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2章 希望を目指して

49話 心奏具の力

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 救出を依頼された人質を発見できたようだ。実はすでに死んでいる人が居たなら、困ってしまう。
 それでも、今無事な人たちを助けられるという事実を喜んでおこう。実際どうなのかは分からないが。

「お兄ちゃん、だれ? エリス達をいじめにきたの?」

 すぐに出てくる言葉がそれなあたり、エリス達は良い待遇とは言えなかったようだな。みすぼらしい格好をしていることもあるし、扱いは慎重に。

「フェミルを知っているか? そいつに頼まれてな。助けに来たんだ」

「お姉ちゃんが!? なら、ここから出して!」

 今すぐ逃げようとされても、きっと屋敷の人間に見つかるだろう。さて、どうやって説得したものかな。

「まだ見回りが残っている。今すぐというわけにはいかない」

「なら、領主モナークを討ってくれぬか。そうすれば、金で雇われただけの人間は逃げていくはず」

 別の人質から、そう提案される。悪い判断ではないと思うが、十分とも思えない。さて、どうするのが正解かな。

「確かに領主を倒した後なら、指揮系統が混乱するかもね。そのスキにコッソリ逃げちゃうのはありかも。私が案内すればどうかな?」

「女の人のこえ? お兄ちゃん、なにか知ってるの?」

 エリスは幼い雰囲気というか。どう説明するのが分かりやすいだろうか。とりあえず、普通に説明して反応を見てから考えるか。

「心奏具の力だ。知っているか?」

「お姉ちゃんが使っているやつ! ふしぎな力なんだよね?」

 フェミルは心奏具を使えるのか。だから、民兵たちの中心人物のようになっていたのだろう。心奏具が使える人間というのは、結構珍しいらしいからな。
 俺の周りの人間はだいたい心奏具を使っているような気もするが。本来は使えるだけでも一目置かれるはずみたいだ。

 それでも、心奏具を使える人間が当たり前に出てくるのが原作のストーリーだから。
 俺が戦っていく相手も、初めから心奏具を使える敵のつもりでいたほうが良いだろう。結局、地位が高い人間は心奏具を扱えるからな。

「ああ。心奏具の力で声が聞こえているんだ。本人はここにはいないよ」

「そうなんだ~! ほんとにふしぎ!」

 まったくだよな。なぜ心の形と呼ばれる力で、ここまで様々な能力が生まれるのか。そもそもなぜ心奏具などという力があるのか。不思議なことだ。
 とはいえ、魔法が使える世界だからな。多少おかしな力が使えたところで、小さな問題だ。
 何よりも、俺がゲームの世界に生まれ変わったという事実の前ではどうでもいい事とすら言える。

 もっと大事なことは、俺がこれからどうやって生きていくかだ。今はエリス達を助けること、モナークを討つこと。これから先は、ディヴァリアがとんでもない事態を起こさないようにできればな。

「俺の心奏具もけっこう便利なんだ。ここまで来られたのも、心奏具のおかげだな」

「すご~い! やっぱりお兄ちゃんはつよいんだね!」

「ああ。だから、お前達をかならず助けてやる。安心してくれ」

「おねがい! またお姉ちゃんに会いたいから!」

「任せてくれ。フェミルとも約束したからな」

 エリスはとてもフェミルが好きなように見える。2人を再会させられたら、きっと素晴らしい笑顔が見られるはずだ。その瞬間を楽しみに、これからの戦いを乗り越えてみせる。

「兄ちゃん、俺達からも頼むぜ。ここでの生活はうんざりだ。早く助けてくれ」

「分かった。できるだけ素早く終わらせるとするよ」

 人質達に送り出されて、次の目的地まで向かっていく。ルミリエの案内を受けているので、ずいぶんスムーズに進める。
 俺1人でこの屋敷へと来ていたら、おそらく人質の救出は無理だっただろうな。ミナとルミリエの助けがあってこそだ。

