、ミナは第4王女だから、あまり謀略ぼうりゃくを仕掛けられるという事はないだろうが。

「なるほどな。でも、無理はするなよ。死ねばすべてが終わりなんだからな」

「ああ、ありがとう。だが、ある程度は頑張りどころさ。俺が強いと思わせられれば、王位が近づく」

 まあ、この国では戦闘能力が重視されているからな。戦果を立てるのがてっとり早いか。
 俺としては、王位継承にはもっと他の基準で評価されてほしいものだが。まあ、急いで変えようとしてもダメだろう。
 何よりも、俺が軽率な行動をして迷惑になるのはミナだからな。やるにしても、相談してからだ。

「そうか。人殺しで王位が近づくというのは、なんだか悲しいな」

「そうかもな。だが、俺にはこの道しか無いさ。王になれなきゃ、俺の人生に意味なんて無いんだからな」

 思っていた以上にマリオは思い悩んでいるようだ。初対面の俺に話すことでもないだろうに。
 だが、危ういな。できるだけ相談にのることも考えたほうが良いかもしれない。
 さて、どうしたものか。王になることを否定しても、自分を否定されたと感じるだろう。
 だったら、まずは周りに目を向けさせること。できる限り自然に。何がある?

「あまり気に病むなよ。暗い顔をしていたら、王として頼りないと思われるだろう? だから、楽しい顔をしていると良い。楽しい事なら、俺が教えてやる」

「楽しい事、ね。俺にそんな時間の余裕があるのだろうか。俺だって遊びたい時間はあるさ」

「マリオが遊びたいように、他の人間だって遊びたいはず。だから、遊びの楽しみを知っておくことは悪くないと思うぞ」

「そうすれば、民の気持ちが分かるようになる、か。民に支持されれば、王位は近づくかもな。リオン、いい遊びを教えてくれ」

 よし、釣れた。願わくば、このまま王位が全てではないと知ってもらえればいいが。
 俺はミナを応援しているから、できればマリオには王位を諦めてもらったほうがありがたい。
 とはいえ、楽しいことを知ってほしいという気持ちは本物だ。責務ばかりに生きるなんて、苦しいだろうからな。

「任せろ。まずは体を動かす遊びからだな」

 俺は放課後、マリオとキャッチボールをすることに決めた。この世界でも一般的な遊びのようで、孤児院でも子供達が遊んでいた。
 だが、マリオはそんなキャッチボールすら初めてのようだったんだ。

「何だこの手にはめるものは? これで球を受けるのか? 素手ではダメなのか?」

 そんなところから教えないといけない有様で、だから、俺はこれからマリオに様々な遊びを教えると決めた。
 もしマリオが王になろうがなるまいが、きっとこれからの人生のいい思い出になると信じて。
 まずは、キャッチボールをしっかり楽しむところからだな。

「素手で受けたら相当痛いだろうが、いいのか?」

「それは困るな! なるほど、そういう役割なのか。よくできているな」

 それからマリオとキャッチボールで遊んでいた。とても表情豊かに投げたり受けたりしているマリオとは、遊んでいて楽しいものだ。

「おお、意外とまっすぐに投げられないものなんだな。リオン、よくキャッチしたぞ」

「まあ、俺は慣れているからな。多少変な方向に投げてもキャッチしてやるさ」

 マリオは本当に何も知らないようで、とても新鮮な気持ちで遊べているようだった。

「うっ、速い球だとグローブを付けていても痛いのだな。素手でいいなどと言った俺がバカだった」

「まあ、知らないものは仕方がないさ。これから知っていけばいいんだ」

「ああ、そうだな。案外キャッチボールというのは、仲を深めるのに良いのかもしれないな。リオン、教えてくれて感謝する」

「親子のコミュニケーションの定番だからな。俺も父さんと遊んだものだ」

「父上は、俺にそんな事をしてくれなかった。俺は愛されていないのだろうか」

 さっきまで笑顔だったのに、急にしずんだ顔になった。マリオはなかなかにこじらせているな。
 だが、だからこそ、こいつにはもっと楽しいことを知ってもらいたい。
 俺は両親に愛されていた。きっとマリオは違うのだろうな。ミナだって違ったのだし。

「俺からはなんとも言えない。だが、マリオ。お前を大切に思うやつはきっといるはずだ。俺だってお前と友達になりたいからな」

「リオン……ありがとう。今日お前と話せてよかった。お前さえ良ければ、友達になってくれ」

「ああ。これから、よろしくな」

 さて、マリオはサクラの攻略対象なのだろうか。これからサクラに紹介すべきか、どうなのか。よく考えよう。
 何にせよ、マリオとはしっかりと仲良くしたいものだ。これからも、な。
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