「ここでなら、少しは話しても大丈夫かな。それで、何か気になることはあった? 心配そうな顔だよ?」

「いや、人質は大丈夫なのかと思ってな。あの中に領主の手の者がいたら、危ないんじゃないか?」

「心配しなくていいよ。そのあたりはミナちゃんが調べてくれたから。そうじゃなかったら、先に領主を倒してもらっているよ」

「そうか。ミナの指示だったな。なら、安心だ」

「うんうん。リオンちゃんのそういう周りを信じるところ、慎重なところ、私は好きだよ」

 慎重でなければ、俺はこの時まで生きている事はできなかっただろうからな。当たり前といえば当たり前だ。きっとディヴァリアに敵対して終わっていたはずだからな。
 あいつの事を安易に否定すれば、きっと俺は死んでいた。だから、ディヴァリアの意思をあるていど尊重することは間違っていないはず。
 だとしても、戦争まで引き起こすほどとなれば、できれば止めたい。ディヴァリア自身のためにも。

 俺は知り合いに死んでほしいわけではない。ディヴァリアにだって。だから、敵を増やすようなことはやめてほしい。俺自身が戦争での犠牲を嫌っていることもあるが、それを抜きにしてもだ。

「ありがとう。でも、お前達を信じるなんて、当然のことだ。どれだけ助けられたのかを考えれば、疑っていたら人でなしだろうさ」

「そう思ってくれるんだ。嬉しいな。それで、心配事は解決できたかな?」

「ああ。これで安心してモナークとの戦いに集中できる」

「そうだね。悩みごとがあるまま戦ったら危険だからね。ちゃんと相談してくれて良かった」

 ルミリエの言う通りだな。戦いの途中に余計なことを考えていれば、俺の命が危ない。ひいてはエリスたちまで危険になるんだ。
 だから、ちゃんと集中していないとダメだな。しっかり勝って、無事にエリスとフェミルを再会させてやるんだ。

「それで、次はどこに行けば良いんだ?」

「兵士の詰め所だね。そこを制圧すれば、あとはほとんど何も考えなくていいよ」

 なるほどな。もう大体は片付いているか、あるいは詰め所にほとんどの人員がいる。だから、そこを片付けてしまえば後は楽だと。
 実際にどの程度の人数がいるのだろうか。戦術は敵の数で変わってくるように思えるが。

「じゃあ、移動するか。そろそろ黙ったほうが良いか?」

「今は別にいいかな。見つかったところで、人質は安全だろうから」

 人質につながりそうな所を優先して片付けていったということだろうか。ありがたい話だ。やはり、エリス達が無事でいることが一番大事だからな。
 領主モナークを討ち取れなかったとしても、人質を救出できれば十分なわけだから。

 しばらく移動して、ルミリエからの指示があった。

「リオンちゃん。その先の部屋が詰め所だよ。倒せさえすればやり方はなんでもいいけど、好みはある?」

「もちろん、いちばん楽なやり方だ」

「なら、もうちょっと右に動いて。そこだね。それで、扉の中心に剣を向けて、伸ばしてね。3、2、1、今!」

 ルミリエの指示通り、全力で剣を伸ばしていく。7人ほど貫いた感覚があり、そのまま壁にぶつかった。
 いったん剣の長さを元に戻し、そのまま突入していく。敵は混乱しているようで、簡単に仕留めていくことができた。
 ルミリエとミナのおかげで、だいぶ楽ができたな。正面から突入していれば、もう少し統率が取れていただろう。

「本当に簡単だったな。ありがとう。俺だけならもっと苦労していただろうな」

「どういたしまして~。後は、領主を倒すだけだね。準備はいい?」

「もちろんだ。さあ、行こうか」

「じゃあ、今入ってきた扉とは逆から出てね。それから――」

 ルミリエの案内に従って動いていると、明らかに豪華な扉の前に来た。おそらくは、ここがモナークの居場所。
 さあ、ここが今回最後の戦いとなる場所だろう。気を引き締めていかないとな。
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